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2012年12月31日

2014年後のアメリカのアフガニスタン戦略

アフガニスタンから始まったテロとの戦いは2014年にISAFからアフガニスタン治安部隊に権限が完全に委譲されるという節目を迎える。多国籍軍の撤退を前にテロリスト達は活動を活発化させている。アフガニスタンはテロとの戦いの戦場にとどまらぬ重要な国である。北には天然資源に恵まれた中央アジア、西にはイラン、東には核競争の最中にあるインドとパキスタンをひかえている。バラク・オバマ大統領はイラク戦争には懐疑的であったが、アフガニスタンについてはテロとの戦いの最前線だと位置づけた。レイモンド・オディアーノ陸軍大将は英国王立国際問題研究所で行なった6月6日の講演で、インド亜大陸の安全保障とも強く関わっているアフガニスタンをアジア太平洋地域に含めていた。オバマ政権がアジア重視戦略を打ち出したからといって、アメリカの安全保障におけるアフガニスタンの戦略的重要性が低下するわけではない。アフガニスタンがそのようにユニークな地政学的地位を占めていることを考慮すれば、この国でのテロ掃討作戦は中東からアジアに重点を移すというオバマ政権の戦略の妥当性を占う試金石である。そうした事情から2014年後のアメリカのアフガニスタン戦略を検証したい。

上記のような死活的な重要性にもかかわらず、大統領選挙においてアフガニスタンは主要争点ではなかった。アメリカン・エンタープライズ研究所のアーマッド・マジディヤール上級研究員は以下の理由を挙げている。選挙の最大争点は経済であり、これは財政の崖をめぐる現在の議会での攻防にも反映されている。さらにアメリカの有権者達は長い戦争による戦費と死傷者数に嫌気が差している。バラク・オバマ氏もミット・ロムニー氏もそうした理由からアフガニスタン問題を議論しなかったかも知れないが、だからと言ってアメリカの安全保障のうえでアフガニスタンおよびパキスタン両国の重要性が低下するわけではない。多国籍軍が2014年には大幅に撤退するという事態を踏まえて、タリバンとアル・カイダは再び活発に活動するようになっている。反乱分子の脅威を抑えるために、バラク・オバマ大統領とハミド・カルザイ大統領は5月に戦略提携合意に至り、アフガニスタン・パキスタン国境地帯での軍事的プレゼンスの維持とアフガニスタンのテロ対策部隊の訓練を行なうことになった(“Reasons behind Obama and Romney's silence over Afghanistan”; BBC Persian; 6 November, 2012)。NATOのアレクサンダー・バーシュボウ事務局次長は、2014年の大統領選挙がアフガニスタンの治安の行方に大きな影響を持つと語った(“Opening Remarks”; NATO Speeches and Transcripts; 12 November, 2012)。

アフガニスタンの戦争で勝利は可能であるが、アメリカ国内の厭戦気運を乗り越える必要がある。しかし戦略的な調整は必要である。アフガニスタンの現状について述べたい。有名な『タリバン』の著者アーメッド・ラシード氏は世界中のアフガン・ウォッチャーの間で悲観的な見方が広まっていると語っているが、現地の駐留部隊では必ずしもそうした見方が受け入れられているわけではない。そうした一例を挙げると、アフガニスタン南西方面司令官のマーク・ガーグナス海兵隊少将は「現在も戦闘は続いているが、過去3年間のヘルマンド州での事態の進展を見ていただきたい」と述べている。『タイムズ』編集部はさらに「タリバンは戦闘で失った地域を取り戻していない」と言う(“We're Winning in Afghanistan”; Foreign Policy; October 24, 2012)。しかし兵力の急な削減によって、そうした成果が無に帰してしまう恐れがある。ヘラートのイスマイル・カーン氏のような武装勢力の指導者は欧米諸国の兵力撤退後の治安の空白を恐れ、自衛のための武装を強化している(“Afghan Warlord’s Call to Arms Rattles Officials”; New York Times; November 12, 2012)。

2014年以降のアフガニスタンに対処するには二つの問題に答える必要がある。第一はどれだけの兵員を今後も駐留させるべきか?第二に、アメリカの対アフガニスタン政策のアプローチにはどのような質的な変化が求められるのか?しかしこれらの問題に答える前に、長きにわたる戦争に対する国内の厭戦気運と中東よりもアジアを重視するオバマ政権の姿勢にもかかわらず、なぜ米軍が引き続きアフガニスタンに駐留すべきなのかを理解することが必要不可欠である。 アメリカの戦略家達が推奨するのはフレデリック・ケーガン氏とキンバリー・ケーガン氏が最近投稿した論文で、そこではアフガニスタンへの米軍駐留継続が必要な理由が明確に語られている。

