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2013年7月21日

モルシ政権の失政とトルコへの影響

エジプトのモハメド・モルシ大統領の失脚は民主的なイスラム主義を唱える者達にとっては大打撃である。アラブの春によって彼らは勢力を伸ばした。民主的なイスラム主義は取り立てて目新しいものでもなく、すでにトルコではAKP(公正発展党)がアラブの春よりはるか以前に政権の座に就いている。しかしエジプトのクーデターによってイスラム・ポピュリズムの勢いはそがれてしまった。特にトルコのAKPが訴えるイスラム主義に基づく民主主義は大きく信頼性を損ねてしまった。両国の動向は中東でのイスラム・ポピュリズムの凋落をもたらした。エジプトの反モルシ・クーデタートルコにが与える影響を検証しようとしているのは、それが大きな理由である。そこで二つの点について議論したい。第一にはモルシ政権がエジプトの統治に失敗したのはなぜか?第二にトルコやその他のイスラム民主主義を目指す国々にはどのような影響があるのだろうか?

モルシ氏は、1952年の革命よりナセル、サダト、ムバラク政権と長きにわたって続いた警察国家に終止符を打つことに成功した。しかしナショナル・ジャーナル誌のマイケル・ハーシュ主任特派員は「イスラム主義の政権与党はまたしても近代社会の中でいかに自らの生きる道を見つけるかという単純なテストに合格できなかった。グローバル経済が急速な市場統合、市場開放、そして経済学の基本原則の徹底を求めている時代にあって、現実よりもイデオロギーを優先させてしまった」と評している。イスラム主義者は選挙を勝ち抜きながら国家統治には失敗している。イラン国民が最も穏健なハッサン・ロウハニ師を選出したのも、シーア派神権体制が1979年以来イランの経済と国際的な立場を悪化させてしまったからである。他の過激派ではハマスもガザ地区の統治で困難に直面している。トルコでは経済が好調にもかかわらず、エルドアン政権は市民の抵抗に直面している(“After A Rapid Rise, A Challenge To Political Islam”; NPR News; July 6, 2013)。

ムスリム同胞団は選挙に勝ったかも知れないが政治のうえではアマチュアである。スタンフォード大学フーバー研究所のコーリー・シェイク研究員は、権威主義体制が崩壊した後の社会では統治能力のない集団が権力を握ることが多く、そうした集団には国民的な合意を形成する経験が殆どないと論じている(“American Freedom and Egypt's Coup”; Foreign Policy – Shadow Government; July 3, 2013)。カーネギー国際平和財団のネーサン・ブラウン上席研究員はさらに、モルシ政権は他の政党と連携できなかったと主張する。彼らは現実への対処よりもイデオロギーに固執し、潜在的に手を組める可能性のある相手と提携する機会を失ってしまった。ムスリム同胞団は、自らが主導的な立場の政治団体よりも支配的な立場の政党になろうという間違った決断をしてしまった。その結果、モルシ政権への信頼は失われ、エジプト国民から嫌悪されるまでになった。ムスリム同胞団は国家統治の経験が不足しているにもかかわらず、選挙に勝ったというだけで自信過剰になってしまった(“Where Does the Muslim Brotherhood Go From Here?”; New Republic; July 3, 2013)。ブラウン氏が述べるイスラム主義者への教訓は、2009年に「政権交代」を果たしながら国家統治には失敗した日本の民主党に対するものとどこか類似している。

遺憾ながらモルシ氏は民主主義の重要な要素ともいうべき協議と国民合意の形成を軽視してしまったために、選挙で選ばれた独裁者になってしまった。民主主義には人権、法の支配、国民の政治参加が必要で、選挙はそうした要素の一つに過ぎない(“When coups advance democracy”; New York Daily News; July 7, 2013)。アメリカン・エンタープライズ研究所のマイケル・ルービン常任研究員は、ムスリム同胞団はエジプトにとってのはしかだと評している。モルシ氏は宗教を押し付けるばかりで、エジプト国民にとって重要課題である経済の改善については何もしなかった。しかしムスリム同胞団の秘密組織はテロ行為を行なうには依然として充分な勢力を保っている。以下のビデオを参照されたい。



