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2014年1月22日

安倍首相の参拝、そして靖国とアル・カイダの類似性

安倍晋三首相のよる突然の靖国神社参拝は、日本のナショナリズム復活に対する論争を呼び起こした。キャロライン・ケネディ大使はアメリカ政府を代表し、安倍首相の参拝直後に「失望」という抑え気味のメッセージを発した(“Japan leader’s shrine visit draws criticism from U.S., Asian neighbors”; Stars and Stripes; December 25, 2013)。安倍氏の行動が中国および韓国との緊張を高め、沖縄の普天間米軍基地問題の解決による日米関係の好転が無駄になってしまった。

問題は日本が中国や韓国と抱える歴史認識の不一致ではなく、大西洋憲章に基づく自由主義世界秩序への抵抗と見られることである。靖国神社は太平洋戦争の戦争犯罪人を数多くの無名戦士とともに合祀しているため、欧米では軍国神社(War Shrine)と呼ばれる。重要な問題はこの神社のイデオロギーである。私は2005年12月22日に靖国神社に実際に行ってみたが、参拝はしなかった。驚かされたのは靖国が東京裁判に異を唱えていたばかりか、現人神たる天皇の名の下に無垢な若者達を洗脳した自爆攻撃を礼賛していたことである。これはまさにアル・カイダがアラーの名の下に行なっていることである。

自爆攻撃のイデオロギーなど暗黒時代の思想であり、理性と人間性に価値を置くルネサンス以降のいかなる文明とも相容れない。よって問題は第二次世界大戦の戦勝国か敗戦国かではないし、また日本が中国と韓国に宥和すべきだとも思っていない。問題の焦点は簡明である。靖国のイデオロギーは人類の普遍的な価値観とは完全に異質なものである。あのアドルフ・ヒトラーでさえそのように野蛮で非人道的な戦術を採用しなかったことを銘記すべきである。神の名の下に組織的で大規模な自爆攻撃を行なったのは、戦時日本とアル・カイダだけである。日本の右翼はこのことを銘記すべきである。外国からの圧力や批判ではなく、日本国民がどのような立場をとるかが問題なのである。現在の日本は西側民主諸国の中核として、テロリストが掲げる狂気と憎悪のイデオロギーと戦う立場にある。

好むと好まざるとにかかわらず、日本の政策形成者達は安倍氏の靖国参拝がアジア太平洋外交に及ぼす影響を分析する必要がある。広く知られているように安倍氏は日本を戦後世界秩序の「くびき」から解き放ち、国家の誇りを取り戻そうとしている。しかし靖国神社への参拝は、特に中国と韓国をはじめとしたアジア諸国からは戦中の軍国主義の正当化と見なされている。またアメリカとの緊張も重要である。ブッシュ政権はサダム・フセイン打倒のための有志連合を必要としていたため、小泉純一郎首相(当時)の靖国参拝を許容した。オバマ政権下でアメリカはアジアへの戦略的なリバランスを採用しているので、日本が中国や韓国と「不必要」な衝突する事態を好ましくは思っていない。これらの点から、ニュー・サウス・ウェールズ大学のオーレリア・マルガン教授は安倍氏の「自己満足的」な靖国参拝が東アジアの安全保障に有害だったとして批判している(“Abe puts personal interests ahead of Japan’s at Yasukuni”; East Asia Forum, 1 January 2014)。

ここで、オバマ政権が従軍慰安婦問題で辛辣な反日姿勢をとり続ける韓国のパク政権に態度の軟化を働きかけたことを注視すべきである。去る12月初旬にジョセフ・バイデン副大統領が韓国を訪問した際に、パク・クネ大統領に日本との関係改善を求めた。安倍氏の参拝はそうした努力を無駄にするものだった(「【首相靖国参拝】 「失望」の裏に憤り 米、参拝静観に決別」; 47NEWS; 2013年12月29日)。他方で安倍氏の靖国参拝の背景を理解する必要がある。日本の首相による軍国神社への参拝の如何を問わず、北東アジアの緊張は悪化の一途をたどっている。韓国のパク政権は就任以来、親中化を強めている。中国は尖閣諸島周辺にADIZ(防空識別圏)を一方的に主張して海洋での日米の優位に挑戦を突きつけている。さらにアメリカン・エンタープライズ研究所のマイケル・オースリン常任研究員は、安倍氏には12月初旬にジョセフ・バイデン副大統領が中国の習近平国家主席との会談で宥和的な姿勢で臨んだように思われたと指摘する。よって、安倍氏は日本が中国と韓国に歴史認識問題で屈服しないと見せつけるための先制行為に訴えたのだということである(“Japan Officially Enters Cold War with China and Korea”; National Review Online; December 26, 2013)。

