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2011年8月14日

パネッタ国防長官が国防支出に関して初の記者会見

上記のビデオでは7月にロバート・ゲーツ氏から職務を引き継いだレオン・パネッタ国防長官が8月4日に初の記者会見を行ない、国防支出のさらなる削減を行なわぬように警告した。パネッタ氏はクリントン政権で行政予算局局長を歴任した経緯もあり、国防予算削減を後押しするものと思われていた。しかし、アフガニスタン、イラク、リビアでの戦争によってパネッタ氏も軍事予算の削減には慎重になっている(“Leon Panetta warns against Pentagon budget cuts”; San Francisco Chronicle; August 5, 2011)。

バラク・オバマ大統領が共和党と国債の上限について合意したので、次はどれだけの予算をどの分野で削減するかが問題となる。国防費も例外ではなく、ジョン・カイル上院議員を中心とした共和党議員たちは、2013年以降の10年間で5千億ドルを自動的に削減するという民主党の提案は、無責任で国防を本気で考えていないと非難している。来る大統領選挙を視野に入れた共和党は、国防費削減に対する批判を強めている。そうした中でパネッタ長官は就任後初の記者会見で自らの与党の方針に反対の意を示した(“Threatened Defense Cuts in Debt Deal Could Loom Over 2012 Race”; Bloomberg News; August 5, 2011)。またパネッタ氏は必要な財源の調達のため、増税と医療・社会保険を含めた他分野の歳出削減も求めた。きわめて注目すべきことに、2001年以降の国防費はイラクとアフガニスタンの戦費を除いても増加の一途をたどっている。パネッタ長官は国防費の急激な削減によって「我が国の安全保障、軍人達と彼らの家族、そして我が国を守るべき軍事力に甚大な被害をもたらすであろう」と述べた。軍人への福利厚生と兵器体系の高度化が国防費を押し上げていると見られている(“Defense Secretary Leon Panetta warns against more cuts in Pentagon budget”; Washington Post; August 5, 2011)。

しかし議会での論争は単なる民主・共和両党の鍔迫り合いではない。国防予算は共和党内でも論争を呼んでいる。ティー・パーティーに代表されるリバータリアンは減税を中心に議論を進めるのに対して、ネオコンは軍事力の強化を支持している。与野党間および党内での論争に鑑みて、ジョン・マケイン上院議員は租税優遇措置の削減を提案して国防費の削減の動きに先制攻撃を加えた(“Defense spending in Washington spotlight”; San Francisco Chronicle; August 7, 2011)。ともかく2012年の大統領選挙では経済が最重要課題になると見られ、それが国防予算の議論にも大きな影響を及ぼすであろう(“Will Obama be reelected? The economy could hold the answer”; Washington Post; August 6, 2011)。

パネッタ長官就任後初の記者会見の概要を述べたうえで、安全保障の専門家達の見解にも言及したい。両党が国債の上限に関して合意に達したので、アメリカン・エンタープライズ研究所のトマス・ドネリー常任フェローとゲーリー・シュミット常任研究員は、今や国防予算を議論すべき時だと主張する。国防に関して押しが弱いと軍部が疎外されてしまい、結局は次期選挙で保守の基盤を壊しかねない。また両者はティー・パーティーに代表されるリバータリアンに小さな政府と強力な国防のバランスをとるように訴え、「背後から主導する」ことを好むような大統領に国を委ねてはならないと説いている(“The (Raw) Deal on Defense”; Weekly Standard; August 3, 2011)。

さらに極左リベラルへの反論のために、私は外交問題評議会のマックス・ブート上級フェローの論文を強く推薦したい。ブート氏はこの論文でパネッタ氏への支持を明言し、小アメリカ主義の代表的な論客であるタイム誌のファリード・ザカリア総合監修に対して明解で力強い反論をしている(“Cutting Defense Spending Could Hasten America’s Decline as a World Power”; Commentary; August 4, 2011)。ザカリア氏が最近のコラムで国防費の大幅な削減を求めた(“Why defense spending should be cut”; Washington Post; August 4, 2011)のに対し、ブート氏は以下の観点からアメリカの軍事力の維持を訴えている。

アフガニスタンとイラクでの戦費を含めても国防費はGDPの5.1%に過ぎず、医療・社会保障費の8.1%および冷戦期の国防費の約7%よりも低い。さらに重要なことに、ブート氏はザカリア氏が軍人への福利厚生とハイテク兵器体系を無視して朝鮮戦争とアイゼンハワー政権期の国防支出との比較を行なっていることを批判している。すなわち、現在の国防費が上昇することは当然なのである。この論文で非常に重要な論点は、国防費の削減によって非軍事面での外交と開発援助が進展するわけではないということである。ブート氏は対外援助も歳出削減の圧力から逃れられないとザカリア氏を批判している。最後にブート氏は国防費の大幅な削減は「非常に難しくきわめて危険であろう」というレオン・パネッタ氏の発言を引用している。ファリード・ザカリア氏のような敗北的平和主義リベラルへの反論のためにも、上記のような議論を展開するこの論文を強く推薦したい。

この他にも注目すべき分析としては、ヘリテージ財団が作成した予算に関する図表がある。広く信じられている見方とは裏腹に、その図表によると国防費を除外しても総予算は大幅な上昇が見込まれている。すなわち、国防費を財政赤字増大の元凶だとする見方は全くの間違いだということである(“The Military Isn't the Problem”; Weekly Standard Blog; August 3, 2011)。以下の図を参照して欲しい。

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レオン・パネッタ国防長官が記者会見で述べたように、財政規律が求められる現状でのアメリカの国防は二つの重要な点を考慮すべきである。一つは安全保障に対する世界各地での挑戦に対処する能力を持つことで、そうした難題にはテロ、ならず者国家、新興の大国がある。もう一つは世界最強の軍事力という地位を守ることである。パネッタ長官は前任者のロバート・ゲーツ氏からの政策の一貫性を打ち出した。国防予算に関しては議会の合同委員会でさらに議論される。ここで何が行なわれるかが注目される。

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