« イスラムのヒトラー、イランの野望を阻止せよ! | トップページ | オディアーノ大将のチャタム・ハウス講演より米陸軍戦略の考察 »

2012年6月20日

NATOシカゴ首脳会議と米欧同盟の今後

NATOシカゴ首脳会議では、緊縮財政の中で新しい挑戦が突きつけられる国際安全保障の重要な課題が話し合われた。西側民主主義同盟の中軸でとしてオーストラリア、ニュージーランド、日本、韓国といったヨーロッパ大西洋圏外の国々との提携関係を深化させようとする一方で、今回の首脳会議ではNATO自身の内部の足並みの乱れが見られた。先の首脳会議で取り上げられた主な論点と、それらが持つグローバルな意味合いを論じてみたい。

シカゴ首脳会議を前にNATOソースのジョージ・ベニテス編集長とヨーロッパ改革センターのトマス・バラセク外交国防部長は、アメリカもヨーロッパもアジア回帰戦略とユーロ圏金融危機によって欧州大西洋地域での防衛能力を低下させているという懸念を述べている(“NATO: Chicago and Beyond”; NATO Source; May 13, 2012 and “NATO ponders austerity and US 'pivot'”; Centre for European Reform Blog; May 18, 2012)。英国王立国際問題研究所のアンドリュー・ドーマン準フェローはシカゴ首脳会議を前に、会議での重要な議題を挙げている。現在、最重要課題は2014年にISAFが撤退するアフガニスタンであり、何と言ってもそれはNATOにとってはヨーロッパ大西洋圏外では初の共同軍事作戦である。さらにイランとシリアも見逃せない。中東の動乱が目を引く一方で、ロシアとの関係が大西洋同盟に複雑な影を投げかけている。ミサイル防衛とNATOのさらなる拡大にとどまらず、欧米にとってはリビア、シリア、イランにおいてもロシアの影響力を見過ごせない。他方で加盟国のロシア観はそれぞれに異なる。東方前線諸国は弾道ミサイル防衛システムによるアメリカの強力なプレゼンスを求める一方で、イギリスは中央アジア経由でアフガニスタンからの兵員撤退にロシアを輸送路に使いたいと考えている。NATOは厳しい予算制約の中で数多くの課題に対処しなければならないので、バードン・シェアリングと役割分担を考慮してゆかねばならない(“NATO’s 2012 Chicago summit”; International Affairs; March 2012)。

首脳会議で最も注目される議題はアフガニスタンである。これはNATO初のヨーロッパ大西洋圏外での共同軍事作戦であり、しかも2014年のISAF撤退をもって任務は終了する。しかしアフガニスタンは2014年以降も西側の支援を必要としている。多国籍軍の中核となったアメリカイギリスは2014年後もアフガニスタンへの関与を継続するために安全保障の合意に至っているが、フランスのオランド新政権はより早期の撤退を決定している。2014年以降のアフガニスタンの治安動向については、ジョン・マケイン上院議員が4月にカーネギー国際平和財団で講演を行なった。まずマケイン氏は聴講者に対し、アフガニスタンの戦争目的がソ連撤退後の当地の混乱を見てみぬ振りをしたアメリカの無責任な誤りにあることを再確認するように促し、9・11テロの脅威への意識を呼び覚ました。基本的な理解のために、マケイン氏はこの4年間で南部でのタリバン勢力の著しい弱体化とアフガニスタン治安部隊の劇的な強化といった重要な進展がみられたと強調した。しかしマケイン氏は現在もなおテロ活動を続けるタリバンとの性急な妥協には反対している。同上院議員は依然として治安が不安定な時期の米軍撤退はタリバンのテロ活動を勢いづけ、対テロ作戦での成果を無に帰してしまいかねないと警告する。以下のビデオを参照されたい。





マケイン上院議員の警告に呼応するかのように、イギリスは対テロ作戦のために200人の特殊部隊を2014年以降も駐留させることを検討している。デービッド・キャメロン首相はこの件について最終的な決断をまだ下していない(“Al-Qaeda could 're-emerge in Afghanistan after Nato withdrawal'”; Daily Telegraph; 21 May 2012)。パキスタンのメディアさえもそうした敗北主義によってNATOが過去11年間に築き上げた成果を台無しにしかねないと述べている(“COMMENT: NATO summit in Chicago: old wine in old bottles — I”; Daily Times; June 5, 2012)。

アフガニスタンの他にもNATOは緊縮財政の中で数多くの課題への対処が迫られている。NATOは「スマート・ディフェンス」という新たな概念を適用し、同盟国同士で装備と施設を共用して各国が自国の強みに特化して同盟全体の防衛を補完し合うことによって、世界規模の安全保障の要求を満たしてサイバー戦争も含めた防衛能力を向上させねばならない。「スマート・ディフェンス」は同盟国の役割分担を超えたものである。費用対効果の高い防衛力の実現を目指し、シカゴ首脳会議では核兵器はNATOの抑止力の中核だとする『抑止力と防衛姿勢見直し』を採択した。これは核なき世界を謳った2010年のリスボン首脳会議からの方針転換である。シカゴで採択された見直しではミサイル防衛がロシアのミサイルに対するスマート・ディフェンスの一環だと述べている(“NATO Maintains Nuclear Weapons’ Role in Deterrence”; Global Security Newswire; May 21, 2012)。

