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2015年12月29日

トランプ現象と共和党の劣化

現在の共和党は重大な岐路に立っており、ドナルド・トランプ氏という恐怖心の扇動に長けた排外主義のポピュリストの台頭を前に恐れおののいている。アウトサイダーがのし上がってくること自体はアメリカ政治では特別なことではない。歴史上の大統領のほとんどは自分達の選挙運動で反ワシントンのスローガンを叫んで古い政治の刷新をはかってきた。しかし今回の事態は過去の事例とは全く異なる。トランプ氏は炎上発言を繰り返してはメディアの注目を強烈に引きつけ、右派孤立主義者を取り込んで支持率を急上昇させている。しかし諸外国や民族的マイノリティーに対するトランプ氏の度重なる暴言によって共和党の名声、さらにはアメリカの名声は酷く汚されてしまった。遺憾にもトランプ氏の支持者はそうしたことを全く気にもとめていないばかりか、ただ自分達だけの閉じられた世界での安全と良い生活での自己満足を追求している。

歴史的に言えば共和党はリンカーンの政党で、南北戦争を目前にしてエスタブリッシュメントが国家と国民の統合のために設立した党である。しかし今日では教育程度の低い人々にハイジャックされた共和党は、国家と国民の分裂をもたらす政党に堕落してしまった。問題視すべきはトランプ氏の支持層の質である。12月にCNNとORCが行なった調査によると、トランプ氏の支持層は共和党の中でも際立って最も知的水準が低く、それに対してマルコ・ルビオ上院議員の支持層が最も教育程度が高くなっている(“Donald Trump is polling better than ever. Here’s why.”; Washington Post; December 4, 2015)。そうした人々が暴言を吐きまくるテレビ・タレントの一言一句と一挙手一投足に魅了されるばかりで、そうした言動が現実の政治にもたらす結果についてほとんど考慮を払わないことは予期できる。かなり早い時期にボストン・グローブ紙が行なった調査ではトランプ氏の演説で使用される語彙は小学校4年生レベルで、それは両党の候補者の内では最も低い(“For presidential hopefuls, simpler language resonates: Trump tops GOP field while talking to voters at fourth-grade level”; Boston Globe, October 20, 2015)。政治が真剣な政策論争よりもテレビの娯楽番組であるならば、これは全く不利にはならない。低学歴でテレビ中毒の人々には理性よりも感情に訴える語句が必要なのである。

これはトランプ氏が11月に悪名高き人種差別発言をしてからほどない12月15日にラスベガスで開催された討論会で典型的に表れた。テレビ討論では国家安全保障が議題であったにもかかわらず、トランプ氏が外交問題にきわめて無知だということが判明した。特に司会のヒュー・ヒューイット氏が核の三本柱について質問した際にトランプ氏は全く覚束ない的外れな返答だったので、ルビオ氏からその意味を明快に教えてもらう有様だった (“Marco Rubio schools Donald Trump on the nuclear triad”; Politico; December 15, 2015)。外交問題評議会のマックス・ブート上級研究員がトランプ氏の最高司令官としての資質に疑問を呈したのは当然である(“Ignorance is No Excuse”; Commentary; December 16, 2015)。実際にルビオ氏の討論内容は知識人から高く評価されたが、トランプ氏はテレビ・タレントぶりを評価されただけであった(“Winners and Losers from the 5th Republican presidential debate”; Washington Post; December 15, 2015“GOP Insiders: Rubio shined in Vegas”; Politico; December 16, 2015および“GOP debate winners and losers”; Hill; December 16, 2015)。

トランプ氏はメディアから圧倒的な注目を集めたが、この討論会の議論の軸となったのはマルコ・ルビオ氏に代表される対外介入主義とテッド・クルーズ氏に代表される孤立主義である。ルビオ氏はパリとサン・ベルナンディーノでの事件に鑑みてテロに対する強力かつ断固たる対応を主張している。他方でクルーズ氏は中東での行動は慎重にすべきで、民主化の促進よりも本土防衛を重視すべきと訴えている(“Tough Talk vs. Military Muscle”; Defense One; December 16, 2015)。テロの脅威の増大は、潜在的にテロ行為の可能性がある通信に対する国家安全保障局による監視の強化、反米的独裁政権の放逐、そして国防費の増大を訴えるルビオ氏に有利に働く。他方でクルーズ氏は共和党内の孤立主義感情に訴えかけるために不法移民への市民権授与に反対している(“The Fight of the Night: Ted Cruz v. Marco Rubio”; Weekly Standard; December 16, 2015)。そうした中でトランプ氏が4年生レベルの語彙で自らの外交政策を語ることなどほとんどできないことが明らかになった。しかしきわめて不可解なことに共和党支持者は彼がどれほど無知で中味がない候補者であろうとも気にもかけないのか、支持率の方は討論会の後に急上昇している (“Trump keeps 20-point lead in post-debate poll”; Washington Examiner; December 18, 2015)。

