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2010年10月31日

尖閣諸島をめぐる日中紛争に関する新レポート

日本国際フォーラムは、10月6日に日中間の尖閣諸島紛争に関する緊急委員会を開催し、新たなレポートを刊行した。私のものp.3233)も含めて38点の投稿を基に、日中関係の第一人者達は「中国の行動をどう見るか」と「菅内閣の対応をどう考えるか」という二点から議論を行なった。リベラル派とリバータリアンの間では両国間の経済的相互依存が主張されるが、中国の「平和的台頭」は日本の安全保障に死活的な懸念材料となっている。また、この問題は天然資源と国家主権とも関わっている。

日本はアメリカどの同盟関係を強化し、アジア太平洋地域と世界規模での新しい多国間戦略を練り上げねばならない。このレポートは中国の危険な拡張にどのように対処するかを議論するうえで大いに役立つ。私の機構が掲載されたのは喜ばしい。私の友人で、自民党関係で政策研究に従事する猫研究員こと高峰康修氏も数点の論説を寄稿している。 

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2010年10月21日

ホワイト・ハウスは「ポスト・アメリカ」外交をやめられるか?

バラク・オバマ氏は大統領に就任してからというもの、アメリカの大統領ではなくまるでポスト・アメリカの大統領のような外交姿勢をとってきた。それはジョージ・W・ブッシュ氏の単独行動主義のアメリカから、ズビネフ・ブレジンスキー氏の言う好かれるアメリカCHANGEすることしか念頭になかったのではないかと思われた。私が一貫してオバマ政権に批判的であったのは、これが大きな理由である。

しかし、帝政時代の野心を取り戻したロシア、平和的な台頭をする中国、核拡散に手を染めるイランと北朝鮮といった危険の増大により、ブルッキングス研究所のロバート・ケーガン上級研究員は、任期の後半に入るオバマ政権はアメリカの立場をより強く主張するようになるだろうという興味深い論説を記している。ケーガン氏は第二段階に入るオバマ政権は、第一段階での大国間の協調路線と方向性も定まらないG20による政策協調から転換し、民主的な同盟国との関係を重視するようになると述べている(“America: Once engaged, now ready to lead”; Washington Post; October 1, 2010)。ヒラリー・ロッダム・クリントン国務長官が昨年行なった演説(“Clinton: U.S. Urges 'Multi-Partner World'”; Washington Post; July 16, 2009)と今年のもの(“Clinton declares 'new moment' in U.S. foreign policy in speech”; Washington Post; September 9, 2010)を比較したうえで、ケーガン氏はアメリカ外交に上記のような変化が見られると言う。

中国の拡張主義的な野心は、日本との尖閣諸島紛争に見られるように強まる一方である。さらに劉曉波氏へのノーベル平和賞授与に対して中国がノルウェーに圧力をかけたことは、国際社会に大きな懸念を抱かせている。ヒューマン・ライツ・ウォッチでアジア・アドボカシー部長のソフィー・リチャードソン氏は、中国当局がどれほど受賞に憤慨しようとも「このノーベル賞は劉氏の不屈の戦いを称えるだけでなく、民主化のために戦う中国市民に対する賞でもある」と述べている(“China: Liu Xiaobo’s Nobel Spotlights Rights Deficit”; Human Rights Watch News; October 8, 2010)。アジア太平洋諸国は専制国家中国の平和的な台頭に強い警戒の念の抱き、アメリカとの同盟関係を強化しようとしている。他方で上海協力機構は劉曉波氏の受賞が欧米中心の視点だと批判した(“SCO comes out against the Nobel Peace Prize”; EurasiaNet—The Bug Pit; October 15, 2010)。スウェーデンのストックホルム大学の池上雅子教授が主張するように、中国とロシアが主導する上海協力機構は専制国家の枢軸であり、NATOとアジア太平洋地域の民主主義諸国は彼らの拡張主義に対して団結するべきである

