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2013年2月28日

アメリカはヨーロッパと中東に戦略重点を再び移転するか

Biden

第二次オバマ政権はヨーロッパに再び戦略重点を移そうとしているようである。ミュンヘン安全保障会議に参加したジョセフ・バイデン副大統領は、米欧関係の強化を訴えた。オバマ政権はイラクとアフガニスタンからの撤退に鑑みて戦略重点をアジアに移すと明言したので、バイデン氏の演説はメディアを驚かせた。バイデン氏はマリからシリアおよびイランにいたる中東の安全保障に対処するために大西洋同盟の緊密化を訴え、ヨーロッパはアメリカ外交の要だと述べた(“Biden calls Europe 'the cornerstone' of US foreign policy”; Stars and Stripes; February 2, 2012)。安全保障ばかりでなく、バイデン氏はヨーロッパとの自由貿易協定まで提案した。ヨーロッパは世界最大の経済圏なので、アジアの経済的な台頭によって必ずしも米欧関係の重要性が低下するというわけではない。ヨーロッパ側ではバイデン氏のミュンヘン演説を歓迎している(“Opinion: US rediscovers Europe”; Deutsche Welle; 3 February, 2013)。

ミュンヘン演説に続き、バラク・オバマ大統領は一般教書演説でEUとの自由貿易協定への支持を表明した(“Obama injects optimism into trade deal”; Financial Times; February 13, 2013)。アメリカとEUがFTAを結べば世界のGDPの40%以上、対外直接投資では50%近くを占めることになり、世界のGDPの26%を占める環太平洋経済連携協定(TPP)を大きく上回る。環大西洋FTAはアメリカの雇用創出だけにはとどまらない。大西洋の向こう側でもドイツのアンゲラ・メルケル首相とイギリスのデービッド・キャメロン首相がアメリカとの通商条約を後押ししている。また、大西洋と太平洋の双方での貿易協定は、経済活動を通じて自由主義の政治的理念を広めようという意図も反映している(“EU-US Free Trade Agreement: End of the Asian Century?”; Diplomat; February 20, 2013)。

アメリカの戦略的重点が再び動いていることを示すかのように、ジョン・ケリー国務長官が就任後初の海外歴訪に向かったのはヨーロッパと中東である。前任者のヒラリー・クリントン氏の初歴訪先がアジアであったことを思い起こすべきである(“Travel to Europe and the Middle East February 24, 2013 to March 6, 2013”; Department of State)。2月22日に放映されたNBCテレビのアンドレア・ミッチェル・レポートに出演したウィリアム・コーエン元国防長官は、ケリー氏は今回の歴訪でヨーロッパと中東の同盟国に対して聞き役に徹することになろうと述べている。現在、アメリカとこの地域の国々は、シリアやイランといった共通の安全保障上の課題に直面している。以下のビデオを参照して欲しい。


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昨年6月のNATOシカゴ首脳会議は同盟の分裂とアメリカの指導力欠如を印象づけてしまった。ミュンヘン演説とケリー長官の初歴訪によって大西洋同盟が最強化されるかどうかは予断を許さない。

アメリカの戦略上最も重要なことは特定地域への精力集中ではなく、世界規模での安全保障での責任を果たすこと、すなわち二か所の大規模地域紛争(MRC)に対処する能力を維持することである。レキシントン研究所のダニエル・ゴーア副所長は、「国防支出の継続的な削減によって、二つの主要戦場(MTW)で信頼性の高い戦闘能力を維持するという国防政策を立案することが難しくなるという大問題に陥ってしまう」という懸念を述べている。非常に皮肉なことに、軍事力の近代化への投資が低下したことで装備の維持費を押し上げ、世界規模での作戦行動を同時に遂行する能力を低下させてしまう。ゴーア氏は、9・11同時多発テロ事件以前の段階でブッシュ政権がそうした傾向を覆そうとしていたと指摘する(“The Measure of a Superpower: A Two Major Regional Contingency Military for the 21st Century”; Special Report on National Security and Defense, Heritage Foundation; January 25, 2013)。オバマ政権による国防費削減、そしてイラクとアフガニスタンをはじめとする中東からの撤退によって、アメリカが超大国の役割を果たす気があるのかという深刻な懸念も持ち上がっている。 さらに重要なことに、アメリカン・エンタープライズ研究所のマッケンジー・イーグレン常任研究員はアメリカの中国に対する防衛力はアジア回帰戦略の下で充分に強化されていないと主張する(“Nearing coffin corner: US air power on the edge”; AEI National Security Outlook; March 2012)。

