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2011年4月30日

イラクの安定とイランによる暗黒の影響力

国際世論の目がリビア、シリア、イエメンといった最近の動乱に向いている中で、アメリカン・エンタープライズ研究所のフレデリック・ケーガン常任研究員と軍事問題研究所のキンバリー・ケーガン所長がイラク情勢への注意を呼びかける論文を寄稿した(“Stand with Iraq”; Weekly Standard; April 18, 2011)。アラブの春は中東全土で民主化を進める大いなる機会である。しかし他方で力の均衡の崩壊によって、イランが湾岸地域からさらに広い範囲にわたって影響力を拡大しようという野心を抱くようにもなる。よってイラクに安定した強固な民主主義が確立されれば、アラブの春の運動をより好ましい方向に導くことができる。

両ケーガン氏はイラクでの戦争終結を最優先し、米・イラク関係は非軍事分野に集中すべきだという考え方を批判している。実のところ、アメリカとイラクの非軍事分野での関係発展は充分に進んでいないのに対し、イランは貿易と投資を通じて統治への影響力を浸透させているが、そうした企業の多くは革命防衛隊とつながりがある。さらにイランはアメリカが注目していないイラクの指導者達との関係を深めている。両氏はアメリカがイラクとの二国間関係を発展させるにはソフト・パワーだけに依存するわけにはゆかないと主張する。また、アメリカの平和維持軍が引き続き駐留することが、アラブ人とクルド人の平和的関係をもたらすとも述べている。さらにイラクの治安部隊は依然として、イランの支援を受けた民兵やアル・カイダのようなスンニ派の反乱分子を抑えるだけの力を備えていない。サダム・フセインの失脚以来、アメリカはそのようなイラクの治安問題への対処に大きな役割を果たしてきた。よって私は、イラクの治安維持のためにもオバマ政権が心理的に関与し続けるべきだという両氏の主張に同意する。さらに外交問題評議会のマックス・ブート上級研究員は、「我々はコソボ、韓国、その他イラクよりもはるかに安定した紛争終結地域にも駐留を続けている。イラクにも駐留し続ける必要がある」と述べている(“It's in America's Interest to Stay in Iraq”; Real Clear World; April 18, 2011)。

中東と中央アジアでのイランの野望を阻止するためにも、政治と軍事でのアメリカの存在が重要である。イランは特に湾岸地域での影響力の浸透を図っている。シーア派が人口の多数派を占めるバーレーンは、その主要目標である。バーレーンでイランはヘズボラが扇動する反乱を支援し、アラブ王政諸国とアメリカを向こうに回して緊張を高めている(“Bahrain Sees Hezbollah Plot in Protest”; Wall Street Journal; April 25, 2011)。

イランが支援しているのは、ヘズボラのようなシーア派の過激派だけではない。アル・カイダに代表されるスンニ派のネットワークもイランから多大な支援を受けて中東全土で破壊活動を進めている。ウィークリー・スタンダード誌のスティーブン・F・ヘイズ上級論説員と民主主義防衛財団のトマス・ジョスリン上級研究員は、イランとアル・カイダの関係について恐るべき事例を挙げている。2009年にはサウジアラビアのナイェフ・ビン・アブドゥルアジズ王子がオバマ大統領の対テロ戦略主席顧問を務めるジョン・ブレナン氏に、イランがサウジアラビア人を招いて自国での反乱を扇動させていたと語った。2007年にはエリック・エーデルマン国防次官補とアフガニスタンのハミド・カルザイ大統領が、イランはアフガニスタンの反乱分子に小火器を提供しているとの見解で一致した。さらに重要なことに2008年にはマイケル・へイデンCIA長官が、そういた支援はイラン現体制の「最高レベル」の人物からの同意の下に行なわれていると述べた(“The Iran Connection”; Weekly Standard; December 13, 2010)。

イランがテロリストや過激派と築き上げた関係を考慮すれば、イラクの安定はモロッコからパキスタンに至る中東全土の政治変動の成功と互いに関わり合っている。テロリストのネットワークは非常に大きく広がり、しかも専制体制とは非常に深く関わっているので、我々はイラクとアフガニスタンに集中し、リビアとシリアといったアラブ独裁国家には手を出すなという主張は全くの間違いである。アメリカと存在と指導力は、アラブの春を支援してテロリストを打倒するために必要不可欠である。オバマ政権がリビアでとっているような過剰に謙虚な姿勢は、イラクとアフガニスタンでの対テロ戦争には逆効果である。よって私はチャールズ・クローサマー氏が述べるように「背後に隠れてのリーダーシップはリーダーシップではない」と見なしている(“The Obama doctrine: Leading from behind”; Washington Post; April 29, 2011)。