ロシアも安全保障上の課題である。クリントン長官は今年の7月にグルジア、ポーランド、ウクライナを訪問して対露関係のリセットをリセットし、ロシアの拡張主義を牽制した。リセットの象徴となる新STARTは現在、上院での批准に向けて議論されている。ロバート・ゲーツ国防長官は2008年11月にブッシュ政権の閣僚としてカーネギー国際平和財団で行なった講演で、アメリカが核兵器の新規開発を行なっていないうちに、ロシアは新核兵器を開発したという深刻な懸念を述べた。ジョージ・H・W・ブッシュ氏とボリス・エリツィン氏が前回のSTARTを締結した時とは違い、オバマ政権は力のバランスがアメリカ優位でない時に合意形成をしようとしている。保守派は新STARTを批判している。ロシアは10月初旬にブラバー・ミサイルの発射実験に成功した(“Russia's Bulava missile hits target in test”; RIA Novosti; 7 October, 2010)。対露関係リセットは性急で、今や再検討が必要である。

さらに、イランとの対話路線も何の前進も見られない。イランのマフムード・アフマディネジャド大統領は、経済不振、民主化運動の活発化といった国内問題から国民の注意をそらそうと躍起である。以下のビデオはフランス24が9月10日に放映したもので、ロンドンのミーパスというシンクタンクを主宰するメイール・ジャベダンファール氏は、イスラム革命以来のイラン経済は悪化し、頭脳流出と薬物濫用は増加したと述べている。そのように絶望的な内政がアフマディネジャド氏を核開発に駆り立てている。

また、外交問題評議会のバーナード・グワーツマン編集顧問は、最高指導者アリ・ハメネイ師とアリ・ラリジャニ国会議長との相克によってアフマディネジャド氏は指導力を発揮できないと言う(“Iran's 'Shaky' Ahmadinejad”; CFR Interview; September 21, 2010)。 そうした事情がアフマディネジャド氏を一層強硬外交に駆り立てているのである。

上記のような変化により、アメリカの外交政策は平常に戻るかも知れない。ロバート・ケーガン氏が述べる通り、ヨーロッパとアジアの民主主義諸国との同盟は再強化されるだろう。問題は、オバマ大統領が敵対勢力の撃破と脅威の封じ込めのために、充分な軍事的関与を行なう意志があるかどうかである。

アフガニスタンでの戦争は、オバマ氏がアメリカの大統領なのか、ポスト・アメリカの大統領なのかを判断するうえでのリトマス紙試験となる。チャールズ・クローサマー氏はボブ・ウッドワード氏の著書「オバマの戦争」を参照し、「オバマ氏は心理的にアフガニスタンから撤退している」と語る。昨年の12月1日にオバマ氏がアフガニスタンの兵員増派を公表した際には、米軍を18ヶ月以内に撤退させるとも表明した。オバマ氏は出口戦略を模索しているが、対反乱戦略に必要不可欠で、スタンリー・マクリスタル大将もデービッド・ペトレイアス大将も推奨している制度構築には消極的である。オバマ氏は中間選挙を目前に控え、内政と民主党内の支持取り付けに手一杯である(“Why is Obama sending troops to Afghanistan?”; Washington Post; October 1, 2010)。オバマ大統領が対テロ戦争での重要な任務を信じていないことは、由々しき問題である。さらに、早期の撤退による力の真空により、中国が中東でもアフリカで行なっているような勢力拡大の野心を抱きかねない。

軍事的な関与を減らしたからといって、決して経済成長が保証されるわけではない。外交政策イニシアチブのウィリアム・クリストル所長は、世論に間で広まっている軍事支出がアメリカ経済の負担になっているという誤解に反論している。イラクとアフガニスタンの戦費を含めても、今年の国防支出はGDPの4.9%で、第二次大戦以降の年平均の6.5%を下回っている。他の予算と比較しても、9・11以降で国防支出が大幅に増額されたわけではない。きわめて重要なことに、クリストル氏はアメリカの軍事的関与がなくなって世界各地が不安定になれば、長期的な経済成長など望めない情勢になってしまうと指摘する。クリストル氏が主張するように「弱小で安価な軍事力によって財政改善を望むことはできない」のである(“Peace Doesn't Keep Itself”; Wall Street Journal; October 4, 2010)。

