« アメリカの国防と世界の警察官としての役割 | トップページ | ヘルマンド州都よりの英軍撤退がアフガン情勢に与える影響 »

2011年7月16日

アフガニスタンからの米軍撤退を批判的に検証する

バラク・オバマ大統領は、オサマ・ビン・ラディン襲撃の成功に鑑みてアフガニスタンからの米軍撤退を表明した。しかし軍の首脳達は性急な撤退がもたらす致命的な結末を警告している(“Military leaders know Obama’s decision is a disaster”; Post Partisan—Washington Post; June 23, 2011)。この戦争の究極の目的は単にビン・ラディンを殺すことではなく、安定した民主主義の建設によってアフ・パク地域でテロリストの根拠地の建設を許さぬことである。

兵員削減の是非を問う前に、アフガニスタンの戦略的な全体像を理解しなければならない。外交政策イニシアチブは、この戦争の基本構図に関する最新レポートを刊行している(“Fact Sheet: Success in Afghanistan is Critical to Prevailing in the War on Terror”; Foreign Policy Initiative; June 23, 2011)。このレポートはブルッキングス研究所のブルース・リーデル上級研究員の論文(“Afghanistan's Role in Osama bin Laden Raid”; Daily Beast; May 10, 2011)を引用し、アメリカは新たな指導者の下で体制を立て直すアル・カイダに警戒を怠らぬようにと呼びかけている。戦争の成果に関しては、デービッド・ペトレイアス陸軍大将が「アメリカ、NATO、その他ISAF軍部隊がアフガニスタンとパキスタンの国境地域でアル・カイダとその関連組織に圧力を強め、この戦域内で彼らが作戦の計画および実行を行なう能力は大幅に落ち込んだ」と述べている。昨年11月のNATOリスボン首脳会議では、アメリカとNATO諸国の軍はアフガニスタン政府の法執行を支援してアフガニスタン治安部隊の能力を向上させてアフガニスタンの当地状況を改善することが合意された。このレポートの結論では、欧米諸国の軍が性急に撤兵すれば、これまでの戦果が無駄に帰してしまうと記している。

兵員削減によって、現地での戦略は労働集約的で民間人防衛までを担う対反乱作戦から、武装集団の指導者に攻撃目標を限定する対テロ作戦に変更されるであろう。対反乱作戦はアフガニスタンの治安部隊が担うことになるであろう。ロバート・ゲーツ国防長官(当時)は、「作戦がどのように変更されるかは、各戦闘地域の事情次第である」と述べている(“Gates sees shifts in Afghanistan strategy”; Military Times; June 27, 2011)。問題はそうした急な戦略変更が妥当かどうかである。また、兵員撤退の意思決定の過程も批判的に検証される必要がある。

外交政策イニシアチブのロバート・ケーガン所長は、バラク・オバマ氏は1930年代の大統領達のように孤立主義者で、自らの再選にばかり気をとられていると論評している。しかしケーガン氏は、性急な撤兵によってアル・カイダばかりかハッカーニ・ネットワークやラシュカル・イ・タイバといったテロ集団がアフ・パク地域で勢いづくことになると述べている。9・11の再来ともなれば、それで被る損害は増派に費やした数十億ドルでは済まなくなる。さらに米軍撤退がヨーロッパの同盟諸国も波及効果を及ぼすであろう(“Don’t Come Home, America”; Weekly Standard; July 4, 2011)。オバマ氏の決断への批判的な論点をさらに理解するためには、軍事問題研究所が6月30日に開催したパネル・ディスカッションが非常に役立つ。この討論に参加したのはジョン・マケイン上院議員、ジョセフ・リーバーマン上院議員、そしてジャック・キーン退役陸軍大将で、ブルッキングス研究所のマイケル・オハンロン上級研究員が司会を務めた。キーン氏がアフガニスタンの戦争の全体像を述べた。以下のビデオを参照して欲しい。

イラクでの兵員増派の立案に関わったキーン氏は、2009年の追加派兵以前にはアフガニスタンでの対反乱作戦に前進はなかったと明言した。オバマ大統領の大幅な撤兵に関して、キーン氏は無責任で無謀だと評価し、その理由は多国籍軍がこれまでに築き上げた戦果を台無しにしてしまうからである。タリバンとアル・カイダの兵力は大幅な打撃を受けたものの、ハッカーニ・ネットワークは依然として強力で、ISAFのジョン・アレン次期司令官には手強い相手となりそうである。マケイン上院議員もキーン大将に同意し、戦場の実態よりもカレンダーに基づいて兵員撤退を行なうことは馬鹿げていると述べた。軍事面での戦略の他に、政治的な枠組にも目を向ける必要がある。カルザイ政権は腐敗で批判されているため、オバマ大統領からの信頼は高くないが、三人のパネリスト達は両首脳の緊密な関係の必要性を説いた。パネリスト達はカルザイ大統領がアメリカと長期的な安全保障協定に熱心で、そのことが中央アジア、イラン高原、インド亜大陸にかけての地位の安全保障につながると強調した。またパキスタンの関与が重要なことでもパネリスト達は一致した。テロリスト達はパキスタン国内の根拠地からかなりの物質的な支援を受けているからである。

