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2012年1月21日

オバマ政権の「アジア回帰」戦略はアメリカの国際関与を低下させるだけである

オバマ政権は、軍事力の規模を削減する一方でアメリカの国防政策の重点を中東からアジアに移すと表明した。これは全く馬鹿げている。確かに中国の脅威は急速に増大している。しかし中国の拡張主義は東方ばかりでなく西方にも向かっている。アメリカがイラクとアフガニスタンから撤退してしまえば、中国はイランとパキスタンを通じて中東での力の真空を埋めかねない。アジア諸国が高い経済成長を続けてゆくためにも中東の安定が不可欠なことを忘れてはならない。アジアの国々は中東から石油を輸入している。また、中国は上海協力機構を通じて中央アジアにも影響力を拡大させている。よって、アジア諸国民がオバマ氏のアジア回帰なるものを称賛するのは全くナイーブというしかない。さらに以前の記事で述べたように、国防費の削減はF35統合打撃戦闘機の開発計画に深刻な制約となっている。オバマ政権のF35をめぐる混乱が、同盟国にも悪影響を与えている。こうした観点から、オバマ政権の国際安全保障政策を批判的に論評したい。

この問題の全体像をつかむために、昨年12月に外交政策イニシアチブでロバート・ケーガン氏が司会を務めた『財政制約の時代に世界の中でのアメリカの責務をいかに維持するか』というフォーラムについて言及したい。会場に招かれたゲスト・スピーカーの中で、ジョン・マケイン上院議員が世界の中でのアメリカの国防と予算に関する主要課題を述べた。上記のビデオでマケイン上院議員は、政治指導者達がアメリカの有権者に空母やステルス戦闘機のような最新鋭兵器への支出が必要なことを説得しなければならないと明言する。マケイン氏は他方で、軍事産業の競争不足によって研究開発費が高騰したと指摘する。また、軍部の人件費削減によって無駄な出費を抑えるとともにアメリカの軍事力を維持すべきだとも述べた。東アジアの安全保障で最重要課題となっている南シナ海での中国の拡張主義に関しては、マケイン氏は海洋の自由航行の侵害だと非難した。中東に関しては、アラブの春は中国、ロシア、その他専制国家ばかりか、ウォール・ストリート占拠運動に見られるようにアメリカにさえも広がってゆくと述べている。マケイン氏はアメリカがそうした政治変動を支援すべきだと断言する。アメリカは世界各地で安全保障の挑戦を突きつけられている中で、マケイン氏は有権者が国内経済にばかり目を奪われがちな大統領選挙での孤立主義の台頭に懸念を抱いている。マケイン上院議員は、大統領のリーダーシップこそが有権者の間でアメリカの外交政策に科される課題と国際関与の必要性に関する理解を普及させられると明言する。現在の問題は、ヨーロッパの同盟諸国の国際関与が低下し、イギリスさえも2010年の『戦略防衛見直し』に見られるように国防力を削減していることである。他方で新興諸国はナショナリスト色を強め、欧米に対して力の競合を主張するようになっている。最後に、マケイン氏は大統領候補者達にもっと外交政策の議論をすべきだと提言し、アメリカのように国際公共財を提供できる国は他にないとも述べている。

アメリカは中東での新しい政治的変化に直面する一方で、アジアでのプレゼンスを強化しなければならない。カート・キャンベル東アジア・太平洋担当国務次官は、上記のビデオでそうした国際環境の下でのアジア戦略を語った。問題は急激な国防力削減を行なうアメリカがこの地域での軍事的プレゼンスを持続できるかである。キャンベル氏はアメリカの国防の重点をテロリスト相手の地上作戦から、アジア太平洋地域での海空軍の力の競合に移すべきだと言う。対中関係で相手の脅威に対処するにせよ良好な経済関係を模索するにせよ、アジア太平洋諸国としてはアメリカとの強固な関係あってこそ対応できる。キャンベル氏は米中の相互依存を強調する一方で、人権と政治的自由といった問題も南シナ海での地政学的競合に劣らず両国の利害が衝突する重要課題だとも述べている。

