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2013年5月31日

イランの世俗的民主化を求めるフェイスブック運動

2010年12月にチュニジアで始まったフェイスブック革命がエジプトからリビアに広まったことは記憶に新しい。現在、世界の公衆がアラブの春に失望する向きがあるのは、イスラム主義が台頭しているからである。この点から、イランの自由を求めるフェイスブック運動が世俗的民主主義を求めていることは注目に値する。様々な団体がフェイスブックでページやグループを作ってイランの自由を求める運動を広めてる。

ここでページとグループについて説明したい。フェイスブックには2種類のコミュニケーションがある。「ページ」とは少数の管理人たちが自分達への支持の意思表明として「いいね」クリックをした者に対してメッセージを送信する一方向のコミュニケーションである。他方で「グループ」では管理人と会員が相互にコミュニケーションを行なう。グループの会員として承認されれば、誰でもそこのウォール上に記事を投稿できる。両方のコミュニケーション方法を利用して、イランの民主化運動は雨後の筍のように次々と生まれている。こうした運動がチュニジアのように成功を収めるかどうかは知る由もないが、テヘランの神権政治がインターネット運動を管理できないことが明らかになっている。

チュニジアとエジプトの場合と違い、イランのフェイスブック運動が非常に世俗的な理由は、それが軍事政権ではなく神権政治に対して戦っているからである。アラブの春は学生達の緩やかなネットワークによって動かされたが、イランの運動はもっと求心力がある。これは重要な点であり、それは特にエジプトでは学生運動がイスラム主義者に乗っ取られてしまったからである。イランの運動ではレザ・パーレビ元皇太子が中心的な役割を果たしている。パーレビ家が王位に復帰することはないだろうが、ヨーロッパでも見られたように君主制は宗教的狂信主義や軍事独裁に対するビルトイン・スタビライザーである。

現在、パーレビ氏はメリーランド州ベセスダを拠点に欧米の市民社会に対してメディアを通じてイランの自由を支援するように訴えかけている。パーレビ氏がフェイスブックに開設した公式ページは全世界から15万8千近くの「いいね」クリックを受け、中でも最も多いのはインターネット検閲の厳しいテヘランからである。パーレビ氏自身の公式ページの他に、彼の支持者が立ち上げた「レザ・パーレビ皇太子ファン・ページ」まである。イランの民主化運動の支持者達はフェイスブックのページとグループを通じて情報や意見を交換し、価値観を普及させ、全世界での連帯感を高めている。かなり多くの個人がフェイスブックのプロフィール写真にパーレビ家の家族写真を利用している。

シール・オ・コルシード(Shir o Khorshid )すなわち獅子太陽旗もイランの自由を求める活動家の間で象徴となっている。この紋章はササン朝からパーレビ朝までの様々な王朝にイランの伝統的な記章とされてきた。イラン革命後のシーア派神権政権は、タウヒードすなわちアラーへの絶対的な帰依を表す4つの三日月と一本線というイスラム色の強い象徴を採用している。その結果、イランの反体制派は民族の伝統的な紋章を愛国主義と神権体制への抵抗を示すために活用している。「レザ・パーレビ公式ページ」や「イラン人と彼らの友人達」などのページではカバー写真にシール・オ・コルシードが掲げられている。革命の前と後のイラン国旗を比較して欲しい。


Flag_of_iran_before_1979_revolution
革命前

Flag_of_iransvg
革命後


政治的な側面から見れば、イランの民主化を求めるページやグループはアメリカおよびイスラエルとの強い連帯を示している。中にはイスラム主義とシャリア法への嫌悪感からアメリカの保守派と緊密な関係にあるページやグループもある。そうしたページやグループへの参加者の多くはアメリカ人および欧米に亡命しているイラン人のようだが、イラン国内からかなり多くのイラン人が祖国の厳しいインターネット検閲を潜り抜けて参加している。2009年のグリーン運動に見られたように、イランの自由を求める活動家達や一般国民はアメリカの支援を渇望している。しかしなぜイスラエルなのか?歴史的にイランはユダヤ人と良好な関係にあるバビロニアの圧政から古代ヘブライ人を解放したのはキュロス大王である。現在、イランは中東で最大のユダヤ人人口を抱える。さらにイスラエルのモシェ・カツァブ元大統領はイラン出身であり、イラン人もそのことを誇りに思っている。現在の神権政治によってイスラエルとの古く深い関係は破壊されている。