両ケーガン氏はリビアのベンガジで起きたようなテロ攻撃を避けるためにも充分な兵力をとどめるべきだと主張する。またアフガニスタンでの米軍の存在がパキスタンでの対テロ作戦を容易にする。南アジアでのテロリストの拠点はパキスタンの連邦直轄部族地域、アフガニスタンのクナル州およびヌーリスタン州といった両国の国境地帯に集中している。アメリカがそのような人里離れた地域で地上基地なしでテロリストと戦うには、以下の三つが考慮されるべきである。それは武装無人航空機、パラシュート空挺部隊、そして有人航空機である。その内の前二者は航続距離と兵士の安全な帰還という問題点を抱えている。第三の有人ジェット機は速すぎる飛行速度のために攻撃対象の特定が難しい。いかなるハイテク兵器を利用しても、地上基地の重要性は全くなくならないのである。さらに、地上基地には不慮の攻撃から防御されねばならない。よって両ケーガン氏は上記の目的を達成するためには米軍30,000人の駐留が必要だと主張している。両氏とも敗北主義や「少数精鋭」戦略ではテロリストが勢いを盛り返すだけで、アメリカの安全保障にはより深刻な大惨事が起きかねない(“Why U.S. troops must stay in Afghanistan”; Washington Post; November 24, 2012)。外交問題評議会のマックス・ブート上級フェローはさらに、充分な地上基地なしにヘリコプターによる作戦を敢行するには空中給油が必要になると指摘するそうなると任務の遂行にはかなりの制約となると主張する(“Steep U.S. drawdown in Afghanistan brings substantial risks”; Washington Post; December 24, 2012)。

両ケーガン氏の見解はイデオロギーの枠を超えて支持され、『ワシントン・ポスト』紙の編集局もオバマ政権の計画ではケーガン勧告よりはるかに少ない兵員しか駐留させないことに疑問を呈している(“A U.S. future in Afghanistan?”; Washington Post: December 2, 2012)。軍事戦略だけでなく政治的な側面も考慮する必要がある。アメリカはカンダハル、ジャララバード、マザリシャリフにも領事館を設置する計画である。アフガニスタン駐留の米軍を大幅に削減するというオバマ政権の計画は、こうした政策目的とは矛盾する。またそのような兵員削減を行ないながらヨーロッパの同盟諸国には充分な兵力を駐留させるように説得することは非常に困難である。問題は治安の不安定化にもかかわらすカルザイ政権がアフガニスタン国内の外国駐留軍を削減したがっていることである(“U.S. force in Afghanistan may be smaller than expected after 2014”; Los Angels Times; December 11, 2012)。

カルザイ政権と欧米の間の相互不信は解決されねばならない。外国駐留軍が一般市民を誤って攻撃する一方で、カルザイ政権はアフガニスタンの統治を改善できないままである。身代金目的の投獄は頻繁に行なわれ、麻薬や天然資源の密売も横行し、政府官僚も縁故主義により開発事業を独占している。その結果、国民は政府を信用しなくなっている。これらの問題に鑑みて、カーネギー国際平和財団のサラ・シェイエス氏とフレデリック・グラール氏はアフガニスタン治安部隊の兵員人数よりも質の向上に目を向けるべきだと訴える。さらにパキスタンがアフガニスタンのテロリスト達と裏で関係を持っていることも問題視している。インドによる自国への包囲網形成を恐れるパキスタンの軍統合情報局(ISI)は、アフガニスタンの反乱分子を支援してインドとアフガニスタンが提携関係を築くことを阻止しようとしている。ISIの活動がもたらす悪影響に鑑みて、シェイエス氏とグラール氏はパキスタンをテロ支援国家と認定して制裁を科すべきだとまで主張している(“Avoiding Catastrophic Failure in Afghanistan”; Global Ten Challenges and Opportunities for the President 2013—Carnegie Endowment for International Peace; November 29, 2012)。きわめて皮肉なことに、ISIとテロリストの関係はパキスタン自身の治安にも悪影響を及ぼしている。パキスタン国内のタリバンはシーア派の住民を頻繁に殺害し、シーア派の重要な儀式であるアシュラの日には爆弾テロによって死者5人と負傷者90人を出した(“Pakistani Taliban claim responsibility for bomb attack on Shia procession”; Guardian; 25 November 2012)。

2014年には治安の権限が完全にカーブルに委譲されるので、国際社会はアフガニスタンへの注目を再び高める必要がある。上記で述べたような政治的および軍事的な関与に加えて、中央アジアやインド亜大陸をも含めたより広範囲な地域的枠組が設立されねばならない。2014年以降のアフガニスタンの安全保障への対処を誤れば、アメリカとヨーロッパ同盟諸国がこれまで築き上げた成果が無に帰してしまう。さらにアジアと中東の両地域でのアメリカの戦略も破滅してしまう。


さらなる情報リンク:NATO and Afghanistan

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2012年12月14日

日本がアメリカに尖閣諸島の戦略的価値を説得するには、どうすべきか?