二つのビデオを観たうえで、まず国防予算について述べたい。昨年の8月に通過した予算管理法案と11月の超党派拡大委員会での合意形成の不首尾によって、レオン・パネッタ国防長官には政策的に大きな制約が科されることになった。アメリカは全世界で中国、ロシア、イラン、北朝鮮、イスラム過激派テロなどの多様な脅威に直面している。また、国防支出の急激な削減によってステルス戦闘機をはじめとしたハイテク兵器の計画も縮小に追い込まれるだろう。共和党側では、オバマ氏が提案する軍部の人員と兵器の削減にミット・ロムニー氏が深刻な懸念を示している(“Defense Secretary Panetta faces tough choices on national security in 2012”; Washington Post; January 3, 2012)。国防をめぐるそうした議論を背景に、バラク・オバマ大統領は今年頭に新国防戦略を公表した。パネッタ氏がアメリカは伝統的に太平洋国家であると述べたように、その中では中国の台頭が最重要課題である。しかし核拡散とホルムズ海峡の緊張という事態を前に、現在はイランが最も差し迫った脅威である。専門家達は核軍縮によって国防の無駄を削減し、通常兵器をこれ以上削減しなくても済むと主張する(“Obama unveiling strategy for slimmed-down military”; Boston Globe; January 5, 2012)。議会ではオバマ氏の新国防戦略によってイラク戦争以来の両党の対立が深刻化している。国防と予算のような重要課題には国家運営のうえでの共通の認識が必要である。共和党は議会でホワイトハウスに戦略の修正を要求し、アメリカと全世界の同盟国の国益を守らねばならない(“Obama military strategy: Is it bipartisan enough?”; Christian Science Monitor; January 5, 2012)。

問題は、アメリカが国防上の重点地域を簡単な都合で選べるかである。アメリカは全世界で様々な脅威に直面している。重要地域の中でも、最も問題視すべきはオバマ政権の中東戦略である。テロとの戦いは完了していないうえに、アラブ諸国はこれまで以上にアメリカの関与を必要としている。まず、外交政策イニシアチブのジェイミー・フライ事務局長の論評に言及したい。オバマ大統領はイラクとアフガニスタンの安定を脅かす過激派の無力化を成し遂げないうちに慮言う刻からの撤退を表明したために、昨年5月のオサマ・ビン・ラディン殺害という成果を無にしてしまった。アラブ諸国が政治変動の最中にあってこの地域でのアメリカのプレゼンスの必要性が高まっている時期に、中東撤退を模索するオバマ氏はあまりに軽率である(“Did the leader of the free world actually lead?”; Shadow Government; December 30, 2011)。2011年はアメリカが中東で指導力を発揮できる機会を失った年になるのだろうか?中国と北朝鮮の脅威を考慮すれば東アジアの安全保障の重要性は軽視できないが、共和党のバック・マケオン下院議員は「大統領が現在の財政事情を理由に、我が国がなすべき中東での作戦任務も完了しないうちにアジア回帰を打ち出したことは当惑すべき事態である」と評している。またマケオン下院議員は、小規模な軍隊がリビアから日本に至るまでの世界の危機に対して柔軟で迅速に行動できるという保証はないと指摘する “America’s new defense strategy: a Q&A with House Armed Services Committee Chairman Buck McKeon”; AEI Interview; January 5, 2012)。さらにロシアも核戦力強化に乗り出している。ドミトリー・メドベージェフ大統領は昨年末に、長い開発期間を経たブラバーSLBMを実戦配備すると表明した(“Bulava missile ready to deploy”; RIA Novosti; December 27, 2011)。ロシアはそのうえに、今年は11回のICBM実験を行なう計画である(“Russia Schedules 11 ICBM Tests for 2012”; Global Security Newswire; January 5, 2012)。新STARTは米露関係をリセットしなかったのである。今やロシアはアメリカの覇権に公然と挑戦しているのに対し、オバマ政権はアメリカの軍事力の規模を削減しているのである。

