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2015年2月27日

それでも日本は積極的平和主義でISISとイランの脅威を抑制すべし

安倍晋三首相が中東訪問で2億ドルの人道支援によってこの地域でのテロに立ち向かうと表明した(「中庸が最善:活力に満ち安定した中東へ 新たなページめくる日本とエジプト」";;安倍首相の中東政策スピーチ;2015年1月18日)のを受けて、ISISがインターネットで日本人人質2人の殺害を全世界に流した(ISIS Says It Has Killed 2nd Japanese Hostage”; New York Times; January 31, 2015)ために野党と一部のオピニオン・リーダー達からの批判の嵐となった。JNNの世論調査によると国民の55%が安倍氏の中東訪問は不適切だったと答えている(「安倍首相の中東訪問、タイミング『不適切55%”』; TBSニュース;2015年2月9日)。

しかし安倍首相がエジプトで2億ドル援助の演説を行なった次にイスラエルを訪問したことを人質殺害と関連付けるのは、あまりに皮相的である。ニューヨーク在住の文筆家である安田佐和子氏はテロリストの真の目的は一般市民の間に恐怖を煽り、自分達の存在を誇示することだと語る。私は安田氏の見解に同意する。それはメディアがジョージ・W・ブッシュ氏への批判を繰り広げたために、サダム・フセイン打倒後のイラクに反米テロリストが終結したという先例があるからである。安倍氏への批判に対する批判はアラブ側からも挙がっている。パレスチナ自治政府のワリード・シアム駐日代表は駐日アラブ外交団団長として、ISISを非難して安倍氏を擁護している(「『安倍首相のせいで日本人がテロの標的に』ジャーナリストの指摘に疑問、反論が噴出」;J-CASTニュース;2015年2月2日)。

人質両名の殺害は日本国民を震撼させたが、日本は戦後の全方位外交から脱却して自国の国益を守る必要がある。オバマ大統領自身がアメリカはもはや世界の警察官ではないとのたまわるようでは、日本もオバマ政権のアメリカに信頼を寄せられなくなっている。そうであるとすれば、日本は民主主義諸国の中核として中東の安定化のために何かをやる必要がある。さもなければ中東の石油に大幅に依存する自らの経済さえ持続できなくなってしまう(“A tipping point for Japan’s foreign policy”; Financial Times; January 28, 2015ないしこちら)。 問題は日本一国の狭い国益を超えたものである。安倍政権の積極的平和主義を後押ししている日本国際フォーラムは第37回政策提言で、日本は戦後の「一国平和主義」を脱却して自由主義世界秩序の強化に積極的に関わるべきだと主張する 。

この提言の重要なポイントは日本の再軍備でも大国の地位追求でもなく、世界平和への脅威の抑制による真の「世界不戦体制」の構築である(「積極的平和主義と日本の針路」;日本国際フォーラム;2014年8月)。安倍政権が打ちだしたイラクとシリアの避難民に対する非軍事援助は、積極的平和主義の考え方を実行に移したものである。ISISの登場は現行のウエストファリア体制を骨抜きにする重大な挑戦で、狂気とテロに支配された世界規模のカリフ国家の設立など到底受け入れられないものである。そんな事態になれば平和と繁栄、そして国民の福祉という日本の存在基盤そのものが危機にさらされる。永田町での党利党略がどうあろうと、中東の脅威を抑え込むことは日本の国益である。

にもかかわらず、日本の世論には安倍首相の中東訪問のタイミングを非難する声もあり、彼らは思慮を欠いた外交日程によって後藤健二氏と湯川遥菜氏がISISに殺害されたと固く信じている。我々の同胞が残虐に殺されたことはきわめて悲劇的である。しかし私は安倍首相の中東訪問は日本の国際関与を訴えるうえで絶好のタイミングだったと主張したい。それは世界の公益に寄与するものだが、安倍氏を非難する者はこの点にほとんど考慮を払っていない。私は安倍晋三氏を礼賛しているわけではない。私が深刻な懸念を抱いているのはこれまでも当ブログで頻繁かつ再三にわたって述べたように、バラク・オバマ氏の中東政策が恐ろしく間違っていることである。日本を含めたアメリカの同盟国はオバマ氏の失策を取り戻すためにも、とれる行動は何でもとるべきである。

