« アフガニスタン大統領選挙とアメリカとの二国間安全保障合意 | トップページ | 日米同盟を超党派で安定強化するには »

2014年4月30日

カルザイ政権後のアフガニスタンとアメリカの継続的関与

アフガニスタンの大統領選挙はアブドラ・アブドラ元外相とアシュラフ・ガニ元財務相の間で激戦となっているが、アフガニスタン独立選挙委員会(IEC)は両候補とも第一次投票では過半数を獲得できなかったと述べた。選挙は二次投票の決選に持ち込まれる (“Preliminary Afghan vote results released”; Khaama Press; April 26, 2014)。この選挙は以下の点からアフガニスタンの治安の行方を占ううえで重要である。ハミド・カルザイ大統領は憲法で三選が禁止されているので、今回の選挙はアフガニスタン史上初の平和的な権力移譲となる。また治安の権限も今年末までにNATO主導のISAF(国際治安支援部隊)からアフガニスタン政府に移譲される。

今回の選挙を前にした3月24日、アメリカン・エンタープライズ研究所はフレデリック・ケーガン重大危機プロジェクト部長の司会でカルザイ政権後のアメリカの対アフガニスタン政策の公開討論会を開催した。このイベントが重要な理由は、NATO軍撤退後のアフガニスタンと地域の安全保障に超党派の戦略が模索されたからである。ゲスト・スピーカーには共和党側からアダム・キンジンガー下院議員とRAND研究所のセス・ジョーンズ国際安全保障および国防部長が、民主党側からセンター・フォー・アメリカン・プログレスのキャロライン・ワダムス上級フェローが招かれた。パネリストと参加者達はBSA(二国間安全保障合意)、域内大国の動向、そして現地住民の生活といった広範囲にわたる課題を議論した。さらにアメリカ外交と世界秩序の観点から、アフガニスタンはアメリカが厭戦気運からの孤立主義を乗り越えられるかという重要な試金石でもある。以下のビデオを参照されたい。



現在、アメリカはシリアからウクライナまで次々と出てくる新しい外交案件に目を奪われがちだが、9・11テロの教訓を考慮すればアフガニスタンでの戦争を軽視することは全く間違っている。フレデリック・ケーガン氏が明言したように、アメリカに対する脅威は海外からでなく両党の孤立主義からやって来る。パネリスト達は党派やイデオロギーの違いにもかかわらず、アフガン戦略を党利党略に利用することには一致団結して反対し、国際主義者は手を携えて国民の問題意識を高めるべきだと主張した。中でもキンジンガー下院議員はイラクでのテロとの戦いに空軍パイロットとして従軍した経験から、アメリカのアフガニスタンへの関与の重要性を強調した。カルザイ氏はアメリカ軍の戦闘による一般市民への被害を理由にBSAの調印を引き伸ばしているが、キンジンガー氏はロヤ・ジルガから市民社会にいたるアフガニスタン国民はアメリカの味方だと強調した。現地を訪問してアフガニスタンの指導者達とも会見したキンジンガー氏は、アフガニスタンの治安部隊ではタリバンやアル・カイダと戦うだけのプロ意識も高まり、脱走兵の割合も急速に下がったと述べた。

しかしオバマ政権は当時のロバート・ゲーツ国防長官が2011年以降も数千人規模の兵力を駐留させるよう主張したにもかかわらず、イラクに充分な兵員を残さなかったことは周知の通りである(“Redefining the Role of the U.S. Military in Iraq”; New York Times; December 21, 2008)。バラク・オバマ大統領は明らかに厭戦気運に浸った世論に迎合したのである。それによって、アル・カイダが再び台頭したイラクからシリアにジャバト・アル・ヌシュラが入り込むという致命的な結果をもたらした。そのためにキンジンガー氏は、政治家はどれほど不人気でも必要な政策なら選挙民に語る勇気を持つべきだと主張する。そしてアメリカは自由と正義を代表すべき存在だとも主張する。シリアで見られたように、保守の国際介入反対派は「祖国から離れた地」の人々のためにアメリカ人が犠牲になることには消極的で、特に彼らが半ば敵視しているイスラム教徒のためともなればなおさらである。他方でリベラルの反対派は海外でのアメリカの軍事的プレゼンスには謝罪姿勢である。そうした中で民主党のボブ・ケーシー上院議員は2014年以降のアメリカの関与について、リベラルでは数少ない賛成派である。アフガニスタンの治安はワシントンの国際主義者が超党派で連携できるかどうかにかかっている。