では第二の問題としてトルコへの影響を検証したい。2011年のモハメド・モルシ氏の政権就任以来、トルコのレセプ・タイイプ・エルドアン首相はエジプトと強固な関係を築いて「より民主的でイスラム志向の中東」というビジョンを広めようとした。クーデターによってトルコは域内で孤立するようになった。シリア内戦によってアサド政権との緊張は高まっている。また親アサド政権のイランとの関係も悪化している。クルド問題によってイラクとの関係も悪化している。さらにトルコ自身が戦後になって文民政権が機能しなくなるとクーデターを繰り返してきた(“Egypt’s coup is a serious blow to Turkey’s vision of a more democratic Middle East”; Financial Times; July 4, 2013)。

モルシ政権に対する軍部の反撃はトルコの内政にも重大な影響を与えている。トルコ政府はエジプトのクーデターを受けて、街頭での抵抗運動への取り締まりを強めている。トルコの司法当局もエジプト軍のクーデターによる人権侵害を国際裁判にかけるように要求している。しかし欧米諸国はモルシ政権の統治能力の低さを懸念するあまりにクーデターには曖昧な態度をとっている。トルコから見ればこれはダブル・スタンダードであり、トルコ国民の間ではモルシ政権の失脚が欧米による陰謀だとの見方さえ出てきている。そのためにトルコと欧米の関係は冷却化している(“Egypt coup rattles Turkey’s Erdogan”; Financial Times; July 11, 2013)。今やAKP政権下のトルコは欧米からも中東近隣諸国からも孤立している。事態はアフメト・ダウトール外相が描くアフロ・ユーラシア圏の中核というトルコとは反対の方向に動いている。

エジプトであれ、トルコであれ、中東の他の国であれ、イスラム主義者が抱えるパラドックスが見られる。それは国民の投票によって政権を掌握しながら民主主義を裏切ってしまうということである。エジプトとトルコが何度もクーデターに見まわれたのは、非軍事政権の統治能力不足のためである。クーデターによってエジプトは失敗した国家になる危機から救われたが、軍事クーデターに依存している限り真の民主主義と良好な統治に向けての進歩は阻まれる。

国際社会はそうした文民政権の失敗と軍事独裁という悪しき循環にたいしてどのように対応すべきだろうか?ブルッキングス研究所のロバート・ケーガン上席研究員は、軍部が選挙で選ばれた政府をいとも簡単に政権から引きずり降ろせるということは、真に永続的な権力は軍部が掌握していることを意味すると述べている。軍が民主的に選ばれた政府を一度でも引きずり降ろせるということは、別の政権が誕生してもまた引きずり降ろせることになる。そうしたサイクルに歯止めをかけるために、ケーガン氏はアメリカが暫定政権に対して早期の政権移譲を行うよう、援助の停止をも含めたメッセージを送るべきだと主張する(“Time to break out of a rut in Egypt”; Washington Post; July 6, 2013)。ケーガン氏の処方箋によって軍事政権の支配が終われば、アメリカと国際社会は主としてグラスルーツのエンパワーメントによって意識の高い政策論争を活発化させるなど、ソフトパワーの行使ができる。

エジプトと同様にトルコも戦後にクーデターを繰り返してきた。しかしトルコのAKPはエジプトのムスリム同胞団よりも国家統治の経験と能力がある。さらに経済の好況によって、イスラム・ポピュリズムを嫌う富裕なエスタブリッシュメントからもある程度の支持を得ている。イスラム主義が創立背景にありながら、エルドアン党首のAKPは自らがキリスト教民主党のようなヨーロッパの保守政党と同じ立場だと訴えようとしている。エルドアン内閣は街頭での市民の抵抗運動に強い姿勢で臨んでいるが、人権と法の支配に関してはEUのコペンハーゲン基準がAKPの過激化と人権侵害を抑えるであろう。それらのビルトイン・スタビライザーが機能せず、軍部が事態の不安定化を許容できなくなってくると、トルコも第二のエジプトとなってしまうだろう。そうした事態になれば、中東の民主化に向けたこれまでの取り組みが後退してしまう。これはテロとの戦いに大きなマイナスである。よって、アメリカと国際社会はカイロが円滑かつ迅速に民主主義に移行するように働きかけねばならない。

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