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2014年10月31日

アメリカの国防を政局化するな!

西側民主主義諸国が歴史からの休暇の最中にあった時、ロシアと中国が冷戦後の平和を破って再登場した。また、中東では宗教過激派の台頭によって国民国家による統治が危うくなっている。さらに北朝鮮やイランのように核拡散に手を染める国も次々に出現している。今日の国際安全保障像は二極対立の時代よりも複雑になっている。NATOウェールズ首脳会議でも見られたように西側同盟諸国は歴史の終わりをたやすく信じ込んでいたので、多様化する脅威の台頭に対処しきれていなかった。問題にすべきはアメリカの「衰退」ではなく整備され切っていない国防力である。

平和的な世界秩序のためには、崇高な理念も安全保障上の戦略も剥き出しのハードパワーの裏付けが必要である。ISISに対する戦争はNATOのような既存の安全保障同盟の代わりにアド・ホックな有志連合に依存している。さらに党派やイデオロギーの枠を超えてアメリカの国防を再建しなくてはならない。国防の再建には安全保障政策が再建されねばならない。

現在、アメリカの国防政策は党派間および政党内部の分裂によって崩壊している。新アメリカ安全保障センターのミシェル・フローノイ最高責任者とリチャード・フォンテーヌ所長はアメリカの国防がいかに政局化しているかを述べている。1970年代および80年代には党派を超えた投票は普通に見られ、それが超党派で外交政策のコンセンサスを形成するうえで一役買った。しかし昨今では党派の分断が厳格になって合意の形成が妨げられている。政党内部の分裂も深刻である。共和党に関して言えば、財政支出削減重視派と国防力強化重視派の相克がある。民主党側に目を転じると、極左派はアメリカが世界規模で強大な経済的および軍事的なプレゼンスを維持してゆけば格差拡大のような内政問題が置き去りにされるだけだと見なし、主流派から乖離している(“Rebuilding Bipartisan Consensus on National Security”; June 9, 2014; Defense One)。

アメリカ国民の多くがイラクとアフガニスタンでの長きにわたる戦争に嫌気がさし、保守派とリベラル派の双方にまぎれる孤立主義に惹きつけられている事態を銘記しなければならない。これぞバラク・オバマ氏が2期も続けて大統領に選出された背景である。フローノイ氏とフォンテーヌ氏が主張するように、問題意識の高い人々の間で様々な経路を通じて超党派の安全保障政策のコンセンサスを模索しなければならない。アメリカの国防再建には多くの事柄を考慮に入れる必要があり、それらには脅威の適正な評定、軍事力の適正な規模、国防費の適正な金額などが挙げられる。しかし真の問題となるのは大統領の指導力である。オバマ氏は今年の9月末にISISの脅威を過小評価したという(“Obama: U.S. Underestimated ISIS, Overestimated Iraqi Army”; NPR News; September 28, 2014)発言で物議を醸したように、アメリカの国防における大統領の指導力には大いなる疑問を呈さざるを得ない。

オバマ氏のリーダーシップはアメリカの国防にどのような悪影響を与えたのだろうか?ルイジアナ州のボビー・ジンダール知事は10月6日にアメリカン・エンタープライズ研究所での講演で、オバマ政権の根本的な欠陥を概括している。ジンダール氏の主張の基本的な論点は、現在の世界の安全保障の不安定化はアメリカが国際公共財の提供者という特別な役割を担い、世界秩序の道義的な責務も負っていることを否定するオバマ氏の外交政策観がもたらした結末だということである。またオバマ政権による非関与政策によって同盟諸国の間でアメリカに対する信頼感が低下している。ジンダール氏が述べるようにオバマ氏の外交政策は「馬鹿げたことはするな」以外の何物でもなく、これではブッシュ政権のアプローチを否定しただけに過ぎない。オバマ政権が犯した最も致命的な誤りは、ロシアや中国のような従来からの脅威に加えてアル・カイダやISISのような非対称的な脅威まで、多様な脅威が台頭する時勢において国防費の削減に踏み切ったことである。広く知られているように、ジンダール氏は2016年の大統領選挙で共和党の指名を受ける可能性がある有力候補の一人である。重要な点は、ジンダール氏が財政保守派でありながら賢明な支出に基づく国防費の増額を強く訴えることによって、党内の財政支出削減重視派と国防力強化重視派の立場の違いを埋めようとしていることである。以下のビデオを参照されたい。



