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2013年12月31日

イランとの核交渉は実を結ぶのか?

穏健派のロウハニ政権の就任はメディアと専門家筋から非常に好意的に受け止められ、 中にはイランとのデタントを期待する向きもある。アメリカ政界とも個人的に緊密なつながりを持つモハマド・ザリフ氏が外相に起用されたことで、そうした歓迎ムードは強まっている。イラン経済が制裁の痛手を受けたために欧米との雪解けに歩まざるを得なくなったとの理解が広まっている。しかしイランが平和志向の国になったと見なすには時期尚早である。ハッサン・ロウハニ大統領は就任以来、前任者のマフムード・アフマディネジャド氏による「イスラエルの抹殺」という悪名高き発言をまだ取り消していない。さらにイランは核交渉を進めながら欧米との対決姿勢も見せている。またジュネーブ合意に基づく交渉はイランの核兵器保有の野望阻止には完全とは言い難いので、フランス、イスラエル、湾岸アラブ諸国は深刻な懸念を抱いている。

まず、核交渉と並行してイランが欧米に対して仕掛けている地政学上のパワー・ゲームについて述べたい。ジュネーブ交渉の内容をさらに進めるために12月9日から12日にかけて行なわれたウィーン交渉を前に、ロウハニ師はアフガニスタンのハミド・カルザイ大統領と協力条約の締結に合意した。両国首脳会談ではロウハニ師がカルザイ氏にアフガニスタン駐留の外国軍の完全撤退を要求した(“Afghanistan agrees to pact with Iran, while resisting US accord”; FOX News; December 8, 2013)。現在、アフガニスタンとアメリカのBSA(二国間安全保障合意)に向けた交渉が頓挫しているのは、カルザイ氏がロヤ・ジルガの承認を覆してアメリカ側に次のような要求をしたからである。その内容はまず米兵による不行の場合の司法管轄権の帰属の再考、アフガニスタン軍に供給する兵器の最新化、そしてアフガニスタン国内の兵員駐留期限の設定である(“Afghan President Hamid Karzai says he’ll delay signing of U.S. accord on troops”; Washington Post; November 21, 2013)。

アフガニスタン外務省のジャラド・モルザイ報道官は、アフガニスタンはイランともアメリカとも良好な関係を模索していると述べた(“Afghanistan rejects reports on Iran’s support to Afghan militants”; Khaama Press; December 15, 2013)。他方でイランはアメリカとアフガニスタンのBSAはNATOの任務が終了する2014年以降も外国軍の駐留を延期するものだと非難している(‘US-Afghan security pact detrimental for region’; Press TV; December 3, 2013)。

イランはさらにアメリカを刺激する行動に出ている。チャック・ヘーゲル国防長官とパキスタンのナワズ・シャリフ首相がイスラマバードで会談した際には無人機攻撃をめぐって関係が冷却化する一方で、イランのビジャン・ザンゲネ石油相とパキスタンのシャヒド・アッバシ石油・天然資源相はテヘランで両国がパイプライン建設作業を再開すると表明した。アメリカはその取り決めによって現在の対イラン制裁が空洞化すると反対している。パキスタンはイランからの天然ガスの需要を満たすためには、制裁継続の見返りにアメリカが提供しているインフラ支援をも無視している(“Pakistan Wants to Accelerate Iran Natural Gas Pipeline”; Diplomat Magazine; December 11, 2013)。イランがパキスタンとアフガニスタンに仕掛けている外交攻勢から、アメリカとのデタントなど遠いものだとわかる。

