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2013年2月 5日

危機管理の理解を普及させよ

安全保障の脅威が非伝統的な分野にまで拡大する傾向が強まるにおよんで、国家や企業の指導者にとって危機管理能力を備えることがきわめて重要になってきている。しかし彼らが危機管理を習得するのはほとんどOJTベースであり、大学の学部や大学院でその基本概念教わる機会が充分とは言えない。考えてみれば、経済、外交政策、国防、行政学など他の政策分野の基礎は、高等教育の社会科学では中核となる科目である。冷戦後の新しい安全保障概念によって、全世界の市民の間に危機管理の理解がこれまで以上に広まることが必要になる。

危機への対処方法はアクターによって異なる。国家アクターと非国家アクターとでは、対処の仕方に大きな違いがある。国家アクターには危機解決の最終手段として武力の行使が認められている。他方で非国家アクターの場合は植民地重商主義時代の東インド会社とは異なり、反乱分子、テロリスト、その他自分達の死活的権益を脅かす相手を打ち負かすような武装をすることはない。よって主権国家こそ危機管理の最終的な解決手段を持っている。公衆は政府の動向を見守るとともに、そこへの影響力の行使と協調のためにも、高度に教育されている必要がある。

そこで二つの事例をとりあげたい。一つはこれまで前例のなかった自然災害で、2011年の東日本大震災と津波がもたらした福島原発事故である。これは原子力発電所が次善災害に見舞われるという人類史上初の事故で、チェルノブイリやスリー・マイル島の場合とは違い、そのような事態を想定したマニュアルはない。日本では当時の菅直人首相への批判が一気に高まったのも、メディアと一般市民が危機に狼狽したからである。彼らは菅氏の行動の個別の誤りにばかりとらわれ、危機に対処するための政策と管理能力について議論がなされたとは言えない。

もう一つは人的災害で、今年にアルジェリアで起きたイナメナス人質事件である。犠牲者は多国籍であったにもかかわらず、アルジェリアのブーテフリカ政権はテロリストの打倒を優先させるあまり人質の安全には充分な考慮を払わなかった。アルジェリア政府は、米英仏などの特殊部隊の方が対テロ作戦と人質の安全のバランスをとる技能に長けているにもかかわらず、外国軍の介入の要請を一顧だにしなかった。

メディアを含めて我々の危機管理についての知識は、あまりにも少ない。よって我々が危機における指導者の行動について誤った判断を下すかも知れない。すなわち、刻々と移る事態を感情的に評価してしまいかねない。よって危機管理への理解と問題意識の普及が必要である。シンクタンクや民間の財団は一般国民への教育のためにフォーラムや講演を主催することができる。こうしたイベントはインターネット・ビデオなどを通じて誰にも公開されたものであることが望ましく、限られた会員だけのものにすべきではない。また、もっと多くの大学の学部以上のレベルで、危機管理の基本概念が教授されるできである。国家や企業の優秀な指導者となるには、この分野について包括的で体系的な理解が必要である。危機管理への訓練を大幅にOJTに依存することは、あまりにも危険である。

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コメント

>アルジェリアの事件でも、安倍晋三政権から発せられた第一方針は「人命第一」。武力突入の報に安倍首相は「控えてほしい」とセラル首相に電話で抗議さえした。

安倍首相は、「人命第一」と武力突入を「控えてほしい」の間の整合性をセラル首相に分かりやすく示さなくてはならない。
もしも説明がなされていないならば、それは日本人の昔の歌詠みの態度に他ならない。

http://www11.ocn.ne.jp/~noga1213/
http://3379tera.blog.ocn.ne.jp/blog/

投稿: noga | 2013年2月 7日 16:15

アルジェリア軍の現地攻撃が性急だったとの批判は、各国から挙がっていました。ただしフランスはマリでの作戦に支障をきたしたくないからか、アルジェリアの人命への姿勢に関しては黙認姿勢でした。米英とは態度が違っていました。

安倍首相からセラル首相には、実際にはもっと詳細な要請がいっていたと思います。メディアに出るのは、その一部です。

投稿: Σ・亜歴 | 2013年2月 8日 00:02

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