さらに重要なことに、オバマ氏陣営内部からも現政権の国防政策への批判の声が挙がっている。ロバート・ゲーツ元国防長官が回顧録を出版した際に、オバマ氏は自らのアフガニスタン戦略に自信もなく、イラクに関しても自分の周囲にいる軍事スタッフを信用していなかったと記している。ゲーツ氏によるとオバマ氏はイラクとアフガニスタンからの早期撤退にとりつかれていた(“Robert Gates, former defense secretary, offers harsh critique of Obama’s leadership in ‘Duty’”; Washington Post; January 7, 2014)。共和党政権から留任していたゲーツ氏がオバマ氏の国防政策に批判的なことは、ある程度は予期できる。また、ヒラリー・クリントン元国務長官もオバマ氏が自由シリア軍を支援しなかったために現地でのジハード主義者達の台頭を許したと批判している。民主党員ではあるが、クリントン氏は2016年の大統領選挙に出馬する身であり、自らとオバマ氏の立場の違いを明確にしておく必要がある。しかしレオン・パネッタ氏が今秋にオバマ氏を批判したことは衝撃的であった。パネッタ氏は長年にわたる民主党員で、現政権の下でCIA長官や国防長官といった閣僚ポストを歴任した。クリントン氏とは違いパネッタ氏は大統領選挙で競争会相手になったこともないため、本来ならゲーツ氏やクリントン氏よりもオバマ大統領に忠実であってもおかしくない。

パネッタ氏は回顧録の中で、オバマ氏はイラクに2万4千人規模の米軍を残留させるようにというパネッタ氏の進言に耳も貸さず、当地からの撤退しか頭になかったと記している (“Obama ignores Leon Panetta’s warning”; Washington Post; October 6, 2014)。パネッタ氏と共にミシェル・フローノイ国防次官と軍部高官も撤退後の混乱に深刻な懸念を示した。しかしオバマ氏はそうした分析を「捏造で間違い」だとして一蹴した。それが現在のようなISISの暴虐を許してしまったのである (“Leon Panetta criticizes Obama for Iraq withdrawal”; CBS News; October 2, 2014)。 これはオバマ氏が国防に関して理解を書いているばかりでなく脅威の評定もできなかったことが原因でもあるが、もっと根本的なことは超大国の地位を投げ出しても良いという彼の思想こそ問題視すべきである。言い換えれば、オバマ氏はノーベル平和賞の受賞者としてアメリカの国防を政局化したのである。

皮肉なことに、オバマ大統領の国防を担う能力が絶望的に低いことが超党派のコンセンサスの醸成には一役買うかも知れない。オバマ氏は2008年の大統領選挙において「リベラルのアメリカも保守のアメリカもない、一つのまとまったアメリカがあるだけだ」と演説した。今やリベラルのアメリカも保守のアメリカもオバマ氏にあきれている。外交政策形成者の仲間の間で形成される共通の理解によって、厭戦気運の世論と両党での党内分裂を乗り越えられるだろうか?次期大統領が誰であれ、そうした動きが公益に役立つことを望む。

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2014年10月13日

日本は常任理事国入りよりも国連安保理改革を重視せよ

小泉政権期に盛り上がった国連安全保障理事会の常任理事国入りの運動は失敗に終わったが、日本はその希望をまだ捨てていない。安倍晋三首相は9月26日の国連総会での演説で、日本は常任理事国入りを追求し続けると明言した。そうした「ネバー・ギブアップ」の姿勢は称賛するが、それが日本にとって価値のあるものなのだろうか?安全保障理事会の基本的な問題は日本とドイツを第二次世界大戦の敗戦のくびきから解放することではなく、国際安全保障の脅威に対する理事会の意思決定と行動を阻む拒否権である。よって日本が提案するなら何か国連安保理の機能不全を根本的に解決するものにすべきであって、自らが既存の五大国に続く6番目か7番目の大国であるという国際社会での序列を再確認するだけならあまり意味はない。

実を言うと小泉政権が常任理事国入りを目指しながら結局は果たせなかった時に、私は愛国的な情熱の真っ只中にいた。当時世界第2位の経済大国であった日本なら政治大国にもステップ・アップして当然だと何の疑いもなく信じていた。しかしそれから時が過ぎ、今後も常任理事国入りを目指し続けることが本当に日本の国益に適うのか再考する必要がある。大々的なロビー活動には膨大な資金と労力を要するであろう。日本はアジアおよびアフリカ諸国にばらまき援助を与えて彼らのご機嫌を取り、自国に票を入れてもらおうとでも言うのだろうか?常任理事国入りを実現させるためにブラジルやインドのような地域大国とも共同で常任理事国入りに向けて申請しようと申し出た。いわゆるG4が日本、ドイツ、ブラジル、インドと新興国も含めて構成されているのは、BRICS諸国の票を得るためである(“Why Japan Will Never Be a Permanent Member of the UN Security Council”; National Interest; August 4, 2014)。しかしブラジルやインドのような地域大国が世界規模の責任を受け入れる用意ができているのかはきわめて疑わしい。