不充分な軍事関与の問題には、もっと根深いものがある。冷戦終結以来、アメリカは「歴史の終焉」を前提にして、充分な国防支出を行なわなかった。よって、今日の安全保障に突きつけられた課題は、オバマ政権だけの責任ではない。最近、保守派の主要シンクタンクが共同発行したレポートでは、国防費の過剰支出という誤った見方に反論している。購買力平価で見れば、中国の軍事支出はアメリカに近づいている。国防費の持続性については、ヘリテージ研究所のマッケンジー・イーグレン研究員が1976年以降の動向を基に、社会保障費ほど伸びていない国防費は財政赤字の原因にはならないと指摘している。この共同レポートは世界の警察官としてのアメリカ役割を支持し、世界を不安定に導くような潜在的な攻撃を防ぐためにもアメリカ軍はあらゆる事態に対処する準備ができていなければならないと説いている(“Defending Defense”; Joint Paper of AEI, Heritage Foundation, and Foreign Policy Initiative; October, 2010)。

ロバート・ケーガン氏が述べるように、オバマ政権はアメリカ外交のリセットをリセットするかも知れない。しかし、それは潜在的な敵対勢力や現在の敵を圧倒する軍事的な優位に基づかねばならない。また、オバマ政権は内政の制約を超えて行動しなければならない。第一段階のオバマ氏は健康保険と経済にかかりきりであった。第二段階のオバマ大統領は、来る中間選挙での保守派の勢いの強さを考慮すれば、内政で共和党の説得に多大な労力を割かれるかも知れない。しかしそれは無意味な言い訳にしかならない。世界の安全保障でのアメリカのリーダーシップは党利党略を超えたものである。オバマ大統領は民主国家連盟の再強化をはかる必要がある。潜在的な敵対勢力や現在の敵がアメリカを弱いと見てしまえば、政治および安全保障環境は自由な同盟諸国とアメリカ自身の経済繁栄に望ましくないものになってしまう。好かれるアメリカなど世界は必要としていない。

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2010年10月 9日

オレンジ体制崩壊後の対ウクライナ政策への指針

オレンジ革命の崩壊以来、ウクライナはロシアの属国のようになってしまった。最近、チャタム・ハウスが刊行したレポートではウクライナ政治と黒海地域の安全保障への理解の鍵が示されている(The Mortgaging of Ukraine’s Independence”; Chatham House Briefing Paper; August 2010)。この論文のレビューを述べたい。

チャタム・ハウスでロシア・ユーラシア・プログラムの部長を務めるジェームズ・シャー氏は、このレポートでソ連崩壊後のウクライナ政治の概観を述べ、ロシアと欧米の地政学上のパワー・ゲームを分析している。民主主義の希望とは裏腹に、「ウクライナ社会はソ連崩壊後にお決まりのシニシズム、無気力、他者への不信感、家族と自分以外の者全てに対する無関心に戻ってしまったようだ」というオレンジ体制の状況がウクライナ国民を失望させてしまった。しかしシャー氏は、ポーランド・リトアニア支配とハプスブルグ朝の伝統を受け継ぐウクライナにはロシア型の力の統治は馴染まないと言う。これはウクライナがヨーロッパとロシアの間で立場が定まらない理由を理解するうえで重要な点である。

この論文で最も重要な論点は今年の4月21日にロシアとの間で締結されたカルキフ協定である。シャー氏はビクトル・ヤヌコビッチ大統領がこの協定に署名するという致命的な誤りを犯してしまったと言う。ウクライナはガス輸入価格の30%割引という好条件の見返りにロシア軍の駐留延長を認めることになった。ベルギーにあるヨーロッパ政策センターのアマンダ・ポール政策アナリストは、ウクライナの新聞社とのインタビューに応じ、カルキフ協定は予想されていた内容だったので、EUとウクライナの関係悪化にはつながらないと述べた。この協定によってウクライナのEU加盟の希望が阻まれるわけではないが、その協定によってクレムリンがウクライナはロシアの勢力圏であることを再確認させたとポール氏は述べているExpert: Kharkiv accords between Medvedev, Yanukovych 'Moscow's stamp' for Kyiv”; Kyiv Post; April 22, 2010)。

