キャロライン・ケネディ氏ではなく軍人大使を待望する
オバマ政権がキャロライン・ケネディ氏を駐日大使に任命することについては日米両国で好意的に受けとめられているように思われる。下記の4月2日放映のCBSニュースのビデオに見られるように、ケネディ家の名前は理想家のジョン・F・ケネディ大統領の悲劇的な伝説とも関わるカリスマ的なロマンティシズムをかき立てる。この場番組で歴史家のロバート・ダレク氏はケネディ氏が大使として赴任すれば、アメリカ文化の最善の要素を体現することになると論評している。
ユーラシア・グループのジュン・オクムラ上級アナリストはさらに「情報伝達の高速化が進んだ現在では、結局のところ真の意思決定が行われるのは遠くの本国である。今や大使はほとんど象徴的な存在である。ケネディ氏の任命が示すことは、日米関係には大きな問題などなく、イギリスやフランスと同様に安心できる赴任先だということである」と述べている(“Why Caroline Kennedy is likely to get a warm welcome in Japan”; Christian Science Monitor; April 2, 2013)。確かにアメリカの歴代大統領はジョセフ・ケネディの例に典型的に見られるように、大統領選挙運動で資金調達に貢献した人物への論功行賞として駐英大使に任命してきた。
しかし中国と北朝鮮による安全保障上の課題が重くのしかかり、沖縄の米軍基地問題が複雑化する中で、東京にはもっとプロフェッショナルな大使を着任させる方が望ましいとする意見もある。駐日大使は日本一国にとどまらないアメリカの戦略的利益を代表していることを忘れてはならない。ハワイからインド洋にかけての安全保障上の挑戦相手を見据えるうえで、世界の中で日本列島ほど理想的な場所はない。リチャード・アーミテージ元国務次官補が幾度にもわたってそうした戦略的価値を強調するのも当然である。新任の大使はこのことをよく理解すべきである。
ケネディ氏の人気は高いが、外交にも行政にも経験がないことに懸念を示す向きもある。 下院外交委員会に属する共和党のダナ・ローラバッカー下院議員は「初めてこの知らせを受けた時にはエイプリル・フールのジョークだとしか思えなかった。我が国の経済および国家安全保障は日本に対する善意に基づいている。キャロライン・ケネディ氏が駐バルバドス大使になるとでもいうのなら一向に構わない。しかし日本ともなると何の経験もない人物にはとても任せられない」と述べている(“Kennedy as Japan ambassador raises concerns amid N. Korea tensions”; FOX News; April 3, 2013)。大統領選挙の際にオバマ氏を支持したクライド・プレストビッツ経済戦略研究所所長さえも、これを批判的に評している。歴代大使と比較すると、キャロライン・ケネディ氏は政界の重鎮でもなければ外交事務にも国際情勢にも精通していない。また日本文化と日本語にも精通していないと指摘する(”Caroline Kennedy's appointment is not very Kennedyesque”; Foreign Policy--Clyde Prestowitz; April 2, 2013)。
日本が元伊藤忠商事会長の丹羽宇一郎氏を駐中国大使に起用して失敗した経験もあるので、私は上記の批判のほとんどに同意する。しかし日本語や日本文化への造詣の深さについては、プレストビッツ氏が言うほど重要とは思えない。それは現在の日本人はエドウィン・ライシャワー大使の時代よりも英語が堪能になっており、アメリカ文化にもはるか親しんでいるからである。むしろ安全保障の知識と外交および行政の事務能力、特に危機管理能力の方が重要になってくる。こうした観点から、東京に駐在する次の大使は軍人出身者から選ばれるべきだと考えている。軍人出身者なら、ハワイからインド洋に至る地域でアメリカへの畏怖と敬意を醸し出せるような人物の候補は数多い。
軍関係者なら、マイケル・マレン海軍大将、デービッド・ペトレイアス陸軍大将、レイモンド・オディアーノ陸軍大将など、人材の宝の山である。日本情勢に関する知識が重要と言うなら、リチャード・アーミテージ氏が多くの候補者の中でトップに躍り出るだろう。一般の間では知名度が低くても、太平洋からインド洋にかけての出現するいかなる安全保障上の挑戦相手にも、東京から睨みを効かすだけの資格が充分にある将軍や提督なら数多くいるだろう。無名人でも偉業を成し遂げれば瞬く間に有名人になってしまう。有名人を特別に好んで選考する理由など何もない。予算削減と強制支出停止によってアメリカの国防力が削減される現在、そうした損失を埋め合わせられるのは政治家や外交官の知識、技能、パーソナリティーである。そうした格好の例を挙げてみたい。現在のロシアは実力以上の大国と見られているが、それはKGB出身のウラジーミル・プーチン氏の「強い男」のイメージに負うところがある。来る駐日大使にはアメリカの威信と強さを誇示する「ジョン・ウェイン」的な人物を任命し、国内外の難題を克服してゆかねばならない。こうした理由から、駐日大使にはキャロライン・ケネディ氏よりも軍人出身者が望ましいと主張する。
大きな棍棒を持って穏やかに話せ。これぞ次期駐日大使に望まれる。
誰が東京に赴任しようとも、余程の事情がなければ日本側がペルソナ・ノン・グラータを指定する立場ではない。しかし日米双方でケネディ氏が大使の任務にたえる資質があるのかを再考する必要があると思われる。ケネディ氏が女性であることが日米友好の深化に大きな利点だと論評する論客もいるが、男女平等は現在の日米関で優先度の高い課題とは言えない。また、世襲権力のプリンセスがアメリカ文化の最善のものを体現するとも思えない。世界的に見ても、アメリカの文化のイメージで最善の要素を体現する人物とは、ジョン・ウェインの作品に描き出されたような「男の中の男」であることはわかりきっている。いわば東京に赴任するアメリカの大使とは大きな棍棒を持って穏やかに話せる人物こそ望ましい。ここで忘れてはならないことは、韓国はパク・クネ大統領の外交政策顧問であるイ・ビョンギ氏を赴任させる。アメリカの大使が世界各国から集まる俊英外交官に敵わないような事態に陥って、誰が得をするのだろうか?日米両国の重大な国益のためにも、大使の選定は再考されるべきである。
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