シリアも核交渉と相互関連する地政学的な問題である。イランはアサド政権への支援、イラクで戦う民兵の採用活動、ヒズボラとの同盟によるレバノンでの影響力拡大とイスラエル抑止といった政策で欧米と対立している。こうした政策は、国連主導で1月22日にスイスのモントルーで開催されるシリア会議に真っ向から挑戦を突きつけるものである。ロウハニ師が核協定による制裁の緩和を模索する一方で、革命防衛隊はそうした取り組みを利用してテロリストを支援しようとしている。ワシントン近東研究所のアンドリュー・タブラー上席フェローは「レバント地域が強硬派の影響下に置かれれば、イランの核開発に関する取り決めは機能しなくなる」と論評している。他方でカーネギー国際平和財団のカリム・サドジャプール上席研究員によると「シリアに関するイランの立場は、誰かがアサド政権に取って代わるとアメリカにとってもイランにとっても現状より危険になる」ということである(“On Iran and Syria, Tests of Diplomacy Intertwine”; New York Times; December 19, 2013)。問題は、核交渉とイランの地政学的な抵抗姿勢を分けて考えられるかということである。

さらにイランのホセイン・デフガン国防相がイラン軍はレーザー技術により長距離ミサイルの精度を向上させたと公表したのは、ウィーン交渉が始まったその日であった。アメリカ国防総省はイランのミサイル精度が急速に高まっていることに危機感を強めている (“Iran Asserts Dramatic Gain in Ballistic-Missile Precision”; Global Security News; December 9, 2013)。そうしたミサイルは湾岸王政諸国やイスラエルに大きな脅威となる。イランが本気で核開発を停止するつもりなら、ミサイルの性能を向上させる必要があるのだろうか?

現在のイラン経済は制裁により大きな打撃を受けている。過去2年間で石油輸出は60%も落ち込んだ。GDPは5~6%縮小し、インフレ率と失業率はそれぞれ45%および35%も跳ね上がった。ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院のバシル・ナスル学長は、主要国はイランに圧力をかけるよりもこの機を逃さずに核交渉に乗り出すべきであると主張する(“Iran’s Economic Crossroads”; New York Times; December 4, 2013)。イランには主要国に対して国連査察を受け入れる代わりに制裁解除を要請しなければならない立場である。しかしイランが経済のためだけで核不拡散の国際規範に従うと思い込むことは危険である。技術的に言えばイランは取り決めの抜け道を見出すこともできるさらにイランの体制の在り方も問われねばならない。

ジュネーブ合意の下では、イランは5%以上のウラン濃縮の停止、国連査察の受け入れ、アラクのプルトニウム施設の操業停止をしなければならない。P5+1はその見返りにイランの石油および石油化学製品の輸出への制裁緩和、および人道的経済交流の円滑化のための資金調達窓口の設立を行なう。またアメリカ、EU、国連安保理は核開発との関連で新たな制裁を課さないことになった(“Full Text of Iran-5+1 agreement in Geneva”; Global Security News; 24 November 2013)。問題はイランがウラン濃縮を継続できることで、この件に関してはイランと欧米の理解の溝は埋まっていない。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、この取り決めではウラン濃縮が認められているためにイランを第二の北朝鮮にしてしまう歴史的な誤りだと述べている(“Iran agrees to curb nuclear activity at Geneva talks”; BBC News; 24 November 2013)。共通の脅威を抱えるイスラエルはサウジアラビアとの戦略提携の可能性を探るようになっている。イランはパレスチナとレバノンでハマスを、シリアでアサド政権を、湾岸王政諸国ではシーア派の反体制勢力を支援している。さらにイスラエルと湾岸アラブ諸国は、アメリカが自分達を顧みずにイランとの協調路線を進めているのではないかと懸念している(“Iran nuclear deal triggers anxiety for Israel and Gulf”; BBC News; 25 November 2013)。