トランプ氏の台頭は、イラク戦争後の外交政策での党派対立を乗り越えて孤立主義に対抗し、国際舞台でのアメリカのリーダーシップを強化するために超党派の外交政策を模索しようとする有識者の動きに対してこれ以上はない侮辱である。アフガニスタンに関する以前の記事で述べたように、保守派のアメリカン・エンタープライズ研究所とリベラル派のアメリカ進歩センターは合同で政策討論会を開催している。また政府レベルではブルッキングス研究所のロバート・ケーガン氏が2008年大統領選挙でジョン・マケイン候補の政策顧問だった立場を超えて国務長官麾下の外交政策委員会に加わっているばかりか、超党派のエジプト政策研究グループで共同議長を務めている。しかし今の共和党は全米の無教養な群衆にハイジャックされている。トランプ氏の暴言はイスラム教の同盟諸国を非常に憤慨させてしまったために世界の中でのアメリカの名声は著しく傷ついた。中でもイランの脅威に直面するサウジアラビアはオバマ政権後に共和党政権を切望していたが、混乱した候補者によって全てがぶち壊しになった。

一般にそれなりの教育水準の有権者であれば、若い頃より享楽的な生活を送って大衆向けのテレビ番組でこれ見よがしに汚い言葉で喝采を求めるような人物には投票しようとは思わないものである。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がトランプ氏を称賛したと言って喜び勇んでいる(“Putin praises Trump: ‘Very bright and talented man,’ and ‘absolute leader’”; Washington Times; December 17, 2015)ような人達は、あまりに単純である。プーチン氏は共産主義者ではないが、ソ連崩壊後に自らの祖国が「西側流」の強欲な利潤追求者達に染まってゆくことを嫌い抜いていた。トランプ氏はそうした類の資本家であって、プーチン氏が彼に敬意を抱くとはとても考えにくい。プーチン氏はシロビキの出身であり、ロシア国内では享楽的なオリガルヒを抑圧したことを銘記すべきである。むしろ、プーチン氏は心底ではトランプ氏のことなど軽蔑しきっているだろう。

我々がなすべきことは、そのようにおぞましい共和党の劣化の背後にある現実を探ることである。トランプ氏が指名されなくても、それに続くのはテッド・クルーズ上院議員である。排外主義の候補者の台頭によって世界の中でのアメリカの立場は悪くなっている。クルーズ氏はトランプ氏の悪名高きイスラム教徒の入国禁止案への非難を拒否した唯一の候補者である。さらに問題なことにクルーズ氏はトランプ氏と一緒になって政府がイスラム系テロリストと背後でつながっているなどと言って、陰謀論を煽って大衆の恐怖心をかき立てている(“Lexinton: The politics of panic”; Economist; December 12, 2015)。何が共和党をこれほど偏狭な思想に動かされやすくしたのだろうか? ウォールストリート・ジャーナル紙のジェラルド・シーブ氏は9・11同時多発テロによってアメリカの保守派はレーガン思想の理念である自由貿易と移民受け入れからかけ離れてしまったと嘆いている (“The Roots of Republican Fears on Immigration and Trade”; Wall Street Journal; December 14, 2015)。

