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2013年10月22日

トルコの中国製ミサイル導入は由々しき事態である

トルコが中国からミサイル防衛システムの導入を決定したというニュースはNATO同盟諸国に重大な懸念を呼び起こした。中国が数多くの競争相手を退けたのはなぜだろうか?何はともあれトルコがNATOに留まりEUとの関係も維持したいのなら、この取り決めがもたらす政治的意味合いは深刻である。問題は中国によるNATO防空システムへの浸透にとどまらない。トルコが商談を進めている相手はCPMIEC(中国精密機械進出口総公司)という国営企業で、今年の2月にはイラン、北朝鮮、シリアに対する核不拡散の規定に違反したとしてアメリカ政府より制裁を受けている。CPMIECは2003年にもイランへの兵器輸出でアメリカの制裁を受けている(“US-sanctioned Chinese firm wins Turkey missile defense system tender”; September 26, 2013; Hurriyet Daily News)。言い換えればトルコはそのような無法企業に利潤を挙げさせて国際的な核不拡散体制の行動規範に従わないことになる。

なぜ レセップ・タイイプ・エルドアン首相はそのような悪名高い企業と問題のある商取引を進めるのか?エルドアン政権は欧米からの自主独立外交政策を追求している。しかしこれだけがアメリカとヨーロッパの企業を差し置いて中国のミサイル・システムを選択した理由ではない。中国はトルコが求める技術移転に欧米よりも積極的である(“Why Turkey’s Buying Chinese Missile Systems”; Diplomat Magazine; September 30, 2013)。中国の著作権保護が放漫で、欧米、ロシア、イスラエルから盗用した技術を活用していることにも注意を喚起したい。よって技術移転の規範が緩やかということは、テロリストが最先端技術を入手しかねないという懸念がある。ヒズボラのように主権国家以上に武装されたテロ組織があることは銘記されるべきで、エルドアン政権はそうした危険な企業に利潤を挙げさせているのである。

技術移転の他にもトルコはSCO(上海協力機構)との関係深化を通じて新シルクロード地域での経済的な機会を模索している。それを象徴するのが2010年にトルコのレセップ・タイイプ・エルドアン首相と中国の温家宝首相(当時)との間で交わされた二国間貿易促進の合意である。習近平国家主席は就任前の2012年にこの合意を再確認した。非常に警戒すべきことに、アン・ベス・カイム氏とタフツ大学フレッチャー外交法律学院のスルマーン・カーン助教授は、トルコと中国がアメリカの優位への懸念を共有していることは、トルコ国民のかなり多くがアメリカを抑圧的な超大国だと見なしていることからもわかると指摘する。

しかしユーラシアでのトルコの立場は複雑である。NATO加盟国というトルコの立場はSCOへの正加盟とは相容れない。またウイグル問題もトルコが中国と真のパートナーとなるうえで障害となる(“Can China and Turkey forge a new Silk Road?”; New Turkey; February 6, 2013)。ある日本在住のウイグル活動家はミサイル取引が中国の圧政体制を利するとして関して失望の意を漏らした。欧米諸国と同様にトルコも世界有ウイグル会議の指導者数名を受け入れている。欧米からの自主独立だけのために親中外交政策をとれば、テュルク系の民族的なつながりと緊密な関係があるトルコのアフロ・ユーラシア政策は頓挫してしまう。

トルコと中国のミサイル取引は中国の大々的な武器輸出攻勢を象徴している。2012年には中国はイギリスを抜いて世界第5位の武器輸出国になった("For China, Turkey missile deal a victory even if it doesn't happen"; Reuters News: October 2, 2013)。偶然にも韓国が中国と同様な取引を行なっているのも、パク・クネ大統領が従来以上にアジア志向の外交政策をとっているためだが、それが日米両国のとって不満の種となっている。事態は中国の武器輸出の「大躍進」にとどまらない。中国は大西洋と太平洋でアメリカの同盟関係に楔を打ち込み、両地域の同盟諸国の中でもウィーケスト・リンクを標的にしている。

戦後の日本における鳩山由紀夫氏と同様に、エルドアン氏はトルコ近代史では例外的な首相である。両氏とも自らの国のナショナル・ファンダメンタルとも言える「脱亜入欧」すなわち西欧諸国の仲間入りによって国力を増強して第一級の文明国になるという思想に異を唱えている。しかし鳩山氏の東アジア共同体という夢は惨めな失敗に終わり、エルドアン氏の中東善隣外交も同様な運命を辿った。トルコは過ちを繰り返すのか?それはNATO同盟諸国と彼らのウイグル人同胞を苛立たせるだけである。エルドアン氏は中国を強大で頼れるパートナーと思っているのかも知れないが、その国にトルコ近隣への戦力投射能力はない。シリア危機でトルコを支援できるのはアメリカおよびヨーロッパ同盟諸国だけである。エルドアン氏は第二次世界大戦でヒトラーのドイツと同盟したという日本の過ちから教訓を得るべきである。ナチス・ドイツには太平洋地域への戦力投射能力などなかったので、日本は事実上孤立無援で戦争を戦った。

トルコにとって第一のパートナーは欧米であり、いかなる勢力もこれにとって代わるものではない。AKPは自らの政治理念をヨーロッパのキリスト教民主党と同列に位置付けてイスラム主義に恐怖感を抱くEU世論を宥めようとしている。またトルコは人権と少数民族の権利、特にクルド人問題ではコペンハーゲン基準に従う他はない。最後に、日本はNATO同盟諸国とともに、韓国の政策とも表裏一体とも言えるトルコと中国のミサイル取引の中止に向けて行動すべきだと訴えたい。安倍政権は積極平和主義と地球儀を俯瞰する外交を訴えているので、日本は欧米とアジアの同盟諸国と共に行動し、中国がウィーケスト・リンクを狙いすますといった事態を許してはならない。

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