ナイ教授が世界秩序とアメリカの指導力に関する新著を刊行
ハーバード大学のジョセフ・ナイ特任教授は、“The Future of Power”と題する新著を出した。以下のビデオは、ハーバード大学の公共リーダーシップ・センターによるインタビューである。
従来の知識では、国家の力とはハード・パワーとソフト・パワーから成る。スマート・パワーという新しい概念は、両方を兼ね合わせたものである。今日ではパワーの性質は著しく複雑になり、軍事力や経済力といった次元を超えたものになっている。ナイ氏は、民主主義はパワーの源泉を望む結果につなげるためには非効率的であるが、思想の競合によって正当性のあるソフト・パワーが得られると指摘する。専制政治はパワーの源泉を望む結果につなげるには効率的かも知れないが、長期的には腐敗と劣悪な統治に陥ってしまうとナイ氏は述べている。
ナイ教授はいわゆる「アメリカの衰退」を否定し、アメリカのGDPが世界経済に占める割合は1970年代から大きく変動していないと言う。ナイ氏はこうした議論は2001年前後の「自信過剰」なアメリカからの揺れ戻しによる心理学的なものだと主張する。ナイ氏は二つの重要なパワー・シフトを指摘する。一つは欧米先進国からアジア新興経済諸国への移動である。中国の台頭も、アジア諸国の産業基盤の強化による発展と言う文脈で理解すべきという。もう一つは国家アクターから非国家アクターへの移動である。ITによる情報の拡散で、個人や民間団体が従来には考えられなかったほど世界の政策形成に影響を及ぼすようになっている。人道支援NGOからテロリスト団体、そしてチュニジアとエジプトで起きたフェースブック革命は、そうした典型例である。
ジョセフ・ナイ教授は今世紀のアメリカ外交とその国際的なリーダーシップに関する重要な点を語っている。特に力の性質の変化は、この著書の重要な論点である。
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