ヨーロッパと中東も戦略的に重視してゆくということは、上記のような政策を再考するものとも理解できる。アフガニスタンに治安権限が完全に委譲される2014年以降は駐留米軍を削減するというオバマ政権の方針は厳しい批判にさらされている。アフガニスタンのハミド・カルザイ大統領とワシントンで首脳会談に臨む前には、オバマ政権は兵員駐留の規模をイギリスよりも少なくとどめようとさえ考えていた(“Some in administration push for only a few thousand U.S. troops in Afghanistan after 2014”; Washington Post; January 8, 2013)。ジョン・マケイン上院議員は1月13日放映のCBSテレビとのインタビューで、アフガニスタンでの米軍を急激に削減すればテロとの戦いでアメリカが弱腰だと受けとられかねないと述べた。ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究学院のバリ・ナスル学院長はさらに厳しく、「カルザイ氏の立場に立てば、基本的にイラクのマリキ首相が行なったのと同様な損得勘定をせざるを得なくなる。米軍の規模が充分でなければ、駐留してもらう意味があるだろうか?」とまで評している(“Priorities Are Far Apart as Karzai and Obama Meet”; New York Times; January 10, 2013)。オバマ政権は2014年4月に行われるアフガニスタンの大統領選挙までは32,000人の兵力を維持すると表明したが、国防総省のジョージ・リトル報道官は「現政権としては2014年以後の駐留米軍の規模は検討中で、最終的な決断は下していない。」と表明し、「同盟諸国やアフガニスタンとも協議を続けて二つの基本的な任務の遂行に最善な方法を模索してゆく。それはアル・カイダおよびその関連組織の残党への攻撃目標設定、そしてアフガニスタン治安部隊の訓練と装備である 」と述べている(“Panetta: Final 32,000 American troops out of Afghanistan after 2014 elections”; DEFCON Hill; February 22, 2013)。戦略的にも重要なアフガニスタンはオバマ政権が中東にどこまで関わり、超大国の役割にどのようなビジョンがあるかを見極める試金石である。

アメリカが太平洋の地域大国ではなく世界の超大国としてバランスのとれた戦略上の重点地域設定を行なうことは、日本、オーストラリア、韓国その他のアジア同盟諸国にも国益に適う。その点をさらに述べてみたい。アジア回帰が行き過ぎたものになるとヨーロッパが蚊帳の外に置かれるようになり、彼らが内向き志向を強めてしまう恐れがある。しかしアジアは中国の地政学的野心と北朝鮮の核の脅威に対処するうえで、アメリカとともにヨーロッパ主要国を必要としている。さらに中東の安全保障はアジアにとってもヨーロッパにとっても共通の利益に関わる。その中でもイスラム過激派は最も差し迫った脅威である。今年のアルジェリア人質事件では、テロリストはアジア人であろうと欧米人であろうと非イスラム教徒の外国人を襲撃した。歴史的に見て、イスラム過激派はキリスト教徒とユダヤ教徒だけでなく、ヒンズー教徒や仏教徒にも攻撃の手を加えた。彼らのテロリズムは「西欧十字軍」への抵抗ではなく政教分離と自由主義に基づく世界秩序の否定である。エネルギー安全保障も、アジアにとってアメリカの戦略的重点地域がバランスのとれたものであることが必要な理由である。アジアの新興経済諸国は中東からの石油と天然ガスの輸入に依存しているので、アメリカの中東撤退はこれらの国々の利益にはならない。また日本では野田政権が中央アジア諸国と天然ガスの供給について合意に達したことに留意しなければならない。この場合、アフガニスタンは将来のパイプライン敷設の潜在的な通り道である。さらにイランと北朝鮮の関係も、フォルド事件で2人の北朝鮮人が死亡したことから白日の下にさらされた(“North Koreans among 40 dead at Iran nuke plant”; WND; February 3, 2013)。

今世紀の世界規模でのグレート・ゲームに鑑みて、アメリカが性急に中東から撤退して大西洋同盟の結束も乱れてしまえば、地政学的な競合関係にある中国、ロシア、その他の新興諸国の間でアメリカの優位に立ち向かおうという機運が高まりかねない。ここで歴史的な類似例に言及したい。第二次世界大戦ではシンガポールの陥落によってアジアのみならず、ヨーロッパと中東においてもイギリスの威信は低下した。しかし太平洋戦争初期のイギリスとは違い、現在のアメリカはイラクでもアフガニスタンでも敗北したわけではない。また太平洋諸国の中には日本のように近隣諸国よりもヨーロッパと共通の政治的利益を有する国もある。アメリカの古くからの同盟国であり主要先進民主主義である日本にとって、オバマ政権がアジア回帰の名の下に新興諸国重視に走ることは、アメリカにとって自らの重要性が低下することにもつながりかねない。

