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2014年6月 4日

中国とイスラム

ツール・ポワチエ間の戦い以来、イスラムと西欧の激突こそ最も歴史を左右する文明の衝突だと一般には思われている。しかし中国が昨年9月にGDPよりも先に石油輸入量でアメリカを抜いて世界第一位になってしまったので、イスラム世界との新たな衝突相手として浮上するであろう(“China surpasses US as biggest oil importer”; New York Post; October 10, 2013)。これは中国とイスラム諸国との接触が増え、そのためにアフリカで見られるように摩擦も増えることを意味する。これによって欧米の支配からイスラムの解放者、そして途上国のリーダーを自任する中国の立場は揺らぐであろう。また中国経済は欧米以上にイスラム圏での政治的動向に対して脆弱となる。

アメリカのエネルギー情報庁による「中国カントリー・レポート2012年」によれば、中国への主要石油輸出国の中でイスラム諸国はサウジアラビア(1位)、イラン(3位)、オマーン(5位)、イラク(6位)、スーダン(7位)、カザフスタン(9位)、クウェート(10位)となっている(“Fueling a New Order? The New Geopolitical and Security Consequences of Energy”; Brookings Institution; April 15, 2014)。これほどまでイスラムの石油に依存しているとあっては、中国は中東と中央アジアで綱渡りの外交および内政政策をとって自国の経済的権益を守り、国際舞台での勢力強化をはかっている。

中東で中国が戦略的に重視している国はイラン、サウジアラビア、トルコである。イランはイスラム革命以来、中国とは緊密な関係を保ってきた。しかしペルシア湾岸ではイランとサウジアラビアと対立する大国同士であり、中国も両国の微妙なバランスをとらねばならない。イスラエルはテヘランの核の脅威を恐れているが、サウジアラビアが懸念しているのはイラクからバーレーン、シリア、レバノン、イエメン、自国の東部にいたるシーア派包囲網の確立による湾岸地域でのイランの覇権である(“Next Test for Obama: Soothing the Saudis”; Los Angels Times; March 24, 2014)。今春に行なわれた軍事演習では、サウジアラビアは中国製の東風3弾道ミサイルを誇示した。サウジアラビアはこのミサイルを1988年に輸入していたが、今回の演習までそれを極秘にしていた。CIAによればサウジアラビアは2007年にはより高度な東風21を輸入しているが、それはまだ公開されてはいない(“Saudi missile parade a signal to Iran, Israeli defense expert tells ‘Post’”; Jerusalem Post; May 1, 2014)。

サウジアラビアはオバマ政権によるイランとの対話に重大な懸念を抱いている。チャック・ヘーゲル国防長官は今年5月の湾岸協力会議でアメリカがペルシア湾岸諸国との安全保障上の関係を犠牲にすることはないと言ってアラブ同盟諸国を宥めねばならなかった (“Hagel Says Iran Deal Won’t Weaken Gulf Security”; Eurasia Review; May 15, 2014)。アメリカの安全保障の傘が信頼性を失っているように思われては、サウジアラビアが中国に接近しても不思議はなく、中国もそこから石油を輸入している。しかし中国はサウジアラビアとイランの地政学的あるいは宗教的な対立に本気で関わる気があるのか? そうした問題を抱えながらも中国は石油輸出の得意先として好感を持たれながら危険な事態の責任を全面的にアメリカに担ってもらい、そして一部をイギリスやフランスに担ってもらえるような立場にはない。中国には1960年代から80年代の日本が当然視していたようなことはできないのである。中国は自分だけでこの地域のパワー・ゲームに関わり、影響力の拡大と石油供給の確保を目指さねばならない。武器輸出はこうした目的のために重要な政策なのである。

