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2013年9月30日

アメリカとヨーロッパが指導的責務を果たさぬ危険な世界

皮肉である。20世紀初頭の欧米は「白人の責務」を自負するほど自信過剰であり、それが帝国主義的資本主義の絶頂期をもたらし、ついには歴史上最も破滅的な世界大戦にまで至った。しかし今日では欧米が責務を担うことに消極的で自己否定的なために世界が無秩序に向かっている。問題はオバマ政権による 超大国の自殺行為だけではない。イギリスでは下院がシリアに対するR2P作戦を否決し、ブレア政権の自由介入主義を引き継ごうとしたキャメロン政権には大打撃となった。ドイツでもギリシアとキプロスの金融危機救済を負担に感じる国民は、以前ほどヨーロッパの統合に積極的でなくなってなっている。

冷戦期には強固な大西洋同盟が自由世界の礎であった。これによってアメリカの同盟諸国がアジア太平洋地域からその他の地域まで広がることになった。冷戦後、NATOはアフガニスタンにまで作戦範囲を拡大し、アル・カイダに代表されるヨーロッパ大西洋圏外のグローバル化した脅威に対処するようになった。しかし現在はアメリカもヨーロッパも自らのハード・パワーとソフト・パワーを世界と地域の公益に活用することに消極的となり,
世界から隔絶された自分達だけの幸福を追求するようになっている。欧米に何が起こったのか?

米英両国ではイラクとアフガニスタンでの戦争に対する厭戦気運が高まっている。党利党略と経済不況も両国が世界の警察官を担う士気を低下させている。ロシアや中国のような専制国家やアル・カイダのようなテロ組織は、そうした厭戦気運を自分たちに有利なように利用している(“The weakened West”; Economist; September 21, 2013)。ギリシア・ローマ文明の継承者で世界の普遍的な規範の形成者が国際公益を担う責務を放棄しようとしているのである。

欧米が指導的な役割に消極的になっている理由を国ごとに検証してみたい。まずアメリカについて述べたい。シリア攻撃に対する国民の反対に鑑みて、バラク・オバマ大統領は9月10日にアメリカが世界の警察として行動することはないと発言した(“Team America no longer wants to be the World’s Police”; Washington Post; September 13, 2013)。英国王立国際問題研究所のゼニア・ドーマンディ上席フェローは9月27日のフランス24テレビとのインタビューで、アメリカの軍事力と経済力は依然として他を圧倒するが、問題はそれをどのように利用するのか、そうした力を国際公益のために利用する意志を持続できるかだ応えている。以下のビデオを参照されたい。



国民の間に厭戦気運の高まりがあるとは言え、アメリカでもパックス・アメリカーナが世界とアメリカ自身に利益をもたらすことをしっかりと認識する指導者はいる。マルコ・ルビオ上院議員は「アメリカが強大で積極関与することが世界にとって良いことなのは歴史が示す通りである。いかなる戦争にも勝てる軍事力を持つことが平和の維持に最善の方法であることも歴史が示す通りである。我が国の外交政策は同盟諸国との関係の維持と深化が至上命題であり、アメリカに味方する国が脅威を受けているならばその国を支援するのが当然である」(“Putin Is Wrong”; National Review Online; September 12, 2013)と述べている。ルビオ氏がここで述べたことは9・11テロ攻撃の重要な教訓でもある。

次にヨーロッパについて述べたい。2008年の世界経済会議フォーラムではヨーロッパから日本は国際舞台で忘れ去られた存在なのかという問いかけがなされた。しかし私はヨーロッパのポスト帝国主義志向が全世界でヨーロッパへの関心を低下させていることも銘記したい。例えば日本のメディアの間ではEUとヨーロッパの主要国よりも韓国の方がはるかに注目されている。ヨーロッパの政治力、経済力、軍事力、文化力を考慮すれば、これは何かの間違いではないかと思えるほど信じ難いことである。それはヨーロッパ諸国民が世界の動向への責務を担うにはあまりにも自己批判的になってしまい、内向き志向が強まり過ぎたことが主な理由である。

アメリカとの特別関係を通じて大国の地位を誇示してきたイギリスさえ、下院ではシリア介入が否決された。きわめて重要なことに、保守党からもデービッド・デービス下院議員、クリスピン・ブラント下院議員、ジュリアン・ルイス下院議員らが戦争の激化とロシアとの対決を恐れてキャメロン政権の方針に反対票を投じた(“Dozens of Conservative MPs defied David Cameron over Syria” Daily Telegraph; 30 August, 2013)。ガーディアン紙のポリー・トインビー論説委員は、シリア問題での下院決議はイギリスが帝国主義的伝統とブレア政権以来の自由介入主義と決別したことを意味すると述べている(“No 10 curses, but Britain's illusion of empire is over”; Guardian; 29 August, 2013)。しかしアメリカと共に世界の警察官の役割を担うことを躊躇し、EUからも離れ、帝国主義的な伝統も拒絶するようなイギリスとは何者になるのだろうか?