アメリカ国民はなぜ継続的な関与にそれほど乗り気でないのか?ワダムス氏はオバマ政権がアフガニスタンから手を引こうとしているのではないかという、広く行き渡る誤解に反論した。オバマ政権がジョン・ケリー国務長官とチャック・ヘーゲル国防長官といった重要閣僚をアフガニスタンに派遣して地域安全保障の将来を話し合っていることがその証左だという。しかし国民はブッシュ政権期から長きにわたって続く戦争に嫌気がさしている。さらにアメリカ国民が国際的な関与の正しさを信じきれなくなったのは、国際情勢への深入りに対する幻滅に加えて国内経済の立て直しの優先を願うようになったからである。ワダムス氏はさらに、アフガニスタンで人権侵害や腐敗の問題が深刻になればアメリカ国民は失望するであろうとも述べた。東京会議では支援国がカルザイ政権に160億ドルの援助と引き替えに腐敗の撲滅に取り組むように要求した(“Afghanistan aid: Donors pledge $16bn at Tokyo meeting”; BBC News; 8 July 2012 および「アフガニスタンに関する東京会合 東京宣言 権限移譲から『変革の10年』におけるアフガニスタンの自立に向けたパートナーシップ」;外務省;2012年7月8日)。厭戦気運に関しては、フレデリック・ケーガン氏がアメリカ国民のほとんどは海外の戦争とは無縁かつ無関心の生活を送っているという興味深い事実に言及した。クリントン政権期から、ブッシュ、オバマ政権期にいたるまで、戦争がアメリカの債務を増加させていないとケーガン氏は述べている。アメリカ国民は戦争の犠牲などほとんど受けていないばかりか、戦争の負担に不満を述べる資格があるのは人口の1%に過ぎないという。ケーガン氏が述べたような事態は、オバマ氏が議会にシリア爆撃を持ちかけていた時期にアメリカのメディアはマイリー・サイラスに関する報道をシリアの12倍も流していたという事実に顕著に表れている(“Americans prefer Miley to Syria stories by huge number”; USA Today; September 9, 2013)。

アフガニスタンに対する国民の無関心を考慮すれば、アメリカのプレゼンスがどうして必要なのか理解させるために彼らを教育する必要がある。非常に驚くべきことに、キンジンガー氏はアメリカ国民の90%がカルザイ氏はこれから1月余りで退任することを知らないと語った。しかし幸運にも二次投票で大統領の座を争うアブドラ氏もガニ氏もBSAに対してはカルザイ氏より積極的である。ジョーンズ氏はアメリカがアフガニスタンに留まるべき戦略的な必要性を以下の理由から簡潔に述べている。アル・カイダその他のテロリスト達はアフガニスタンとパキスタンの国境地帯では依然として活発で、そこを根城にアメリカ、ヨーロッパ、インドを攻撃することができる。またジハード主義者達はアメリカの撤退を自分達の勝利だと解釈しかねない。よってアメリカとNATO同盟諸国はタリバンおよびアル・カイダの掃討とアフガニスタン軍の訓練のためにも充分な兵力を留めねばならない。しかしオバマ政権はここに来てアフガニスタンでのアメリカ軍の継続駐留規模は1万人どころか5千人にも満たないものになると示唆したが、これではISAF司令官のジョセフ・ダンフォード海兵隊大将や他のNATO軍将官の勧告よりもはるかに少ない兵力となってしまう(“Exclusive - U.S. force in Afghanistan may be cut to less than 10,000 troops”; Reuters News; April 22, 2014)。オバマ大統領が厭戦気運に浸る国民に迎合しようと望むなら、それは彼がイラクで犯したような致命的な誤りとなって跳ね返る。現在、イラクではシーア派民兵とイラク・レバントのイスラム国(ISIL)の間の宗派間の緊張は高まっているが、2011年の撤退もあってアメリカがそうした紛争を調停するだけの影響力は大きく低下している(“Historic Iraq Election Brings New Uncertainties”; Council on Foreign Relations; April 28, 2014)。

BSAとカルザイ政権後のアフガニスタンの治安について語る際に、近隣諸国の情勢も考慮する必要がある。ジョーンズ氏が当日のイベントで述べたように、アフガニスタン近隣のステークホルダーにはロシア、中国、インド、パキスタン、そしてイランといった核保有国および潜在的核保有国が並んでいる。欧米の不用意な撤退によって力の真空が生じてしまえばインドがジハード主義者との戦いのために介入しかねず、そうなるとアフガニスタンはカシミールのようにインドとパキスタンの衝突の場と化してしまうとケーガン氏は述べている。さらに警戒すべきことに、イランが2014年以降のアフガニスタンでの影響力の拡大を模索している。BSAは自国の安全保障に対する重大な脅威だとして公然と非難している国はイランだけだということを銘記すべきである。実際にカルザイ氏はアメリカとイランを天秤にかけている。イランのハッサン・ロウハニ大統領がカーブルを訪問してノウルーズを祝った際に、この「占領国」に留まる外国軍は撤退すべきだと訴えた(“Iranian President visits Kabul, describes Afghanistan an occupied nation”; Khaama Press; March 28, 2014)。アブドラ氏もガニ氏もBSAには積極的だが、カルザイ氏の影響力はカーブル政界に残るであろうし、イランは共通の文化的伝統を通じてこの国への浸透を模索している。

