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2010年11月21日

米印首脳会談からオバマ政権後半の外交をどう見るか?

中間選挙での敗北からほどなくして、オバマ大統領は10日間のアジア歴訪に旅立った。ソウルでのG20と横浜でのAPECもさることならが、インドとの二国間会談は際立って重要であった。G20やAPECのように明確な合意形成もままならない多国間交渉ショーとは異なり、インドとの二国間会談では実のある具体的な戦略課題が議論されたからである。

インドは新興市場であるだけでなく、アフガニスタン・パキスタン問題や核不拡散といった課題でも重要な国である。また、米中印という域内三大国の力のバランスも見逃せない問題である。11月6日から8日にかけての二国間会談を前にした11月5日に、ジョン・マケイン上院議員はカーネギー国際平和財団で米印関係に関する講演を行なった。以下のビデオを参照して欲しい。

マケイン氏は演説を通してアメリカとインドは民主主義という共通の価値観によって結ばれ、これが両国の戦略的提携関係のさらなる発展に重要な役割を担っていると強調した。インドはアメリカにとって有望な新興市場以上に重要な国である。アフガニスタン・パキスタン問題は両国にとって死活的な課題である。マケイン上院議員は、アメリカがアフガニスタンから性急に撤退すれば、インドにはそれが対テロ戦争に消極的だと映るであろうと述べた。ボブ・ウッドワード氏が自らの著書「オバマの戦争」で、バラク・オバマ大統領は心理的にアフガニスタンから撤退していると語っているので、これは重要な点である。実際に、オバマ氏はリスボンでのNATO首脳会議で、2014年までにアフガン戦線から撤退するという期限を切った(“Lisbon: NATO leaders endorse Afghanistan 2014 withdrawal date”; Daily Telegraph; 20 November, 2010)。

非常に興味深いことに、マケイン氏は米印民主枢軸によってミャンマーとイランの民主化を促進すべきだと訴えた。地理的な観点からすれば、インドは東アジアと中東の間にある。戦略的提携関係がアフガニスタン・パキスタン問題を超えても不思議はない。インドはアメリカ、オーストラリア、その他アジア太平洋地域の民主主義諸国とも海軍での協調関係を深めている。ユーラシア大陸の東西を結ぶインドは、アメリカの大西洋戦略と太平洋戦略に整合性を持たせる重要な位置にある。問題は、オバマ政権が世界の民主化でアメリカが指導的役割を強く主張することには、やや消極的なことである。よって、イランとミャンマーの民主化を目指す米印提携は、将来への青写真にとどまりそうである。

中国の平和的台頭に関して、マケイン氏の発言にはインドを対中防壁とする考えを示唆すると思われるところはあったが、中国批判には慎重であった。マケイン氏は財界の権益にも考慮を払ったのであろう。しかし、米印の戦略的提携関係が中国を「責任ある大国」にするために一定の役割を果たすだろうとも述べた。

他方でカーネギー国際平和財団のジョージ・パーコビッチ副所長は、米印関係は持続的に発展するべきで、ブッシュ政権による米印原子力協定のような「アンフェタミン」に頼るべきではないと述べている。下記にある、11月4日に行なわれた内部インタビューのビデオを参照して欲しい。

特に、リベラル派はNPT非加盟国との原子力協定は、核不拡散というアメリカの国益に矛盾するとして反発している。また、インド国内での原子力施設の査察がアメリカ製のものに限られ、他の原子力施設には及ばないことに、リベラル派は懸念を抱いている。よって、リベラル派はこの協定によってインド亜大陸と全世界での核軍拡競争に拍車をかけるのではないかと考えている。しかし対テロ戦争と輸出市場のことを考えれば、インドとの戦略的提携関係がアメリカの重要な国益に適うことはリベラル派も認めている。中道派のパーコビッチ氏は、アメリカとインドが民主主義と言う共通の価値観で結ばれているという、マケイン氏の見解には同意している。

インドと中国の地政学的な競合に関して、パーコビッチ氏はアメリカがそれを利用しないようにすべきだと主張する。インドの安全保障にとって、アフガニスタン・パキスタンの混乱、パキスタンの核の脅威、 イスラム・テロと比べれば、中国はそれほど差し迫った課題ではないということである。歴史的には、インドへの脅威はヒマラヤ山脈ではなくカイバル峠を越えてやって来た。パーコビッチ氏が述べるように、インドに中国への抑えとして過大な期待を抱かない方が良いのであろう。

ニューデリーでの首脳会談に臨んだバラク・オバマ大統領とマンモハン・シン首相は、広い範囲の事項で重要な合意に至った。上院議員時代には最も左翼の議員であったオバマ氏は、ブッシュ政権による二国間協定に批判的であった。しかし、大統領になったオバマ氏は、インドでのアメリカ企業の市場開拓と投資の拡大に積極的なっている。安全保障では、アフガニスタン・パキスタン情勢、海賊、大量破壊兵器不拡散、テロリストの掃討、そして二国間の国防強力が議題にのぼった。両首脳は、エバーグリーン革命やインターネット・セキュリティといった新しい課題についても意見を交わした。前者はオバマ政権らしい論点である。これはオバマ氏が掲げながら任期前半には充分な進展が見られなかった、グリーン・ニューディールの一環のように思われる(“White House issues fact sheets on Obama's India visit”; Hindustan Times; November 9, 2010)。

インド側からすれば、先のアメリカとの共同声明は多国間の輸出規制体制への参加に弾みをつけるものである。ニューデリーの国防問題分析研究所のS・サムエル・C・ラジブ準研究員は、11月8日の米印共同声明のよってインドの原子力供給国グループ加入への道が開け、最終的にはインドがNPTへの参加し、ドイツや日本と共に国連常任理事国入りもできるようになると述べている。オバマ氏はインドとの原子力事業を推し進めながら、アメリカ主導の核不拡散体勢に組み入れるという、前政権の方針を追求している(“India’s Accommodation in Multi-lateral Export Control Regimes”; ISDA Comments; November 10, 2010)。

インドとの戦略的提携関係は、アメリカにとって超党派の国益である。インドにとって、この提携関係はグローバルな戦略的なかけひきで自国の立場を有利にできるものである。ブッシュ政権が結んだ二国間協定は賛否両論を呼んだが、こうした「アンフェタミン」がなければ現政権がインドとのパートナーシップを発展させることはできなかったであろう。インドは中間選挙後にオバマ氏が最初に訪問した国である。今回のインド訪問は、ロバート・ケーガン氏が述べたように、アメリカ外交を任期前半2年の謝罪姿勢から本来の姿に戻すための第一歩なのだろうか?

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