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2015年12月20日

パリ同時多発テロ後の世界

パリ同時多発テロによって、国際社会はテロとの戦いがもはやアメリカの戦争にはとどまらないことを自覚した。これは9・11同時多発テロの時に気づいておくべきで、イラクとアフガニスタンの戦争でアメリカ主導の多国籍軍への批判どころではなかったはずである。特にこの事件はヨーロッパの安全保障と全世界での対テロ連合に影響を与えている。

ヨーロッパの安全保障に関して言えば多くの人々が犠牲者への哀悼と連帯を示したものの、テロ攻撃への反応は分かれている。フランスは9・11後のアメリカと同様に即座に対応した。イギリスも同時多発テロを深刻にとらえてイラクで行なっているISISへの空爆をシリアにも拡大することを決定した。そうした中で軍事小国は消極的平和主義国家だったかつての日本のようにISISとの戦いに関与を躊躇し、イスラム教徒の難民を排除している。11月17日にフランスのジャン=イブ・ル・ドリアン国防相がEU加盟国に負担分担を求めた際に、他の加盟国の関与は文言の上にとどまった。イギリスだけが本気で応じてきた(“Despite Initial Solidarity, Paris Attacks Will Deepen Europe’s Divisions”; World Politics Review; November 19, 2015)。キャメロン政権はキプロスのアクロティリ英空軍基地をフランスに提供した(“Brits offer Cyprus base to French”; Defense One; November 23, 2015)。

オランド政権がブッシュ政権のように行動していることは、イラク戦争に当時のドミニク・ド・ビルパン外相が激しく反対したことを考えれば何とも皮肉である。今や保安官の役割を担うフランスは消極的で無責任なバーマスターとして振る舞うヨーロッパの友好国に不満を抱えるようになっている。欧州共同防衛への道がとても遠いものであることはイギリスの脱EU運動にも見られる通りであり、英仏協商の再来はヨーロッパの安全保障が国民国家志向になっていることを示している。ヨーロッパ内での分裂は各国の国益と能力の違いを反映している。その国の軍事力が強力であるほど、テロの脅威をより深刻に受け止める。究極的には軍事介入によって彼らの拠点を一掃して油田や人身売買などの収入源を絶つ必要がある。にもかかわらず軍事的に弱小な国々は戦争による死傷者、予算増大、反戦運動の圧力といったリスクを避ける傾向がある。こうした国々は軍事大国に負担を負わせたがっている。シリアでの戦争が激化し長期化するようならヨーロッパ内部の分裂はさらに大きくなるだろう。

全世界レベルでは強固な反ISIS前線はない。イラクとアフガニスタンでのテロとの戦いからシリアの泥沼化が懸念されるので、フランスのフランソワ・オランド大統領がパリ同時多発テロからほどなくしてモスクワでロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会見した際にはロシアやイランをも含めた世界的な連合が模索された(“Moscow is ready to coordinate with the West over strikes on Syria, Putin says”; Washington Post; November 26, 2015)。しかしロシアもイランも重要な戦略目的を西側と共有しているわけではない。両国がISISを相手に戦うのはアサド政権あるいは別の傀儡政権を支援するためであって、両国とも過激派の根拠地一掃などには関心はない。両国とも域内で西側の影響力を弱め、不安定化を利用して自分達の勢力拡大を狙っている。アメリカン・エンタープライズ研究所にある重大脅威プロジェクトのフレデリック・ケーガン氏とキンバリー・ケーガン氏はアサド政権の存在で行き場を失ったシリア国民がテロ集団に流れ込み、ISISを過激化させていると論評している(“What to do and to don’t in response to the Paris attacks”; AEI Critical Threats; November 15, 2015)。

ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、バラク・オバマ大統領がロシアをアメリカ主導の反テロ連合に招いたことを積極的に評価(“Foreign Minister Sergey Lavrov’s interview with Rossiya Segodnya,”; Foreign Policy News, Ministry of Foreign Affairs of Russia; 11 December, 2015)しているが、アメリカ財務省はロシアが支援するアサド政権はISISと交戦していながら彼らにとって最大の石油顧客だという事実を公表した(“US official details who’s buying the bulk of ISIS oil”; New York Post; December 10, 2015)。さらにロシアのスホイ34フルバック戦闘機はシリア空爆の経路を確保するためにイランの空軍基地を使用し、Tu95ベア、Tu160ブラックジャック、Tu22バックファイアといいた爆撃機にいたってはイランの戦闘機の護衛を受けている(“The Russo-Iranian Military Coalition in Syria may be Deepening”; AEI Critical Treats; December 14, 2015)。 ここでもフレデリック・ケーガン氏はロシアとイランの枢軸に警鐘を鳴らしている。実際にイランは核合意が結ばれてから2度目の弾道ミサイル実験にガドル110を打ち上げた (“Iran violated nuclear deal with second ballistic missile test last month, U.S. officials say”; UPI News; December 8, 2015)。明らかにそれはイラン版のモンロー・ドクトリンであり、中東でのシーア派支配と欧米の影響力排除の宣言である。

