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2011年1月26日

世界の中でのアメリカの役割を低下させかねない国防費削減

アメリカの外交政策には数多くの挑戦が突きつけられ、政策形成者達は9・11後の安全保障政策の基本図を模索している。オバマ政権下では、テロばかりでなく、ロシアと中国の再大国化、核不拡散などの新しい問題がますます重要になっている。中間選挙からほどなくして、バラク・オバマ大統領はリスボンで開催されたNATO首脳会議に出席し、ヨーロッパの同盟諸国と世界の安全保障問題に対処するための新しい安全保障概念を話し合った。他方で北朝鮮による韓国のヨンピョン島への攻撃によって、我々はアメリカの軍事的優位が世界の安全保障にどれほど必要不可欠かを思い知らされた。新しい安全保障のビジョンの名の下にアメリカの国防力が性急に削減され、リベラル派やハト派が言うような多極化された世界アメリカの衰退を喜々として受け入れるべきなのだろうか?

今日の安全保障の課題は、かつての冷戦のような単純明快な共産主義に封じ込めではすまず、社会経済的な側面がますます複雑に絡み合っている。よって、アメリカ平和研究所は去る12月に刊行した四半期ごとの国防レビュー(QDR)で、「アメリカ政府は国防政策の実施に当たって包括的なアプローチをとるべきで、連邦政府内での省庁間の連携を密にするだけでなく、中央と地方自治体、民間企業、同盟国、国際機関、海外の現地住民、そしてアメリカ国民とも連携してゆくべきだ」と提言している。またQDRは連邦政府各省庁の内部での縦割りを排除するようにと訴えている(“Security Can’t Stop with DoD”; Defense News; December 20, 2010)。

そうした切実な課題にもかかわらず、ロバート・ゲーツ国防長官と統合参謀本部長のマイケル・マレン海軍大将は、1月6日に軍事予算の削減を公表した。財政逼迫を考慮すれば、国防支出も聖域ではないとゲーツ氏は述べている。米軍がアフガニスタンから撤退した後の2015年から、大幅な予算削減が見込まれるのは陸軍と海兵隊である(”Defense budget: to cut $100 billion, Army and Marines will shrink”; Christian Science Monitor; January 6, 2011)。海兵隊の水陸両用上陸車両は発注停止となった(“Gates wants to drop $14 billion Marine landing-craft program”; Washington Post; January 5, 2011)。また、イギリスのデービッド・キャメロン首相がクイーン・エリザベス級次期空母の艦載機にはより安価で航続距離の長いF-35Cを採用した(“Cameron: UK to swap JSFs to carrier variant, axe Harrier and Nimrod”; Flightglobal; 19 October, 2010)ため、F-35B垂直・短距離離着陸戦闘機の発注は、延期された(“JSF Tests Slips Again, Purchase to Be Slashed”; Aviation Week; January 11, 2011)。 ゲーツ長官は価格の高い装備への支出を削減する一方で、無人の航空機と舟艇の他に長距離爆撃機への支出を増額した。

国防費削減に関して、ジョンズ・ホプキンス大学ポール・ニッツ高等国際研究大学院のトマス・マーンケン訪問研究員は、アメリカの国防費が効率の名の下に削減されてはならないと主張する。マーンケン氏は、ゲーツ氏の計画でF-35Bの発注延期の他に陸軍の新型地対空ミサイルや海兵隊の戦闘車両といった高価な兵器の開発が破棄されることについては賛成している。マーンケン氏は他方で、西太平洋での中国の軍事的野心を抑止するためにも、次世代爆撃機やバージニア級攻撃原潜の開発配備をもっと進めるべきだと主張している(“Gates's defense cuts: A glass half full -- but also half empty”; Shadow Government—Foreign Policy Blog; January 7, 2010)。

国防支出は財政規律と軍事的要求だけで議論されるべきものではない。また、アメリカの国防政策は主要な民主主義同盟諸国の政策と整合させる必要がある。11月19日から20日にかけてリスボンで開催されたNATO首脳会議では、アナス・フォー・ラスムッセン事務局長が新安全保障概念を公表し、9・11後の世界の安全保障に取り組むために、NATOをよりグローバルで開かれた、効率性の高い組織とするとしている。ミサイル防衛やサイバー攻撃といった新しい問題が主要課題となっている。反乱分子鎮圧戦略に関して、NATOはアフガニスタンでの経験を踏まえて、地域社会の再建の支援と現地治安部隊の能力向上を支援する民政部門を設立する。その第一歩として、NATOは2014年の権限委譲を前にアフガニスタン政府、軍、警察の訓練を行なう。また、ラスムッセン事務局長とロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領は相互の関係改善により、テロ、海賊、アフガニスタンの治安での協力を深めてゆくと宣言した。ラスムッセン氏はさらに、NATOはロシアとミサイル防衛の協議を行なうとさえ述べた。これはモスクワでのオバマ・メドベージェフ会談の際には、米露関係のリセットの障害となっていた問題である(”Summit meetings of Heads of State and Government”; NATO Newsroom; 19 November ~ 20 November, 2010)。新安全保障概念の前文はこちらより参照。