ドイツでも世界との関わりを拒絶する孤立主義が台頭している。先の選挙でアンゲラ・メルケル氏のキリスト教民主同盟が勝利したものの、連立を組んでいたネオ・リベラルの自由民主党が議席を減らした(“Early results give FDP 4.7 percent, short of representation in Bundestag”; Deutsche Welle; 22 September, 2013)のは、グローバルあるいはヨーロッパ域内でのボーダーレス・エコノミー への恐怖感のためである。ドイツ国民がメルケル氏を選出したのは、ナショナリズムの台頭に債務危機と若年失業が重くのしかかるヨーロッパ大陸の中では比較的安定と繁栄を享受している自国の現状に満足しているからである (“Why Germans May Stick With Merkel’s Steady Hand”; Bloomberg News; September 21, 2013)。ドイツの有権者が自分達の祖国の偉大さ、強さ、地域への責には無関心であることは、ギリシアとキプロスの金融危機に対する自己防衛的な反応からもうかがい知れる。ドイツがヨーロッパ統合に果たした歴史的な役割を考慮すれば、これは問題である。

私は古き時代の「白人の責務」といった考え方を支持する気は毛頭ないが、現在の情勢から見てヨーロッパはグローバルな諸問題への対処でもっと積極的な役割を果たすべきであり、忘れ去られてはならない。欧米がそのように世界との関わりを忌避し自国にばかり目を向けるようになることによる致命的な結末は、ロシア、中国、イスラム系テロリストといった挑戦者達の間でアメリカもヨーロッパも世界の中で自らの優位を訴えられなくなったという認識が広まることである。「西欧の衰退」という認識が広まれば、こうした勢力がより強引で現在の世界体制を否定するような態度をとるようになるだろう。 その結果、西欧対その他の衝突は激化するようになる。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領による最近の投稿(“A Plea for Caution From Russia”; New York Times; September 11, 2013)は、アメリカあるいはより広く欧米全体の優位に対する明らかな抵抗宣言である

西欧とその他の亀裂が深まると、日本、インド、トルコなど両者の中間的な位置にある国々は難しい立場に追い込まれる。これらの非西欧民主国家は欧米と緊密な関係にある地域大国である。日本とトルコは明治維新とケマル革命による近代化の成功があまりにもよく知られている。第二次世界大戦後は両国とも西側同盟の必要不可欠な一員である。他方でインドは第三世界の指導的立場を自任してきた。しかしシン政権の就任以来、インドは欧米との経済的関係を深化させてきた。テロとの戦いによってインドと欧米との関係はこれまでになく強まった。

欧米が世界の指導的地位を忌避する一方で挑戦者達が攻勢を強めるようになると、中間的な立場の国々は自主独立路線を採るべきなのだろうか?日本の鳩山政権とトルコのエルドアン政権が欧米離れで失敗したことを忘れてはならない。非常に興味深いことに鳩山氏もエルドアン氏も近隣の新興経済諸国の方が欧米よりも将来性のあるパートナーだと考えていたことである。しかし鳩山由紀夫氏による東アジア共同体構想は中国の専制的な拡張主義政策によって頓挫した。トルコのアフメト・ダウトール外相が描く「アフロ・ユーラシア圏の中核としてのトルコ」という青写真も、イラン、シリア、イラクとの関係悪化で頓挫し、イスラム・ポピュリズムを標榜したエジプトのモルシ政権は失脚した。日本で鳩山氏が中国の脅威に対するアメリカの抑止力の意味を学んだように、トルコは隣国シリアの内戦に対処するうえで信頼に足るパートナーはNATO以外にないこと実感している。こうした点から、丹羽宇一郎元駐中国大使が商社マンの本能に基づいて日中外交を仕切ろうとしたことは誤りであった。

西洋は普遍的な規範の設定とグローバルな体制の構築の能力では支配的な地位にあり、そうした優位はギリシア・ローマ、ルネサンス、啓蒙主義時代に深く根ざしている。挑戦者達は一見強大に見えるが欧米に抵抗しているだけで、実際には自分達が世界の指導的な地位を取って代わろうとは考えてはいない。ロシアはユーラシアのハートランドでの優位を主張し、中国は太平洋地域で、他のアクターも同様にしているに過ぎない。日本やインドのように中間的な立場の国がなすべきは、欧米離れではなく彼らとの責任の分担である。イスタンブールがオリンピック招致に失敗したのは、エルドアン政権による「自主独立」外交政策の致命的な結末と言える。むしろ中間的な立場の有力国が国威際問題に積極関与すれば欧米が自信を持って世界の行方に責任を担うための後押しとなり、この方が鳩山氏とエルドアン氏が模索したような政策よりもはるかに建設的なものになる。

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