ウクライナ国民はガス紛争によって独立以来で最悪の経済危機を経験したので、経済に目を奪われて安全保障は眼中にない。結果としてウクライナはロシアに依存した経済政策をとるようになった。ウクライナが協定を破棄すれば、それまでの割引分を支払わねばならない。また、クレムリンとガスプロムがウクライナの経済政策に強い影響力を及ぼすようになった。シャー氏はロシアの野心を宥めて予防するためとして協定を結んだヤヌコビッチ氏の政策を批判し、ウクライナが実質的にロシアの支配を受けるようになったと指摘している。 

これはロシアと欧米の地政学的競合に重要な意味を持つ。初代大統領のレオニード・クチュマ氏と同様に、ビクトル・ヤヌコビッチ氏もロシアとの関係を深めながらEUに加盟しようとしている。しかし安全保障環境は一変している。クチュマ政権期には、エリツィン政権のロシアはヨーロッパ・大西洋地域の枠組で欧米とは良好な関係にあった。現在のロシアは帝政時代のナショナリズムに逆戻りしている。さらに9・11事件と中国の平和的な台頭によって世界の安全保障のあり方は大きく変わった。そのように危険な世界の中で、ヤヌコビッチ氏はウクライナの国益を保証するための地政学的なバランスに充分な考慮を払わずにロシアとの関係を強化してしまったが、クチュマ氏はNATO加盟も模索していた。シャー氏はヤヌコビッチ氏が1990年代と現在の地政学の違いを理解していないという死活的な点に言及している。

ウクライナの対ロシア依存が危険な水準にある現在、西側はどのように対処すべきだろうか?ヤヌコビッチ氏が大統領に就任した時、アメリカもヨーロッパも実利的な中道主義者だとして新大統領を受け入れた。しかしヤヌコビッチ政権下の統治の混乱によって、不正のない選挙で誕生した同政権もこの国の民主主義を破滅させてしまった。これは黒海地域の安全保障に重大な損失である。シャー氏はEUがウクライナの加盟に信頼性のある道筋を示し、民主化の取り組みを支援すべきだと主張している。またオバマ政権には、ロシアとの関係リセットで周辺諸国を犠牲にはしないと言うだけで行動が伴わなければ意味がないと提言している。シャー氏はヒラリー・ロッダム・クリントン国務長官が7月3日にキエフで行なった演説に対し、アメリカはロシアとウクライナの関係強化を反米と見なさないと言っただけで、アメリカと西側の国益を明確にしていないと批判している。

ジェームズ・シャー氏は非常に重要な点を議論している。バラク・オバマ大統領はロシアとの関係リセットにとらわれるあまり、「ポスト・アメリカ」的な行動をとってポーランドからカフカス地域の諸国民の不安をかき立てている。さらにヨーロッパ諸国の指導者達もロシアの拡張主義に歯止めをかけるにはあまりに「ポスト・モダン」である。しかし事態はある程度の進展を見せている。この10月に開催されたヤルタ・ヨーロッパ戦略会議において、ステファン・フュール(チェコ)拡大・近隣諸国政策担当欧州委員は、近々結ばれるEU・ウクライナ連携協定によってウクライナの政治面での統治状況と経済面での透明性は改善されると述べた(“Ukraine and the World: Rethinking and Moving on”; Europa; 1 October 2010  協定に関しては以下を参照“Ukraine close to finalizing Association Agreement with EU – Yanukovych”; RIA Novosti; 6 October 2010)。シャー氏は最後に、「ロシアが万が一にもウクライナを統合しようという野心を成し遂げようとも、ウクライナは主権国家であり、その主権は尊重されねばならない」と述べていることを忘れてはならない。

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