オバマ政権はアメリカ外交に挑戦を突きつける国々との協調路線を歩もうとしているようだが、アメリカが簡単に多極化を受け入れても良いのだろうか?ここでジョン・マケイン上院議員が11月15日に外交政策センターで行なった講演について言及したい。中国の「真珠の首飾り」戦略に関して、マケイン氏は太平洋およびインド洋諸国との安全保障パートナーシップが中国との致命的な紛争を未然に防ぐためにも必要だと述べた。また、マケイン氏はアジアとの自由貿易協定によって、この地域でのアメリカの政治的存在感を高められると述べた。ロシアが再び冷戦を起こすことは考えにくいが、クレムリンの専制政治と欧米との衝突は避けられない。イランに関して、マケイン氏はオバマ氏が先のイラン大統領選挙で民主化運動を積極的に支援しなかったことを批判した。マケイン上院議員はゲーツ氏の歳出削減計画に理解を示したものの、世界の安全保障でのアメリカの役割を低下させてはならないと強く主張した。

現在、パックス・アメリカーナによる自由主義世界秩序に対する最も大きな挑戦となっているのは、中国の「平和的台頭」である。アメリカ側では中国の急速な軍事力拡大に警戒感を強めているが、中国の梁光烈国防相はアメリカのロバート・ゲーツ国防長官との会談の際に、こうした警戒感に殆ど考慮を払わなかった(“Can Obama cut the military in the face of a rising China?”; Christian Science Monitor; January 11, 2011)。ステルス戦闘機に見られるような急速な技術進歩にもかかわらず、アメリカの情報当局は中国の軍事力の向上について具体的な情報を得ていない(“Defense Secretary Gates: U.S. underestimated parts of China's military modernization”; Washington Post; January 9, 2011)。専門家達は新型のJ-20ステルス戦闘機のエンジン・システムはアメリカのF-22戦闘機ほどにはステルス技術に対応しきれていないので、現段階ではこの戦闘機ではアメリカの戦闘機に太刀打ちできないと述べている(“Chinese J-20 Stealth Fighter In Taxi Tests”; Aviation Week; January 3, 2011)。とは言うものの、中国がアメリカの覇権に挑もうという野心をあらわにしたことには違いない。

中国で再び湧き上がる大国志向を含めた世界の脅威に鑑みて、保守派とネオコンからはオバマ政権の国防費削減に批判の声が挙がっている。歴史学者のアーサー・ハーマン氏は、アメリカが戦時下にあり、しかも新しい脅威が台頭する現状で、オバマ大統領とゲーツ国防長官による一方的な軍備削減は不適切だと警告している。ハーマン氏は、現在は第二次世界大戦と冷戦の直後のような平和時ではないと述べている。ハーマン氏はアメリカ軍の近代化と費用効率の向上には同意しているが、ロシアと中国の拡張主義を封じ込めるためには充分に大きな規模の軍事力を維持する必要があると述べている。イラクとアフガニスタンの戦争を理由に性急な国防費削減に走るようなことがあってはならない(The Re-Hollowing of the Military”; Commentary; September 2010)。ハーマン氏はさらに、軍事支出こそ最善の景気刺激策だと主張する(“Don't Let O Disarm Our Military”; New York Post; January 10, 2011)。技術的な波及効果を考慮すれば、私はハーマン氏の主張に同意する。知識こそ、我々が低賃金労働の新興経済諸国より優位にある分野である。

今日、アメリカも国防支出は戦闘作戦の支出を差し引くとGDPの3.8%に過ぎない。これは従来の平和時の平均であった5.7%の2/3に過ぎない。戦闘支出を含めても、国防費の総額はGDPの4.6%である(“America's Dangerous Rush to Shrink Its Military Power”; Wall Street Journal; December 27, 2010)。アメリカン・エンタープライズ研究所のトマス・ドネリー常任フェローとゲーリー・シュミット常任研究員は、オバマ政権が国防支出を教育費の効率性と同じ次元で語ろうとする姿勢を批判している。両氏は、効率的な予算の名の下に世界の中でのアメリカの役割を低下させてはならないと主張する(“Slashing Pentagon Spending Isn't the Same as Cutting Education Funding”; Washington Examiner; December 7, 2010)。