中東がISISによる蛮行と恐怖で震撼するような事態を許した最大の要因は、オバマ政権のイラク政策の失敗である。これは政権内での国防長官の頻繁な交代に顕著に表れている。ロバート・ゲーツ氏からレオン・パネッタ氏、チャック・ヘーゲル氏にいたるまでがイラクへの関与を低下させようというオバマ氏の政策に異を唱えた。政権発足前の移行チームの時期からオバマ・チーム入りしていたミシェル・フロノイ国防次官さえパネッタ氏とともに政権を去り、ヘーゲル氏退任後の国防長官への就任を受諾しなかった。オバマ大統領によるイラクからの性急な撤退で生じた力の真空は事態を非常に複雑にしている。ほとんどの専門家とオピニオン・リーダーがシリアとイラク西部のスンニ派過激主義者と旧バース党員の枢軸ばかりを論じるが、イランの支援を受けたイラク南部とレバント地域のシーア派ジハード主義者の脅威も侮れない。あまりにも多くのオピニオン・リーダー達が未知数xだけの方程式だとの前提で事態を語っている。この方程式でもう一つの未知数y、すなわちイランの影響については彼らの視野に入っていない。

そのように複雑な方程式をどのように解けばよいのだろうか?ISISと戦うというだけの理由でクルド人とシーア派の民兵を呉越同舟させることはきわめて危険で、実際に民族宗派間の紛争も伝えられているからである(“U.S.-backed Iraqi forces face risky urban warfare in battle against Islamic State”; Washington Post; February 8, 2015)。イラク南部の現地シーア派に加えて、イランはシリアでもシーア派代理勢力を支援してアサド政権を守っている。メリーランド大学研究員のフィリップ・スミス氏は、こうした代理勢力がシリアに流入しているからと言ってシーア派が自発的に連帯しているわけではなく、イランが地政学的にもイデオロギー的にも高度に組織化された支援を行なっていることを示すものだと している。すでにレバノンにはイランがパーレビ王政崩壊から支援を続けているヒズボラがいる。さらにイラクのリワ・アブ・ファドル・アル・アッバースというシーア派組織もシリアの内戦に参加している。ISISと同様にイランもフェイスブックを利用して志願兵を募っている。特にアフガニスタンのシーア派が広告の対象となっている。イランの革命防衛隊は反乱兵の募集のためにそのように広範なネットワークを築いている。イランが及ぼすことができる悪影響は一般に思われているより大きなものである(“The Shiite Jihad in Syria and Its Regional Effects”; Washington Institute for Near East Policy – Policy Focus 138; February 2015)。それら多くの懸念にもかかわらず、オバマ氏は欧米がイランに原子力利用と中東での「正当な地位」さえ認めてやれば、この国がイラクとシリアで建設的な役割を果たせると信じ込む有り様である。民主党のボブ・メネンデス上院議員やオバマ氏と長年の盟友であるトム・ケイン上院議員さえ、イランに対するそうした白昼夢には異を唱えている(“Obama’s fight with his own party over foreign policy”; Washington Post; February 1, 2015)。スミス氏は先の報告書で欧米はISISとシーア派双方がネット上で行なうプロパガンダと兵員募集を遮断するように提言しているが、それは序の口に過ぎない。

