接近拒否ミサイルのグローバルな拡散に対処せよ!
中国の海軍力と接近拒否能力の急激な拡大は、近年になって西側の政策形成者達の間で多いに注目されている。接近拒否能力は一見すると防衛的だが、一般に思われているよりも攻撃的である。それは西側の艦隊を破壊するミサイルを配備するという無言のモンロー・ドクトリンである。専門家達は中国にばかり目を向けているが、ディプロマット・マガジンは最近の記事で「接近拒否能力を強化する専制国家が次々に現れ、自国近海での西側海軍の優位に挑戦するともに自分達が勢力範囲と見なす海域での支配権の確立を目指している」と述べている。よって西側の政策形成者達は対艦巡航ミサイルの拡散を阻止し、こうした国々の接近拒否能力を無力化する戦略を模索しなければならない(“Anti-Access Goes Global”; Diplomat Magazine; December 2, 2011)。
中国の接近拒否能力に関しては、アメリカ海軍大学のアンドリュー・エリクソン準教授が2011年9月8日に海軍大学博物館で「中国の航空宇宙戦力:海洋での役割の進化」と題する講演を行なった際に「それらのミサイルによってアメリカ軍は物理的に不利な立場になってしまう」と論じている。以下のビデオを参照して欲しい。
中国の他には、イラン、シリア、北朝鮮といった専制国家が接近拒否ミサイルの配備に熱心である。その中では、北朝鮮のミサイルは旧ソ連製のものを転用したものなので、さほどの脅威にはならない。イランとシリアの脅威はより重大である。両国ともロシアと中国から接近拒否ミサイルを輸入している。イランは核開発とテロ支援で国際社会に致命的な脅威を突きつけているにもかかわらず、中国は先端技術の対艦巡航ミサイルをイランに輸出し、そうしたミサイルを製造する工場を現地に建設までしている(“Inside the Ring --- China-Iran Missile Sales”; Washington Times; November 2, 2011)。今年の夏に、イランは戦略要衝のホルムズ海峡付近でトンダー地対艦ミサイルの実験を行なった。イスラム革命防衛隊は、このミサイルの速度はマッハ3、射程距離は300kmになると宣伝している(“Iran Fires Anti-Ship Missiles near Key Gulf Strait”; Defense News; 6 July, 2011)。こうしたミサイルの製造には、中国がイランに先端技術を供与した可能性が高い。だからこそ中国の脅威がアジア太平洋地域にとどまらないと、これまでに何度も述べてきた。さらにロバート・ゲーツ前国防長官は退任を目前にした5月24日のアメリカン・エンタープライズ研究所での講演で、非国家アクターの中にはヒズボラのように主権国家より高性能の対艦ミサイルを保有する組織もあると述べた。
ミサイル技術に関して、ディプロマット・マガジンのハリー・カジアニス編集助手は「そのように技術は目新しいものではないが、それらの兵器の有効射程距離は飛躍的に伸び、命中度、飛行速度、運用性も向上している。そうした兵器からいかにして艦船を守るかが軍事戦略家にとって大きな課題となっている」と論評している。中国は現在、射程距離射程距離が1,500から2,700kmになる対艦ミサイルを保有していると見られており、それは西側の空母艦載戦闘機の作戦行動半径を上回っている。技術的に言えば、西側海軍はフォークランド戦争から実戦の教訓を学べるかも知れない。イギリス海軍はアルゼンチンが発射するフランス製のエグゾセ対艦ミサイルの射程内で戦った。問題は戦争遂行の能力だけでなく心理的な側面もある。海軍艦艇がよりハイテク装備になるにおよんで、戦闘による艦艇損失のコストは跳ね上がった。そのために西側海軍はより慎重にならざるを得ない。よって専制国家による無言のモンロー・ドクトリンの脅威はきわめて大きい。
ブルッキングス研究所のロバート・ケーガン上級研究員は、自らの著書”Dangerous Nation”でモンロー・ドクトリンは防御より攻勢の性質が強いと何度も述べ、西半球におけるアメリカの拡張を正当化するものだとしている。京都大学の中西輝政教授は自らの著書「大英帝国衰亡史」でさらに辛辣に論評している。19世紀末まで、イギリスの指導者層にとってモンロー・ドクトリンはあまりにヤンキー的でとても受け入れようがないほど珍奇なものであったと中西氏は記す。ドイツの台頭がイギリスの覇権を脅かすようになって初めて、ソールズベリ侯爵はそれを受け入れるにいたった。ソールズベリ卿はあの有名な日英同盟を成立させた首相であり、ビクトリア朝時代以後の国際的な力のバランスの変化に対応していった。歴史は専制諸国家が好き放題に無言のモンロー・ドクトリンを振りかざすようになることがどれほど危険かを示唆している。よって、こうした国々の接近拒否能力を無力化する戦略を模索することが差し迫った重要性を持つようになり、そうして世界中の我々のシーレーンを守らねばならない。原子力潜水艦から対艦ミサイル基地へのトマホーク・ミサイル攻撃も、そうした戦略の一つである。中国とその他の専制諸国が「海洋を占拠する」ような事態を許してはならない。
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