イランの自由を求める活動家たちが主張を掲げるのはインターネットだけではない。イラン系アメリカ人は今年の4月14日にニューヨークでペルシアン・パレードというイベントを開催した。このパレードは元々、2004年にノウルーズを祝うために始められた。このイベントの主な目的は在米イラン人の結束を高め、伝統的なペルシア文化への理解を普及させることにあるが、イランの自由を求める活動家達はイベントを利用して祖国のレジーム・チェンジを訴えるための啓発活動を行なっている。ペルシアン・パレードは完全にグラスルーツ主体で運営され、レザ・パーレビ氏やマリアム・ラジャビ氏、あるいはノーベル平和賞受賞者のシリン・エバディ氏といった反体制派の著名人に依存していない。 このパレードではアメリカの騎馬警官隊が獅子太陽旗と星条旗を掲げて並んで行進している。これはイランの民主化運動とアメリカの市民社会の緊密な関係を訴えている。以下の写真を参照して欲しい。


Persian_parade
並んで行進する獅子太陽旗と星条旗


イランが世俗的民主主義になればアフリカからかけて中国に大きな影響を与えるだろう。現在、エジプトとトルコではイスラム主義が台頭し、アル・カイダはサヘル地域からカフカス、中東全域に自分たちの根拠地を築いている。しかしアル・カイダの勢力は東西トルキスタンまでは及んでいない(“The al Qaeda Franchise Threat”; Wall Street Journal; April 30, 2013)。イランの世俗的民主化運動を支援すれば、アラブ地域のみならず北アフリカから新疆にかけて宗教のバイアスから解き放たれた民主主義を普及できるであろう。特にペルシア文化の伝統は中央アジアのイラン系およびテュルク系の民族の間で根強い。よって宗教的狂信主義影響を脱した民主化のポジティブなドミノ現象が起これば、ユーラシア全土で東アジア諸国を含めた自由諸国は戦略的に有利な立場となるであろう。世俗的民主主義がトルキスタンに根付いてしまえば、西側としてはテロとの戦いで中国と妥協する必要がなくなり、この国の海洋拡張主義にも人権抑圧にも断固とした対応がとれるようになる。だからこそ、この記事がイランの民主化運動に世界の注目をさせるうえでいささかなりとも役立てばと願っている。

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2013年5月15日

日本こそレッド・チャイナからアメリカとアジアを守る防壁である

中国の拡張主義的な野心と北朝鮮の核瀬戸際政策は東アジアの緊張を高めている。特に、中国への対処には綱渡り外交が求められる。中国とは安全保障での協調と経済関係を模索する一方で、アメリカもアジア太平洋諸国もこの国の危険性をしっかり認識しておかねばならない。強い日本はレッド・チャイナに対する防壁となり、北京政府と対話になっても対決になっても、この地域の国々の利益となるであろう。

問題はオバマ政権のアジア重視政策がただの文言に過ぎず、中東でのアメリカの特別な役割を放棄しているかのように思われることである。それが超大国の自殺行為にもつながりかねない。現在のアメリカの東アジア政策は日中間の地政学的な競合を超えたグローバルな文脈から理解されるべきである。中東でのアメリカの役割を支持する者は中国の拡張主義にも毅然と立ち向かっている。財政支出強制停止に見られるようにアメリカ国内で孤立主義が高まる時代にあって、このことは銘記さるべきである。

アメリカとアジア太平洋諸国が強い日本を必要とするのはなぜか?ジョセフ・リーバーマン元上院議員の政策スタッフであったバンス・サーチャック氏は、最近の論文でその理由を述べている(“An ascendant Japan would boost U.S. interests”; Washington Post; April 19, 2013)。 リーバーマン氏はジョン・カイル元上院議員と共に孤立主義に反対する論文(“The danger of repeating the cycle of American isolationism”; Washington Post; April 25, 2013)を寄稿し、アメリカン・エンタープライズ研究所で「アメリカ国際主義プロジェクト」を設立している。よってサーチャック氏の政策分析はオバマ政権のアジア政策を批判的に見つめ、アメリカとアジア太平洋同盟諸国にとっての日本の戦略的重要性を評定するうえで示唆に富む。

そこで東アジアと日中競合に関するサーチャック氏の見解に触れたい。地域安全保障に関しては、アメリカが北朝鮮の核の脅威への対処で中国の協力を要請することもあるだろう。しかし中国は必ずしも核不拡散について国際社会と重要な利害を共有しているとは言えず、むしろ北朝鮮の体制崩壊を懸念している有様である。また中国のサイバー攻撃の脅威と海洋拡張主義はきわめて大きな懸念材料である。日本はそのような脅威に直面する国々にとって安全保障上の信頼できるパートナーになる大きな可能性を秘めている。日本の防衛支出はGDPの1%に過ぎないが、その軍事能力はアジアでも最も高度な部類に属する。さらにアジアでの緊張の高まりを受けて安倍政権は安全保障上の役割分担に積極的だとも指摘している。