オバマ氏が下した決断で最も議論の的となるのは、イラクとアフガニスタンからの撤退である。ジョン・マケイン上院議員はアメリカが一方的にイラクから撤退したと述べている。マケイン氏は、オバマ政権は米軍の存在によってイラクの治安と政治安定への保証をもたらすことを拒絶したと批判する。またアフガニスタンからの米軍撤退によって一層混乱が深まると指摘する。アメリカの安全保障の傘が保証されないとなると、アフガにスタンの指導者達は反米的な近隣諸国やテロリストとの宥和への誘惑にかられるかも知れない。これが究極的にはこの地域でアメリカの敵を勢いづけてしまいかねない(“John McCain on Iraq: Losing the peace”; AEI Interview; December 22, 2011)。中東でのアメリカの役割を語るうえでイランを忘れてはならない。カナダのスティーブン・ハーパー首相はホルムズ海峡での緊張をめぐって、世界への最大の脅威となったイランにはロシアと中国をも含めた国際社会が断固とした対応をすべきだと訴えた(“Iran is the ‘world’s most serious threat to international peace’: Stephen Harper”; National Post; January 5, 2012)。イランの脅威に対処するには、アラブ首長国連邦にバンカーバスター弾を供給するだけではとても充分とは言えない。米軍撤退後の力の真空を中国が埋めかねない。さらに重要なことに、アジア同盟諸国の経済は中東からの石油輸入に依存している。よってアジア回帰はアジア太平洋地域の平和と繁栄を保証しないのである。

オバマ戦略への国際的な反応にも言及したい。オバマ氏が中東とヨーロッパから兵力を削減したことで両地域に懸念が広がっているが、オーストラリアはアジア回帰を歓迎している。費用対効果が高く、小規模で迅速で柔軟な軍事力という考えは特に目新しいものではない。ドナルド・ラムズフェルド元国防長官が主導したように、米軍の構造改革は冷戦後の重要政策課題である。問題は、オバマ政権の軍備削減があまりに急激なことである “World reacts to Obama's new military focus on Asia”; Christian Science Monitor; January 6, 2012)。ロバート・ゲーツ前国防長官が退任演説で明言したように、全世界での作戦要求を満たすためには軍事力の規模は維持されねばならない。オバマ氏によるアジア回帰は、中国の政策形成者達の間で警戒感を強め、南シナ海が米中の地政学的競合の最重要地域となっている(“China stays cool as new US defense strategy targets Asia”; Christian Science Monitor; January 6, 2012)。

中国の拡張主義への警戒を強めることは間違いではない。しかし中国の野心を食い止めるのはアジアへの相対的な重視ではなく、アメリカの総合的な軍事力である。確かにオバマ氏が言う通り、同盟国も自らの国防力を強化せねばならない。しかしF35戦闘機をめぐる現在の混乱が示すように、オバマ政権の国防政策は支離滅裂になっている。新型ステルス戦闘機が入手できないとあっては、同盟国はどのように自助努力すべきなのだろうか? さらに重要なことに、オバマ大統領は世界政治の基本構造とアメリカの役割について理解していないように思われる。ブルッキングス研究所のロバート・ケーガン上級研究員は、政策形成者達がグローバル化、アジアの台頭、欧米の衰退、イデオロギー競合の終焉などの新しい傾向に目を奪われ過ぎだと指摘する。しかし国際社会が現在かかえる課題の殆どは、長年にわたって関わってきたものであると言う。民主国家と専制国家の衝突は強まり、中東、北朝鮮、ミャンマーへの民主主義の拡大は今年の重要課題となろう。イラクとアフガニスタンでの長年にわたる戦争によってアメリカ外交に「非軍事化」の心理が働くようになったかも知れないが、ケーガン氏はハードパワーの保護なくしてソフトパワーは働かないと主張する。リビア紛争では西側多国籍軍が民間人の安全を守った。またBRICSにトルコを加えたどの国も、アメリカとヨーロッパのように国際公共財を提供できないとも論評している(“New Year, old problems”; Washington Post; January 6, 2011)。ケーガン氏が述べている点は重要である。現在のヨーロッパ金融危機で問題解決の提言ができる新興諸国は皆無で、自分達の輸出市場の喪失を懸念しているだけの有様である。今年頭に公表されたオバマ戦略は一般に考えられている国際政治の変化にあまりに受動的に対応するのみで、F35のケースに見られるように支離滅裂なものになっている。マケイン上院議員が述べるように、必要な軍事力を削減する前に無駄な支出は見直されねばならない。オバマ氏の『アジア回帰』はアジアでのアメリカのプレゼンスの強化につながらないばかりか、国際安全保障でのアメリカの影響力を低下させるだけである。共和党は議会でこの戦略を修正できるのだろうか?オバマ氏の対立候補達は、新国防戦略を大統領選挙でどのように議論してゆくのだろうか?

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