12月28日にブルッキングス研究所で行なわれたパネル・ディスカッションで、ロバート・ケーガン上級研究員は、なぜ財政赤字を口実にした軍備削減がアメリカの国益を損なうのかという基本的な点について述べた。アメリカの経済的繁栄は自らの軍事力に守られた自由主義世界秩序によって保証されている。ケーガン氏は性急な軍事削減によって戦間期と同様な孤立主義の過ちを繰り返すことになると述べている。以下のビデオを参照して欲しい。

結論として、ジョン・ボルトン元国連大使のツイートを引用する。戦時下でしかも海外での安全保障の脅威が増大しているこの時期、ゲーツ国防長官の国防費削減によってアメリカの安全保障は脆弱になり、本土の防衛も覚束なくなるだろう。

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2011年1月 9日

プロフィール写真の変更

今日は私の誕生日なので、これを機に『グローバル・アメリカン政論』のプロフィール写真を変更した。新画像も旧画像と同様に、ヘラクレスを模して獅子の皮を被るアレクサンダーである。

Alex_lifetime_macedonia_tet_o

旧画像

Alexander_heracles_coin

新画像

新画像ではライオンがより鮮明になり、より恐ろしく力強いものとなる。新年の船出の象徴とならんことを願って。

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2011年1月 8日

新年への問いかけ2:相互依存で国際紛争は予防できるのか?

世界史は諸国民による紛争の繰り返しである。経済、文化、社会活動などでの相互交流があっても、戦争と流血の惨事は防止できない。中国の「平和的台頭」に関して言えば、ハト派の論客達は経済や観光を通じて相互依存を深めてゆけば欧米との緊張も緩和するであろうと主張する。しかし、歴史は人的交流によって諸国民と諸文明の衝突を防げるという考えを支持していない。一度、戦略的権益が脅かされるか基本的な国家理念が否定されれば、各国は互いに対決するのである。

まず、第一次世界大戦前の英独関係について述べたい。両大国は植民地獲得や製造業で熾烈な競争を繰り広げていたものの、19世紀末から20世紀初頭にかけては互いに良好な関係であった。ビクトリア女王自身がドイツ系であった。王配のアルバート公もドイツのサクス・コーブルグ・ザールフェルト公国出身であった。女王の子女の中にも、長女のビクトリア王女をはじめ、ドイツの王子や王女と婚姻関係を結んだ者がいた。

非常に興味深いことに、セシル・ローズが南アフリカの実業界と政界での成功によって得た資産を基にオックスフォード大学の留学生に向けてローズ奨学金を設立すると、イギリスの植民地と自治領、そしてアメリカと並び、ドイツが奨学金給付対象国になった。この中で非英語圏の国はドイツだけである。このことは、イギリスの帝国主義者であったローズが当時の安定と繁栄の世界秩序のために、緊密な英独関係を重視していたことを示す。

不幸にもカイザー・ウィルヘルム2世が大英帝国の死活的国益を脅かすような拡張主義政策で世界を過剰に刺激したために、そのような麗しき相互依存は無に帰してしまった。カイザーがベルギーに侵攻すると、イギリスのハーバート・ヘンリー・アスキス首相には第一次世界大戦でドイツと戦う以外に選択肢がなくなった。

経済の相互依存は、パール・ハーバー攻撃の歯止めとならなかった。太平洋戦争勃発時に、日本は石油、ゴム、錫、屑鉄といった天然資源をアメリカと東南アジアにあるイギリスとオランダの植民地に依存していた。また、日本にとってアメリカは絹やその他の繊維製品の最重要輸出市場であった。アメリカとの戦争は日本経済の破滅を意味した。にもかかわらず、東京の軍事政権はワシントンとの間で満州と中国をめぐる戦略的な溝は埋まらないと考え、アメリカとの戦争に突入した。1934年にベーブ・ルース一行が親善野球のために来日した際(ベーブ・ルース来日75年 大宮の空に10アーチ」;産経新聞;2009年1月10日)に、日米両国の間で一時的に友好が高まって緊張が緩和されたが、7年後の戦争を防ぐことはできなかった。

現在に世界秩序に挑戦を突きつけている中国、ロシア、イスラム・テロ、ならず者国家について議論する際に、相互依存によってこうした相手を飼い馴らせると考えることは甘い希望的観測である。冷戦後の歴史からの休暇の間に、こうした怪物達が餌を貪って成長してしまった。特に中国は我々の自由世界秩序を食い尽くし、自国の専制的な指導者達の生存機会を最大化しようとしている。言わば、彼らの行動規範は我々のものとは完全に異なるのである。それでも軍事的抑止力の向上と同盟国との戦略提携を強化せずに、相互依存によってこうした相手を飼い馴らせるとでも思えるだろうか?歴史からの教訓を学ぼうではないか。

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2011年1月 5日

新年への問いかけ1:アメリカは2011年の外交課題にどのように対処するか?

