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2011年9月21日

アメリカは安全保障でオバマ大統領を信用できるだろうか?

来る大統領選挙を考慮すれば、今やオバマ政権の外交政策を採点すべき時期である。現段階ではアメリカの有権者は国内経済に目を奪われがちである。しかし9・11事件10周年が有権者を目覚めさせるかも知れない。2008年の大統領選挙では、アメリカ国内および海外であまりにも多くの人々がバラク・フセイン・オバマという人物に魅了されてしまった。しかしオバマ氏の大統領としての業績はアメリカ国民を失望させている。経済が好転したという意見は、国民の17%だけである(So who thinks Obama is helping the economy”; Washington Post; September 8, 2011)。外交においてもオバマ氏の挙げた成果は乏しい。ジョン・ボルトン元国連大使は、最近の論文でオバマ氏の外交政策を批判している“The Innocents Abroad: Obama's Foreign Policy Is Characterized”; National Review; September 19, 2011)。ボルトン氏は9・11の影響と次期大統領選挙を考えるうえで非常に重要な時期に論文を投稿している。その内容を検証したい。

ボルトン氏はこの論文で、オバマ大統領が単純素朴で外交政策への関心を欠いているために、アメリカと同盟諸国への脅威の増大を促していると批判している。ボルトン氏によるとオバマ氏は国際公共財の提供者という覇権国家としてのアメリカの役割に謝罪姿勢で、「大統領としての仕事ぶり全般に共通するように、オバマ氏は安全保障においてもイデオロギー、ナイーブさ、弱さ、指導力の欠如、知的怠慢、交渉そのものに対するほとんど宗教的な信念が絡み合った欠陥を抱えている」と述べている。さらにボルトン氏は、バラク・オバマ氏は国内の経済と社会の再編成にあまりに多大な労力を注いでいるので、外交について是非もなく関心を抱くのは、アフガニスタンへの兵員増派やオサマ・ビン・ラディン襲撃といった彼自身が緊急の必要性があると認識する場合に限られると指摘する。私はオバマ氏の就任当初の演説からそうした問題は見られたことを述べたいが、メディアは「ブッシュ時代の一国中心主義」から「謙虚な多国間協調」へのチェンジを称賛した。私は脅威の排除なしにはアメリカが自国の経済的繁栄と国内の安定を享受することもできないと強調したい。アメリカ自身がパックス・アメリカーナという自由主義世界秩序がもたらす国際公共財の受益者なのである。

非常に興味深いことに、私はジョン・ボルトン氏がアメリカの内政と外交に関するオバマ氏の視点にある種の相互関係があると言及していることに注目を呼びかけたい。オバマ氏は社会保障改革に見られるようなアメリカ社会の変革に熱心なように、世界でもポスト・アメリカの時代を視野に入れている。ボルトン氏は、世界の中でのアメリカの特別な役割を信じていないオバマ氏はフランクリン・ローズベルト以来のどの大統領とも全く似ていないと言う。アメリカ自身への自信をそこまで欠いていることを考慮すれば、2008年の大統領選挙でメディアがオバマ氏を「黒いケネディ」とまで絶賛した理由を理解しかねる。ジョン・ケネディは世界の中でのアメリカの指導的役割に対してもっと肯定的であったがオバマ氏はそれに対して非常に謝罪姿勢なので、サッチャー元英国首相の外交政策スタッフであったナイル・ガーディナー氏はそうした言動をやめるようにと主張している(“Barack Obama should stop apologising for America”; Daily Telegraph; 2 June, 2009)。

では特定の脅威と政策課題について議論し、オバマ外交の影響に評価を下してみたい。オバマ氏は核なき世界に向けて野心的な行動を提唱した。昨年ワシントンで開催された第1回核セキュリティー・サミットはメディアから劇的な注目を集めた。しかし、ボルトン氏はオバマ氏が交渉に固執してもイランと北朝鮮の核保有の野望に歯止めはかかっていないと批判する。この9月にはイランが新たに高濃縮ウランを抽出できる遠心分離施設を建設し、核不拡散の専門家の間で深刻な懸念を呼んでいる(“Iran's Nuclear Experiments Raise Alarm at U.N. Agency”; Wall Street Journal; September 3, 2011)。北朝鮮も自国の弾道ミサイルに装着するための弾頭の小型化で進展を見せている。両ならず者国家とも自国の核開発のために時間稼ぎをさせてもらったようなものである。

