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2014年5月18日

日米同盟を超党派で安定強化するには

日米関係は共和党政権では良好であるが、民主党政権になるとやや冷却化する傾向があると言われている。その原因は識者の間でも判然としない。だが去る4月16日に開催された外交円卓懇談会でコロンビア大学のジェラルド・カーティス教授が述べたように、民主党と日本の関係強化は日米関係の安定のためにも必要である。日米関係がワシントンの党派政局に左右されてはならないという見解には同意する。

ここで思い出されるのはメージャー政権期の英米関係である。ジョン・メージャー首相(当時)は1992年のアメリカ大統領選挙に際し、レーガン・サッチャー両政権時代の強固な英米関係を維持するためにも民主党のビル・クリントン氏よりも共和党の現職ジョージ・H・W・ブッシュ大統領(当時)の再選が望ましいと記者団に答えた。結果はクリントン氏が当選したために、英米関係は冷却化してしまった。当時のイギリスはマーストリヒト条約の批准をめぐる紛糾とドイツの統一もあり、ヨーロッパでも孤立と存在感の低下に悩まされていた。対米関係が回復したのはメージャー氏の退陣によるブレア政権の登場を待ってである(”Witnessed on the White House lawn, the ups and downs of the special relationship”; Independent; 2 March, 2009)。日本の政治家はメージャー氏と同じ過ちを犯してはならない。

しかし超党派で日米関係を良好にしようというなら、民主党の政治家の質も向上させる必要があると思われる。そうした懸念を端的に示すのがオバマ政権の国防長官はロバート・ゲーツ氏、チャック・ヘーゲル氏といった共和党の人材に依存しているという事実である。民主党にはアメリカの国防を担える人材が枯渇しているのだろうか?いわば民主党側に党利党略を超えたアメリカとしての世界戦略を執行できる政治家がいるのかという問題に突き当たる。日米関係と言えども、イギリス、ドイツ、イスラエル、サウジアラビアなど世界各地に広がるアメリカと主要同盟国との二国間関係と本質的な違いはないと思われるからである。

日本側の実務家や識者の間では、民主党にもリチャード・アーミテージ元国務次官補や戦略国際問題研究所のマイケル・グリーン日本部長のように日本の文化や国民気質をよく理解した政治家が必要だとの声がある。確かに彼らが日米関係に果たした貢献は大きいが、それはただの「ボーナス」に過ぎない。現在の日本はエドウィン・ライシャワー駐日大使の時代とは異なり、敗戦の痛手をいやしてもらう立場ではない。そう考えれば特別に「日本通」な人物よりも、むしろ超大国としてのアメリカの役割を重視する人物こそありがたい。イスラエルのモシェ・ヤーロン国防相がオバマ大統領の対中東、中国及びロシア政策が弱腰なために世界の安全保障が脆弱化していると厳しく批判したように、同盟国にとって重要なのは超大国アメリカとしての自覚である(”'Mystified' US slams Israeli defense minister Ya'alon's criticism of Obama”; Jerusalem Post; March 19, 2014)。

そのため、民主党政権でも日米関係が良好であるために必要な人物は共和党にいるアーミテージ氏やグリーン氏のような人物よりも、かつて自らの党に所属してアメリカの外交および安全保障政策で指導的な役割を果たした故ヘンリー・ジャクソン上院議員のような人物である。ジャクソン議員のように党派の枠を超えて上記のような役割を果たせる人物は民主党にいるのだろうか?彼の政策スタッフであったリチャード・パール氏は民主党ではなくレーガン政権および第43代ブッシュ政権の政策形成に関わった。ジャクソン派民主党員を標榜していたジョセフ・リーバーマン氏はすでに上院議員を引退している。党派を超えた日米同盟の強化には、民主党でも国際安全保障を担える人材を育てる必要がある。

他方で去る3月24日にアメリカン・エンタープライズ研究所で開催されたカルザイ政権後のアフガニスタンの安全保障に関する公開討論会に見られるように、民主党側と共和党側の国際主義者が超党派の政策形成を模索しているのは歓迎すべきことである。特に昨今はシリア介入への反対に見られたように、民主党と共和党でそれぞれ別の立場から孤立主義が高まっている。彼らに対抗して両党の国際主義者が連携を強めることは、日米同盟の強化と安定のためになるであろう。ただ、こうした国際主義者の連携がワシントンの政界においてどれほどの影響力を持っているのだろうか?これは非常に興味深い問題点である。

そうした超大国としての役割の全うという観点から見れば、民主党で最も有力な次期大統領候補とされるヒラリー・クリントン前国務長官には明解に答えるべき課題がある。まず一つはベンガジ事件にどこまで関わっていたのかである。この件でスーザン・ライス氏が国務長官に就任できなかった。もう一つはボコ・ハラムへのテロ指定を拒否したことである(”US Says Boko Haram Now 'Top Priority'”; Military.com: May 16, 2014)。テロに手ぬるい大統領では中国の脅威への対処にも不安がある。カーティス教授が強調したようにアメリカが中国との経済関係も重視しながら海洋進出は抑制しようという微妙なバランスを取ろうというのであれば、わずかな隙が日米双方にとって致命的になりかねない。だからこそ民主党の政治家達が安全保障のどれだけ通じているのか、彼らがアメリカの優位を確固として守り抜く意思があるのかが問われるのである。

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