軍事力そのものは世界の中でのアメリカの立場を強めるうえで必ずしも万能というわけではないが、アメリカが他の地政学的な競合相手に対して優位に立ち続けるためには必要不可欠である。最も重要な問題は戦略的なバランス配分ではなく国防力の削減である。特に財政支出自動削減によって、アメリカの外交政策の選択肢は著しく狭められてしまう。 ニューズ・ウィーク誌のデービッド・フラム編集論説員は共和党の財政保守派の中にはポール・ライアン下院議員のように3月に財政支出自動削減になるならなればよいとまで口走ったことを非難している。国防費のさらなる削減がもたらす致命的な結末に鑑みて、フラム氏は国防タカ派の政治家達に自動削減を止めるための行動を呼びかけた(“Defense Hawks, America Needs You Now”; Daily Beast; January 31, 2013)。国防支出削減の被害を受けるのは軍事作戦と装備だけではない。事務および兵站業務、そして民間関連産業の雇用も犠牲になる(“Budget Crisis Impact Laid Out By U.S. Navy”; Defense News; January 25, 2013)。さらに訓練も大幅に削られてしまう(“Army: 78% Of Combat Brigades Will Skip Training Due To Sequester, CR”; AOL Defense; February 5, 2013)。それらの悪影響はアメリカ外交で二正面での危機に同時に対処するうえで、きわめて大きな制約を科すことになる。こうした事態を避けるため、外交政策イニシアチブは2月19日付けで上下両院の民主党および共和党の指導者達に公開書簡を送った。しかしホワイトハウスと議会は合意に至らなかった。自動削減はまず軍事技術者の給与2割削減から始まる (“Sequester causes military spending cuts”; WTHI-TV News; 2 March 2013)。

世界は二正面の危機に対処できるアメリカを必要としている。こうした観点から、バイデン氏がミュンヘンで行なった演説に見られるようなワシントンの政策転換は歓迎できる。アメリカがシンガポール陥落時のイギリスのように行動する理由はどこにもない。オバマ氏が党派の分裂にうまく対処できなかったことは、世界の中でのアメリカの指導力を大いに損ねた。ミュンヘン演説とケリー長官の就任後初歴訪は大西洋同盟とアメリカの中東への関与を回復させる手始めになるかも知れない。財政支出自動削減と戦略重点の再転換の複合効果については、さらなる観測が必要である。

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2013年2月 5日

危機管理の理解を普及させよ

安全保障の脅威が非伝統的な分野にまで拡大する傾向が強まるにおよんで、国家や企業の指導者にとって危機管理能力を備えることがきわめて重要になってきている。しかし彼らが危機管理を習得するのはほとんどOJTベースであり、大学の学部や大学院でその基本概念教わる機会が充分とは言えない。考えてみれば、経済、外交政策、国防、行政学など他の政策分野の基礎は、高等教育の社会科学では中核となる科目である。冷戦後の新しい安全保障概念によって、全世界の市民の間に危機管理の理解がこれまで以上に広まることが必要になる。

危機への対処方法はアクターによって異なる。国家アクターと非国家アクターとでは、対処の仕方に大きな違いがある。国家アクターには危機解決の最終手段として武力の行使が認められている。他方で非国家アクターの場合は植民地重商主義時代の東インド会社とは異なり、反乱分子、テロリスト、その他自分達の死活的権益を脅かす相手を打ち負かすような武装をすることはない。よって主権国家こそ危機管理の最終的な解決手段を持っている。公衆は政府の動向を見守るとともに、そこへの影響力の行使と協調のためにも、高度に教育されている必要がある。

そこで二つの事例をとりあげたい。一つはこれまで前例のなかった自然災害で、2011年の東日本大震災と津波がもたらした福島原発事故である。これは原子力発電所が次善災害に見舞われるという人類史上初の事故で、チェルノブイリやスリー・マイル島の場合とは違い、そのような事態を想定したマニュアルはない。日本では当時の菅直人首相への批判が一気に高まったのも、メディアと一般市民が危機に狼狽したからである。彼らは菅氏の行動の個別の誤りにばかりとらわれ、危機に対処するための政策と管理能力について議論がなされたとは言えない。

もう一つは人的災害で、今年にアルジェリアで起きたイナメナス人質事件である。犠牲者は多国籍であったにもかかわらず、アルジェリアのブーテフリカ政権はテロリストの打倒を優先させるあまり人質の安全には充分な考慮を払わなかった。アルジェリア政府は、米英仏などの特殊部隊の方が対テロ作戦と人質の安全のバランスをとる技能に長けているにもかかわらず、外国軍の介入の要請を一顧だにしなかった。

メディアを含めて我々の危機管理についての知識は、あまりにも少ない。よって我々が危機における指導者の行動について誤った判断を下すかも知れない。すなわち、刻々と移る事態を感情的に評価してしまいかねない。よって危機管理への理解と問題意識の普及が必要である。シンクタンクや民間の財団は一般国民への教育のためにフォーラムや講演を主催することができる。こうしたイベントはインターネット・ビデオなどを通じて誰にも公開されたものであることが望ましく、限られた会員だけのものにすべきではない。また、もっと多くの大学の学部以上のレベルで、危機管理の基本概念が教授されるできである。国家や企業の優秀な指導者となるには、この分野について包括的で体系的な理解が必要である。危機管理への訓練を大幅にOJTに依存することは、あまりにも危険である。

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