尖閣諸島をめぐる日中間の衝突は世界の注目を集めている。これは領土主権をめぐる不一致に留まらず、シーレーンの安全保障と海底資源の問題でもある。尖閣諸島に関してアメリカが曖昧な態度をとっていることは問題である。中国の海洋拡張主義に鑑みれば、尖閣諸島はアドルフ・ヒトラーのドイツに対するラインラントのような存在である。イラクがクウェートに侵攻した際に、イギリスのマーガレット・サッチャー首相(当時)がジョージ・H・W・ブッシュ大統領(当時)にサダム・フセインの誇大妄想的な野望を警告したことを忘れてはならない。よって日本が尖閣諸島の戦略的価値をアメリカの国民と政策形成者達にどのように説得するかを模索することが、きわめて重要である。

実際にアメリカ人の中には中国の拡張主義の脅威を理解しながらも、尖閣諸島をめぐる衝突に深く関わることに消極的な見解も見受けられる。米海軍大学のジェームズ・ホームズ準教授は、そうした心理をペロポネソス戦争勃発時のアテネの立場になぞらえている (“Thucydides, Japan and America”; Diplomat; November 27, 2012)。ホームズ氏はツキジデスの『ペロポネソス戦争史』に言及し、同盟内部での強国と弱小国の間の認識の食い違いを指摘している。弱小な同盟国は同盟の盟主の力を最大限に利用して国益の最大化を求めているのに対し、強大な同盟国は対抗国との対決にいたるようなリスクを避けたがる。ペロポネソス戦争の事例では、ケルキュラがコリントとの紛争でアテネに支援を求めた。アテネはデロス同盟の盟主として自国の艦船をケルキュラ海軍に随行させたが、緊急の危険が迫らない限りはコリントとの交戦を禁じた。アテネは対抗相手のペロポネソス同盟の盟主であったスパルタとの直接対決を懸念していたのである。アメリカがアテネのように曖昧な態度をとれば、たとえ不本意ながら自らが日中間の衝突に引き込まれることがあっても、日本は独自の行動をとろうとするであろう。それによって日米の相互信頼は損なわれるだけである。古の賢人達は現代の戦略家達に洞察力に富む教訓を示してくれるが、それをどのように政策に反映させるかは我々がそうした教訓をどう解釈するかにかかっている。

そのように中途半端な関与がもたらす致命的な結末に鑑みて、アメリカのメディアの中にはオバマ政権に日本支持の立場を明確に打ち出すように促す論調もある。日本は中国のみならずロシアや韓国といった近隣諸国との領土紛争で暴力に訴えたりしていない。『クリスチャン・サイエンス・モニター』紙はさらに、オバマ政権が尖閣の主権に関しては中立を保ちながら日本の共生管轄権を認めるという微妙な配慮をしているためにサダム・フセインのクウェート侵攻のように中国の冒険主義を刺激する恐れがあると主張している(“US must clearly back Japan in islands dispute with China”; Christian Science Monitor; October 25, 2012)。また『ワシントン・フリー・ビーコン』紙は、中国の徐才厚中央軍事委員会副委員長が9月14日に中国は日本との戦争になってもそのための準備ができているとまで発言したのに対し、オバマ政権が日中領土紛争に中立の立場をとっていることを批判している。このインターネット新聞は、オバマ政権が中国の海洋進出攻勢を目前にしながら東アジアの主要同盟国を支援しないと厳しく批判している(“The Great Pacific Panic”; Washington Free Beacon; December 6, 2012)。上院で尖閣諸島に関して日本支持の決議案が11月30日に通過したことは当然である。

