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2011年3月18日

アメリカは中東の民主化をどのように支援すべきか?

前回の投稿で述べたように、中東での反政府運動の台頭は、この地域でのアメリカの影響力の低下を意味しない。むしろ、アフガン戦争とイラク戦争の勃発以来の長年にわたって追求してきた中東の民主化というアメリカン・ドリームが実現されつつある。アメリカは中東の政治変動に対してどのように関与すべきだろうか?当記事ではエジプト、リビア、イランの主要3ヶ国について記したい。

チュニジアのジャスミン革命とエジプトのホスニ・ムバラク大統領の退陣に刺激された民衆の運動の広まりは、晴天の霹靂ではない。カーネギー国際平和財団のマリーナ・オッタウェイ氏とアムル・ハムザウィ氏の共同論文では、チュニジアで始まった抵抗運動は特に目新しいものでなく、アラブ世界に潜在していた大衆の欲求が劇的に表れたに過ぎないと記されている。エジプトで政治および経済の改革を求める市民運動は、前世紀の終わり頃より見られ、イラク戦争が勃発した2003年より民主化の要求は強まっていった。チュニジア、アルジェリア、モロッコといった他のアラブ諸国でも同様の傾向が見られる。オッタウェイ氏とハムザウィ氏はアラブ世界の政治社会運動について深く切り込んだ分析を行ない、若者による運動は組織基盤が整備されていなくても急速に広がると述べている。従来からの労働組合や左翼活動家達は、ソーシャル・メディア頼みの運動は長続きしないと主張するが、チュニジアでのフェイスブック革命は自分達を強力な治安部隊で抑圧してきた独裁者達を引きずり降ろそうと望んでいるアラブ諸国民を勇気づけた(“Protest Movements and Political Change in the Arab World”; Carnegie Endowment Policy Outlook; January 28, 2011)。

ヨルダンのマルワン・ムアシェル元外相は、さらに踏み込んでアラブの改革に必要なステップを提言している。アラブ諸国の市民はもはや政府を信用していないので、いかなる『改革もリップ・サービスに終わってはならない。ムアシェル氏は公正な選挙、強力な議会、権力分立、そして教育改革を推奨している。政治改革が行なわれなければ、経済の自由化も成長が社会の不公平を拡大するだけだとして国民の支持を得られない。ムアシェル氏は上記の改革を強力に推し進め、指導者達は既得権益層の厳しい反対を押し切らねばならないと主張する(“How to Achieve Real Reform in the Arab World”; Washington Post; February 2, 2011)。

エジプトに関しては、ベイルートのカーネギー中東センターのアムル・ハムザウィ所長がマルワン・ムアシェル氏と同様な点を主張している。それは、戒厳令の解除と市民の自由の保護である。ハムザウィ氏はさらに、政治犯の釈放も勧告している(“Egypt's Path Ahead: Agree to the People's Demands”; National; February 2, 2011)。

欧米の論客の中にはイスラム宗教勢力の危険性を説く者もいるが、オランダのアヤーン・ヒルシ・アリ元下院議員は、エジプトのムスリム同胞団はかつて暴力的だったが、今では現実に適応する能力があると言う。自ら選挙経験を踏まえ、アリ氏は「政党は社会階級、宗教、そして時には政治思想を問わず、できるだけ多くの地域社会に根ざす必要がある」と指摘する(”Get Ready for the Muslim Brotherhood”; New York Times; February 3, 2011)。よって欧米の政策形成者達はイスラム宗教勢力の台頭よりも、エジプトで透明性と説明責任が保たれた統治が行なわれるかを注目すべきである。

カーネギー国際平和財団のミシェル・ダン上級研究員とブルッキングス研究所のロバート・ケーガン上級研究員は、エジプトの民主化に成功すればアラブ世界に非常に大きな影響を及ぼすと主張する。エジプトはパン・アラブ主義生誕の地であり、イスラエルと最初に平和条約を結んだ国である。また、人口はアラブ諸国では飛び抜けて多い。両氏ともエジプトに効果的で目的を絞った支援を行なうよう勧告している。欧米の援助は、軍事よりも債務猶予や自由貿易協定といった経済に振り向けるべきだと両氏は主張する。またジョン・マケイン上院議員とジョセフ・リーバーマン上院議員による最近のエジプト訪問の報告にも言及し、民間企業の投資増加とハイテク産業の代表団派遣も訴えている(“Why Egypt Has To Be the U.S. Priority in the Middle East”; Washington Post; March 7, 2011)。ムバラク政権に反発する若者達が経済と社会の不公平の是正を要求したことから見て、両氏の提言は妥当に思える。非常に重要なことに、両氏はアメリカ政府がエジプト人による自発的な運動を尊重し、アメリカ型の民主主義を押し付けないようにと勧告している。ケーガン氏とダン氏は中東政策には省庁間の垣根を超えて強い指導力を発揮する人物が必要で、オバマ政権に中東政治変動担当の閣外特別代表(Czar)を任用すべきだというユニークな提案までしている。