そうした中で、統合参謀本部長のマイケル・マレン海軍大将はイラクのヌーリ・アル・マリキ首相が今年12月以降に駐留する米軍の規模については数週間中にも表明すると述べた。米軍の地位に関してマリキ氏が決断下すための安全保障に関する米・イラクの二国間協議では、過激シーア派の指導的地位にあるモクタダ・サドル師への対処が重要な議題となっている(“Iraq must decide in "weeks" on U.S. troops: Mullen”; Reuters; April 23, 2011)。イラクの動向には注目すべきである。民主化の進展と共に、中東での対テロ戦争も核不拡散もここから始まったのだから。

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2011年4月18日

中国との関係を再考せよ

自由諸国との政治的な競合関係にもかかわらず、財界では中国は成長の機会をもたらす不可欠なパートナーと見なしている。さらに政策形成者の中には先進諸国が高齢化にあえぐ一方で中国が世界経済の牽引役を担うことを期待する者もある。しかし北京体制とも関係は政治的にも経済的にも再考を要する。バラク・オバマ大統領がAPECシンガポール首脳会議で演説したように、専制政治を「平伏礼賛」することが本当に我々の利益に適うのだろうか?

まず、政治的な側面について述べたい。外交政策イニシアチブのエレン・ボーク所長は、オバマ政権の対話路線では中国共産党体制の抑圧的な性質に変化をもたらしていないと批判している。アラブ世界でジャスミン革命が起きてからというもの、中国当局は数多くの自由を求める活動家、弁護士、ブロガー達を逮捕している。ニューヨーク市弁護士連盟や全米弁護士連盟といったアメリカの人権弁護士団体が中国政府にこうした逮捕者の釈放を要求したのに対し、5月にワシントンで開催される米中経済戦略対話では人権問題は取り上げられない。ボーク氏はオバマ政権が民主化を差し置いて経済に過大な比重を置いていると言う(“Meanwhile, in Beijing ...”; Weekly Standard; April 11, 2011)。欧米から艾未未氏を釈放するよう圧力を受けた(“Amid crackdown, U.S. groups strive to improve China's legal system”; USA Today; April 14, 2011)ため、中国警察は艾氏について脱税、重婚、猥褻物流布という罪状を挙げた(“China police building tax case against detained artist”; Reuters; April 14, 2011)。中国が人権活動家の罪状を捏造してまで自国内でのジャスミン運動を弾圧しようとしているので、オバマ政権は北京政府との経済優先外交を見直す必要がある。

尖閣紛争のような地政学的対立にも注目すべきである。私はオバマ政権の謝罪姿勢丸出しの世界政策が中国を自信過剰にさせたのではないかと疑っている。これは東アジアのみならず全世界で当てはまる。スペインのエル・パイス紙のルイス・バセッツ副編集長は、リビアに関して西側民主主義諸国のリーダシップを執ろうとしないオバマ政権の過剰な低姿勢がヨーロッパの同盟国を失望させていると主張する(“EU and NATO in a tail spin”; Presseurop; 15 April, 2011)。非常に興味深いことに日米双方の論客達は、両国の関係悪化に中国がつけ込んだ元凶として鳩山由紀夫前首相を批判しているが、オバマ大統領の対中政策の批判的検証は殆どしていない。鳩山氏は日米中の正三角形を主張した。また、普天間基地に関する二国間協定を撤回しようとした。ワシントン・ポスト紙が鳩山氏をルーピーと呼ぶことは全くもって正しい。しかし鳩山氏ばかりに目を奪われるとオバマ氏の側の失態を見逃してしまう。オバマ氏が断固とした姿勢を見せていれば、日本の指導者がどれほどルーピーであっても中国が日米同盟を刺激するような危険な冒険を犯すことはなかったであろう。

さらに中国の経済成長は我々の経済に寄与し、当地での市場機会を逃してはならないという、経済の専門家や財界人の間に広まる見解に疑問を差し挟む必要がある。英エコノミスト誌は自社のブログで米中貿易の利益と損失を比較衡量している。アダム・スミスとデービッド・リカードが主張するように、中国との自由貿易はアメリカに利益をもたらす。しかし、これは雇用喪失と相殺される。このブログで述べられているように、アメリカの福祉制度もグローバルな経済競争に適応する必要があるかも知れない(“Better safety nets needed”; Economist—Free Exchange; February 22, 2011)。しかし、低賃金で膨大な中国の労働力は日米欧の労働者にとって重大な脅威になるのではないかと私は考えている。