しかしアメリカには地図上の「小さな点」のために中国との対決に消極的な声も依然として存在する。日本側はどのようにして、尖閣をめぐる衝突がもたらす戦略的な意味合いをアメリカ国民と国際社会にうまく説得すべきなのだろうか?日本の政策形成者達は効果的なメディア対策によって日本の領有権主張の正当性、中国の拡張主義の脅威、そして尖閣諸島の戦略的価値を訴える必要がある。日本はこの目的のために、訴えかけるべきメディアを選択し、強調すべきポイントを強調しなければならない。ここで2つの事例を挙げたい。田中均元外務審議官が9月12日に英国王立国際問題研究所で「東アジアと世界をつなぐ日本」と題する講演を行なった際には、中国の海軍増強、東アジア諸国のシーレーンの安全保障、東シナ海および南シナ海での海底資源紛争は言及されなかった。田中氏は中国のナショナリズムには重大な懸念を述べたものの、日中の経済的な相互依存を強調したために徐才厚氏が口走ったような中国の覇権的本能の危険性が見過ごされることになった。全世界から敬意を抱かれる権威のあるメディアから日本のメッセージを発信するという絶好の機会であったにもかかわらず、田中氏がこれをうまく活用できなかったことは残念である。以下のテキストとビデオを参照されたい。



他方で川村泰久在ニューヨーク領事館首席領事は、10月11日放映のニューヨークのローカル番組『インサイド・シティー・ホール』に出演した際に、尖閣に関する日本の立場を明解に述べた。川村氏は日本の主張の正当性を法的および歴史的観点から述べた。法的観点から述べると、日本は1885年に他の国に先駆けて島の調査を行なった。尖閣諸島には居住者もなく清朝の行政管理も及んでいなかった。中国は石油埋蔵の発見まで日本の主権には反対していなかった。「小さな」島の重要性を矮小化するような質問に対し、川村氏は領土とは国家を構成する主要要素だと断言した。川村氏の明解で説得力のある主張には多いに敬意を表したい。しかし外務省が訴えかけるべきメディアを正しく選んだのかどうかという疑問は残る。この番組の司会を務めるエロル・ルイス氏は尖閣諸島を人里離れた、一部屋かダブルベッド並みの大きさの島だと述べたが、これでは領土問題の重要性を理解していないように思われる。番組でのルイス氏の語調はまるで芸能ニュースを語るかのように気楽であった。番組内では川村氏を「大使」という誤った肩書きで呼びかけたほどである。以下のビデオを参照されたい。



メディア戦略をどう成功に導くかに加えて、日本国民の間に広がるナショナリズムが国際社会での日本の印象を悪化させかねないという懸念も述べたい。これは日本がこれまで行なってきたありとあらゆる努力を無駄にしかねない。中国の軍事的圧力の高まりとアメリカの国防力削減に鑑みて、日本はアジア太平洋諸国と多国間の戦略提携を模索している。アメリカは日本が防衛で積極的な役割を担って中国の拡張主義を防ぐことを歓迎している (“Japan Is Flexing Its Military Muscle to Counter a Rising China”; New York Times; November 26, 2012)。しかしハーバード大学のジョセフ・ナイ教授は日中の間で相互嫌悪の感情から生まれるナショナリズムの衝突が見られることに懸念を述べている。ナイ氏は日本がかつての軍国主義に逆戻りする危険性は全くないと見ており、石原慎太郎氏や橋下徹氏のような右翼ポピュリスト達がいかに過激な発言をしようとも現在の自衛隊はしっかりとシビリアン・コントロールの下に置かれていると言う。ナイ氏が懸念を抱くのは、中国国民の間に自信過剰の気運が高まり、内向き傾向を強める日本国民がますます自国の衰退に苛立ちを募らせる事態である(“Japan’s nationalism is a sign of weakness”; Financial Times; November 27, 2012)。そのような自国中心主義による中国との相互嫌悪のスパイラルが深まれば、アメリカは日本から離れ、ペロポネソス戦争勃発時のアテネのように曖昧な態度をとるようになるかも知れない。

アメリカおよびアジアとヨーロッパにあるその同盟諸国を説得するためには、日本は視野の狭い自国の国益中心の視点からではなく国際公益の視点から発言しなければならない。また、日本はアメリカが尖閣でアテネのように曖昧な態度をとることは超大国の自殺行為だと言うべきである。日本はサダム・フセインのクウェート侵攻をめぐってマーガレット・サッチャー氏がジョージ・H・W・ブッシュ氏の説得を成功させたアプローチから教訓を得る必要がある。さらに日本の政策形成者達はエドウィン・ライシャワー・コンプレックスを払拭しなければならない。ライシャワー氏は日米の架け橋として偉大な大使であったかも知れないが、日本語と日本文化への造詣の深さは必ずしも重要ではない。むしろ日本の指導者達は、軍部、ネオコンサーバティブ、自由と民主化の活動家といった中国の拡張主義に重大な懸念を抱くアメリカの戦略家達との関係構築を模索すべきである。

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