防衛能力だけが問題ではない。米欧間の防衛協力は新しい時代に合わせて進化してゆかねばならない。NATOのジェイミー・シェイ副事務局長補は、リビア・モデルが効果的な役割分担の規範となると主張する。有志の国が戦闘に従事し、他の国は兵站、専門的支援、同盟共通の資金を提供する。シェイ氏はさらに軍事力を削減する時勢にあってもNATOが国際情勢に関与し続けるよう提言している。ハードウェアの研究開発と役割分担の他に、政策協議と情報共有ネットワークを発展させねばならない。この目的のためにはサイバー防衛の能力も強化が必要である。これらと並行してドイツからは米軍2個旅団が撤退する現状に鑑みて、ヨーロッパはアメリカへの依存も低めねばならない。シェイ氏は防衛能力のギャップを埋めるためにヨーロッパから動き出した政策として、欧州共同開発のガリレオ衛星と英仏共同の無人機開発計画を挙げている(“Keeping NATO Relevant”; Carnegie Policy Outlook; April 2012)。ミサイル防衛ではヨーロッパはアメリカ製の迎撃ミサイルに依存するとしても、レーダーを自分達で作ることはできる(“U.S. to Declare Interim European Missile Defense Capability at NATO Summit”; Global Security Newswire; May 18, 2012)。

実際にヨーロッパの同盟国の殆どはアメリカの安全保障の傘に「ただ乗り」している。国防費がGDPの2%という指針をこえているのは5ヶ国に過ぎない。国防に消極的なヨーロッパの中ではイギリスへの評価は高い。イギリスの国防費はGDPの2%を超え、ヘリコプター、戦闘機、空母、潜水艦といった主力兵器に予算を注ぎ込んでいる。またアフガニスタンへの派兵規模はアメリカに次いで第2位である。さらにアフリカでも国際警察軍の重要な一翼を担っている(“The UK Will Continue to Be a Strong Ally to US and NATO”; NATO Source; May 19, 2012)。しかしロイターは逆にイギリスやドイツのような経済大国が軍事力を縮小させていることが西側同盟に大きな影響を及ぼしていると報じている。リビア紛争では英仏主導のヨーロッパ多国籍軍は、攻撃作戦の目標設定の殆ど全てと燃料の85%をアメリカに依存していた(“Europe's lack of key defense capabilities raises doubts about NATO's future”; NATO Source; Match 22, 2012)。このことはアメリカとヨーロッパ同盟諸国の防衛能力の格差がきわめて大きいことを意味している。

オバマ政権の新戦略はNATOにも影響を与えるかも知れないが、強固な大西洋同盟があってこそアメリカがアジアに集中できる(“US set to stand by NATO despite warnings”; Financial Times; May 21, 2012)。NATO自身もグローバル化が進む課題への対処のために、オーストラリアやニュージーランドといったアジア太平洋諸国との安全保障のパートナーシップを必要としている。また「スマート・ディフェンス」が貧弱な防衛力の言い訳になってはならない(“What NATO Should and Shouldn't Do in Chicago”; NATO Source; May 18, 2012)。安全保障に挑戦を突きつける勢力は技術的に追い上げている。中国はA2/AD能力を向上させ、イランも核開発を手がけている。NATOとヨーロッパ大西洋圏外のパートナー諸国はアメリカの圧倒的な技術的優位にただ乗りするばかりでなく、自らもそうした脅威に立ち向かう取り組みをすべきである(American Decline and the Future of Interventionism”; NATO Source; April 13, 2012)。 そのような安全保障環境の中で西側民主主義諸国は同盟を刷新してゆく必要がある。

現在、NATOは加盟国と責任範囲をさらに拡大すべきかどうかというジレンマに立たされている。イギリスのデービッド・キャメロン首相は世界の安全保障に積極関与するNATOを構想しているが、チェコのアレクサンドル・ボンドラ国防相は加盟国や防衛地域の拡大よりもNATO内での共同防衛を主張している(“Analysis: Looming end of Afghan mission leaves NATO with identity crisis”; Reuters; May 22, 2012)。シカゴ首脳会議ではアメリカはヨーロッパに対して安全保障の消費者ではなく生産者になるようにと要求した。NATOが担う西側民主主義同盟の中枢という役割は、アメリカの悪意なき無関心とヨーロッパの軍事的意欲の低下によって損なわれる可能性がある。同盟の再強化には何らかの手段を講じる必要に迫られている(“The future of the transatlantic alliance: NATO’s sea of troubles”; Economist; May 31, 2012)。国際安全保障の学徒にとって、シカゴ後のNATOからは目が離せない。

|

« イスラムのヒトラー、イランの野望を阻止せよ! | トップページ | オディアーノ大将のチャタム・ハウス講演より米陸軍戦略の考察 »

英米特別関係&大西洋同盟」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/109615/55013900

この記事へのトラックバック一覧です: NATOシカゴ首脳会議と米欧同盟の今後 :

« イスラムのヒトラー、イランの野望を阻止せよ! | トップページ | オディアーノ大将のチャタム・ハウス講演より米陸軍戦略の考察 »