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2011年4月11日

原子力発電所の全廃に異議:核の平和利用と不拡散の深い関係

福島原発危機によって、原子力発電所を即時全廃して放射能汚染による環境被害を避けるべきだと主張する者が増えている。中にはバイオマス、地熱、太陽光、風力、潮力といった再生可能なエネルギー資源を原子力に代わる脱石油エネルギー資源とせよ、と主張する者もいる。しかし、平和利用のための原子炉建設への技術的支援が核不拡散の交渉の道具であることを忘れてはならない。原子力エネルギーと核兵器には深い相互関係がある。よって、原子力発電施設の完全撤廃によって核拡散に走る国に対する歯止めが失われ、結果として核実験の回数が増えて放射能汚染も増大しかねなくなる。このパラドックスは、福島後の原子力平和利用と核不拡散を考えるうえできわめて重要である。

原子力の平和利用と核兵器の不拡散の関係は、以下の観点から論じられる。第一に、P5のような既存の核兵器大国と先進諸国は、そうでなければ核拡散をしかねない国に原子炉建設の技術支援を行なう。その見返りに、技術支援を受ける国は核兵器の開発や拡散を中止することが要求される。先進国が原子力発電施設を全廃してしまえば、この重要な交渉道具が失われてしまう。第二に、技術支援を供与する国は顧客の国がNPT体制に加盟していなくても査察を要求することができる。

米印原子力協定は、原子炉建設に見返りに核不拡散を求めるという取決では最も成功を収めたケースである。技術支援の見返りに、インドは核実験の停止を受け入れた。この協定は、インド市場の開拓に熱い眼差しを送る他の先進諸国と新興諸国にとっても模範となった。その中でも、ヒロシマ・ナガサキの経験から反核感情の根強い日本が、最終的に諸外国に倣ってインドとの核協定を結んだことは注目に値する。日本には平和主義感情はあるものの、日立、東芝、日本製鋼所といった日本企業は原子炉建設でジェネラル・エレクトリックとアレバの下請けとなっている(“U.S., France press for Japan-India nuclear deal – Nikkei”; Reuters; June 9, 2010

原子炉建設に見返りに核不拡散を求めるという取決は、イランと北朝鮮との交渉でも模索されている。両国との交渉に意味があるかどうかはさておき、原子炉建設の支援という飴は、経済制裁という鞭と一体で併用されている。先進諸国での原子力発電所の建設が延期されている現状では、イランと北朝鮮を相手にした交渉もままならない。

原子力発電の即時全廃を要求することは、あまりにナイーブである。そのようなことをすれば、潜在的な核拡散国を拘束する手段が失われてしまう。先の津波は日本史上でも千年に一度という自然災害であったが、核実験なら人間の意志でいつでも行なえるのである。新たな核拡散国が実験場を管理する技術は貧弱なので、地球上の放射能汚染はもっと深刻になる。

原子力の平和利用を止めてしまえば、問題はエネルギーと環境にとどまらなくなる。論客達が、福島原発事故が核の軍備管理と不拡散に与える影響について議論しないことは残念である。

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