新年への問いかけ1:アメリカは2011年の外交課題にどのように対処するか?
バラク・オバマ大統領の外交政策での指導力は、昨年11月の中間選挙での手痛い敗北もあり、厳しい評価が問われることになるであろう。デイリー・テレグラフ紙のトビー・ハーンデン、アメリカ編集局員はアメリカ外交の十大優先課題を挙げて、今年の世界情勢を予測している(”Top 10 foreign policy challenges facing Barack Obama in 2011”; Toby Harnden --- Daily Telegraph Blog; January 1, 2011)。アメリカがこれらの課題に対処するうえで、充分な資材を投入するだけの意志と能力があるかが、最も問われるべき問題である。
十大課題の中でも特に重要になってくるのがアフガニスタンとイランである。オバマ氏は今年の7月にもアフガニスタンからの撤退を開始すると発言したが、昨年11月にリスボンで開催されたNATO首脳会議では2014年12月までにと撤退を延期した。オバマ政権自体にも問題はある。ボブ・ウッドワード氏が自らの著書「オバマの戦争」で語っているように、大統領は心理的にアフガニスタンから撤退している。また、政権内部でも早期の撤退を主張するジョセフ・バイデン副大統領と、任務の完了を主張するヒラリー・クリントン国務長官とロバート・ゲーツ国防長官との間で意見が分かれている。ハーンデン氏はアフガニスタン側に複雑に絡み合った問題があることを指摘している。反乱分子はパキスタンの辺境地域を根拠地として利用している。アフガニスタン政府は依然として腐敗が蔓延し、治安部隊も幾分か改善されているとはいえ心もとない。今年のオバマ政権は、ハーンデン氏が上記で指摘した問題点に取り組む必要がある。さもなければ、デービッド・ペトレイアス陸軍大将が挙げた成果も無に帰してしまうだろう。
イランに関しては、イスラエルのモシェ・ヤーロン戦略相が技術的な問題のために核開発には3年を要すると述べた(“Israel - Iran nuclear bomb 'still three years away'”; BBC News; 29 December 2010)。アフマディネジャド政権が核開発を停止することは考えにくいが、経済制裁によるイラン経済への痛手から若年層の間で全国的な不満が高まっている。ハーンデン氏はイランでレジーム・チェンジかイスラエルの攻撃でもあれば、アフガニスタンの反乱分子掃討作戦が有利に進められるようになると言う。
アメリカはアフガニスタンとイランという中東での大きな課題を抱えながら、世界戦略と地政学での中国とロシアとの競合、そして北朝鮮の脅威にも対処しなければならない。アメリカは中国の「平和的台頭」を封じ込める必要があるが、中国マネーの流入に依存する現状がその弊害になりかねない。ロシアとの新STARTによって核なき世界が実現するわけでも、2012年の大統領選挙でのウラジーミル・プーチン氏の当選を阻止できるわけでもない。極めて悩ましいことに、イランと北朝鮮の核開発の野望を阻むには中国とロシアを取り込む必要がある。現在の朝鮮半島での緊張がキム・ジョンイル後の北朝鮮情勢の行方とも絡んで複雑になっているので、中国の動向を監視する必要がある。
世界経済の停滞がアメリカの国防予算に制約となりかねない中で、中国経済は成長している。アメリカの政策形成者達は、現在の国防支出がGDPに占める割合が冷戦期より低いことに留意する必要がある。よって、アメリカの指導者達が経済を口実にして国防への関与を低下させてはならない。
他にはイスラエル・パレスチナ紛争とレバノン問題で、高度で微妙な外交が必要になる。ウィキリークス問題では、インターネット時代の新しい脅威には従来の安全保障概念では対処できないことが明らかになった。
そのように多くの問題を抱える世界で、中間選挙で手痛い敗北を喫したオバマ氏は、下院多数派の共和党とうまく渡り合ってゆかねばならない。アフガニスタンとイランに関わりきりだからと言って、他の課題をおざなりにしてはならない。メディアはアメリカの衰退を口にすることが多い(“The limits of power --- Blocked at home, what can Barack Obama achieve abroad?”; Economist; November 22, 2010)。しかし、この「衰退」をもたらしたのは、冷戦直後の「歴史からの休暇」という姿勢である。アメリカは新しい脅威を抑制する準備ができていなかった。問題は党利党略ではない。アメリカはこの教訓をえたのだろうか?それが問われるべきである。
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