私は靖国に関する安倍氏の見解には同意しないが、同氏の前提が正しいとすれば参拝のタイミングは絶妙だったと言える。安倍氏が靖国神社で戦争犯罪人への追悼を行なったのは12月26日であるが、それはまさに毛沢東の生誕日でもあった(“China to celebrate Mao's birthday, but events scaled back”; Reuters; December 25, 2013)。習政権は毛思想への回帰による社会格差と腐敗の是正を掲げているので、安倍氏の靖国神社参拝は中国での愛国的情熱の高まりに一大打撃を加えるには格好の日であった。メディアがこのことに言及しないのは不思議でたまらない。また、日本は南スーダンで韓国軍に銃弾を供与した心理的な優位を利用した(“Japan supplies ammo to S. Korean military units in South Sudan”; Asahi Shimbun; December 24, 2013)。さらに韓国は安倍氏の軍国神社参拝に抗議するために中国と共同行動をすることを拒否した。韓国のユン・ビョンセ外相は歴史認識の違いはあっても、韓国としては日米との戦略提携の深化によって東アジアの安全保障に対処しなければならないと述べた(「靖国対応で温度差=中国との連携に慎重?-韓国」; 時事通信; 2013年1月1日)。

日本外交の最優先事項である日米同盟に関しては、安倍氏は長年にわたる懸案で、しかも鳩山政権が混乱に陥れた沖縄の普天間海兵隊基地問題を解決した。この点から、安倍氏はアメリカが靖国問題に寛容であろうとの自信があったのかも知れない。たとえホワイト・ハウスと国務省が靖国参拝のようなナショナリスト姿勢に不快感を抱こうとも、安倍氏は軍産複合体には理解ある態度を期待できた。アメリカとヨーロッパでは国防費が削減されている昨今、高まる一方の中国の海洋支配の野望に対抗するために防衛費を増額している日本は有望な市場である(Boeing Gets $661M Defense Orders”; Zacks Equity Research; December 27, 2013)。その中でも対日輸出の目玉商品はボーイング社製のP8A対潜哨戒機で、同機はノースロップ・グラマン社、レイセオン社、ゼネラル・エレクトリック社といった他の大手軍事企業からも部品供給を受けている。したがって、多くの軍事企業がこれに関わっている(“China vs. Japan: Will Boeing's New Submarine-Destroying Jet Get Battle Tested?”; Mystery Fool; December 21, 2013)。

日本国内および海外の論客たちは安倍氏の軍国神社参拝を軽はずみだったと批判するが、私は上記の観点から見て必ずしもそうは思わない。軍産複合体が味方についている限り、オバマ政権がナショナリスト姿勢に嫌悪感を抱こうともとるに足らぬものだと安倍氏が思っても何ら不思議はない。むしろ安倍氏の行動はリシュリュー枢機卿を彷彿とさせるほど機略に富んでいたように思われる。しかし策士策におぼれたのではないかという感は否めない。靖国神社の基本的価値観には根本的な問題があり、これには太平洋戦争の戦勝国か敗戦国かは関係ない。

不思議なことに、永田町でも靖国神社参拝に積極的な政治家達の間からはこの神社への参拝がどうして現在の世界に受け入れられるのかを説明しようとする者はほとんどいない。また、軍国神社の神官達も説明責任の向上のための行動をとっていない。最も象徴的な事象として、「天皇陛下万歳!」と「アラー・アクバル!」の違いを説明する必要がある。神の名に基づく自爆攻撃のイデオロギーなど、どのような民族、文化、宗教にあっても受け入れられるべきものではない。私は国家に命を捧げた人物を追悼することには何ら異議はない。しかし参拝の前に現在の靖国神社のあり方は再考されるべきである。問題は中国と韓国の抗議でもアメリカの失望でもない。本当に考えるべきは、民主化された日本においてこの神社がどのような意味合いを持つのかである。

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コメント

はじめまして。靖国神社は現在のブラック企業問題や体罰問題にも通じる精神的土壌を感じます。

興味深いコメントです。

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