バラク・オバマ大統領の外交政策での指導力は、昨年11月の中間選挙での手痛い敗北もあり、厳しい評価が問われることになるであろう。デイリー・テレグラフ紙のトビー・ハーンデン、アメリカ編集局員はアメリカ外交の十大優先課題を挙げて、今年の世界情勢を予測している(”Top 10 foreign policy challenges facing Barack Obama in 2011”; Toby Harnden --- Daily Telegraph Blog; January 1, 2011)。アメリカがこれらの課題に対処するうえで、充分な資材を投入するだけの意志と能力があるかが、最も問われるべき問題である。

十大課題の中でも特に重要になってくるのがアフガニスタンとイランである。オバマ氏は今年の7月にもアフガニスタンからの撤退を開始すると発言したが、昨年11月にリスボンで開催されたNATO首脳会議では2014年12月までにと撤退を延期した。オバマ政権自体にも問題はある。ボブ・ウッドワード氏が自らの著書「オバマの戦争」で語っているように、大統領は心理的にアフガニスタンから撤退している。また、政権内部でも早期の撤退を主張するジョセフ・バイデン副大統領と、任務の完了を主張するヒラリー・クリントン国務長官とロバート・ゲーツ国防長官との間で意見が分かれている。ハーンデン氏はアフガニスタン側に複雑に絡み合った問題があることを指摘している。反乱分子はパキスタンの辺境地域を根拠地として利用している。アフガニスタン政府は依然として腐敗が蔓延し、治安部隊も幾分か改善されているとはいえ心もとない。今年のオバマ政権は、ハーンデン氏が上記で指摘した問題点に取り組む必要がある。さもなければ、デービッド・ペトレイアス陸軍大将が挙げた成果も無に帰してしまうだろう。

イランに関しては、イスラエルのモシェ・ヤーロン戦略相が技術的な問題のために核開発には3年を要すると述べた(“Israel - Iran nuclear bomb 'still three years away'”; BBC News; 29 December 2010)。アフマディネジャド政権が核開発を停止することは考えにくいが、経済制裁によるイラン経済への痛手から若年層の間で全国的な不満が高まっている。ハーンデン氏はイランでレジーム・チェンジかイスラエルの攻撃でもあれば、アフガニスタンの反乱分子掃討作戦が有利に進められるようになると言う。

アメリカはアフガニスタンとイランという中東での大きな課題を抱えながら、世界戦略と地政学での中国とロシアとの競合、そして北朝鮮の脅威にも対処しなければならない。アメリカは中国の「平和的台頭」を封じ込める必要があるが、中国マネーの流入に依存する現状がその弊害になりかねない。ロシアとの新STARTによって核なき世界が実現するわけでも、2012年の大統領選挙でのウラジーミル・プーチン氏の当選を阻止できるわけでもない。極めて悩ましいことに、イランと北朝鮮の核開発の野望を阻むには中国とロシアを取り込む必要がある。現在の朝鮮半島での緊張がキム・ジョンイル後の北朝鮮情勢の行方とも絡んで複雑になっているので、中国の動向を監視する必要がある。

世界経済の停滞がアメリカの国防予算に制約となりかねない中で、中国経済は成長している。アメリカの政策形成者達は、現在の国防支出がGDPに占める割合が冷戦期より低いことに留意する必要がある。よって、アメリカの指導者達が経済を口実にして国防への関与を低下させてはならない。

他にはイスラエル・パレスチナ紛争とレバノン問題で、高度で微妙な外交が必要になる。ウィキリークス問題では、インターネット時代の新しい脅威には従来の安全保障概念では対処できないことが明らかになった。

そのように多くの問題を抱える世界で、中間選挙で手痛い敗北を喫したオバマ氏は、下院多数派の共和党とうまく渡り合ってゆかねばならない。アフガニスタンとイランに関わりきりだからと言って、他の課題をおざなりにしてはならない。メディアはアメリカの衰退を口にすることが多い(“The limits of power --- Blocked at home, what can Barack Obama achieve abroad?”; Economist; November 22, 2010)。しかし、この「衰退」をもたらしたのは、冷戦直後の「歴史からの休暇」という姿勢である。アメリカは新しい脅威を抑制する準備ができていなかった。問題は党利党略ではない。アメリカはこの教訓をえたのだろうか?それが問われるべきである。

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