デービッド・フラム氏はさらに、ティー・パーティーやその他のグラスルーツ保守派をウォールストリート・ジャーナル紙の論説の支持層だと見なすことは全くの間違いだと主張する。彼らは政府と同様に大企業にも不信感を抱く労働者である。彼らは政府による規制の徹底的な撤廃に賛同しているわけではない。労働者である彼らは自分達の収入が働かない人々に再分配されることを望んでいない。こうした観点から労働者階級の保守層は移民を嫌っているが、それは彼らが学校での言語支援など手厚い援助を受けながらそうした労働者達から単純労働の職を奪っていると見ているからである。そうした労働者階級の人々は自分達だけの小さな世界で自らの生活を維持することだけに関心があり、積極的な外交政策などは求めていないばかりか第二のイラク戦争などは悪夢だと見ている(“The Great Republican Revolt”; Atlantic; January/February 2016)。フラム氏は共和党が衆愚的なハイジャックをされた背景に深い洞察を与えている。

共和党支持層には変化の風が吹いているとはいえ、トランプ氏が指名されるようならこの党が国内および国際舞台で築き上げた長年の信頼が大きく損なわれるだろう。共和党はトランプ氏を反イスラム発言で宗教の自由を侵害したとして憲法違反を理由にトランプ氏を指名から外すことができる。トランプ氏は共和党の名声ばかりかアメリカの名声も汚してしまったのである。トランプ氏を指名したうえでの選挙の勝利など悪夢であり、それよりはトランプ氏を指名しないで選挙に負けた方が共和党にとってもアメリカにとってもはるかにましである。トランプ氏は能力的にも人格的にも大統領としての条件を満たしていない。実際に保守派の論客達も同様に考えている。

ワシントン・ポスト紙のジョージ・ウィル氏は「トランプ氏の強迫性に満ちた大言壮語は不安の証である。彼が不安を煽る欲求を抱いていることは、自分の独断専行を他人に押し付けようと強く渇望していることがうかがえる」と警告している(“If Trump wins the nomination, prepare for the end of the conservative party”; Washington Post; December 23, 2015)。他の論客はトランプ氏にもっと辛辣な批判を行なっている。ウォールストリート・ジャーナル紙のブレット・スティーブンス氏はトランプ氏の選出阻止と保守の理念を守るためにも保守派の有権者はヒラリー・クリントン氏に投票するようにと呼びかけている(“Let’s Elect Hillary Now”; Wall Street Journal; December 21, 2015)。ウィークリー・スタンダード誌のウィリアム・クリストル氏はトランプ氏が指名されるようなら保守派の人々は第三の政党を立ち上げるべきだとまで提言している(“Kristol: If Trump loses Iowa, ‘mystique’ disappears”; Hill; December 26, 2015)。さらに陸軍に29年奉職した共和党のクリス・ギブソン下院議員は、「あの人物に軍を委ねることには懸念を抱く」と厳しく論評しているが、それはトランプ氏の気質と判断力に多いに不安があるからだという(“GOP Rep. on Trump: 'I have concerns about giving that guy an army'”; Washington Examiner; December 27, 2015)。問題は安全保障に関する知識の貧困どころではなく、トランプ氏は最高司令官としての適性を完全に欠いている。

今回は高々一度の選挙であり、共和党は将来に現在の酷い劣化から立ち直れる。トランプ氏を指名しての選挙の勝利ではまともな共和党員がクラウド・アウトされてしまう。共和党をハイジャックしつつある人々は、嗜好、見識、道徳、そして知性のいずれにおいてもアメリカ国民の中でも最悪の部類である。トランプ氏の選出を阻止できなければアメリカの名声には取り返しのつかない傷がつくことになる。

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2015年12月20日

パリ同時多発テロ後の世界

パリ同時多発テロによって、国際社会はテロとの戦いがもはやアメリカの戦争にはとどまらないことを自覚した。これは9・11同時多発テロの時に気づいておくべきで、イラクとアフガニスタンの戦争でアメリカ主導の多国籍軍への批判どころではなかったはずである。特にこの事件はヨーロッパの安全保障と全世界での対テロ連合に影響を与えている。

ヨーロッパの安全保障に関して言えば多くの人々が犠牲者への哀悼と連帯を示したものの、テロ攻撃への反応は分かれている。フランスは9・11後のアメリカと同様に即座に対応した。イギリスも同時多発テロを深刻にとらえてイラクで行なっているISISへの空爆をシリアにも拡大することを決定した。そうした中で軍事小国は消極的平和主義国家だったかつての日本のようにISISとの戦いに関与を躊躇し、イスラム教徒の難民を排除している。11月17日にフランスのジャン=イブ・ル・ドリアン国防相がEU加盟国に負担分担を求めた際に、他の加盟国の関与は文言の上にとどまった。イギリスだけが本気で応じてきた(“Despite Initial Solidarity, Paris Attacks Will Deepen Europe’s Divisions”; World Politics Review; November 19, 2015)。キャメロン政権はキプロスのアクロティリ英空軍基地をフランスに提供した(“Brits offer Cyprus base to French”; Defense One; November 23, 2015)。