中国とロシアに対するオバマ氏の融和姿勢も由々しきことで、それはこうした姿勢が現在のアメリカの「相対的な衰退」という議論と深く関わっているからである。オバマ氏はポーランドとチェコからミサイル防衛システムを撤退させた。また台湾へのF16戦闘機の輸出も撤回した。その結果、ロシアと中国はそれぞれが旧ソ連と東アジアでの支配的な地位を当然視するようになった。特に南シナ海と東シナ海は天然資源をめぐる紛争と中国の海軍力と接近拒否能力の向上によって重大な懸念が抱かれる地域となっている。

リビアに関し、ボルトン氏は「レジーム・チェンジ」ではなく「民間人保護の責任」のためというオバマ氏の大儀は完全に間違っていると断言する。NATOによるムアマル・カダフィの放逐は充分に迅速ではなく、新体制が親欧米の安定した民主国家となる確信までは得られていない。「背後から主導する」という戦略は物議を醸し、外交政策評議会のマックス・ブート上級フェローはそれによってアメリカの安全が損なわれると警告している。ブート氏は「しかし新体制の樹立に失敗してリビアで無秩序と強権政治が蔓延るようになると、この作戦は戦術的な勝利でありながら戦略的な成功につながらないことになる」と記している(Did Libya Vindicate 'Leading From Behind?'”; Wall Street Journal; September 1, 2011)。現在、カダフィに忠誠を誓う者達はニジェールへ逃れ、カダフィ本人は見つかっていない。彼らがリビア国外からテロ攻撃を仕掛けることもできる。

オバマ政権の中東政策はさらに再検討が必要で、ジョン・ボルトン氏は一貫性がなく矛盾だらけだとして深刻な懸念を述べている。就任以来、オバマ氏がイスラム世界の世論を「憤慨させる」ことを心配し過ぎていることは、プラハとカイロでの演説に見られる通りである。アラブの春ではエジプトでのイスラム勢力の台頭、シリアでの独裁体制の継続、レバノンでのヒズボラ勢力の根強さといった問題がある。さらにトルコはケマル・アタチュルクによる親西欧の世俗政治から違う道を歩み始めている。ボルトン氏は、オバマ氏の最も致命的な誤りはオサマ・ビン・ラディン襲撃の成功を機にイラクとアフガニスタンでの駐留兵力の削減に乗り出していることであると指摘する。オバマ氏はこうした脅威を過小に評価しながら、イスラエルによるエルサレム郊外での住居建設を非難している。こうした問題点を考慮したうえで、ボルトン氏はオバマ氏が中東での真の危険が何かを理解しているのか疑問を呈している。

私はボルトン氏が述べるようなそうしたバランス感覚の欠如が東アジアでさらに問題になりかねないと主張したい。リビアと同様にこの地域でも「背後から主導する」戦略は機能しない。中国と北朝鮮が近隣諸国に与える脅威はカダフィ体制下のリビアよりもはるかに大きなものである。そうした中で、日本、韓国、台湾の軍事力はイギリスとフランスより弱い。中国と北朝鮮がどれほど「憤慨」しようとも、アメリカの関与は地域の安全保障に必要欠くべからざるものである。私はオバマ氏がAPECシンガポール首脳会議の際の演説で述べた「アメリカは強い中国を歓迎する」という一節を再考してくれることを強く望んでいる。

国防支出に関し、オバマ氏は債務上限をめぐる議論を利用して大幅な歳出削減を提案した。しかし議会の拡大委員会ではそうした提案を支持していない。共和党と国防総省は当然のことながら、そうしたものには反対している。また民主党もオバマ氏の国防支出削減に同意して国防に弱いと見られたがってはいない。両党の主張に隔たりはあるものの、拡大委員会が11月の締め切りに結論を出す際には国防費を維持してゆこうという議論が勢いを盛り返すこともあるだろう("Hyper-Partisanship in Defense Budget Debate Playing in Pentagon’s Favor"; National Defense --- Blog; September 9, 2011 )。

9・11テロ攻撃10周年が過ぎ、アメリカは2012年大統領選挙に向けて安全保障の議論を深める必要がある。ジョン・ボルトン氏の論文はこのように重要な時期に登場し、オバマ政権の外交政策の成果に対する洞察力に富んだ批判は有意義で非常に役立つものである。

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