ムアマル・カダフィ大佐が権力の座にしがみついているリビアでは、事態が全く異なる。欧米の政策形成者達はリビアでの飛行禁止空域の設定を主張しているが、ロバート・ゲーツ国防長官はアメリカがそうした任務をこなすことは難しいと考え、イギリス、フランス、イタリアに作戦を委ねようとしている(“Robert Gates on Libya, Afghanistan, Iraq, and the Defense Budget”; Weekly Standard Blog; February 23, 2011)。オバマ政権がリビア介入に慎重なので、ロバート・ケーガン氏、ウィリアム・クリストル氏、そしてブッシュ政権とクリントン政権で高官を歴任した外交政策と人権問題の専門家達がオバマ大統領に対し、カダフィ大佐の圧政には特に飛行禁止空域の設定をはじめとした断固とした行動をとるように訴えた(Open Letter; Foreign Policy Initiative; February 25, 2011)。外交政策イニシアティブのジェイミー・フライ所長は、アメリカと主要同盟国による飛行禁止空域の設定にはイラクとコソボの先例に見られるように、国連安全保障理事会の承認は必要ないと指摘する。また、オバマ政権はアメリカにはカダフィ氏の攻撃にさらされているリビア国民を守る道義的責任があることを忘れてはならないとも主張している(“Opposing view: A moral obligation to intervene”; USA Today; March 3, 2011)。さらにフライ氏はリベラルなニューヨーク・タイムズ紙さえも「オバマ政権はリビアに関して矛盾だらけのメッセージを発してしまったので、現体制への圧力を鈍らせ、ひいてはアメリカの信頼を損なっている」との論説を展開しているとして、オバマ政権を批判している(“What Should We Do About Libya?”; National Review Online Symposium; March 10, 2011)。

そうした中でヒラリー・クリントン国務長官はパリで国家政権移行審議会というベンガジ暫定政府の代表団と会談した。暫定政府が国際社会から承認されれば、リビアの海外資産の活用と共に、石油の輸出もできるようになる。フランスはこのカダフィ後の体制を承認したが、暫定政権はイスラエル・パレスチナ、イラク、アフガニスタンに関してアメリカに同意しているわけではない(“Rebel council seeks to transform Libya”; Washington Post; March 15, 2011)。しかし、これはエジプトのムスリム同胞団についても同様である。私は、そのことがアメリカにカダフィ体制への抵抗運動への支援を控えさせる正統な理由になるとは思えない。にもかかわらず、アメリカはG8パリ外相会議でフランスとイギリスが主張する飛行禁止空域に同意しなかった(“France fails to get G8 accord on Libya no-fly zone”; Reuters; March 15, 2011)。オバマ政権はブッシュ政権下でのイラク戦争の経験にトラウマを抱いているのかも知れないが、国連決議案への執着は必要な行動を遅らせるだけである。これは、現政権によるスマート・パワー活用の重要な試金石である。

アラブ諸国で親欧米政権が崩壊する中でイランが力の真空を埋めると主張する識者もいるが、カーネギー国際平和財団のカリム・サドジャプール研究員は逆の議論を展開している。民主化したエジプトが再台頭してくればイランの相対的な力は低下する。また、イランもエジプトとチュニジアと同様に圧政と経済悪化という問題を抱えている。さらにイラクとバーレーンのシーア派アラブ人は、イランに親近感を抱いていない(“Arabs Rise, Tehran Trembles”; New York Times; March 5, 2011)。アラブの政治変動はグリーン運動に立ち上がったイランの若年層に刺激を与える可能性はきわめて高い。

最後にアラブ世界の大局観とこの地域の民主化推進の指針を模索したい。マルワン・ムアシェル氏は欧米に対して政治改革を経済自由化より優先せよと主張しているが、それは権力分立のない市場経済が支配階級に富をもたらして社会経済的な不公平を拡大しただけだったからである。またムアシェル氏は抵抗運動の拡大の担い手は専制政治に反感を抱いた一般市民であって、時代遅れの神権政治に固執するイスラム宗教勢力ではないという重要な事実に注目を呼びかけている。そうなると圧政体制との妥協は無意味になる(“Arab Myths and Realities”; Project Syndicate; March 8, 2011)。

現在のアラブ民主化をベルリンの壁崩壊になぞらえる専門家に対し、カーネギー国際平和財団のトマス・カロザース副所長は注意深い論評をしている。冷戦期の中央および東ヨーロッパが共産主義体制一色だったのに対し、アラブ諸国は改革派王政、保守派王政、専制共和政、部族国家、統治不全国家、石油産出国、そして水資源欠乏国など多様性に満ちている。またアラブの指導者達は中・東欧諸国よりも西側に依存してはいない。だからと言ってアラブの民主化が困難なわけではなく、アラブの活動家達は海外の成功経験を貪欲に学ぼうとしている。イスラム宗教勢力は組織化が進んでいるかも知れないが、多数派を形成するには浮動票も獲得しなければならない。きわめて重要なことに、カロザース氏はイアラブ世界のスラム宗教勢力は複数政党体制の枠内で活動しようとしていると指摘する(“Think Again: Arab Democracy”; Foreign Policy; March 10, 2011)。

中東の民主化への道はそれほど単純ではない。湾岸王政諸国は西側にとって重要な同盟国で、あせらず着実なアプローチが必要である。そのようなアプローチは国ごとに違ってくる。思い切った介入が必要な場合もあり、オバマ政権はついにリビア問題でフランスとイギリスへの支持に踏み切った(“Specter of Rebel Rout Helps Shift U.S. Policy on Libya”; New York Times; March 16, 2011)。他方でバーレーン情勢への対応は難しくなっている。9・11よりアメリカの重要政策課題となった中東の民主化は、今こそ成否が問われている。

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