オバマ政権はこうした議論を理解しているのだろうか?4月のジョン・ケリー国務長官による東アジア訪問に関して、外交政策イニシアチブのクリストファー・グリフィン副所長とロバート・ザラテ政策部長の連名論文に言及したい(“What John Kerry is Doing Right and Wrong in East Asia”; Diplomat Magazine; April 18, 2013)。ケリー長官は中国が無謀な侵入をしてきた際には日本とアジアのシーレーンを防衛すると明言した。しかし8人の共和党上院議員が4月12日付けでケリー氏に書簡を送り、中国の危険な冒険主義と日本の戦略的重要性への注意を促した。この書簡にはマルコ・ルビオ上院議員、ジョン・コーニン上院議員、ジェームズ・インホフ上院議員、ジェームズ・リッシュ上院議員、ケリー・エイオット上院議員、ロバート・コーカー上院議員、ジョン・バラッソ上院議員、サクスビー・チャンブリス上院議員、そしてジョン・マケイン上院議員が署名した。

実はケリー国務長官に書簡を送った8人の上院議員はイラク、アフガニスタン、シリアそしてイランでのオバマ氏の中東政策にはきわめて批判的である。この事実から、オバマ政権の中東への関与を弱める方針がアジアへの関与の強化につながるものではないことがわかる。中東で宥和姿勢のアメリカはアジアでも宥和姿勢になるものだ。日本とアジア太平洋諸国の政策形成者達はアジア転進政策などを無条件に歓迎するよりも、こうしたことを銘記すべきである。

他方でケリー氏は北朝鮮対策で中国の協力を取り付けるためにはアメリカのミサイル防衛システムの撤去さえ考慮している。中国は北朝鮮問題で不可欠なパートナーだが、西側民主国家による世界秩序に挑戦を突きつけている核大国である。抑止力を撤去してしまうことはアメリカのアジア太平洋政策で利益にはならない。マーティン・デンプシー米軍統合参謀本部長と房峰輝人民解放軍総参謀長の会談では、中国側が米中軍事協力の推進には三つの障害があると言ってきた。その障害とはアメリカから台湾への武器輸出、米軍による中国への偵察、そして対中武器禁輸である。さらに最近の人民解放軍白書で中国は名指しこそしないものの、アメリカが地域の緊張を高めていると非難している(“US, China military top brass take aim”; Asia Times; April 26, 2013)。

しかし全世界と域内で緊張を高めているのは中国であり、中でも東シナ海と南シナ海の洋上での威嚇行為とサイバー攻撃が深刻である。ジョン・マケイン上院議員が主張するように、アジア諸国民は「アメリカの力、アメリカの価値観、そしてアメリカのリーダーシップで形成された世界での生存繁栄を望んでいる」(“Why Asia Wants America”; Diplomat Magazine; May 22, 2012)のだが、中国がアメリカの覇権に真っ向から挑んでいる。政治家達は中国に対して挑発的な語句を注意深く避けているが、ジョセフ・ボスコ元国防長官官房審議官は中國を脅威だと明言している。中国は富裕、強大、自信過剰になり、国際体制がもたらす便益と西側の寛大な対話政策を利用しながら自己主張だけは強くなっていると警告する。これはアジア太平洋地域の国際海域で航行の自由を侵害する中国の態度に典型的に表れている(“Red China Remains a Threat”; Weekly Standard; November 26, 2011)。日本は地理的に中国の膨張を食い止めるには最も理想的な位置にある。

人道的な観点も中国の拡張主義への対処で重要な課題である。ペンシルバニア州立大学のキリク・カナト助教授はアメリカと西欧同盟諸国は今年の4月に起きたカシュガル衝突事件に典型的に見られるようなウイグル人に対する中国の抑圧を見過ごしてはならないと論評している。カナト氏は人権と自由に考慮を払わずに商業利益に重きを置いたアジア転進政策では「この地域全体に人道上の災いをもたらすばかりか欧米民主主義諸国の政策の正当性にも危機をもらたす」と述べている(“The Kashgar incident and China’s Uyghur question”; The New Turkey; May 9, 2013)。このメッセージは主としてアメリカ人とヨーロッパ人に向けられたものであるが、日本とアジア民主主義諸国の政策形成者達も銘記すべきものである。安倍政権が打ち出した 「安全保障ダイアモンド戦略」では人道主義の価値観が重要な柱である(“Shinzo Abe’s Strategic Diamond”; Diplomat Magazine; January 15, 2013)。

何よりも中国への単純な恐怖感からアジア転進政策を無条件に歓迎すべきではない。先に挙げた8人の上院議員の書簡の例に見られるように、アメリカが中東への関与に消極的ならアジアでも宥和政策に走る。日本の政策形成者たちはオバマ現政権との連絡を密にするのと並行して、アメリカの超大国の自殺行為に危機感を抱く国防増強論者や国際介入主義者達とも強い関係を築く必要がある。それこそが日米両国のみならずアジア太平洋民主主義諸国の重要な国益を増進させるのである。

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