アメリカが二つの敵にどのように対処すべきか模索するために、ワシントン近東政策研究所は2月11日に公開討論会を開催した。同研究所のマイケル・ナイツ研究員とメリーランド大学のフィリップ・スミス氏が戦略的な概観を述べて政策の方向性を提言した。両者の議論はP・J・ダーマー退役陸軍大佐が総括した。はじめにナイツ氏がISISとの戦いには数年で勝つことが可能だが、シーア派民兵がクルド人およびイラク中央政府と衝突すればイラクの統一が損なわれると述べた。また、バグダッドは有志連合がイランへの過剰な依存に走れば、シーア派がイラクを乗っ取るのではないかと懸念している。よってアメリカと同盟諸国はこの戦いでイランより大きな戦果を挙げねばならないと説く。さもなければイラクはイランの衛星国となり、アメリカはこの地域で重要なパートナーを失うことになる。レバント地域でのイランの影響力も問題である。シーア派民兵はシリアのアサド政権についているので、彼らの存在はイスラエルにはゴラン高原で、イラクには北西部国境での脅威となる。よってスミス氏はイランがレバントからペルシア湾まで影響下に置くようになると警告している。ISISとイランへの対処が同時に必要になるという複雑な事態に鑑みて、ダーマー氏はアメリカにとって最重要課題はISIS打倒後のイラクを安定して継続的なパートナーにすることだと総括している。以下のビデオを参照されたい。



私が彼らの討論でやや当惑したのは、アメリカは核問題でテヘラン政府と厳しい交渉に臨んでいる最中に、ISIS打倒のためにイランに支援を求めるというオバマ政権のアプローチを認めたかのように議論が進んだからである。オバマ大統領の宥和政策によってイランがアメリカを弱体と見なして自信過剰になるのではないかとの懸念は深まるばかりである。昨年6月18日にアメリカン・エンタープライズ研究所でジャック・キーン退役陸軍大将がジョン・マケイン上院議員との公開討論で、イランはシーア派民兵を通じて自分達の足場が固められる限り、イラクの安定には関心もないと語ったことを忘れてはならない。

これまで挙げてきた観点から、私は安倍首相による2億ドルの援助計画は、有志連合がISISと戦う一方でイランの影響力拡大を極力抑えるには絶好のタイミングであったと考えている。日本のメディアはこのことに言及しない。安倍氏自身あるいは岸田文雄外相はこのことを国民の前でもっと大胆に述べるべきであったし、それによって日本国民と知識人の間でイスラム過激派に対する問題意識と理解が高まったであろう。日本はイスラエルとアラブ諸国の双方をイランの脅威から解放するとともに、こうした国にISIS掃討への関与を要請するというオバマ大統領の致命的な失態を取り返すためにも絶対に必要な行動をとったのである。これはまさに積極的平和主義を実行に移す対応である。なぜ永田町界隈とメディアの間ではこれほどまでに難癖がつけられるのだろうか?

そうした安全保障上の脅威からすれば、安倍首相の中東歴訪は最も望ましい時期をとらえたものである。後藤氏と湯川氏の斬首は恐るべきもので、両人には哀悼の意を述べたい。しかしこの事件をもって安倍氏を非難している者は過剰に感情的になり、ただ首相への反論に事件を利用しているだけのような印象を受ける。問題は安倍氏が好きか嫌いかではない。日本が中東の安定に寄与するための全体像を考えてゆく必要がある。アメリカもヨーロッパも長年にわたってこの地域でのテロ掃討に関わっている中で、ISISやシーア派ジハード主義者の温床となっている社会経済的不安定を抑制するために従来以上の影響力を行使できるのは、主要民主主義国では日本を置いて他にない。安倍氏はエジプト、ヨルダン、イスラエル、そしてパレスチナ自治政府を訪問したが、4者いずれも体制、国家承認、民族、宗教などの違いを乗り越えて日本の首相と会談するためにわざわざ外交日程を調整した。神でさえ何人も安倍氏を嫌うことを止めることはできないので、そうしたい者はそうすればよい。しかし遺憾なことに安倍氏の外訪を非難するもののほとんどは、中東へのビジョンもなく日本がアメリカ主導の有志連合から距離を置くべきだと主張するような古い消極的平和主義から物を言っているが、それは今世紀にはとてつもなく孤立主義で時代遅れな考え方である。