オランド政権がブッシュ政権のように行動していることは、イラク戦争に当時のドミニク・ド・ビルパン外相が激しく反対したことを考えれば何とも皮肉である。今や保安官の役割を担うフランスは消極的で無責任なバーマスターとして振る舞うヨーロッパの友好国に不満を抱えるようになっている。欧州共同防衛への道がとても遠いものであることはイギリスの脱EU運動にも見られる通りであり、英仏協商の再来はヨーロッパの安全保障が国民国家志向になっていることを示している。ヨーロッパ内での分裂は各国の国益と能力の違いを反映している。その国の軍事力が強力であるほど、テロの脅威をより深刻に受け止める。究極的には軍事介入によって彼らの拠点を一掃して油田や人身売買などの収入源を絶つ必要がある。にもかかわらず軍事的に弱小な国々は戦争による死傷者、予算増大、反戦運動の圧力といったリスクを避ける傾向がある。こうした国々は軍事大国に負担を負わせたがっている。シリアでの戦争が激化し長期化するようならヨーロッパ内部の分裂はさらに大きくなるだろう。

全世界レベルでは強固な反ISIS前線はない。イラクとアフガニスタンでのテロとの戦いからシリアの泥沼化が懸念されるので、フランスのフランソワ・オランド大統領がパリ同時多発テロからほどなくしてモスクワでロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会見した際にはロシアやイランをも含めた世界的な連合が模索された(“Moscow is ready to coordinate with the West over strikes on Syria, Putin says”; Washington Post; November 26, 2015)。しかしロシアもイランも重要な戦略目的を西側と共有しているわけではない。両国がISISを相手に戦うのはアサド政権あるいは別の傀儡政権を支援するためであって、両国とも過激派の根拠地一掃などには関心はない。両国とも域内で西側の影響力を弱め、不安定化を利用して自分達の勢力拡大を狙っている。アメリカン・エンタープライズ研究所にある重大脅威プロジェクトのフレデリック・ケーガン氏とキンバリー・ケーガン氏はアサド政権の存在で行き場を失ったシリア国民がテロ集団に流れ込み、ISISを過激化させていると論評している(“What to do and to don’t in response to the Paris attacks”; AEI Critical Threats; November 15, 2015)。

ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、バラク・オバマ大統領がロシアをアメリカ主導の反テロ連合に招いたことを積極的に評価(“Foreign Minister Sergey Lavrov’s interview with Rossiya Segodnya,”; Foreign Policy News, Ministry of Foreign Affairs of Russia; 11 December, 2015)しているが、アメリカ財務省はロシアが支援するアサド政権はISISと交戦していながら彼らにとって最大の石油顧客だという事実を公表した(“US official details who’s buying the bulk of ISIS oil”; New York Post; December 10, 2015)。さらにロシアのスホイ34フルバック戦闘機はシリア空爆の経路を確保するためにイランの空軍基地を使用し、Tu95ベア、Tu160ブラックジャック、Tu22バックファイアといいた爆撃機にいたってはイランの戦闘機の護衛を受けている(“The Russo-Iranian Military Coalition in Syria may be Deepening”; AEI Critical Treats; December 14, 2015)。 ここでもフレデリック・ケーガン氏はロシアとイランの枢軸に警鐘を鳴らしている。実際にイランは核合意が結ばれてから2度目の弾道ミサイル実験にガドル110を打ち上げた (“Iran violated nuclear deal with second ballistic missile test last month, U.S. officials say”; UPI News; December 8, 2015)。明らかにそれはイラン版のモンロー・ドクトリンであり、中東でのシーア派支配と欧米の影響力排除の宣言である。

