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2012年10月29日

アジア回帰戦略は中東への関与軽減の言い訳にならない

バラク・オバマ大統領はイラクとアフガニスタンからの撤退の決断と引き換えにアジア回帰戦略を宣言した。しかし中東はこれまで以上にアメリカの注視と関与を必要としている。来る大統領選挙に向けて10月22日に行なわれた外交政策の最終討論では、両候補ともほとんど中東に関して語った。中国の台頭が安全保障においてますます重要になり、アジア太平洋地域への資材の配置を増大させる必要性が高まっているのは事実である。だからと言って中東でのアメリカのプレゼンスを低下させるべきだということにはならない。テロとの戦いは終結していないうえに、アラブの春、イランの核開発の野望、シリアの内戦、リビアでのアメリカ大使館襲撃事件といった情勢に鑑みればユーラシアの東西での国防のバランスを再考しなければならない。

中東においてアメリカが避けて通れない役割を検証したい。アジア回帰戦略の根底にあるのはブッシュ政権による中東および中央アジアへのオーバー・ストレッチに歯止めをかけ、そして人員と資材をアジア太平洋地域に振り向けるということである。しかしクリストファー・スティーブンス駐リビア大使の暗殺によって、アル・カイダがイラクとアフガニスタンで手痛い敗北を喫しても新たな拠点を築いていることが白日の下にさらされた。イラクとアフガニスタンのテロ活動は弱体化したとはいえ、依然として現地住民への殺戮は続いている。『ワシントン・ポスト』紙のフレッド・ハイアット編集長は、9・11にはアル・カイダの脅威以上に「中東の安定にはイスラム社会がグローバル化と普遍的な人権に適応してゆく必要がある」という重要な意味合いをオバマ氏が見過ごしていると指摘する。ハイアット氏は「これはアメリカの課題ではないが、アメリカが無視することはできない課題である」と述べている。また、アメリカは必要とあれば中東で自由を求めて戦う市民を支援するためにいつでも介入できる体制を整えておくべきであると主張している。しかしアフガニスタンで見られるように、オバマ氏は任務の遂行よりも時間スケジュールを満たすことにばかり気をとられている(“No escape from the Middle East”; Washington Post; October 7, 2012)。


10月22日に行なわれた外交政策に関する大統領選挙討論会はどのように進められたのだろうか?最終討論会で主要な議題となったのは中東で、中国についてはあまり多く触れられなかった。ミット・ロムニー候補もバラク・オバマ候補も有権者から最高司令官としての資質に疑問を投げかけられないように、刺激的な発言を注意深く避けていた。そうした事情から討論会で両候補の主張の違いは目立ちにくくなった。しかし中東政策では基本的な違いが見られた。ブルッキングス研究所のマーティン・インディク副所長は以下の点に言及している。オバマ氏は中東から輸入される石油へのアメリカ経済の依存度は低下するのに対して成長著しいアジアの市場への依存度が高まると考え、アジアに注意を振り向けようとしている。前政権とは異なり、オバマ政権にとって中東の民主化は最優先課題ではない。他方でロムニー氏は混乱と変動が広がるこの地域への介入に積極姿勢を示し、石油輸入への依存度が低下したからと言ってアメリカの安全保障における中東の重要性が低下するわけではないと見ている。以下のビデオを参照されたい。



中東でのアメリカのプレゼンスの継続を指示するジョン・マケイン上院議員は、オバマ政権が性急にイラクから撤退したためにこれまでの実績が台無しになったと批判した。またアル・カイダのテロ活動がリビアからマリにいたる北アフリカに広まったとも警告した以下のビデオを参照されたい。



中国の台頭と国家間の競合の激化によって、アジア太平洋地域でのアメリカのプレゼンスを着実なものにする必要性が高まっている。しかし、それが中東へのアメリカの関与を低下させる理由にはならない。マケイン上院議員は折に触れて、アメリカが中東に充分な関心を寄せなかったためにこの地域がテロリストの根城となり、最終的には9・11につながったと主張する。問題は石油よりも根深いのである。この地域での過激思想、テロリズム、専制政治、そして核拡散を野放しにすれば、世界の安全保障に大きなつけを残す。 それらの問題への取り組みは、まさに「アメリカが無視することはできない課題である」と言える。

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2012年10月 7日

フリーダム・ハウスの情勢分析:民主主義の前進と後退

今回は前回の補足で、フリーダム・ハウスのレポートについて手短に述べたい。アラブの春によってチュニジア、エジプト、リビアの民主化は前進した。また、アジアでも最もおぞましき圧政国家のミャンマーで、政治に関する公開討論やメディア報道への規制が緩和されたことは注目に値する。タイも昨年7月の自由で公正な選挙によって民主化が進展した。

しかし中東では多くの国でアラブの春への反動も見られた。バーレーン、レバノン、シリア、UAE、イエメンでは市民運動に暴力的な弾圧がなされた。サウジアラビアでは公共の場での演説とメディア報道への規制が強まった。アジアでは中国がインターネットへの検閲を強め、自由を求める数多くの活動家が逮捕された。

我々の思いもよらぬ事例にももっと注目すべきである。アフリカではエチオピア政府がテロ対策立法措置を濫用し、政府に批判的な精力を弾圧している。シリアのアサド政権がこうした論理を利用して自由を求めて立ち上がる人々を殺戮しているので、この事例は見過ごせない。ラテン・アメリカではアメリカの主権下にあるプエルトリコが警察の暴力的な姿勢によって評価を下げている。驚くべきことに、共産主義体制崩壊後のヨーロッパではハンガリーで市民の自由が後退している。この国が民主主義と市場系税への移行で模範と見なされたことに鑑みれば由々しき事態である。

フリーダム・ハウスの報告書に記された情勢は、日米欧をはじめとした主要先進民主主義国の外交政策の指針となるであろう。民主化の進展ではどの国が評価を高めどの国が強化を低めたか、こちらのリンクを参照されたい。

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