英国下院のシリア問題決議は大国の地位放棄だ
シリアでの非戦闘員の一般市民に対する化学兵器が使用を受けて、イギリスのデービッドキャメロン首相は国連安全保障理事会に市民を保護するための決議案を提案した(“Syria crisis: UK puts forward UN proposal”; BBC News; 28 August, 2013)。しかし保守党内の反主流派の反乱(“Dozens of Conservative MPs defied David Cameron over Syria”; daily Telegraph; 30 August 2013)によって、キャメロン政権が提出したシリアへの軍事介入の法案が下院では285対272で否決されてしまった(“UK's Cameron loses parliamentary vote on Syria action; Reuters; August 29, 2013)。
広く主張されているようにイラクでの経験がシリア問題で影を落としている。またイギリスが大国の責務を負うと信ずる内閣および与党執行部と、内政上の説明責任の方が国際舞台での力と威信よりも重要だと見る非執行部議員との間の心理的な食い違いにも言及しなければならない。それについて手短に述べたい。デイリー・テレグラフ紙とのインタビューに応じたキャメロン首相と自由民主党総選挙委員長のパディー・アッシュダウン卿は、今回のような国際的な危機を前にイギリスが世界第4位の軍事力を活用できないとあっては国際的な影響力の低下は避けられないと懸念する。他方で労働党のエド・ミリバンド党首はイギリスは非軍事手段によってアサド政権は国際規範を遵守するよう圧力をかけるべきだと述べている。以下のビデオを参照されたい。
キャメロン首相
アッシュダウン卿
ミリバンド労働党党首
キャメロン氏はミリバンド氏がロシアを支持してアメリカとの同盟関係に悪影響を及ぼしたと非難した。キャメロン氏はイギリスが国際機関を通じてシリアへの圧力を最大限に強めようとしていると強調(“David Cameron accused Ed Miliband of 'siding with Russia' over Syria”; Guardian; 30 August, 2013)したが、保守党内での孤立主義の高まりがイギリスの海外関与を消極化させ、シリアのバシャール・アル・アサド大統領やロシアのウラジーミル・プーチン大統領のような専制的な対抗勢力を喜ばせるだけになってしまう(“Britain and Syria”; Economist; August 30, 2013)。パディー・アッシュダウン卿は保守党反主流派の抵抗によってイギリスはアメリカからもヨーロッパからも孤立してしまったと述べている。
下院での採決を前にイギリス政府はシリアでの化学兵器使用に関して報告書を発行し、シリアから流出する大量破壊兵器の不拡散での責務を果たそうとしていた。保守党内の孤立主義者達は軍事介入の道義的な正当性を拒否した(“The heir to Blair: PM makes 'moral case' for attack on Syria”; Independent; 28 August 2013)。西側民主国家の間での指導的な地位という特別な役割を拒絶したうえに現政権の面目を失墜させた彼らはイギリスをどのような国にしたいのだろうか?
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