さらに言えばプーチン政権が重視していることがNATOの弱体化であることはロシアとトルコの衝突に典型的に表れている。アサド政権への支援のためにロシアはシリア国内のトルクメン人居住地域を空爆してトルコを刺激した。11月24日にトルコ軍のF16がロシア軍のスホイ24を撃墜したのも無理はない(“Russo-Turkish Tensions Since the Start of the Russian Air Campaign”; AEI Critical Threats; November 24, 2015)。トルコのアフメット・ダウトール首相はロシア軍のシリア駐留によって「目的が違う別々の2つの同盟」の衝突の危険が高まっていると述べている(Turkey: “Additional accidents are likely to happen”; Jerusalem Post; November 29, 2015)。今回の撃墜事件以前にも、イラク上空で作戦任務に従事するイギリス空軍のトーネード戦闘機がシリア上空のロシア空軍機との交戦という不測の事態に備えて対空ミサイルを配備したことで英露が対立している (“Cold War 2015: Russia 'FURIOUS' after RAF pilots cleared to shoot down Moscow warplanes”; Daily Express; October 13, 2015)。

そうしたシリア周辺の危うい状況に加えて、ロシアとトルコの地政学的競合関係も重要である。ロシアはイラン、イラク、シリアと緊密な関係である一方で、トルコはアゼルバイジャンと深い関係にある(“Turkish-Russian war of words goes beyond downed plane”; Al Jazeera; December 9, 2015)。歴史的にロシアはトルコをヨーロッパに対する緩衝地帯としてきた(“The Czar vs. the Sultan”; Foreign Policy; November 25, 2015)。プーチン大統領がこの機をとらえてトルコにもジョージアやウクライナに対するのと同様に圧力をかけたことは、何の不思議もない。事件を契機にロシアは東地中海に対空ミサイル巡洋艦モスクワを派遣し(“Russia deploys missile cruiser off Syria coast, ordered to destroy any target posing danger”; RT; 24 November, 2015)、シリアにS400対空ミサイルを配備(“New Russian surface-to-air missiles in Syria, DoD confirms”; Military Times; December 1, 2015)したが、それはすでに当地に配備済みとも伝わるS300よりも新鋭のミサイルである(“America's Worst Nightmare in Syria: Has Russia Deployed the Lethal S-300?”; National Interest; November 5, 2015)。

プーチン政権によるトルコへの圧力はもっと懸念すべきである。これらのミサイルに付随するSA17という新鋭の防空システムによって、ロシア軍のレーダーはシリア上空の米軍機を監視している。アメリカ側は有人機の飛行を当面停止してロシア軍の防空システムへの対処を模索している(“New Russian Air Defenses in Syria Keep U.S. Grounded”; Bloomberg News; December 17, 2015)。トルコの周辺事態はウクライナ化している。しかしトルコ自身にも原因はある。エルドアン政権はイスラム主義に走って欧米との関係を緊張化させた。ケマル主義から逸脱したトルコは中国からHQ9防空ミサイルの購入さえ試み、日本を含めた西側諸国全てを慌てふためかせた。プーチン大統領はこの機を逃さなかった。相手がポーランド、バルト三国、ルーマニアといったNATOの忠実な加盟国であれば、ここまで挑発的な振る舞いはなかったであろう。プーチン政権の危険な拡張主義はしっかり念頭に置くべきであり、共和党のマルコ・ルビオ大統領候補は、パリ同時多発テロを機にアメリカ主導の多国籍軍によるISIS掃討を支援するためにトルコの対クルド関係と報道の自由に改善が見られると指摘する(“Why We Must Stand Up for Turkey and Against Russian Aggression”; World News.com; December 1, 2015ないしこちら)。

パリ同時多発テロによって世界の動向は不透明度を増している。大西洋の両側での分裂はヨーロッパ内部に移っている。恐怖に駆り立てられた小国は移民を排除するだけでテロ掃討に本格的に貢献しようとはしない。フランスやイギリスのような軍事的能力のある国だけが責任ある行動をしている。こうした亀裂によってヨーロッパ諸国民が地域統合に疑問を抱くようになるのは、イギリスの脱EU運動にも見られる通りである。ロシアとイランをも含めた大連合などは、両国とも中東からの欧米勢力の駆逐とNATOの解体という地政学的野心を抱いている事態ではほとんど実現性がない。ロシアもイランも西側の弱点に付け込もうと虎視眈々と狙っている。このことを忘れてはならない。


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