中東地域のアメリカの同盟諸国がオバマ政権に対してそのような不信感を抱くのは、地政学だけが理由ではない。ジュネーブ交渉の前にアメリカとイランはオマーンで秘密交渉を行なった。イスラエルと湾岸アラブ諸国の懸念にもかかわらず、イギリスのデービッド・キャメロン首相はジュネーブでの合意のように「継続的な外交努力と厳しい制裁を併用してゆくことは我が国の国益に適う」と述べている(“Secret talks helped forge Iran nuclear deal”; Guardian; 25 November 2013)。事態はそのように楽観視できるのだろうか?ジュネーブ交渉の当事者でもあるフランスのローラン・ファビウス外相が懸念しているのは「イランが核開発計画のある部分を制限すれば金融制裁が緩和される」と記された合意文書の後半で、それは「イランが核兵器開発能力を完全に放棄するのか、それとも一時的に核開発を中止するだけなのか明確でない」からである(“French Foreign Minister: Iran Might Not Give Up Nuclear-Arms Potential”; Global Security Newswire; December 19, 2013)。

実際に2005年にはこれと類似した取り決めが提案され、イランは遠心分離機の数が制限される代わりにウラン濃縮が認められることになっていた。しかしブッシュ政権とEUはその提案を拒否した(“An enriching dialogue with Iran — with limits”; Washington Post; October 18, 2013)。ジュネーブ合意は2005年から後退したものなのだろうか?民主党のロバート・メネンデス上院議員が委員長を務める上院外交委員会は、イランへの圧力を強化するために12月19日付けでイラン非核化法案を超党派で発議し、イランの核開発能力の根絶を訴えた(“Senators Introduce Bipartisan Iran-Sanctions Bill”; Global Security Newswire; December 19 2013)。

技術的な問題とともにイランの戦略的な意図も探らねばならない。イランは第二の北朝鮮になろうとしているのか?英国王立国際問題研究所のパトリシア・ルイス国際安全保障研究部長とフィナンシャル・タイムズ紙のギデオン・ラックマン外交主任論説員は、同紙との11月28日のインタビューでそうした見方を否定している。両者は以下の点を指摘している。北朝鮮とは違い、イランではIAEAが核施設に完全にアクセスできる。さらにイランは北朝鮮のように数十年にわたる貧困と孤立に陥る気はない。またイランはNPTからの脱退をほのめかしたことはなかった。以下のビデオを参照されたい。



しかし2016年の大統領選挙で共和党の指名を得られる可能性が高い人物の一人であるマルコ・ルビオ上院議員は、イランのウラン濃縮能力は急速に向上し、核兵器と長距離ミサイルの開発に多大な金額を費やしていると指摘している。ルビオ氏は厳しい圧力だけがアリ・ハメネイ最高指導者を核交渉のテーブルに引っ張り出したので、イランが核兵器の開発を完全にやめるまで制裁を継続すべきだと訴えている(“Rubio: Keep heat on Iran on nuclear talks”; USA Today; October 15, 2013)。

またイランの体制の性質も重要である。アメリカン・エンタープライズ研究所のマイケル・ルービン常任研究員が主張するように「イラン政府が国民の生活福祉を革命の理念より上位に置いたことはほとんどない。最高指導者は自らを地上におけるメシアの代理人だと考えている。主権は神に由来する。イラン国民が何を考えているだろうかなど考慮に値しないのだ」という事実を銘記すべきである(“Bad Iran deal worse than no deal”; CNN Global Public Square; November 12, 2013)。合意の内容が厳しいとはいえ、それでもイランが北朝鮮のようになる可能性を忘れてはならない。重要な問題はイランへの制裁を緩和しながら核開発に一定の歯止めをかけるのか、それとも制裁を強化してイランの核保有の可能性の完全排除を目指すのかである。

ロウハニ師は穏健派と思われているが、それでもイランは核搭載可能なミサイルの性能を向上させ、パレスチナ、レバノン、シリア、イラク、ペルシア湾岸、アフガニスタン、パキスタンにまでいたる地政学的な野心を示している。核開発はシーア派の神権政治の輸出という革命の理念と深く相互関連している。彼らは一時的なデタントを利用して後で核計画を推し進める資金を調達するかも知れない。さらにオバマ政権がジュネーブ合意に対する超党派の反対を乗り切れるのかを注視すべきである。これに対処できないようならオバマ政権はこれまで以上に死に体となってしまうだろう。

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