さらに、私は日本のオピニオン・リーダー達の間に広まっている反ユダヤ主義に怒りの意を表したい。彼らは日本人人質が殺害された際に、安倍氏があまりにも短慮にイスラエルを訪問したためにアラブの怒りに触れたと主張した。それは全くの間違いである。パレスチナ自治政府は安倍氏がイスラエルとともに自分達を訪問することを歓迎した。さらに重要なことに、イスラエルはイランの核兵器とシーア派代理勢力の脅威に対抗するうえで湾岸アラブ諸国にとって事実上の同盟国になっている。こうした観点から日本では一般市民から知識人にいたるまで多くの者がいとも簡単に反イスラエルの視点を持つようになったのか、両国が世界の安全保障で価値観と国益を共有していることをからすれば疑問を抱かざるを得ない。1月21日に行なわれたベンヤミン・ネタニヤフ首相と安倍晋三首相の共同記者会見では、反アラブあるいは反イスラム的な文言は一切なかった。ネタニヤフ氏はイランと北朝鮮への核拡散、そしてそこからテロリストへの核の漏洩が世界に与える恐怖を強調した。他方で安倍氏はテロ、二国間関係とともに、日本がイスラエルとパレスチナの和平交渉を双方の友人として支援してゆくと語った。以下のビデオを参照されたい。



反対派は安倍氏のイスラエル訪問を盲目的な対米追従だと見なしているが、彼自身はもっとリアリストの立場から日本自身の国益追求と中東でのプレゼンスを模索している。パレスチナとの関係を維持しながらイスラエルとの関係を深化させることによって、安倍氏はこの地域での日本の影響力強化をはかっている(“Shinzo Abe Raising Japan's Profile by Engaging the Middle East”; Economy Watch; 11 February, 2015)。多くの日本人が殺害事件に非常な衝撃を受けたので事件とイスラエルを短絡的に結び付けてしまい、中にはこの国が諸悪の根源であるかのように語った者さえいた。しかし我々は杉原千畝という人道主義者の国であって、アドルフ・ヒトラーという人種差別主義の殺戮者の国ではない。杉田和博官房副長官が委員長となる検証委員会が人質事件を検証する(「(社説)人質事件検証―歴史的視点が必要だ」;朝日新聞;2015年2月12日)際に、そうした根拠薄弱な反ユダヤ主義が払拭されることが望ましい。

また、イスラム過激派の性質も理解するべきである。日本が宥和したとしてもISISは人質を殺害したであろう。過激派は自分達の同胞であるイスラム教徒さえ殺害する。異教徒を殺すのに何の躊躇があるだろうか?日本は西欧対イスラムという文明の衝突に巻き込まれるべきではないという間違った理解が広まっている。それは全く誤っている。歴史を通してみると、キリスト教徒とユダヤ教徒だけがイスラム過激派と敵対関係にあったわけではない。彼らはインドで仏教を根絶したうえに、ゴータマ・シッダルタ生誕の聖地を破壊した。タリバンがバーミアンの大仏爆破を思いとどまるよう請願に訪れた日本代表団に対し、侮辱的な対応だったことを忘れてはならない。また日本がアメリカ主導の有志連合と距離を置くべきだという議論も、彼らがロシア人を殺害したことからして間違っている (“ISIS video claims to show boy executing two men accused of being Russian spies”; CNN News; January 15, 2015)。我々が銘記すべき最も重要な点は、過激派の偏向したイデオロギーと狂気性である。歴史的な証拠が示す通り、イスラム過激派はムスリム穏健派や他宗教の信者に非寛容的である。現在では彼らはスンニ派の中でも最も教条主義的で無辜の民への殺戮さえ正当化するようなサラーフィー主義に傾倒し、過激性と暴力性を強めている。

我々は中東の安全保障をめぐる複雑なやり取りとイスラム過激派の性質を理解せねばならない。最後に、グローバル社会は戦闘地域にいるジャーナリストと援助関係者を守るために国際的なプロトコールを作成すべきだと訴えたい。権力からの独立性を重要視している彼らは政府の指示に従うことに難色を示すかも知れない。しかし彼らの勇敢な職務への献身がテロリストに利用され、それが誘拐と殺害を誘発して世界を恐怖に陥れている。よって各主権国家はジャーナリストや援助関係者に対し、テロとの戦いでどのように危険に巻き込まれないようにするかというガイドラインを示さねばならない。危機の予防はテロリストに拘束された人質の解放よりも重要である。一度捕まった人質をテロリストから解放する手段は、事実上ほとんどないからである。

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