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2014年10月13日

日本は常任理事国入りよりも国連安保理改革を重視せよ

小泉政権期に盛り上がった国連安全保障理事会の常任理事国入りの運動は失敗に終わったが、日本はその希望をまだ捨てていない。安倍晋三首相は9月26日の国連総会での演説で、日本は常任理事国入りを追求し続けると明言した。そうした「ネバー・ギブアップ」の姿勢は称賛するが、それが日本にとって価値のあるものなのだろうか?安全保障理事会の基本的な問題は日本とドイツを第二次世界大戦の敗戦のくびきから解放することではなく、国際安全保障の脅威に対する理事会の意思決定と行動を阻む拒否権である。よって日本が提案するなら何か国連安保理の機能不全を根本的に解決するものにすべきであって、自らが既存の五大国に続く6番目か7番目の大国であるという国際社会での序列を再確認するだけならあまり意味はない。

実を言うと小泉政権が常任理事国入りを目指しながら結局は果たせなかった時に、私は愛国的な情熱の真っ只中にいた。当時世界第2位の経済大国であった日本なら政治大国にもステップ・アップして当然だと何の疑いもなく信じていた。しかしそれから時が過ぎ、今後も常任理事国入りを目指し続けることが本当に日本の国益に適うのか再考する必要がある。大々的なロビー活動には膨大な資金と労力を要するであろう。日本はアジアおよびアフリカ諸国にばらまき援助を与えて彼らのご機嫌を取り、自国に票を入れてもらおうとでも言うのだろうか?常任理事国入りを実現させるためにブラジルやインドのような地域大国とも共同で常任理事国入りに向けて申請しようと申し出た。いわゆるG4が日本、ドイツ、ブラジル、インドと新興国も含めて構成されているのは、BRICS諸国の票を得るためである(“Why Japan Will Never Be a Permanent Member of the UN Security Council”; National Interest; August 4, 2014)。しかしブラジルやインドのような地域大国が世界規模の責任を受け入れる用意ができているのかはきわめて疑わしい。

地域のバランスがそれほど重要であれば、アフリカ連合が常任理事国を要求するのも当然である。本来なら立場が異なるはずのアメリカと中国がそろってG4の常任理事国入りに反対票を投じたのも不思議ではない(『社説:日本と常任理 何をやるかが問題だ』;毎日新聞;;2014年9月27日)。さらに日本が常任理事国入りの希望を持ち続けていることが中国のプロパガンダの格好の標的となっている。安倍氏の演説からほどなくして、中国の王毅外相は国連総会の全参加者に対して来年が日本の軍国主義に対する中国の勝利から70周年に当たると念を押した (“China admonishes Japan in U.N. speech, warning history should not be falsified”; Japan Times; September 28, 2014)。日本が中国の拒否権を乗り越えられるなら常任理事国入りを訴えるだけの価値はある。悪いことに、日本がどんなにこの名誉と権威のある地位を得ようとしても、自分が地政学的に優位に立ちたい中国がその度に拒否権を行使し、そして歴史認識をめぐって日本をネガティブ・キャンペーンの標的とするであろう。さらに毎日新聞は日本を安全保障理事会の常任理事国にするために国連憲章を変えようなどという気運は全く見られないと批判的に述べている。

よって日本は自国の虚栄心を満たすためのロビー活動を行うよりも、意思決定も行動もできない現在の国連安保理に何か根本的な変化を促すような提案をすべきである。私は別に常任理事国であることの利益を完全に否定するわけではない。先のスコットランド住民投票を前に、イギリスのジョン・メージャー元首相はスコットランドが独立してしまえば「我が国は国連での最高の地位を失うことになる」と言って重大な懸念を示した(“What would Scottish independence mean at the UN?”; BBC News; 10 September, 2014)。しかし日本の立場は既存の常任理事国とは大きく異なり、これからその地位を勝ち取るには難しい障害を乗り越えるために多大な労力を費やさねばならない。何よりも日本が常任理事国になれたとしても何ができるのか?最悪の場合は世界中を敵に回してでも国連安保理で拒否権を行使する覚悟が日本にあるのか?名誉ある地位に昇格すれば日本は世界を変えられるのか? 合理的に見れば、どれも全く当てはまらない。

ここで思い出すべきはサウジアラビアが昨年10月17日に、安全保障理事会がイランの核問題やISIS危機など中東の安全保障の重要案件に対して何の決断も行動もできないという理由で非常任理事国の座を降りたことである。サウジアラビアにとって、現在の国連安保理など役立たずで無力で無価値なのである("Sit on the UN Security Council?"; Weelky Standard; November 4, 2013)。国連安保理の理事国であるための負担、利益、その地位を得るための労力を考慮すれば、日本の国益には必ずしも見合うと思えない。この問題に関する限り、私はサウジアラビア政府に大いに同意する。忘れはならないことは、現在の常任理事国の地位は始めから与えられたものだということである。そうした事情からすればメージャー氏がスコットランド住民投票の前に述べた懸念もイギリスにとっては当然である。しかし五大国でもないその他の国々にとって安全保障理事会の理事国ともなれば非常任理事国への選出でさえ大変な労力で、ましてや常任理事国への昇格ともなればなおさらである。日本がどれだけ労力を注いでも最終的に中国の拒否権で葬り去られる。そのように成果の望めないことを繰り返さねばならないのか?

基本的で普遍的な課題を持ち出せば変化への機運を作り出すこともできる。アメリカが国連決議案よりも有志連合を重視しているのは、冷戦後も安保理ではロシアや中国の拒否権によって緊急時の行動が阻まれてしまうことに世界のどの国よりも不満を抱えているからである。これはブッシュ政権が国連批判の急先鋒であるジョン・ボルトン氏を国連大使に任命したことに典型的に表れている。民主党政権であれ共和党政権であれ、アメリカの政策形成者の間では国連の現行意思決定システムへのそうした不信感は広まっている。国際社会からすれば決定も行動もできない安保理こそ問題であって、各国の序列などはそこまで問題ではない。

日本が本当に安保理を変えようというなら、根本的な構造の問題を重視すべきである。その方が世界からの支持も集まる。拒否権の問題に関しては常任理事国一ヶ国の単独拒否権からその内2ないし3ヶ国に変更するという私案を示したい。常任理事国の地位を得たとしても日本には単独行動などできない。単独での拒否権など日本には使い道がないのである。首相が誰であれ、日本の資金と外交努力は正しい目的に向けて適正に使われねばならない。どのような行動も愛国的情熱と虚栄心だけに基づいているなら無用で無価値である。


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コメント

いつも深い洞察と簡潔な文章に敬服致します。

殆どの日本人がブログ主様のような広く高い視野に乏しいのは、悲しいことです。
例えば、500年後の日本列島に住んでいるのは馬鹿ばっかり、
優秀な日本人は海外脱出し、その地に適応しながら
日本人らしさを守り伝えているのかも知れません。

どうもありがとうございます。500年も後の事はわかりませんが、日本国内にも海外にも優秀な日本人の活躍の場があることを願っています。

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