戦略の他に意思決定過程も批判的に検証されるべきである。6月28日に開催された上院軍事委員会の公聴会で、デービッド・ペトレイアス陸軍大将の後任としてアフガニスタン現地司令官に就任するジョン・アレン海兵隊中将がオバマ大統領の当初の撤退計画は公表されたものよりも大規模であったと証言した。マイケル・マレン統合参謀本部長もペトレイアス大将も来年の戦闘シーズンの最中に撤退するという計画には反対した。アフガニスタンでは戦闘が可能な気象条件がそろう4月から11月にかけてゲリラが活動する。ウィークリー・スタンダードのスティーブン・ヘイズ上級編集員は、そうした理由から軍首脳の助言に対するオバマ氏の態度を批判している(”General Reveals that Obama Ignored Military's Advice on Afghanistan”; Weekly Standard Blog; June 28, 2011)。これより先に、ゲーツ国防長官(当時)はアメリカ軍がアフガニスタンとイラクに完全に関与してゆくべきだと述べている(“U.S. Military Will Always Have 'A Full Menu,' Secretary Gates Says”; NPR News; June 2, 2011)。

オバマ大統領は、なぜこうした助言に充分な考慮を払わないのだろうか?オバマ氏の決断に大きな影響を与えているのは、ジョセフ・バイデン副大統領である。バイデン氏はオバマ氏に対し、軍部の意見は「アル・カイダの打倒、タリバンによる政権奪回の阻止、そして治安の改善という目的を越えている」と語った。バイデン氏が言うように大規模な兵力よりも攻撃目標を絞った小規模部隊にすべしという意見が強まる背景には、長年にわたるカルザイ政権との確執とオサマ・ビン・ラディン殺害がある。また、バイデン氏はイラクから予算にいたる広範な政策課題でオバマ氏の信頼を高めている(“Obama’s Growing Trust in Biden Is Reflected in His Call on Troops”; New York Times; June 24, 2011)。オバマ氏の決断には戦略上の必要性よりも、ホワイトハウスの政局とアフガニスタンとの二国間関係の方が大きな影響を与えている。共和党側にも問題はある。最近の世論調査ではアメリカ国民の3/4が何らかの兵力削減を望んでいるので、共和党の大統領候補達もアフガン戦略では意見が割れている。ティム・ポーレンティー元ミネソタ州知事がオバマ氏の計画を批判したのに対し、ミット・ロムニー元マサチュセッツ州知事は戦費の再検討が必要だと述べている(“GOP hopefuls stake out Afghanistan positions”; Washington Post; June 22, 2011)。2012年9月までに33,000人を撤退させるという大計画と戦争に乗り気でない世論に対し、ジョン・マケイン上院議員、ジョセフ・リーバーマン上院議員、リンゼイ・グラム上院議員が共同で撤退への反対の意を述べた。三人の上院議員達はタリバンとの交渉に成功の見込みがあるとは信じておらず、撤退計画によって敵が勢いづくだけだと主張する(“McCain, Lieberman, Graham criticize Afghan drawdown plan”; Washington Post; July 4, 2011)。

こうした政治家や将軍達の批判を受けて、新任のレオン・パネッタ国防長官はアフガニスタンを訪問してハミド・カルザイ大統領と会談した際にオバマ氏の計画を再確認した。テロとの戦いに関しては、パネッタ氏はアル・カイダの勢力は弱まる一方で、テロリストの指導者に絞った攻撃によってアメリカは勝利できると言う。他方でパネッタ長官は他にもテロの根拠地となっているイエメンへの注目を訴えた(“Panetta: U.S. ‘within reach’ of defeating al-Qaeda”; Washington Post; July 9, 2011)。広く議論されているように、予算と来る大統領選挙の影響は大きい。しかしホワイトハウスの政局や中東政治変動の全体像にも充分な考慮を払う必要がある。大統領の意思決定過程において、こうした諸要因はアフガニスタンでの戦略の合理性以上に重要な役割を果たしている。

|

« アメリカの国防と世界の警察官としての役割 | トップページ | ヘルマンド州都よりの英軍撤退がアフガン情勢に与える影響 »

中東&インド」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/109615/52219376

この記事へのトラックバック一覧です: アフガニスタンからの米軍撤退を批判的に検証する:

« アメリカの国防と世界の警察官としての役割 | トップページ | ヘルマンド州都よりの英軍撤退がアフガン情勢に与える影響 »