さらに言えばプーチン政権が重視していることがNATOの弱体化であることはロシアとトルコの衝突に典型的に表れている。アサド政権への支援のためにロシアはシリア国内のトルクメン人居住地域を空爆してトルコを刺激した。11月24日にトルコ軍のF16がロシア軍のスホイ24を撃墜したのも無理はない(“Russo-Turkish Tensions Since the Start of the Russian Air Campaign”; AEI Critical Threats; November 24, 2015)。トルコのアフメット・ダウトール首相はロシア軍のシリア駐留によって「目的が違う別々の2つの同盟」の衝突の危険が高まっていると述べている(Turkey: “Additional accidents are likely to happen”; Jerusalem Post; November 29, 2015)。今回の撃墜事件以前にも、イラク上空で作戦任務に従事するイギリス空軍のトーネード戦闘機がシリア上空のロシア空軍機との交戦という不測の事態に備えて対空ミサイルを配備したことで英露が対立している (“Cold War 2015: Russia 'FURIOUS' after RAF pilots cleared to shoot down Moscow warplanes”; Daily Express; October 13, 2015)。

そうしたシリア周辺の危うい状況に加えて、ロシアとトルコの地政学的競合関係も重要である。ロシアはイラン、イラク、シリアと緊密な関係である一方で、トルコはアゼルバイジャンと深い関係にある(“Turkish-Russian war of words goes beyond downed plane”; Al Jazeera; December 9, 2015)。歴史的にロシアはトルコをヨーロッパに対する緩衝地帯としてきた(“The Czar vs. the Sultan”; Foreign Policy; November 25, 2015)。プーチン大統領がこの機をとらえてトルコにもジョージアやウクライナに対するのと同様に圧力をかけたことは、何の不思議もない。事件を契機にロシアは東地中海に対空ミサイル巡洋艦モスクワを派遣し(“Russia deploys missile cruiser off Syria coast, ordered to destroy any target posing danger”; RT; 24 November, 2015)、シリアにS400対空ミサイルを配備(“New Russian surface-to-air missiles in Syria, DoD confirms”; Military Times; December 1, 2015)したが、それはすでに当地に配備済みとも伝わるS300よりも新鋭のミサイルである(“America's Worst Nightmare in Syria: Has Russia Deployed the Lethal S-300?”; National Interest; November 5, 2015)。

プーチン政権によるトルコへの圧力はもっと懸念すべきである。これらのミサイルに付随するSA17という新鋭の防空システムによって、ロシア軍のレーダーはシリア上空の米軍機を監視している。アメリカ側は有人機の飛行を当面停止してロシア軍の防空システムへの対処を模索している(“New Russian Air Defenses in Syria Keep U.S. Grounded”; Bloomberg News; December 17, 2015)。トルコの周辺事態はウクライナ化している。しかしトルコ自身にも原因はある。エルドアン政権はイスラム主義に走って欧米との関係を緊張化させた。ケマル主義から逸脱したトルコは中国からHQ9防空ミサイルの購入さえ試み、日本を含めた西側諸国全てを慌てふためかせた。プーチン大統領はこの機を逃さなかった。相手がポーランド、バルト三国、ルーマニアといったNATOの忠実な加盟国であれば、ここまで挑発的な振る舞いはなかったであろう。プーチン政権の危険な拡張主義はしっかり念頭に置くべきであり、共和党のマルコ・ルビオ大統領候補は、パリ同時多発テロを機にアメリカ主導の多国籍軍によるISIS掃討を支援するためにトルコの対クルド関係と報道の自由に改善が見られると指摘する(“Why We Must Stand Up for Turkey and Against Russian Aggression”; World News.com; December 1, 2015ないしこちら)。

パリ同時多発テロによって世界の動向は不透明度を増している。大西洋の両側での分裂はヨーロッパ内部に移っている。恐怖に駆り立てられた小国は移民を排除するだけでテロ掃討に本格的に貢献しようとはしない。フランスやイギリスのような軍事的能力のある国だけが責任ある行動をしている。こうした亀裂によってヨーロッパ諸国民が地域統合に疑問を抱くようになるのは、イギリスの脱EU運動にも見られる通りである。ロシアとイランをも含めた大連合などは、両国とも中東からの欧米勢力の駆逐とNATOの解体という地政学的野心を抱いている事態ではほとんど実現性がない。ロシアもイランも西側の弱点に付け込もうと虎視眈々と狙っている。このことを忘れてはならない。


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