ロシアと中国は中央アジアでの地政学的観点からアフガニスタンでの欧米のプレゼンスを好ましく見てはいない。しかし両国ともイスラム過激派を恐れているのでアフガニスタンと近隣諸国の安定を必要としている。まずロシアについて述べたい。ブッシュ政権期よりクレムリンは中央アジアのアメリカ空軍基地の存在を自国の勢力圏への侵入と見なしてきた。ロシアは中国とともにこの地域からの米軍の撤退を求めて圧力をかけた(“Q&A: U.S. Military Bases in Central Asia”; New York Times; July 26, 2005)。ロシアはタジキスタンとの軍事基地協定を批准して中央アジアからアメリカの影響力の排除をとともに、ISAF撤退後のアフガニスタンの混乱が彼の地に及ばぬようにした(“Ratification of Russian military base deal provides Tajikistan with important security guarantees”; Jane’s Intelligence Weekly; 1 October 2013)。キルギスタンではアメリカがマナス基地をアフガニスタンでの戦争への補給支援に利用する一方で、ロシアがカント基地を保有している。エネルギー資源は豊富だが腐敗と貧困に悩まされる中央アジア諸国にとってアメリカのプレゼンスは自国の経済を救済する天与の恵みである(“The United States in Central Asia”; Economist; December 7, 2013)。現地での駐留兵力削減を視野に入れたアメリカは、アフガニスタンとパキスタンにあるテロリストの根拠地を攻撃するための無人機の基地を中央アジアで物色している。しかし問題はロシアと中国の反対だけではない。アフガニスタン北部で国境を接する3ヶ国にも問題はある。タジキスタンは親露色が濃すぎる。ウズベキスタンには深刻な人権問題があり、トルクメニスタンは永世中立国である(“Where In Central Asia Would The U.S. Put A Drone Base?”; Eurasia Net—The Bug Pit; February 17, 2014)。

中国はアメリカがアフガニスタンと中央アジアで強固なプレゼンスを築くことによる自国への包囲網だけでなく、ウイグルの自由への動きを刺激することを懸念している。高い経済成長によって、中国は昨年9月にはアメリカを抜いて世界第一位の石油輸入国となった(“China surpasses US as biggest oil importer”; New York Post; October 10, 2013)。そのためにサウジアラビア、イラン、カザフスタンなど中東および中央アジアのイスラム諸国への経済的依存度が強まっている(“Fueling a New Order? The New Geopolitical and Security Consequences of Energy”; Brookings Institution; April 15, 2014)。中国はイスラム教徒の決起による脅威とアメリカが主導する自由が突きつける挑戦に対し、どのようにバランスをとって対処するのだろうか?中国は鉱山事業や開発援助を通じてISAF撤退後のアフガニスタンでの影響力拡大を望んでいる(“China emerges as key strategic player in Afghanistan”; Khaama Press; April 14, 2014)。しかし中国のそうした諸事業もアメリカの安全保障の傘なしにはうまくゆかない。

アメリカが費用削減、現地の政治改革への近視眼的な幻滅、戦争への無関心からゼロ・オプションに走るようなことは間違ってもあってはならない。カルザイ氏の影響力は残るであろうが、アフガニスタン国民はBSAが自分達の将来にどれほど重要な意味合いを持つかよくわかっている。二国間の観点とともに近隣ステークホルダーの戦略的動向にも注意を払う必要がある。これらの国々はアフガニスタンおよび中央アジアでのアメリカのプレゼンスを必ずしも好ましくは思っていないが、地域安全保障という公共財を提供できるのはアメリカだけである。そうした複雑なゲームを象徴するように、インドは今年の2月にアフガニスタンのロシア製兵器購入の資金援助に合意した(“India to finance Russian arms supply to Afghan security forces”; Khaama Press; February 18, 2014)が、マンモハン・シン首相は昨年12月にはハミド・カルザイ大統領にBSAの調印を促している。オバマ大統領は今年4月の東アジア歴訪でアジア重視政策を再確認したが、中東からの軽率な撤退は決してそうした目的に適合しない。アメリカは超大国として、カルザイ政権後のアフガニスタンが安定した民主主義への道を歩み世界が安全になるための責務を果たさねばならない。孤立主義でマイリー・サイラスに浮かれている場合ではないのである。

|

« アフガニスタン大統領選挙とアメリカとの二国間安全保障合意 | トップページ | 日米同盟を超党派で安定強化するには »

ロシア&ユーラシア」カテゴリの記事

中東&インド」カテゴリの記事

コメント

何故アメリカがアフガンに関与せなばならないのか
勉強になりました。

投稿: アン | 2014年9月13日 01:14

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/109615/59560957

この記事へのトラックバック一覧です: カルザイ政権後のアフガニスタンとアメリカの継続的関与:

« アフガニスタン大統領選挙とアメリカとの二国間安全保障合意 | トップページ | 日米同盟を超党派で安定強化するには »