イギリスも「アジア回帰」か?
アメリカやロシアだけでなく、イギリスもアジア太平洋地域への転向を進めている。これは東アジアでの主要国間のせめぎ合いで、域外の国も重要な役割を果たすことを意味する。イギリスはアジアで何を求めるのだろうか?
今年の4月にデービッド・キャメロン首相がインドネシア、マレーシア、日本、シンガポール、そしてミャンマーを歴訪したことは、イギリスのアジア外交の重要な一里塚である。キャメロン首相は日本と二国間の防衛提携を話し合った。ここ数年、イギリスによるユーロファイター・タイフーンの積極的な売込みが注目されてきたが、これは特に目新しいことでもない。フォークランド紛争の勝利からほどなくして、当時のマーガレット・サッチャー首相は日本にハリアーの購入を求めた。キャメロン氏の訪日は、イギリスの対日政策の長年の宿願の実現に向けた一歩だとも受け取れる。
キャメロン氏のミャンマー訪問は注目すべき出来事である。旧宗主国であるイギリスはヨーロッパでは初めてミャンマー政府と首脳会談に臨み、軍事独裁から民主化への一役を担おうとしている。イギリスはミャンマーの政治改革で、アメリカと日本にも劣らぬほど重要な役割を果たせる。
ブルネイでのEU・ASEAN外相会議へのウィリアム・ヘイグ外相の出席に鑑みて、マーク・キャニング駐インドネシア大使は外務英連邦省のブログでイギリスとアジアの関係の重要性を強調している(“EU has Arrived”; FCO Blogs; April 27, 2012)。イギリスは他のEU加盟国と共に、成長著しいアジア市場での貿易と投資の機会拡大を求めている。また過激派の脅威や気候変動といったグローバルな安全保障問題も重要な議題である。
ヨーロッパ諸国民にとってアジアは戦略的に重要な利益はないものと一般には思われがちである。しかしイギリスはこの地域と歴史的なつながりがあり、英語とイギリス式の教育体制が現地のエリート育成で重要な位置を占めている。アジア太平洋地域諸国のせめぎ合いについて語る際には、イギリスや他のEU諸国のような域外のアクターの影響力も見逃すべきではない。
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