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2015年9月30日

核合意をめぐるイランとアメリカについての追記

以前の記事ではキャピトル・ヒルでイラン核合意反対派が合意の破棄を目指して協力に働きかけていた。しかし3度目の投票で反対派は3分の2の多数を取れなかった。その結果、大統領の法案が上院を通過した(“Last bid to kill Iran nuclear deal blocked in Senate”; Reuters; September 17, 2015)。それにもかかわらず、民主党でもベン・カーディン上院議員、ジョー・マンチン上院議員、ボブ・メネンデス上院議員、チャック・シューマー上院議員の4氏が共和党とともに3回続けて合意への反対票を投じた(“Senate Dems stonewall Iran resolution, handing victory to Obama”; Hill; September 17, 2015)。

しかし反対派は核合意に厳しい制約を科してイランの不履行を防ごうという希望を捨て去っていない。そのために、イランが合意を履行しないなら1996年のイラン制裁法の復活を要求し、外国企業にイランの石油および天然ガス産業への投資をせぬように圧力をかけようとしている。これと並行して湾岸アラブ諸国とイスラエルへの軍事援助によって対イラン抑止力の強化を推し進めている。さらに、査察には長い時間がかかるので、イランと国際社会の対立も起きるかも知れない。反対派はイランに合意の順守を厳しく求めてゆくであろう(“Iran nuclear deal is done, but not the debate in Congress”; AP; September 19, 2015)。国連査察官とサダム・フセインの対立がイラク戦争の引き金となったことを思い出すべきである。

P5+1の協調は砂上の楼閣の上に建っている。シリアでの見解の相違は核合意の当事者を分断している。ロシアとイランはアサド政権を支援してISISと戦おうとしているが、アメリカは自由シリア軍への支援によってアサド体制から民主体制への転換をさせようとしている。サウジアラビアはイランがアサド政権支援によってシリアで影響力を拡大させることを恐れている(“US-Russia tensions on show as Putin and Obama clash over Syria”; Guardian; 28 September, 2015)。この地域の両大国の緊張が激化すると、イランと外部世界の相互信頼は一層脆弱になってゆくだろう。

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2015年9月23日

横田基地の日米友好祭に見る国民の真意

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大盛況の日米友好祭(9月20日横田基地)

去る9月19日および20日には在日米軍および航空自衛隊の横田基地において日米友好祭が開催された。今年の友好祭は例年以上に注目に値するものであった。それは、直前9月19日未明に大紛糾の末に参議院で安保法案を通過したばかりだったからである。このイベントに対する市民の受け止めは、メディアの報道にも学者達の研究にも表れない国民の真意を知るための試金石である。結論から言えば、反対派の声を過大評価したメディアの報道姿勢は間違いである。それは彼らが何を言おうとも、日米友好祭の膨大な人出と活気が国民の間での日米同盟と安保法制への強い支持を雄弁に物語っているからである。

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あのオスプレイも大人気


今回の安保法案をめぐってはSEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)をはじめとした左翼およびリベラル系の大規模な反対デモが国会前で行なわれ、メディアからは60年安保闘争の再来として大きな注目を集めた。あまりの大きなデモに民主党の岡田克也代表は、安保法制は国民の声を無視するものだと決めつけた。確かに無数の人々が永田町を占拠し、大声で安保法制への反対を叫んだ。しかし、それが論理的にも情緒的にも日本国民の声を代表するものなのだろうか?こうした街頭の市民運動において、左翼系の団体がきわめて動員能力に長けていることに留意しなければならない。政治学の入門理論では、強い団結力で特定の目的意識を持ったグループが大多数の国民以上に大きな影響力を持つ。永田町を占拠した者達がどこまで国民の声を代弁する存在なのか、それはきわめて疑わしい。

