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2014年8月31日

F35の開発価格高騰と配備の遅延

F35の開発価格高騰はキャピトル・ヒルでは深刻な懸念事項となっている。現行の財政支出強制停止に鑑みれば、統合打撃戦闘機計画は国防に必要な他の装備への支出を犠牲にしかねない。F35は安価で多目的な戦闘機だとされてきた。しかしエンジンとソフトウェアのトラブルが続き、配備の遅れと価格の高騰をもたらしている。今年の6月23日にエンジン・トラブルが発生した時には全てのF35が検査のために地上待機となった。ジョン・マケイン上院議員はF35を「軍産議会複合体」の最悪の事例だとまで言ったが、ジェームズ・インフォー上院議員に代表されるように議会の大多数は事態を楽観視している(“The Pentagon’s $399 Billion Plane to Nowhere”; Foreign Policy; July 8, 2014)。

アメリカの同盟国の間では政策研究大学院大学の道下徳成教授のようにF35が日本にとって最善の選択だと主張する者もある。「冷戦型の競合にはF22の方が適しているだろう。しかし長期的な平和時の競合には機体の数とプレゼンス、そして同盟国との緊密な連携が必要になる」ということだ。他方でオーストラリアのシンクタンク、エア・パワー・オーストラリアのカルロ・コップ国防アナリストはF35が技術的に複雑で価格も高騰することから、アメリカと同盟国の国防能力を低下させかねないと警告している(“Struggling in US, F-35 fighter pushes sales abroad”; FOX News; January 27, 2012)。

技術的問題に関しては、専門家筋からF35は重量過剰ながらエンジン出力不足になっているとの声もある。空軍、海軍、海兵隊と同盟諸国の要求を満たそうとしたために、この単発エンジンの戦闘機は35tにもなってしまったが、F15は双発エンジンながら40tである。エンジンの問題はすぐに解決できたとしても、設計自体に根本的な欠陥があると懸念する専門家もいる(“Pentagon’s big budget F-35 fighter ‘can’t turn, can’t climb, can’t run’”; Reuters News; July 14, 2014)。さらに多数の当事者が関わる共同プロジェクトのためにソフトウェアも非常に複雑になっている。その結果、F35は初飛行から10年もたった2016年に実戦配備されるという(“Why Is The US Military Spending So Much Money On The F-35 Fighter Jet?”; Business Insider; February 21, 2014)。あらゆる要求を一機で満たそうとすると重量過剰で技術的に中途半端になることがあるのは、ケネディ政権当時のロバート・マクナマラ国防長官によるF111開発計画でも観られた通りである。

メカニックとソフトウェアの技術的な複雑性が価格を雪だるま式に膨れ上がらせている。F35はF22よりも手頃な価格と見られていたが、1機当たりの価格は年々増加している。それは2015年にはF35Aでは1.48億ドル、F35Bで2.32億ドル、F35Cで3.37億ドルになると見られている。そうした中でF22は1機当たり「わずか」1.5億ドルに過ぎない。今やF35は国防総省とロッキード・マーティン社の間の不透明な関係を象徴するようになっている(“How DOD’s $1.5 Trillion F-35 Broke the Air Force”; Fiscal Times; July 31, 2014)。

予算の制約にもかかわらず、F35はハイテク兵器に重点を置く空軍の事情を反映して依然として次期戦闘機として優先度が高い(“Air Force Plans Shift to Obtain High-Tech Weapon Systems”; New York Times; July 30, 2014)。実戦配備では多少の削減はあるかも知れないが、アメリカン大学のゴードン・アダムズ教授はF35開発計画が大き過ぎて潰せないと論評している。ロッキード・マーティン社は全米45州で操業しているので、議員にとっても自分達の選挙区の雇用を守るためにも同社の存在を必要としている(”Why Is The US Military Spending So Much Money On The F-35 Fighter Jet?”; Business Insider; February 21, 2014)。マケイン氏が名付けた「軍産議会複合体」はこの開発計画をますます不透明にしている。

F35開発計画に関わる現下の問題とアメリカ国内の議会での討論を考慮すれば、アメリカの同盟諸国は問題を再検証する必要がある。開発の遅延があまりに酷くて価格も雪だるま式に膨らむなら、初期の計画も見直さねばならないかも知れない。何はともあれワシントンでの議会の証言を注深く見守ることが肝要である。さらに同盟諸国同士での情報交換も必要である。例えば日本はキャメロン政権の枠を超えてイギリスの専門家達から情報を集めることができる。それは日本のFX戦闘機とイギリスの次期空母艦載機の候補が重複していたからである。つまり両国ともF35、タイフーン、FA18スーパーホーネットを候補に挙げていた。イギリスは統合打撃戦闘機開発計画でレベル1の参加国であり、日本とも国防での協力関係の強化を模索している。またロシアと中国のステルス機開発計画の進展具合にも鋭敏な注意を払う必要がある。こうした全ての事柄を考慮に入れたうえで、アメリカの同盟諸国は本来の計画通りにF35を全て購入するか、あるいは自分達の計画の一部に別の機種を充てるかを判断することができる。



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2014年8月15日

アメリカの国防は財政支出強制削減から立ち直れるか?

