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2013年8月31日

英国下院のシリア問題決議は大国の地位放棄だ

シリアでの非戦闘員の一般市民に対する化学兵器が使用を受けて、イギリスのデービッドキャメロン首相は国連安全保障理事会に市民を保護するための決議案を提案した(“Syria crisis: UK puts forward UN proposal”; BBC News; 28 August, 2013)。しかし保守党内の反主流派の反乱(“Dozens of Conservative MPs defied David Cameron over Syria”; daily Telegraph; 30 August 2013)によって、キャメロン政権が提出したシリアへの軍事介入の法案が下院では285対272で否決されてしまった(“UK's Cameron loses parliamentary vote on Syria action; Reuters; August 29, 2013)。

広く主張されているようにイラクでの経験がシリア問題で影を落としている。またイギリスが大国の責務を負うと信ずる内閣および与党執行部と、内政上の説明責任の方が国際舞台での力と威信よりも重要だと見る非執行部議員との間の心理的な食い違いにも言及しなければならない。それについて手短に述べたい。デイリー・テレグラフ紙とのインタビューに応じたキャメロン首相と自由民主党総選挙委員長のパディー・アッシュダウン卿は、今回のような国際的な危機を前にイギリスが世界第4位の軍事力を活用できないとあっては国際的な影響力の低下は避けられないと懸念する。他方で労働党のエド・ミリバンド党首はイギリスは非軍事手段によってアサド政権は国際規範を遵守するよう圧力をかけるべきだと述べている。以下のビデオを参照されたい。


キャメロン首相


アッシュダウン卿


ミリバンド労働党党首


キャメロン氏はミリバンド氏がロシアを支持してアメリカとの同盟関係に悪影響を及ぼしたと非難した。キャメロン氏はイギリスが国際機関を通じてシリアへの圧力を最大限に強めようとしていると強調(“David Cameron accused Ed Miliband of 'siding with Russia' over Syria”; Guardian; 30 August, 2013)したが、保守党内での孤立主義の高まりがイギリスの海外関与を消極化させ、シリアのバシャール・アル・アサド大統領やロシアのウラジーミル・プーチン大統領のような専制的な対抗勢力を喜ばせるだけになってしまう(“Britain and Syria”; Economist; August 30, 2013)。パディー・アッシュダウン卿は保守党反主流派の抵抗によってイギリスはアメリカからもヨーロッパからも孤立してしまったと述べている。

下院での採決を前にイギリス政府はシリアでの化学兵器使用に関して報告書を発行し、シリアから流出する大量破壊兵器の不拡散での責務を果たそうとしていた。保守党内の孤立主義者達は軍事介入の道義的な正当性を拒否した(“The heir to Blair: PM makes 'moral case' for attack on Syria”; Independent; 28 August 2013)。西側民主国家の間での指導的な地位という特別な役割を拒絶したうえに現政権の面目を失墜させた彼らはイギリスをどのような国にしたいのだろうか?

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2013年8月11日

日本の声をもっとアメリカ外交に反映させるにはどうすべきか?

日本はパックス・アメリカーナの世界での繁栄を享受する国であり、また自身がアメリカによって自由民主国家に作り直された国でもある。ナショナリストは近年盛んになった改憲論争で戦後憲法がアメリカ製だと不満を漏らす前に、こうしたことを銘記すべきである。アメリカ叩きなどしても、日本の安全保障と国際的な地位に対するセーフティー・ネットをなくすだけである。よって日本にとっては何を差し置いてもアメリカの外交政策形成者の間に自国の声を強く反映させることが重要になってくる。それは世界が一極であれ多極であれ同様である。

外交政策は主として国家と国家の関係を調整するものなので、安倍政権が鳩山政権下で破綻したオバマ政権との関係を改善することは間違いではない。ナショナリストと見られがちな安倍氏とリベラルどころか「ポスト・アメリカ」的とさえ言われるオバマ氏では政治理念に隔たりがあると指摘する声もある。しかし歴史上でも長続きする同盟関係は、そうした隔たりを乗り越えてきた。これはイギリスがアメリカと間の特別関係に典型的に見られる。現政権のイデオロギーがどうあれアメリカとの同盟関係の強化によって自らの国際的な立場を強めるということはイギリスの外交政策の優先事項で、そうした事例には民主党のケネディ政権と保守党のマクミラン政権および共和党のブッシュ政権と労働党のブレア政権という組合せが挙げられる。しかし日本の声をアメリカの政策形成に大きく反映させるにはそれだけでは足りない。

アジア系アメリカ人の人口増大を背景にした中韓ロビーに恐怖感を覚える日本国民の間からは、アメリカの政界周辺への影響力の浸透に攻勢をかける彼らに対して対抗ロビーを強化すべきだと主張する声もある。マイク・ホンダ下院議員が第二次大戦中の日本による朝鮮人慰安婦問題に対して提案した「悪名高き」決議案は、日本人の間に深い心理的な傷を負わせた。よってそうした心情は理解できるが、 特定の国の利益のために働くロビー活動にはアメリカ人から疑念と警戒心を呼ぶことになろう。1980年代に日本企業がロックフェラー・センターを買収した際、アメリカ国民が日本ロビーに激しい敵意を持ったことを忘れてはならない。「ジャパン・ロビー」あるいは「ジャパン・ハンドラー」への過剰な依存は日本の国益の全身には必ずしもつながらない。

