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2011年11月30日

イラン核開発の阻止へ先制攻撃の是非

イラン核開発危機ではイラク戦争で未解決だった問題が問われている。米英連合軍が核保有の確固とした証拠もなしにイラク侵攻に踏み切ったとして当時のジョージ・W・ブッシュ大統領が批判された。しかし、これよりはるかに重要な核拡散阻止のために先制攻撃が必要かという問題について議論した専門家は殆ど皆無と言ってよい。実はブルッキングス研究所のロバート・ケーガン上級研究員は、2003年に日本の政治誌SAPIOからインタビューを受けた際に北朝鮮の核保有を阻止するために攻撃すべきだと主張した。その後、北朝鮮は2006年10月に核実験を行ない、何らかの核爆発を起こすことに成功している。国際社会はピョンヤン独裁体制への核拡散を阻止できなかった。

今回の危機について概観を述べたい。緊張が高まったのは、イランのマフムード・アフマディネジャド大統領が高濃縮ウランを抽出するための遠心分離機の導入を表明してからである(“Iran's Nuclear Experiments Raise Alarm at U.N. Agency”; Wall Street Journal; September 3, 2011)。核拡散の疑惑が高まる中で、イラン初のブシェール原子力発電所で電力供給事業が開始された(“Iran’s First Nuclear Power Plant Goes Into Operation”; New York Times; September 4, 2011)。国際原子力機関がイランの核開発は核兵器の製造の手前まで来ていると警告すると、アフマディネジャド大統領はIAEAの天野之弥事務局長を非難した(“Iran Escalates Anti-U.S. Rhetoric Over Nuclear Report”; New York Times; November 9, 2011)。湾岸地域への脅威が増大している状況下で、オバマ政権はアラブ首長国連邦へのバンカー・バスター弾の供給を提案し、地域支配を目論むイランの野望を抑止しようとしている(“U.S. prepares to send ‘bunker-busting’ bombs to U.A.E. to help contain Iran”; National Post; November 12, 2011)。イランへの圧力が高まっているものの、イスラエルの専門家達は国際社会による制裁の効果を疑問視している。テルアビブ大学国家安全保障研究所のエフライム・カム副所長は、「イランは核兵器を欲している、少なくとも核兵器の製造能力を欲しているので、いかなる代価も気にかけていない」のでIAEAの最新報告書が充分な圧力となるか疑問視している。カム氏はイスラエルには「3ないし4」のイランの核施設を単独で攻撃する能力があるが、アメリカが中東で別の戦争を始めることに消極的なことはオバマ政権がイラクとアフガニスタンから撤退しようとしていることから明らかだとも認めている(“Analysis: Israelis doubt world will stop Iran's nuclear quest”; Reuters; November 15, 2011)。

イランに対する制裁と先制攻撃の影響を議論する前に、IAEAの報告書について述べたい。この報告書によるとイランは高性能爆薬実験と核兵器開発のための備品と原材料の調達の準備を完了している。また、シャハブ3弾道ミサイルに搭載する弾頭の原型も設計している。よって、イランは核兵器の開発一歩手前まで来ている“IAEA report: death knell of Iran diplomacy?”; IISS Strategic Comments; November 2011)。

そうした差し迫った危機に鑑みて、制裁と先制攻撃の有効性を議論しなければならない。現在、アメリカ、イギリス、カナダがイランとは金融と石油化学での企業活動を停止するという制裁に乗り出した。しかし専門家達は制裁の効果を疑っている(“Iran Penalties Insufficient to Curb Atomic Effort: Experts”; Global Security Newswire; November 22, 2011)。イギリスの元蔵相のノーマン・ラモント卿は、広範な制裁によってイラン企業が革命防衛隊の支配下にある国有エネルギー部門と基幹産業への依存を高めることになると警告する。さらにイギリスのジェレミー・グリーンストック元国連大使は、制裁とは言語による非難と軍事攻撃の中間手段としてしばしば用いられる政治的圧力だと述べている(“Sanctions on Iran a Failed Approach”; IISS Voices; 23 November 2011)。それに加えてオバマ政権は、アメリカが使える最も強力な経済的圧力と広く信じられているイラン中央銀行への懲罰手段をとることには消極的である。ホワイトハウスはこれによって石油価格の高騰を招き、アメリカとヨーロッパの経済回復が遅れると懸念している(“U.S. Imposes New Sanctions on Iran, but Strongest Weapon Remains Unused”; Global Security Newswire; November 22, 2011)。

