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2017年6月 2日

安倍首相はG7で米独の仲介ができなかったのか?

今月のNATOおよびG7首脳会議からほどなくして、ドイツのアンゲラ・メルケル首相はアメリカとの同盟の妥当性とブレグジット後のイギリスとの継続的な関係に厳しく疑問を呈する発言を行ない、大西洋両岸のメディアと有識者達を驚愕させた(“After G-7 Summit, Merkel Says Europe Can No Longer Completely Rely On U.S. And U.K..”; NPR News; May 28, 2017)。ドナルド・トランプ氏が人格でも政治的見識でもアメリカ史上最悪の大統領であることはわかりきっている。さらに今回のヨーロッパ歴訪ではNATO首脳会議の際にモンテネグロのドゥシュコ・マルコビッチ首相を公衆の面前で無理矢理押し退けたような粗暴な言動によって、トランプ氏がアメリカの恥を晒しただけになってしまった(下記ビデオを参照)。共和党であれ民主党であれ、これまでトランプ氏ほど酷い振る舞いをした大統領はいなかった。



メルケル氏がトランプ氏に抱く憤慨は国際世論で広く共有されている。しかしこうした激しい口調は環大西洋社会で大いに懸念を抱かれている。ギデオン・ラックマン氏はトランプ大統領がNATOおよびG7首脳会議でアメリカの孤立を深めるという致命的な失敗を犯したことは認めながらも、メルケル首相の挑発的な発言については「トランプ氏が大統領に就任して4か月も経つのに、ヨーロッパ諸国も特に防衛上のバードンシェアリングに関して相手側が抱く疑念を払しょくできなかった」として批判している。さらにメルケル氏はイギリスもトランプ政権のアメリカと同列で、利己的な行動で西側同盟の結束を乱していると非難している。実際にはイギリスは気候変動に関してはEU側についているばかりか、NATOにもしっかり貢献している。ラックマン氏が主張する通り、メルケル氏がブレグキット交渉をドイツ有利に運ぼうとしてイギリスと対立し、事実を軽視することは無責任なのである。これではトランプ氏によって大いに傷つけられた、民主主義と人権の価値観に基づく西側同盟を弱体化させるだけになる(“Angela Merkel’s blunder, Donald Trump and the end of the west”; Financial Times; May 29, 2017)。

ラックマン氏が厳しく批判するメルケル氏の「ドイツ版ゴーリズム」は、ドイツの内政とヨーロッパの地域安全保障を反映している。トランプ氏のヨーロッパ同盟諸国軽視の態度はドイツの有権者に苦痛を与えているので、メルケル氏が9月の総選挙で勝つためには反トランプの姿勢を訴える必要がある。またNATO加盟国のほとんどはイギリスなど数ヶ国を除いてGDP2%の国防費という要求を達成できず、そうした国々はドイツに自分達を代表してトランプ政権の圧力に立ちはだかってもらうことを望んでいる。そうした国内情勢および国際情勢から、ドイツのエリート達はトランプ現象とブレグジットを同一視し、アングロサクソン両国に対して大陸での自国の立場の尊重を求めている(“How to Understand Angela Merkel’s Comments about America and Britain”; Economist; May 28, 2017)。ドイツの自主路線追及は文言だけでなく実際の行動にまで及ぼうとしている。メルケル政権は今年に入ってチェコ軍とルーマニア軍をドイツの指揮系統に組みこんで共同防衛を行なうという合意にいたった(“Germany Is Quietly Building a European Army Under Its Command”; Foreign Policy --- Report; May 22, 2017)。ドイツの言動はどれを見ても、トランプ大統領のオルタナ右翼的な世界観への強い警戒感に突き動かされている。

トランプ氏の大統領就任以来の米欧関係を考慮すれば、ドイツとアメリカがG7で熾烈に対立するであろうことは予測できた。G7参加国の中では日本が両国の仲介には最も良い立場にあった。安倍晋三首相はトランプ氏の大統領就任前と就任後に会談し、日本の国家的生存を保証するとともに国際問題への対処での影響力の拡大を目指している。よって日本のオピニオンリーダーの中には、日本はトランプ・ショックを国際的地位向上のチャンスとして利用すべきだとの声もあった。彼らへの賛同の是非はともかく、安倍氏はG7でトランプ氏とメルケル氏の橋渡しをするという重要な役割は果たせなかった。実際に安倍氏はサミットではメルケル氏に次いで経験豊富なリーダーであったが、イギリスのテリーザ・メイ首相とフランスのエマニュエル・マクロン大統領はトランプ氏と同様に初参加であった。しかし北朝鮮による緊急の脅威は非常に重大だったので、安倍氏はヨーロッパのリーダーに極東の安全保障に対する注意を喚起する必要があった。

欧米のメディアも日本のメディアも米欧亀裂の緩和のうえで日本が持つ特別な強みを考慮することはほとんどなかった。しかしこれはメディアだけを叩いても無駄である。安倍氏は自身の関与が疑問視されているにもかかわらず、永田町で森友学園および加計学園事件でのいわゆる腐敗スキャンダルにかかりきりであった。首相はしばしば日常の雑事に忙殺される。国家の指導者に国際政治の大局観を与えて重要な外交行事により良い準備で臨むようにはからうのは、外交など諸問題を管轄する政府官僚機構、知識人、その他ステークホルダーらの役割である。

しかし事態は手遅れではない。まず、日本はG7で面識を持ったマクロン政権との緊密な連絡を模索できる。マクロン氏は大西洋同盟重視で、イギリスに対しても強硬で教条主義的な態度で臨むメルケル氏とは一線を画してブレグジットには柔軟で実務的な合意を主張している(“Macron ‘in favour of a softer deal’”; Times; April 25, 2017)。トランプ政権への過剰なすり寄りと批判された安倍氏だが、そこで得られた経験と相手方との関係構築は外交上の強みともなり、良いパートナーを得られればそれが活かされるだろう。米独両国の仲介という仕事は非常に難しいが、きわめて重要である。たとえトランプ氏が弾劾されても、西側同盟に残された傷はすぐには癒えない。よって、日本はできるだけ早くそれに着手する必要がある。

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