2013年の財政支出強制削減はアメリカの国防に長期間にわたる甚大な影響を及ぼそうとしている。オバマ政権は予算に関して議会と合意に至れなかったが、こうした悪影響を克服することが至上命題となっている。世界の安全保障が不安定化を増す中で、国防予算とバードン・シェアリングは9月4日から5日にかけて開催されるNATOウェールズ主脳会議で重要議題に含まれている。現在、イギリスとフランスなど一部を除くヨーロッパ同盟諸国のほとんどでは、国防費はGDPの1%前後である。これは消極的平和主義を標榜していた古い日本とほとんど同水準である。西側同盟の間で広まっている国防支出削減症候群を逆転させるには、アメリカが悪名高き財政支出強制削減から国防を立て直さねばならない。チャールズ・クラウトハマー氏のような保守派の論客からは「アメリカの衰退とは選択がもたらすものだ」(“Decline is a Choice”; Weekly Standard; October 19, 2009)との声も挙がっているが、国防予算の問題はその典型的な事例である。よって、アメリカが財政支出強制削減を乗り越えられるかもっと注視すべきなのである。

大国志向を強める中国、帝政時代さながらの拡大主義に走るロシア、イスラム・テロが広まるイラクとシリア、その他にイランや北朝鮮のように新たに台頭する脅威に鑑みて、アメリカは自らの国防を再建しなければならない。統合参謀本部長のマーティン・デンプシー陸軍大将がまとめた『4年ごとの国防計画見直し』(QDR)では、国防総省は財政支出強制削減の致命的な影響によってアメリカ軍が全世界での任務をこなすにはあまりに小さく時代遅れなものになるのではないかと懸念している。QDRはアメリカの安全保障を脅かす問題を評定し、予算の制約を乗り切るための戦略的リバランスと構造改革をどのように行うかを示している。また財政支出強制削減がこれ以上行なわれればアメリカの国防上の任務に制約が課されるようになってしまうと記している。

2014年QDRに対し、ウイリアム・ペリー元国防長官とジョン・アビザイド元アメリカ中央軍司令官が共同で議長を務めるアメリカ平和研究所の国防委員会は、財政支出強制削減の悪影響を逆転させるために『アメリカの強固な国防力を将来にわたって確実にする方策』と題する報告書をまとめた。この超党派の報告書は国防政策に携わる者達の間で多大な注意と関心を引いている。同委員会はQDRには財政支出強制削減を乗り切る長期的な方策が示されていないと主張している。また、国防総省と議会の和解も推奨している。さらにこの報告書ではどれほど効率化を進めても、結局は軍事力の規模が大きくなければいけないと主張している。非常に注視すべきは、この委員会の委員達は他の国防政策関係者以上に技術的な優位の揺らぎに懸念を抱いている。

2010年のQDRはイラクとアフガニスタンの戦争が中心に記されているが、2014年のQDRでは21世紀の国防の優先課題、すなわち本土防衛、国際安全保障の構築、そして海外への戦力投射に注目している。USIPの報告書はQDRには基本的に同意しているが、現行の国防予算には懸念を述べている。この報告書は、財政支出強制削減に対処できなければアメリカが軍事戦略を実行できなくなるリスクが高まると警告している。

しかしアメリカはどのようにして国防を救済すべきだろうか?議会ではバック・マケオン下院軍事委員長が国防授権法の適用によってQDRの改訂を促すべきだと主張した(“Defense Panel: Obama Administration Defense Strategy ‘Dangerously’ Underfunded”; Washington Free Beacon; July 31, 2014)。国防委員会の委員達は現行の予算不足では軍事的能力にも規模にも悪影響がおよぶとの見解で一致しているが、それがどれほどのものか見通しは不透明である(“Sequestration-lite is slowly undermining US forces”; in Focus Quarterly; July 14, 2014)。しかしアメリカン・エンタープライズ研究所のマッケンジー・イーグレン常任研究員は、8月の休会を前にした議会はUSIPの報告書によって超党派のイニシアチブを示し、1兆ドルにも上る恐るべき歳出削減を逆転させようとしていると述べている。それは2011年度の予算管理法を無効にし、2012年度のゲーツ・ベースラインに戻すことである(“A Wake Up Call to Washington on Defense”; Real Clear Defense; August 1, 2014)。

この報告書を出した国防委員会の委員でもある共和党のジム・タレント元上院議員は、バラク・オバマ大統領が憲法第4条に「合衆国は各州を侵略から守る」と記されている役割を全うしようというなら、最新のQDRではまだ不十分であると述べている(“A Stunning Rebuke of Our Current Defense Policies”; National Review Online; August 1, 2014)。不充分な予算では国防戦略の実施には非常に大きな制約が課されてしまう。そうなればアメリカの同盟諸国は自分達の戦略を再考しなければならない。9月に再開される議会での国防予算の議論には大いに注目すべきである。


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