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2016年4月 6日

日本は本当に核兵器を保有すべきか?

ドナルド・トランプ氏の衝撃的な放言によって(“In Japan and South Korea, bewilderment at Trump’s suggestion they build nukes”; Washington Post; March 28, 2016)、日本国民は国家安全保障について懸念を強めるようになり、独自核抑止力についても語り始めるようになっている。しかし我々がそのように性急に行動すべきかどうかは再考の余地がある。それは核兵器の開発と配備には数年を要するばかりか費用も膨大になる。そうした計画が一度着手されてしまえば、それを破棄しようにもできなきなる。日本の国家安全保障はワシントンの外交政策界で標準的かつ長期的な視点に確固として基づいたものであるべきで、間違ってそれが変わった考えで行動予測不可能な人物が大統領なって、常軌を逸した政策を行なう場合に基づいたものであってはならない。

それは以下のようなことである。仮にトランプ氏が大統領に就任したものとする。しかし彼の任期が保障されているのは1期4年だけである。日本は核兵器を早急に製造して配備しなければならないだろう。しかし彼の施政が成果を挙げなければ次の任期には他の人物が代わりに大統領になり、アメリカの外交政策は平常に回復するであろう。その場合、大量破壊兵器の不拡散がアメリカの国家安全保障で至上命題となっていることからすれば、次期大統領が日本の核抑止力を容認するとは考えにくい。よって我々が無知なうえに商業主義的で守銭奴なトランプ氏の考え方に思慮分別なく反応してしまえば、日本は膨大な時間と労力と資金を無駄にしてしまうだろう。私はここで、日本と国際社会の人々は間違ってもトランプ氏を支持するような知性と気質に致命的な問題を抱える群衆をアメリカ人と見なしたことはないと強調しなければならない。

また、トランプ氏自身の思考と行動も突飛で当てにならない。エリオット・コーエン氏の主唱で100名以上の署名を集めた例の有名な公開書簡にも記されているように「彼の思考は一文の中で孤立主義から軍事的冒険主義に揺れまくる」からである。現段階ではトランプ氏は日本の核抑止力を容認しているかも知れない。しかし外交政策における彼の見解は自身が吹聴するようにきわめて予測不能なので、4年間の任期の内には急に変節しかねない。そうなった場合にはトランプ氏が日本をイランや北朝鮮のように扱いかねない。実際に彼の短気は全世界に知れわたっている。日本がアメリカから敵視されるようなリスクを冒す必要がどこにあるのだろうか?

さらに問題視すべきこととして、私はトランプ氏が任期中に在日米軍の全てを撤退させられるかどうかということに心底からの懐疑の念を述べたい。日本に駐留するアメリカの陸海空軍の規模は膨大であり、また在日米軍そのものが日本社会に深く根を下ろしていることは3・11津波および大地震での救済活動を見ればよくわかる。撤退の手続きには信じられないほど膨大な形式的行政事務が付いて回るが、それはトランプ氏が不動産業の経営者として過ごした人生を通じて目にしたこともないほどのものである。軍事基地が関わる土地所有権は、トランプ氏が自らの事業で対処してきたものよりはるかに複雑である。さらに言えば、日本の空域を地域の安全保障と民間航空事業のために管轄しているのは横田米空軍基地である。この権限を日本側に移行しようとするなら交渉に多大な労力を割かねばならない。二国間交渉が円滑に進展しなければ、多大な損失を被るのはアメリカの航空運輸産業である。トランプ氏が経営者としての能力を吹聴するのであれば、そのことを強く認識すべきである。

さらに付け加えると撤退のスケジュールは不明であり、トランプ氏は日本が中国と北朝鮮に対する核抑止力を築き上げるまで待つ気があるのか、それとも力の真空がもたらす危険性に一切の考慮も払わずに直ちに撤退交渉を始める気なのかわからない。いずれにせよ、一連の作業には膨大な労力が伴う。トランプ氏が自身の人脈からそうした職務を行なえるだけの有能な高官を任命できるとはとても思えないのは、彼の外交政策チームの質に対するマイケル・オハンロン氏の辛辣な論評からも類推できる(“D.C.’s Foreign-Policy Establishment Spooked by `Bizzaro’ Trump Team”; National Review Online; March 24, 2016)。トランプ氏は大統領を2期務めることを視野に入れている(“Trump’s nonsensical claim he can eliminate $19 trillion in debt in eight years”; Washington Post; April 2, 2016)ようだが、この職はOJTでは務まらない。1期目の業績が悪ければそれで終わりである。彼自身が短気で悪名高いことを考慮すれば、それを棚上げして国民に忍耐強さを期待する気が知れない。彼の気まぐれな放言でも特に外交政策に関するものからは、この人物には大統領の責務に対する畏敬の念など全くないことが見え見えである。

トランプ氏のものの考え方は核安全保障と日米同盟のコペルニクス的転換である。しかし彼がこのことを理解しているとはとても思えないのは、自らが公衆の面前で口にしたことを実施するだけの準備がまるで整っていないからである。全世界のアメリカの同盟国の中でもトランプ氏が最初に槍玉に挙げたのが日本である。対日関係の全面見直しがそこまで重要だと言うなら、トランプ氏の外交政策チームに日本情勢に精通した顧問が一人もいないのはどうしたことだろうか。さらに深刻なことに核安全保障に関するこの人物の知識はきわめて貧困である。トランプ氏は核の三本柱さえ知らなかった。そのうえ、中東でのイスラム系テロリストに対して戦術核兵器の使用を主張した(“Donald Trump Won't Rule Out Using Nukes Against ISIS”; Fortune; March 23, 2016)。それはこの人物が核兵器の破壊力についてあきれ果てるほど無知なことを露呈している。今日の戦術核兵器は広島と長崎に投下されたものよりも強力である。また、戦術核兵器も使用によって戦争がエスカレートする危険もある。トランプ氏は米軍のドローン攻撃による巻添え被害がイラクとアフガニスタンで厳しく批判されたことを知るべきである。たとえ戦術使用でも、核兵器は無数の民間人を殺傷する。トランプ氏がこれらの事柄について何も学んだことがないのは明らかで、だからこそ恥知らずな放言をやりたい放題なのである。

もはや、ただ分析をして嘆いているだけの時ではない。トランプ氏の打倒に向けて我々は行動を起すべきである。この目的のために、私は日本のオピニオン・リーダー達がこの人物宛に抗議の公開書簡を出し、本文中に記された問題点をひとつ残らず問い詰めて我々の怒りの意志を表明すべきだと提言したい。トランプ氏は怒りの感情に対して敏感なので、大衆の激怒を巧みに悪用しているものと理解している。日本政府にはそうした挑発的な行動はできないだろうが、トラックIIのレベルであればそれもできることである。アメリカと全世界の政策関係者達、そして良心的なアメリカ国民は絶対に我々に味方することに疑いの余地はない。本論の冒頭で述べたように、我々の二国間関係はトランプという御仁よりはるかに永く続くものである。日本の国益にとって重要なことはアメリカの外交政策界で共通の理解に基づいて行動することであり、トランプ氏の変わった考え方に基づいて行動することではない。


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