むしろ日本がなすべきはアメリカの世界戦略との共通の利益を強調することである。オバマ政権のポスト・アメリカ思考に加えて共和党内で小さな政府にこだわり過ぎる者たちの間に孤立主義心理はあるものの、アメリカの外交政策形成者たちの間で国際主義者達の反転攻勢が見られる。日本にとっては疑わしい「日本ロビー」よりも彼らの方がずっと良いパートナーである。ワシントンの国際主義者達との関係強化には、日本側も広くグローバルな視点を持たねばならない。そこで典型的な事例について述べたい。一般の日本国民はオバマ政権がアジア転進政策を公表すると無条件で歓迎した。実際にはイラクとアフガニスタンからの撤退に見られるように、それは中東におけるアメリカの軍事的プレゼンスを低下させただけであった。さらにアメリカン・エンタープライズ研究所のマッケンジー・イーグレン常任フェローが頻繁に指摘するように、中国、北朝鮮その他に対抗するためのアメリカの軍事的プレゼンスが充分に強化されたわけではない

今年の4月にジョン・ケリー国務長官が東アジアを歴訪した際に、東シナ海をめぐる日中間の対立でアメリカが中国に宥和せぬように要求したのは国際介入派の人達である。ジョン・マケイン氏、リンゼイ・グラム氏、マルコ・ルビオ氏をはじめとする8人の共和党上院議員がケリー長官に公開書簡を送り、民主党のジム・ウェブ上院議員及び無所属のジョセフ・リーバーマン上院議員らが尖閣諸島への中国の侵攻の際にはアメリカが日本を防衛する義務を明言するために挿入させた国防授権法の修正条項("Senate Approves Webb Amendment to Reaffirm US Commitment to Japan on the Senkaku Islands"; Pacific News Center; 30 November 2012)を忘れることなきようにと訴えた。よってケリー長官宛の公開書簡は党派を超えた性格を持つ。また、彼らのほとんどはオバマ政権の中東政策を超大国の自殺行為だと批判している。問題はアメリカの戦略の地域バランスでも日本への注目度でもない。パックス・アメリカーナを守る責務を全うしようという意志こそ、日本にとっても他の国々にとっても利益となる。最も重要なことには9・11テロ事件によってパックス・アメリカーナの維持こそがアメリカ自身の国益に適うことが明らかになった。真のパートナーシップとは互恵的なものである。こうしたことは信頼性の低い「日本ロビー」などを通じては達成できない。

幸いなことにアメリカ国内の国際派からの動きもある。アメリカン・エンタープライズ研究所、ヘリテージ財団、外交政策イニシアチブは「国防の守護」という共同プロジェクトを立ち上げた。このプロジェクトでは財政支出強制削減に見られるような緊縮予算を強いられる時期に、どのようにしてアメリカの国防力を質量とも維持してゆくかを模索している。さらに重要なことに、政界の重鎮からもポスト・アメリカ主義と孤立主義への逆襲の動きが見られる。元民主党上院議員のジョセフ・リーバーマン氏と元共和党上院議員のジョン・カイル氏はAEIにアメリカ国際主義プロジェクトを設立した。このプロジェクトの目的はテロ、中国の拡張主義、核拡散など多様化した脅威に受動的に対応することではない。国際主義プロジェクトではもっと積極的にアメリカによる自由の価値観に基づいた世界の建設に関与してゆくことが謳われている。リベラル派であれ保守派であれ、アメリカが世界の平和と繁栄に積極関与することを謳ったシンクタンクや市民団体は数多い。重要な点は、名声と影響力のある政治家が財政的制約、海外介入への心理的疲労、孤立主義を乗り切ろうとしてリーダーシップを発揮していることである。日本の国益はそうした遠大な展望を持った人達のもの近くあるべきである。

当然のことながら、特定のロビー経路を通じて日本の国益を促進してゆくことも重要である。この場合、日本はアメリカ国内の民族、宗教、産業、その他あらゆる部門のグループから特定の目的に合った提携相手を見出さねばならない。こうしたグループとの提携が上手くゆけば、日本の影響を前進させ、それがアメリカ国民から肯定的に受け止められるようにするために役立つだろう。例えば親イスラエル・ロビーはユダヤ人と福音派の提携である。アラブ系テロリストへの恐怖心はアメリカ国民の間でも特にユダヤ系と福音派の間で広まっている。共通の問題意識を持つユダヤ系と福音派は、アメリカ世論に繁栄させるためにと強く結びついている。同様に、韓国系とアルメニア系はカリフォルニア州グレンデール市の慰安婦像の立像で強固な提携関係を結んだ。韓国系とアルメニア系は、それぞれが日本とトルコの抑圧を受けたという共通の歴史認識を持っている(“Glendale approves Korean 'comfort woman' statue despite protest”; Los Angels Times; July 10, 2013)。日本にとって、中国の影響力に対抗するためにはインド系が提携相手になれる可能性が考えられる。インド系と中国系は高度に専門的な頭脳職をめぐって競争関係にあるからだ。しかも両者の祖国は地政学的に競合関係にある。

アメリカの政界および周辺で日本の声を最大限に反映するためには、ここで論じたことが唯一無二というわけではない。いずれにせよ、広くグローバルな視野に基づいたアプローチであれ特定の提携関係に絞ったアプローチであれ、日本コネクションへの過剰な依存は日本の影響力を強化はしない。アメリカの主要同盟国であるイギリスやイスラエルも様々な経路を活用し、これらの方法を組み合わせてもいる。他の国家アクターも非国家アクターもアメリカへのアプローチを進化させているので、日本もそれに応じてゆく必要がある。

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