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AWACSに長蛇の列


それに対して日米友好祭での横田基地への市民の来訪は、どこの組織からも動員されていない自発なものであった。通常は最寄りのJR青梅線牛浜駅から基地までは徒歩で15分ほどということだが、この日の入場には1時間以上もかかった。警察は膨大な人数の来客が周辺住民の交通を妨げぬよう、彼らの行列を整えて往路を迂回させたほどだった。もう基地に入る前から、これが永田町占拠者と同じ日本国民とは思えないほど、在日米軍および自衛隊に対する支持と人気の高さを示していた。道中では日本民主青年同盟の運動家20人ほどが安保法制反対のデモをやっていたが、日米友好祭にやって来る訪問客が彼らの主張に耳を貸すはずがない。民青の行為は、ただ失笑と冷笑の対象になるためだけの運動であった。

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アメリカ兵と記念撮影する日本人女性


やっとのことで基地内に入場できたものの、そこではどこの出店も展示も長蛇の列であった。また、米軍兵士との記念撮影にも多くの来客が殺到した。こうした光景を目の当たりにすれば、日本国民が信頼を寄せているのが在日米軍や自衛隊なのか、それともSEALDsや小林節名誉教授なのかが一目瞭然である。永田町占拠者達はこうした国民の声なき声を無視し、まるで「私達こそが世論である」と言わんばかりの態度であった。それではもはや太陽王ルイ14世さながらであり、彼らには市民運動家を名乗る資格など全くない。民主党の岡田代表のように国民世論を読み誤っている政治家こそ、アメリカ軍を素朴で素直に歓迎する国民に目を向けるべきである。アメリカ軍および自衛隊に対するこうした素朴な信頼と支持が広まっているのは、遠方から電車でやって来る来客の間ばかりではない。基地周辺の住民も近隣で祭りを楽しみ、夜になると花火見物に基地内へ入場してきた。本土の左翼が乗り込む沖縄と違い、横田の米軍は地域社会に溶け込んでいるのである。

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パックス・アメリカーナ?地面に横たわってくつろぐ人々

こうした事態に鑑みて私はメディアが安保法制反対派の声ばかりをとりあげ、彼らが必要以上に勢いづけられた偏向報道には強い疑問を抱いている。本来なら、国民の声なき声を拾い上げるのが彼らの役目である。また、この法制に反対する諸政党は国会で「国民は理解できない」と声を荒げていた。しかし実際には数えきれないほど多数の国民はアメリカ軍と自衛隊に共感と理解を示している。横田基地の日米友好祭はこれを雄弁に物語っている。このことは取りも直さず日米の防衛協力を進める安保法制への理解は国民の間では静かに広まっていることを意味する。今回の安保法制を理解するかしないかは、頭脳よりも意志によるところが大である。永田町占拠者達のような教条的な一国平和主義者達に国際情勢の変遷やホッブス的な性質を何度説いても徒労に終わるだろう。理解する気がない者は何を言っても理解しない。真のグラスルーツとは、横田基地にやって来た人々である。よって今法案成立後の政策実施に当たっては、日本国民の内でもどのような層の声を重視すべきかを考慮すべきである。

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2015年9月19日

イランとアメリカのデタントは考えにくい

オバマ政権による核合意がイランとアメリカのデタントへの道を開くと期待する向きがある。しかし当ブログで何度か記しているように、それは考えにくい。核合意自体は議会で超党派の激しい批判ばかりか、中東でのアメリカの同盟諸国の懸念にさらされている。9月10日の上院採決では3分の2の多数をとれなかった(“Lawmakers Against the Iran Nuclear Deal”; New York Times; September 10, 2015)ことを受けて、共和党のミッチ・マコネル上院議員は合意の破棄を目指して木曜日に第3回目の投票を呼び掛けている (“Senate Dems block vote to disapprove of Iran deal”; AP; September 15, 2015)。また共和党は一般には公開されていないオバマ政権による裏取引についての訴訟さえほのめかしている(“U.S. Republicans Threaten To Sue To Stop Iran Nuclear Deal”; Payvand Iran News; September 12, 2015)。