トルコのような非石油輸出国も中国の武器輸出の潜在的な市場となる。イスラム復古主義を掲げるエルドアン政権の下ではアフメト・ダウトール外相がトルコをアフロ・ユーラシア圏の中核に据えようと、欧米よりもイスラムとアジアへの接近をはかり、ケマル主義から脱却しようとしている。中国は自国の中東およびユーラシア戦略のために要石となるような国への影響力を強めようとしている。これはトルコと欧米同盟諸国との間の中国製ミサイル論争に典型的に表れている。中国精密機械進出口総公司(CPMIEC)は自社の対空ミサイル・システムの売り込みのために、低価格および技術移転の条件緩和といった好条件を提示している。レッド・チャイナはレイセオン=ロッキード・マーチン連合やユーロサムといった欧米企業を押しのけんばかりの勢いで、大西洋同盟も崩壊させかねなかった。しかしNATO同盟諸国の圧力によって、トルコは中国とのミサイル取引を白紙に戻した (“Why Turkey May Not Buy Chinese Missile Systems After All”; Diplomat Magazine; May 7, 2014)。日本の安倍晋三首相も昨年10月にレジェップ・エルドアン首相との会談でトルコの中国製ミサイル輸入中止に一役かっている(「トルコが中国製ミサイルの購入を白紙に 米欧の圧力、安倍首相の訪問が原因か―中国メディア」;新華社ニュース;2013年10月31日)。 しかし国防大学インターンのデニース・ダー氏によると、ミサイル取引の一件は中国が新興経済諸国の防衛市場に浸透する能力が恐るべきものだということを示している。

そうした大躍進にもかかわらず、中国は中東での影響力強化には決定的な弱点がある。最近行なわれた南インド洋でのマレーシア航空の遭難機探索の任務では、中国は水上戦闘艦艇18隻、沿岸警備隊舟艇、民間輸送船、砕氷船から成る大艦隊を派遣した。中国が真の外洋海軍となるには海外に海軍補給ネットワークが必要なことが明らかになった。中国は今回の任務ではオーストラリアの港湾を使用しているが、インド洋から太平洋にいたるシーレーンの国々のほとんどはアメリカの同盟国である(“Search for MH370 reveals a military vulnerability for China”; Reuters News; April 22, 2014)。中国の政治的および経済的プレゼンスが増大すれば現地住民との接触も増加し、そうなると中国人が過激派に攻撃される可能性も高まる。空母「遼寧」に見られるように中国の海軍力は急激に強化されてはいるが、海軍への支援能力が不充分な現状では中東での中国の戦力投射能力は向上しないだろう。

中央アジアは内陸で近隣でもあるので、中国は海軍への支援体制を気にかける必要はない。しかし中国はすでにアフリカばかりか反欧米の同志ともいうべきロシアの極東地域でも、天然資源の収奪と環境破壊という悪名を博している。イスラム圏との経済的取引が増えれば、中国と現地住民の摩擦もそれに伴って増えてくるだろう。このことは新疆にも影響を及ぼすだろう。非常に興味深いことに世界ウイグル会議のラビヤ・カーディル総裁は、中国がウイグル人には抑圧的な政策をとりながら、中央アジア近隣諸国の不興をかわぬためにも他のイスラム少数民族にはそうした政策をとらないと論評している(“Incidents of unrest in the East Turkestan reflect a Uighur Awakening”; The New Turkey; November 6, 2013)。中国はいつまで新疆でそうした分割統治を続けられるのだろうか?中央アジア諸国住民との経済摩擦および文化摩擦は中国の北西部辺境地帯に容易に飛び火する。ウイグル人の抵抗は今年になって強まっている(“Q&A: Xinjiang and tensions in China's restive far west”; CNN; May 23, 2014)。中国の石油浪費経済は彼の地の紛争を激化させかねない。

中国とイスラムの衝突は中東と中央アジアにかつてないほどの不確実性をもたらす。従来から中国はタンザン鉄道への援助に見られるように、自らを西欧帝国主義に立ち向かう途上国のリーダーと位置付けてきた。しかし今日では中国は欧米と並んで現地過激派の憎悪の標的になる可能性の方が高い。イスラム過激派にとってカフィールはカフィールであり、相手がキリスト教徒であろうと非キリスト教徒であろうと、また白人であろうと非白人であろうと同じであることは銘記すべきである。イスラムとの衝突は中国と地政戦略上の対抗相手との関係にどのような影響を与えるだろうか?特に日米両国、そしてヨーロッパとの関係がどうなるか注目すべきである。

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