中国は日帝の再来か?
今年5月のCICA(アジア相互協力信頼醸成措置会議)において中国の習近平国家主席が「アジア人によるアジア」という演説で物議を醸した際に(“China president speaks out on security ties in Asia “; BBC News; 21 May 2014)、私は我が耳を疑った。この演説の根底にある発想は戦中の日本が主張した大東亜共栄圏と二重写しである。中国の海洋拡張主義と大国意識の高まりに近隣諸国の懸念が高まっていることから、習氏の「アジア人によるアジア」演説は国際社会では否定的に受け止められている。第二次大戦中と現代のアジアの大国の間には数多くの共通点がある。そうした共通点について述べてみたい。
地政学の観点から言えば、大戦中の日本も現代の中国も反欧米である。戦中の日本は脱植民地化と白人支配からの解放を掲げ、ヨーロッパとアメリカの勢力をアジアから駆逐しようとした。しかし日帝自体が植民地帝国であり、アジア人にとっては白いサーヒブも黄色いサーヒブも根本的に大きな違いはなかった。今日では中国もアジアにおけるアメリカのプレゼンスを追い払い、そこを自国の勢力圏に収めようとしている。
さらに重要なことに、戦中の日本も現在の中国も自由主義世界秩序に異を唱え、民主主義諸国に対抗するための枢軸を築き上げようとしている。日本はファシスト国家のドイツとイタリアと同盟したが、中国は上海条約機構、BRICS、CICAを利用して西側民主国家に対抗する発言力を得ようとしている。日本がドイツおよびイタリアと結んだ枢軸は共同の戦略立案や作戦が行なえるほどの政策調整能力はなかったが、中国もアメリカとその民主的な同盟諸国に対抗する枢軸の形成には成功していない。また過去と現在のアジアの大国はいずれも普遍的に受容される価値観を打ち出して国際公益のために動くことができていない。
注目すべきは過去と現在の反欧米専制国家の台頭と進撃がアジア人から歓迎されていないことである。シンガポール陥落はアジア諸国民に強い印象を与えたかも知れないが、ダグラス・マッカーサーとルイス・マウントバッテン卿の指揮で連合軍が反撃に転じた際に、彼らは日本軍と手を組んで白人のサーヒブを押し返そうとはしなかった。同様に、中国が主導する「アジア人によるアジア」はアジア近隣諸国、中でも東シナ海と南シナ海で領土をめぐる衝突を抱える国々の間では強い警戒の念を呼び起こしている。またアジアは政治的にも文化的にも多様なので、どの地域機構も中国が国際政治上の支配力を強めるための道具にはならないだろう(“Don't bet on China's 'Asia for Asians only' vision yet”; Strait Times; 30 May 2014)。今日では白人支配の植民地帝国などとっくに消え去っているので、アジア諸国民がアメリカの影響を排除した中国主導のアジアに関心を持つことはないだろう。
アジア諸国民の福利よりも、両専制国家は天然資源を求めて南方に拡大している。戦中の日本は東南アジアの石油、錫、ゴム、その他鉱産物およびプランテーション作物を求めていた。今日では東シナ海および南シナ海での中国の領有権主張は、この水域での石油と天然ガスを求めてのものだと広く理解されている。両国がアジアの結束による欧米勢力の駆逐を呼びかけているのは、天然資源を確保しようという欲望と深くかかわっている。
極めて皮肉なことに、中国の漁船は南方海上の島々の領有権を主張しようとして、海洋地域の隣国警備隊に対して体当たり攻撃を仕掛けてくる。こうした攻撃は日帝が米軍の艦艇に行なった神風攻撃と同様に前近代的である。中国は本当に戦中の日本のカーボン・コピーなのではなかろうか?興味深いことに、アメリカのカーティス・チン元駐アジア開発銀行大使も現在の中国を戦中の日本になぞらえている(“Xi Jinping's 'Asia for Asians' mantra evokes imperial Japan”; South China Morning Post; 14 July 2014)。
アジア諸国が中国の大国気取りに警戒心を強める中で、私は中国に歴史認識の問題で日本を非難する資格があるのか疑問を呈したい。私の目には中国こそが他のどの国にも増して日帝さながらの行動をしている国である。中国はこれからも恒久的に第二次世界大戦の勝者として振る舞いたいのであろうが、重要な点を忘れてはならない。戦争に敗れたのは日本国民ではなく戦中のファシズムである。中国が本当に戦勝国として振る舞うつもりなら、このことを銘記すべきである!
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