経済的な側面に加えて、イランのシーア派神権体制の性質も考慮しなければならない。アメリカン・エンタープライズ研究所のマイケル・ルービン常任研究員は、イスラム共和国がイスラム世界全土への革命の輸出を追求してきたと指摘する。核開発計画は彼らにとっての革命の目的を達成するためのジハードなのである(“Iran’s Nuclear Project”; National Review Online; November 8, 2011)。イランにとって核兵器は国際舞台での力と威信の源である。ランド研究所のアリレザ・ナーデル政策アナリストは、体制の存続を至上命題とするシーア派神権体制にとって核による威信は制裁の代価を払ってでも手に入れたいものだと論評している(“Analysis - For Iran, the sanctions price may be worth paying”; Reuters; November 29, 2011)。欧米との対決を渡り抜くために、イランは今年の11月初旬には秘密裡にICBM実験まで行なっている(“Iran Conducted ICBM Experiment: Report”; Global Security Newswire; November 21, 2011)。

この他にも見逃せない重要な点は、ロシアと中国の政策的立場である。ワシントン近東研究所のマイケル・シン所長と長期的戦略グループのジャクリーン・ディール所長は、アメリカの中国の間の問題認識のギャップに言及している。アメリカはイランを孤立させるために中国を主要なパートナーと位置づけているかも知れないが、中国はイランをアメリカに対抗するうえでの潜在的なパートナーと位置づけている。さらにイランは中国海軍にとって、中東では潜在的に望ましい軍事基地だという中国の張世平陸軍少将の発言を引用している “China's Iranian Gambit”; Foreign Policy; October 31, 2011)。中国の海軍力が急速に拡大している現在、この発言は見逃せない。アメリカとの地政学的競合に加えて、カーネギー国際平和財団のマーク・ヒッブス上級研究員は、ロシアと中国が上海協力機構を通じて安全保障と経済でイランとの協調関係を必要としていると指摘する。ロシアは大型商談のために、通常兵器と原子炉のイランへの輸出増大を望んでいる。イラン国内での自国の権益を守るためにも、ロシアはウランの濃縮を低レベルにとどめるためのロード・マップを提案するかも知れないとヒッブス氏は述べている(“Waiting for Russia's Next Move on Iran”; Carnegie Endowment for International Peace Q&A; November 22, 2011)。問題は革命精神に立脚するイランの現体制の性質である。国家の威信にとらわれる現体制と渡り合うのは難しい。ワシントン近東研究所のマシュー・レビット上級研究員は、制裁がイラン経済に打撃を与えているとはいえ、イランから石油と天然ガスの輸出には中国、日本、韓国、そしてヨーロッパでもイタリア、ギリシア、スペインといった得意先がずらりと並ぶと主張する。石油価格も体制を維持するに充分な高止まりである。カーネギー国際平和財団のカリム・サドジャプール研究員は、「これまでにイラン国民の経済福祉がイスラム共和国の最優先課題だったことはなかった」と述べている(“Iran's Economy Can Take the Pressure—for Now”; Bloomberg Business Week; November 30, 2011)。よって、より強固な手段を議論する必要がある。

軍事攻撃に関しては、レオン・パネッタ国防長官はそれが紛争に伴う予期せぬ事態をもたらし、世界経済に悪影響を及ぼすと主張する。むしろパネッタ氏は6ヶ国協議を通じた外交努力によりイランに圧力をかけるべきだと訴えている(“Strike on Iran could hurt world economy, US says”; Reuters; November 17, 2011)。確かにパネッタ氏が主張するように、軍事攻撃には何らかのリスクが伴う。制裁には他の種類の圧力の併用が必要で、外交交渉もその一つである。しかしロシアと中国は、欧米とイスラエルほどイランの核保有を差し迫った脅威と感じていない。だからこそイランの核施設への先制攻撃を議論する必要がある。外交政策イニシアチブのジェイミー・フライ所長は、外交努力と制裁によってイランの核計画を止められなかったので、軍事行動の必要性が高まったと主張する。またイランの核保有によって湾岸地域とアフガニスタンの不安定化とハマスやヒズボラに代表されるテロ集団への核拡散が懸念されると強調する。明らかに、今や何らかの行動が求められている(“Military action increasingly appears to be the only option that will prevent a nuclear Iran”; US News and World Report's Debate Club; November 16, 2011)。先制攻撃に関しては、外交政策イニシアチブのウイリアム・クリストル所長が11月6日のFOXニュースで「アメリカには行動の必要があるようにおもわれ、またこの脅威を止める役割をイスラエルに任せきりにしてはならない」と論評している。 

国際社会は核拡散を止めるために先制攻撃が必要かというイラク戦争の重要な課題に答えを見出せなかった。それは政策形成者達が忘れた宿題である。これは左翼達が好んで吹聴する「情報の誤り」よりもはるかに重要である。1981年にイスラエルが行なったオシラク原子力発電所への空爆が、サダム・フセインの危険な計画を遅らせたことを忘れてはならない。先制攻撃が緊急で必要性を増した時、アメリカが「背後から主導する」ようではいけない。 

PS: 日本の政治家やメディアの間では、イラン核危機への注目度が低いのは残念である。この問題は彼らが必死になって取り組んでいるTPPと同等に重要な政策課題である。どうやら政治家達もメディアも国民が「飯を食っていく」ことにしか関心がないのだろうか?そのような国ならパッシングされても致し方ない。 

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