さらに核合意賛成派も米・イラン関係に関して楽観的でないことは、ヒラリー・クリントン前国務長官が2009年のグリーン運動への支援を控えたバラク・オバマ大統領を非難していることに表れている(“No Love for Obama”; Weekly Standard Blog; September 9, 2015)。オバマ氏はイランとの外交関係の突破口を開こうとしているのかも知れないが、大統領の任期は1年あまりしか残っていない。クリントン氏の発言は、次の選挙で勝つのが民主党であろうが共和党であろうが、オバマ政権後にはイランとアメリカの緊張が高まると言う私の見解を裏付けている。

この合意は本質的に抜け道と欠点だらけである。共和党の大統領予備選候補のマルコ・ルビオ上院議員は、この核合意が問題視されるべき理由を10個挙げている。最も深刻なものはイランとIAEAが交わしてと疑われる裏取引で、それが合意全体を破滅させかねない。またイランが核物質の爆発実験のコンピューター・モデル化を実施できるように、査察も抜け道だらけである。さらに遠心分離機を秘密裡に動かすこともできるばかりか、さらに危険なことにイランの政府関係者はこの合意の下では自分達の必要に応じて国連査察官に施設への立ち入りを拒否できるものと解釈している。裏取引と査察の他に、差し迫った問題は制裁解除によってイランがテロリストへの資金援助や兵器の購入ができるようになることである(“Ten Things That Every American Should Be Concerned About In The Iran Deal”; MarcoRubio.com)。そうした可能性がある兵器の中でもアメリカの論客たちがきわめて危険視しているのが、イランのICBM開発によってアメリカ本土への攻撃が現実化することである(“Off-Target: The Folly of Removing Sanctions on Iran’s Ballistic Missiles”; National Interest; August 17, 2015)。

そうした欠陥のため、ディック・チェイニー前副大統領は、この合意は敵によるアメリカ本土への直接攻撃を許すような歴史的にも独特なものだと辛辣に論評している。以下のビデオを参照されたい。



制裁解除となれば、ロシアと中国がイランに武器を輸出するであろう。今年の7月に行なわれたウィーン交渉の前に、ロシアはイランへのS300対空ミサイルの売却を表明してイスラエルの不興をかったが、オバマ氏はそれを了承している(“Russia-Iran relationship is a marriage of opportunity”; Washington Post; April 18, 2015)。このミサイルは中国がコピーしたHQ9とほぼ同型で、このミサイルを中国がトルコと韓国に輸出しようとした際にはNATOと日本の安全保障の専門家達の間で物議を醸した。ロシアの行動は中東の安全保障に多大な悪影響をもたらすもので、イスラエルがオバマ政権のイラン政策を疑問視するのも当然である。ロシアと中国はこれまで以上にイランに兵器を売るのだろうか?私は両国によるイランへのキャリアー・キラー・ミサイルの輸出を警戒しているが、それと符合するかのように中国は抗日戦勝70周年記念日にDF21Dを誇示した。イラン核合意はペルシア湾でのアメリカ海軍の海洋支配を脅かしかねない。

また湾岸地域の地政学も本質的に不安定である。イスラム革命以来、近隣アラブ諸国はイランを信用していない。これはイラン・イラク戦争でアラブ諸国がサダム・フセインを支持したことに顕著に表れている。サウジアラビア、クウェート、ヨルダンといったアラブ王制諸国は非常に保守的で、バース党体制下のイラクとはイデオロギー的に水と油である。しかしシーア派革命の輸出というイランの国家理念はスンニ派の君主制諸国に多大な危機感を抱かせたので、イランの脅威に対抗するためにイラクに頼りきった。この同盟はサダムによる後年のクウェート侵攻に見られるように、非常に脆弱であった。現在、核合意によってイランの脅威に対するアラブ諸国の懸念が非常に高まっているので、これらの国々では国防力が急速に強化されている。サウジアラビアはロッキード・マーチン社との間で最新鋭のフリゲート艦とTHAAD(終末高高度防衛)弾道ミサイル迎撃ミサイルシステムの購入の交渉を進めている(“Saudi Arabia, U.S. near deal for two Lockheed warships: sources”; Reuters; September 2, 2015)。クウェートもイタリアとタイフーン戦闘機28機の購入で合意した。ユーロファイター・コンソーシアムは次のタイフーン輸出先としてバーレーンにも注目している(”Typhoon scores in Kuwait “; IHS Jane’s 360; 15 September 2015)。

