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2015年3月13日

プーチン大統領は核大国の責任を果たす気があるのか?

国連安全保障理事会の常任理事国の指導者ともなれば、大西洋憲章と国連憲章に記されているように国際公益を守るために責任ある行動をとるものとされている。しかしウクライナ危機以降にロシアが新たに打ち出した核戦略ドクトリンとヨーロッパでの挑発的な行動から、プーチン政権は大国としての責務と責任を果たすよりもその地位を濫用しているのではないかと疑わざるを得ない。プーチン氏が核による威圧を行なえば国際安全保障は不安定化するのみである。そうした問題をはらみながら、ロシアはイランでのP5+1協議と北朝鮮での六ヶ国協議の両方で当事者となっている。よってウラジーミル・プーチン大統領が世界の核の脅威を低下させる責任を果たすかどうかを批判的に問いかけねばならない。

新核戦略ドクトリンよりも以前から、ロシアは核戦力を強化してきた。最近になってボレイ級潜水艦に配備されたブラバーSLBMは敵のミサイル防衛システムを通り抜けられる。さらに問題なのはイスカンダル移動式戦域弾道ミサイルで、アメリカ側はこれを1987年の中距離核戦力全廃条約に対する違反だと非難している(“Russia’s deployed nuclear capacity overtakes US for first time since 2000"; End the Lie; October 6, 2014)。核攻撃能力の拡大を背景に、ユーリー・ヤクボフ退役陸軍大将はインテルファクス通信社に対してロシアは敵への先制核攻撃ができるように軍事ドクトリンを改訂し、アメリカとNATOが最も重大な安全保障上の脅威だと明言すべきだと語った("Russian General: Bring Back Pre-emptive Nuclear Strike Option Against NATO”; Breitbart News; 3 September 2014)。新ドクトリンがヨーロッパで広く懸念されているのは、近年になってロシアの強硬姿勢が目立つからである(“Insight - Russia's nuclear strategy raises concerns in NATO”; Reuters News; February 5, 2015)。

ウクライナ危機が深まるとロシアはイギリス上空に頻繁に侵入するようになった。英空軍のタイフーン戦闘機がスコットランド上空でTu95爆撃機の侵入阻止をするのは日常茶飯事となり、中にはさらに南下してイギリス海峡まで飛来して核兵器ミサイルまで搭載している機体もあった。サー・トニー・ブレトン元駐露大使は西側のウクライナ介入に関してイギリスに怒りの意を示したいのだと述べている(“Putin showing UK 'what we are taking on' with Russian bombers, former UK ambassador claims”; Independent; 7 March, 2015)。ロシアは海からも侵入してくる。英海軍のフリゲート艦「アーガイル」はイギリス海峡でロシアのフリゲート艦「ヤロスラフ・ムードルイ」と補給艦「コラ」を追跡した(“UK Navy's HMS Argyll tracks Russian warship in English Channel”; Naval Technology; 18 February 2015)。さらに危険な事件では、ロシアの軍事偵察機がデンマーク発でスウェーデン沖を飛行中のSAS旅客機とニアミスを引き起こしている。デンマークとスウェーデン両国は民間飛行の安全のためにロシア大使を呼び出して事情説明を求めた(”Scandinavians warn Russia after air near-miss”; Financial Times; December 15, 2014)。

プーチン大統領はロシアの力を誇示したいがために核の脅威を増幅しているだけで、国際安全保障での責任ある当事者として振る舞う気などないように思われる。ロシアの先制攻撃ドクトリンとヨーロッパの海空での威嚇行為は、イランと北朝鮮の非核化交渉の当事者としての資格に疑問の余地を持たせる。実際にイランと北朝鮮でのロシアの行動は核不拡散よりも地政学上のパワー・ゲームを志向しているようにさえ見える。我々はプーチン氏の優先順位が欧米との競合と核軍備管理のどちらにあるのかを批判的に検証するべきである。

イランとの核交渉の当事者でありながら、プーチン政権はP5+1の役割と矛盾するような挑発的な行動にも出ている。クリミア危機と並行して、ロシアは昨年2月よりイランと二国間経済協力に向けた交渉を開始し、民間用原子力発電所の建設を支援する見返りにルコイル社への石油および天然ガス開発の利権供与を持ちかけた。イランのメフディ・サナイ駐露大使は、16世紀以来の友人であるロシアがイランの市場で優遇されるのは当然だと述べた(“‘Friends from Russia should have advantage in the Iranian market’ - Iran’s ambassador”; RT; February 17, 2014)。実際にロシアのセルゲイ・リャブコフ外務次官は、ロシアはウクライナ危機で欧米から受けた制裁に報復措置をとると語った(“Russia May Alter its Position on Iran in Standoff With West” ;Global Security Newswire; March 20, 2014)。欧米の批判にもかかわらずロシアはイランで原子炉2つの建設を行なうと合意した。どのような原子力技術であれイランへの移転は危険だという批判も挙がっている。非常に問題なのは、現在交渉中の原子力協定ではイランのウラン濃縮能力が制限されない。しかしオバマ政権はこの協定自体への反対を引き下げた。その一方でアメリカと同盟諸国はイランにウラン濃縮の停止を要求した(“Russia Reaches Deal With Iran to Construct Nuclear Plants”; New York Times; November 11, 2014)。