地域のバランスがそれほど重要であれば、アフリカ連合が常任理事国を要求するのも当然である。本来なら立場が異なるはずのアメリカと中国がそろってG4の常任理事国入りに反対票を投じたのも不思議ではない(『社説:日本と常任理 何をやるかが問題だ』;毎日新聞;;2014年9月27日)。さらに日本が常任理事国入りの希望を持ち続けていることが中国のプロパガンダの格好の標的となっている。安倍氏の演説からほどなくして、中国の王毅外相は国連総会の全参加者に対して来年が日本の軍国主義に対する中国の勝利から70周年に当たると念を押した (“China admonishes Japan in U.N. speech, warning history should not be falsified”; Japan Times; September 28, 2014)。日本が中国の拒否権を乗り越えられるなら常任理事国入りを訴えるだけの価値はある。悪いことに、日本がどんなにこの名誉と権威のある地位を得ようとしても、自分が地政学的に優位に立ちたい中国がその度に拒否権を行使し、そして歴史認識をめぐって日本をネガティブ・キャンペーンの標的とするであろう。さらに毎日新聞は日本を安全保障理事会の常任理事国にするために国連憲章を変えようなどという気運は全く見られないと批判的に述べている。

よって日本は自国の虚栄心を満たすためのロビー活動を行うよりも、意思決定も行動もできない現在の国連安保理に何か根本的な変化を促すような提案をすべきである。私は別に常任理事国であることの利益を完全に否定するわけではない。先のスコットランド住民投票を前に、イギリスのジョン・メージャー元首相はスコットランドが独立してしまえば「我が国は国連での最高の地位を失うことになる」と言って重大な懸念を示した(“What would Scottish independence mean at the UN?”; BBC News; 10 September, 2014)。しかし日本の立場は既存の常任理事国とは大きく異なり、これからその地位を勝ち取るには難しい障害を乗り越えるために多大な労力を費やさねばならない。何よりも日本が常任理事国になれたとしても何ができるのか?最悪の場合は世界中を敵に回してでも国連安保理で拒否権を行使する覚悟が日本にあるのか?名誉ある地位に昇格すれば日本は世界を変えられるのか? 合理的に見れば、どれも全く当てはまらない。

ここで思い出すべきはサウジアラビアが昨年10月17日に、安全保障理事会がイランの核問題やISIS危機など中東の安全保障の重要案件に対して何の決断も行動もできないという理由で非常任理事国の座を降りたことである。サウジアラビアにとって、現在の国連安保理など役立たずで無力で無価値なのである("Sit on the UN Security Council?"; Weelky Standard; November 4, 2013)。国連安保理の理事国であるための負担、利益、その地位を得るための労力を考慮すれば、日本の国益には必ずしも見合うと思えない。この問題に関する限り、私はサウジアラビア政府に大いに同意する。忘れはならないことは、現在の常任理事国の地位は始めから与えられたものだということである。そうした事情からすればメージャー氏がスコットランド住民投票の前に述べた懸念もイギリスにとっては当然である。しかし五大国でもないその他の国々にとって安全保障理事会の理事国ともなれば非常任理事国への選出でさえ大変な労力で、ましてや常任理事国への昇格ともなればなおさらである。日本がどれだけ労力を注いでも最終的に中国の拒否権で葬り去られる。そのように成果の望めないことを繰り返さねばならないのか?

基本的で普遍的な課題を持ち出せば変化への機運を作り出すこともできる。アメリカが国連決議案よりも有志連合を重視しているのは、冷戦後も安保理ではロシアや中国の拒否権によって緊急時の行動が阻まれてしまうことに世界のどの国よりも不満を抱えているからである。これはブッシュ政権が国連批判の急先鋒であるジョン・ボルトン氏を国連大使に任命したことに典型的に表れている。民主党政権であれ共和党政権であれ、アメリカの政策形成者の間では国連の現行意思決定システムへのそうした不信感は広まっている。国際社会からすれば決定も行動もできない安保理こそ問題であって、各国の序列などはそこまで問題ではない。

日本が本当に安保理を変えようというなら、根本的な構造の問題を重視すべきである。その方が世界からの支持も集まる。拒否権の問題に関しては常任理事国一ヶ国の単独拒否権からその内2ないし3ヶ国に変更するという私案を示したい。常任理事国の地位を得たとしても日本には単独行動などできない。単独での拒否権など日本には使い道がないのである。首相が誰であれ、日本の資金と外交努力は正しい目的に向けて適正に使われねばならない。どのような行動も愛国的情熱と虚栄心だけに基づいているなら無用で無価値である。


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