最後に3・11地震とそれに続く福島原発事故によって、とても日本が米中の力のバランスの間を泳ぎまわれるような立場にはないことが明白になった。鳩山氏が構想した正三角形など全くの間違いであることが白日の下にさらされ、トモダチ作戦によって日本国民は日米同盟の強化が重要かつ死命を制する国益であると理解するようになった。さらに原発事故ではアメリカとフランスがこの危機への対処に技術支援を提供し、ロシアがチェルノブイリの経験に基づいて原子力エネルギー利用の管理体制の構築を提案した。中国が何をしたと言うのだろうか?知識の分野で中国はとても欧米やロシアに敵わない。日本国民はこのことをしっかりと銘記すべきである。

中国の真の実力と我々の国益に占める重要性を評価する際に、従来の視点を再考すべきである。スーザン・ストレンジの理論を適用すれば、中国の力は関係的であっても構造的ではない。中国はハード・パワーを見せつけて自国の意志を他国に押し付けることはできるが、国際規範の設定や世界規模の課題に解決策を示すことはできない。我々は目先の経済利益のためにレッド・チャイナに叩頭するような真似は決してすべきではない。財界人と「実務本位」の政治家達は、このことを銘記すべきである。中国は必ずしも我々の経済を活性化させる救世主ではない。

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2011年4月11日

原子力発電所の全廃に異議:核の平和利用と不拡散の深い関係

福島原発危機によって、原子力発電所を即時全廃して放射能汚染による環境被害を避けるべきだと主張する者が増えている。中にはバイオマス、地熱、太陽光、風力、潮力といった再生可能なエネルギー資源を原子力に代わる脱石油エネルギー資源とせよ、と主張する者もいる。しかし、平和利用のための原子炉建設への技術的支援が核不拡散の交渉の道具であることを忘れてはならない。原子力エネルギーと核兵器には深い相互関係がある。よって、原子力発電施設の完全撤廃によって核拡散に走る国に対する歯止めが失われ、結果として核実験の回数が増えて放射能汚染も増大しかねなくなる。このパラドックスは、福島後の原子力平和利用と核不拡散を考えるうえできわめて重要である。

原子力の平和利用と核兵器の不拡散の関係は、以下の観点から論じられる。第一に、P5のような既存の核兵器大国と先進諸国は、そうでなければ核拡散をしかねない国に原子炉建設の技術支援を行なう。その見返りに、技術支援を受ける国は核兵器の開発や拡散を中止することが要求される。先進国が原子力発電施設を全廃してしまえば、この重要な交渉道具が失われてしまう。第二に、技術支援を供与する国は顧客の国がNPT体制に加盟していなくても査察を要求することができる。

米印原子力協定は、原子炉建設に見返りに核不拡散を求めるという取決では最も成功を収めたケースである。技術支援の見返りに、インドは核実験の停止を受け入れた。この協定は、インド市場の開拓に熱い眼差しを送る他の先進諸国と新興諸国にとっても模範となった。その中でも、ヒロシマ・ナガサキの経験から反核感情の根強い日本が、最終的に諸外国に倣ってインドとの核協定を結んだことは注目に値する。日本には平和主義感情はあるものの、日立、東芝、日本製鋼所といった日本企業は原子炉建設でジェネラル・エレクトリックとアレバの下請けとなっている(“U.S., France press for Japan-India nuclear deal – Nikkei”; Reuters; June 9, 2010

原子炉建設に見返りに核不拡散を求めるという取決は、イランと北朝鮮との交渉でも模索されている。両国との交渉に意味があるかどうかはさておき、原子炉建設の支援という飴は、経済制裁という鞭と一体で併用されている。先進諸国での原子力発電所の建設が延期されている現状では、イランと北朝鮮を相手にした交渉もままならない。

原子力発電の即時全廃を要求することは、あまりにナイーブである。そのようなことをすれば、潜在的な核拡散国を拘束する手段が失われてしまう。先の津波は日本史上でも千年に一度という自然災害であったが、核実験なら人間の意志でいつでも行なえるのである。新たな核拡散国が実験場を管理する技術は貧弱なので、地球上の放射能汚染はもっと深刻になる。

原子力の平和利用を止めてしまえば、問題はエネルギーと環境にとどまらなくなる。論客達が、福島原発事故が核の軍備管理と不拡散に与える影響について議論しないことは残念である。

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