これらの動きからヨーロッパ諸国もイランとの核合意によって湾岸地域に平和と安定がもたらされるといった白昼夢など信じていないことがわかる。ヨーロッパがこの合意を支持するのは、制裁解除後に新規の市場とエネルギー供給源を求めてのことである。フランスはサルコジ政権期にすでにアラブ首長国連邦に海軍基地を設置している(“France Opens First Military Base in Persian Gulf Region”; Washington Post; May 27, 2009)。イギリスも昨年、バーレーンへの海軍基地建設で合意した。フィリップ・ハモンド英外相は、イギリスとフランスがオバマ政権によるアメリカのアジア転進がもたらす中東での力の真空を埋めると語った(“Britain returns 'East of Suez' with permanent Royal Navy base in Gulf”; Daily Telegraph; 6 December, 2014)。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はオバマ大統領と頻繁に会談してイランの真の脅威を理解するとともに、これまで以上に断固たる対応を要求している(“Obama likely to meet Israel's Netanyahu in November, White House says”; Reuters; September 11, 2015)。こうした事情を踏まえて私は以下の問いかけをしたい。SALTが締結された時、ヨーロッパの同盟諸国と日本がソ連の脅威に対してこれほど危機感を強めただろうか?

地域内の安全保障環境とともに、イランの政治についても議論すべきである。核合意の有無を問わず、イランは依然として強硬な態度をとっている。アリ・ハメネイ最高指導者は、この合意はきわめて例外的だと明言し、アメリカとイスラエルへの呪詛とシリアのアサド政権への支援は続けている(“Iranian leader: No wider talks with Washington after nuclear deal”; Washington Post; September 9, 2015および“Khamenei: Israel will no longer exist in 25 years”; Al Monitor; September 9, 2015)。革命防衛隊はさらに、アメリカとイスラエルを根絶する準備ができているとまで言明している(“Iran Welcomes War With The U.S.”; Value Walk;September 4, 2015)。ハッサン・ロウハニ大統領とジャバド・ザリフ外相は穏健派と見なされている。しかし外交問題評議会のマックス・ブート上級研究員はロウハニ師にゴルバチョフ氏の面影を見るのは夢物語で、実際にロウハニ師はシーア派神権政治の民主化には関心はないばかりか近隣諸国に対する拡張主義の方針も捨て去っていないが、ゴルバチョフ氏はベルリンの壁崩壊直後の東欧諸国に広まった自由を求める動きを抑え込もうとはしなかったと論評している(“Iran's Rouhani: He's no Gorbachev”; Los Angels Times; November 24, 2013)。さらに、最高指導者はシーア派神権政治を代表し、その権力も革命防衛隊のような教条主義的な忠誠を誓う勢力を基盤としているので本質的に強硬派だということを銘記しなければならない。大統領がどれほど穏健派であっても、これを乗り越えることは非常に難しい。

核合意が成立しても米・イラン間のデタントはきわめて考えにくい。ヨーロッパと中東でのアメリカの同盟諸国はこれをよく理解している。しかし日本の国会では安保法制の議論で、ペルシア湾には脅威が存在するのかといった非常に初歩的な質問がなされている。しかしイランの脅威はこれほど大きなものである。今回の核合意は地域の平和を保障するものではない。間違ってもそれに希望を託してはならない。


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