濃縮ウランに関しては、2009年にイランは自己申告した医療用の低濃縮ウランをロシアとフランスに輸送し、そこで核燃料に加工することで合意した。しかしその合意では申告されない濃縮ウランまでカバーしていない(“Iran Agrees to Send Enriched Uranium to Russia”; New York Times; October 1, 2009)。しかしイランは今年の初旬にアメリカとはそのような合意はしていないと表明した(“Iran says no deal with U.S. to ship enriched uranium to Russia”; Reuters News; January 3, 2015)。核協定はそれほど脆弱なので、低濃縮ウランがロシアに輸送されてもその国の行動まで規制できないと思われる。核交渉が第一次合意にいたったその日、プーチン政権はイランに新型のアンテイ2500防空ミサイル・システムの売却を決定した。ロシアがハイテク兵器の輸出に踏み切ったことでイランに対する国際的な制裁が空洞化しかねない(“Putin Throws Wrench in Iran Nuke Talks”; Fiscal Times; February 23, 2015)。


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スホイ35スーパー・フランカー


ロシアは北朝鮮とも関係強化をはかる行動に出ているが、それもまた核拡散に手を染める国を勢いづけることになる。昨年よりモスクワや極東地域の州からロシアの政治家が北朝鮮を頻繁に訪問し、貿易と投資の促進と北朝鮮からシベリアに通じる鉄道網の整備を話し合った。北朝鮮外務省は本年初旬に経済のみならず政治面と軍事面でもロシアとの関係を拡大すると述べたが、ロシアは北朝鮮に対する国際的な制裁もあって軍事援助は再開していない。しかし北朝鮮はミグ17、ミグ21などソ連時代の旧式戦闘機に代わる兵器として、ロシア空軍最新鋭のスホイ35戦闘機の購入に強い関心を示している。現在のところロシアは国際的な制裁を遵守しているが、北朝鮮が一度スホイ35を手にすれば核兵器の運搬手段を得ることになるので我々としても注意深く見守る必要がある。北朝鮮は弾道ミサイルを開発したが、核弾頭はそれに搭載できるほど小型化していない。しかしスホイ35があれば北東アジア一帯に北朝鮮が核攻撃できるだろう。もちろん、ハドソン研究所のリチャード・ワイツ政治軍事分析センター長が主張するようにロシアが最新鋭戦闘機を輸出して制裁に違反するリスクを冒すよりも、航空機器のスペア部品を民間用と偽装して北朝鮮に供給する可能性の方が高い。いずれの場合もプーチン政権が北朝鮮に対する核不拡散のための制裁を骨抜きにするかどうか、注意深く見守らねばならない(“Moscow and Pyongyang: From Disdain to Partnership?”; Diplomat; February 19, 2015)。

新戦略ドクトリン、ヨーロッパ、イラン、そして北朝鮮でのプーチン政権の行動に鑑みて、ロシアは国際安全保障における核の脅威を増幅させているうえに、フランクリン・ローズベルトが構想した戦後の世界秩序における大国の役割を果たしていない。プーチン大統領には世界の核安全保障問題でもっと責任ある行動をとるように要求する強いメッセージを発するべきである。その一環として、国際社会はロシアを国連安全保障理事会の常任理事国から除名するというのはどうだろうか。実際にはロシアに拒否権があるので、これはきわめて難しい。より現実的に、世界各国の指導者達が第二次世界大戦終結70周年の声明で大国の責任について言及すべきだと私は提案したい。今や21世紀であり、この70年間に主要国がとった行動の方が日本やドイツが過去に犯した過ちよりもはるかに重要である。ドイツのアンゲラ・メルケル首相の場合はロシアに対する柔軟政策からすると、こうした案には関心を持たないだろう。他方で日本の安倍晋三首相にとっては70周年談話で責任を果たさない大国に言及することは有益である。

今年の2月には中国の王毅外相が中露両国で「反ファシズム・抗日戦争勝利70周年」式典を開催して日本の「右翼」を抑え込み、両国が第二次大戦の戦勝国としての地位をこれからも維持してゆくと語った(「安保理公開討論:中国外相『侵略ごまかそうとする者いる』」;毎日新聞;2015年2月24日)。安倍首相がアメリカとの共同談話で戦後の民主的で平和な日本を強調する際には、中露枢軸への対抗のためにも大国の責任に言及すべきである。ブルッキングス研究所のロバート・ケーガン上級研究員はロシアと中国が挑発的な行動をとっているのは自国の防衛のためでなく、欧米主導の世界秩序で傷つけられた自分達のプライドを満たすためだと論評している(“The United States must resist a return to spheres of interest in the international system”; Brookings Institution blog --- Order from Chaos; February 19, 2015)。これはこの記事で述べたようなプーチン大統領の瀬戸際外交や地政学的なパワー・ゲームに顕著に表れている。よって核安全保障はロシアが責任ある大国の資格を満たしているのかを問い質すためには重要な問題なのである。


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