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2017年7月28日

安倍昭恵夫人の「英語力」への侮辱を座視するな

先のG20ハンブルグ首脳会議にて、安倍昭恵夫人と隣席となったドナルド・トランプ大統領は『ニューヨーク・タイムズ』紙7月19日付けのインタビュー記事で「日本のファーストレディーはハローも言えないほど英語ができない」と答えて物議を醸した。英米のメディアではこれに対する反論が出回ったばかりか、昭恵夫人はトランプ氏との会話で不用意なトラブルに巻き込まれないように用心したのではないかとの論調(”JAPAN’S FIRST LADY AKIE ABE MYSTERIOUSLY COULDN’T SPEAK ENGLISH WHEN SHE MET DONALD TRUMP AT G-20”; Newsweek; July 20, 2017)も多々あった。

しかし実際に誰かがどれほど英語を話せるかなど大した問題ではない。それよりも公衆の面前で他人、しかも一国のファーストレディーの名誉を傷つける発言をしたことの方が問題である。英米をはじめ、各国のメディアはこのことを問題視すべきであった。もっとも、公共の場でロッカールーム・トークを平気で行なうトランプ氏にとって、言われた相手の気持ちなどはどうでも良いのであろう。

歴代の合衆国大統領の中でも世界の歴史や文化に関する教養に著しく欠けるトランプ氏に対し、日本的な「惻隠の情」を理解してもらおうとは思わない。しかし西洋的な道徳および倫理に照らし合せても、トランプ氏の発言は好ましからざるものである。もっとも、ひたすら「稼ぐが勝ち」の人生を送ってきたトランプ氏にとって、紳士的な振る舞いや大統領に相応しい品格など考慮に値しないのかも知れない。

しかし、我々はスロベニア出身の彼の妻、メラニア夫人が選挙応援演説で英語の訛りを嘲笑されたことを忘れてはならない。その際に、これに猛反発したのがトランプ氏の支持者であった。こうしたことを踏まえれば、昭恵夫人の英語力についてトランプ氏が公衆の面前で恥をかかせるような発言をということは、この人物は自らの妻を大事に思っていないのだろうかと考えざるを得ない。

さらに憂慮すべきは、トランプ氏は内心では安倍晋三首相のことを軽く見ているのではないかという疑念も浮かんでくる。安倍首相はトランプ氏の大統領就任前に会談に駆け付けたばかりか、就任後はゴルフにまで付き合った。このように自分を持ち上げてくれる人物にはトランプ氏の機嫌が良くなることは、選挙戦序盤でのクリス・クリスティー氏、そしてロシア疑惑追及で態度を豹変させるまでのジェフ・セッションズ司法長官の例からもうかがえる。しかし日本がトランプ氏から軽く見られることは座視できない。よって、日本の言論界は昭恵夫人に対するトランプ氏の非礼な言動には強く抗議すべきである。

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2017年7月19日

トランプ大統領は外交から手を引くべきだ

非常に嘆かわしいことに、ドナルド・トランプ大統領は選挙中の公約であったアメリカ第一主義を変えることもないばかりか、さらに痛ましいことには彼の中東およびヨーロッパ歴訪の前に自らの政権の閣僚達が同盟国との相互信頼を再構築しようとした努力の一つ一つをぶち壊しにしてしまった。トランプ政権の発足からほどなくしてマイク・ペンス副大統領、レックス・ティラーソン国務長官、ジェームズ・マティス国防長官らが訪欧して大西洋同盟へのアメリカの関与を再確認したことで、ヨーロッパ諸国民は安堵した。閣僚達はトランプ氏が大統領として国際舞台にデビューするお膳立てをした。しかしトランプ氏の歴訪は地域安全保障に対するアメリカの関与に疑念を抱かせるだけになった。今や我々はトランプ氏を安全保障上のリスクとして真剣に考える必要があるのは、国際安全保障でのアメリカの役割に関する彼の理解が乏しいからである。このリスクは同氏の選挙運動中から予期されていた。

まずトランプ氏のNATO首脳会議参加について述べたい。会議の場ではトランプ氏は第5条の相互防衛義務に言及しなかったことで米欧双方から深刻な懸念の声が挙がったが、それは歴代のアメリカ大統領が常にこれに言及してきたからである。さらに驚くことに、選挙中にNATOは時代遅れだと言った時には、米欧の同盟関係についてよく知らなかったとトランプ氏が認めたことである(“Trump didn’t know ‘much’ about NATO when he called it ‘obsolete’: report”; Hill; April 24, 2017)。それなら第5条の重要性を理解していなかったのも無理はない。トランプ氏が集団防衛の中核に言及しなかったことはヨーロッパの同盟諸国を驚愕させ、政権内の外交政策スタッフを当惑させた。実際にマティス長官とティラーソン長官とともに、H・R・マクマスター国家安全保障担当補佐官はトランプ氏の演説原稿に第5条を含めるように進言した。しかしトランプ氏がそれに言及しなかったということは、彼らの専門的知識に敬意も払わぬどころか、どれほど危険であっても自分がやりたいようにやるということを意味する(“The 27 Words Trump Wouldn’t Say”; Politico; June 9, T2017)。それどころか、トランプ氏は夕食会でヨーロッパ同盟諸国の国防支出の少なさを非難した。さらにアメリカはヨーロッパ防衛から手を引いた方が良いとまでのたまった。ジム・タウンゼント元国務副次官補は、トランプ氏の不適切な発言は国家安全保障を担うだけの自制心が効かないことを示すと辛辣に述べている(“Trump Discovers Article 5 After Disastrous NATO Visit”; Foreign Policy; June 9, 2017)。

そのような無知と人格的未熟性は中東でも問題をもたらしている。サウジアラビアによるアメリカへのインフラ投資を受け入れる一方で、トランプ氏は彼らにカタールへの非難と域内での孤立化を行なうことを許した。実際にトランプ氏の中東訪問での第一の関心は商取引であって、地域安全保障の複雑な事情については自らの政策顧問に耳を傾けなかった (“Trump and the Damage Done”; Carnegie Endowment for International Peace; June 16, 2017)。カタールは相対的にイランに妥協的ではあるが、中東では最大の米海軍基地を提供している国でもある。実際に専制国家のサウジアラビアとそれに同調するエジプト、アラブ首長国連邦、バーレーンと言った国々はカタールでの報道の自由を恐れ、それがアラブの春をもたらしたと警戒している。以下ビデオを参照されたい。



よってサウジアラビアはトランプ氏に好条件な投資を持ちかけて媚びへつらいと敬意を渇望する彼の気持ちをくすぐり、カタールに対する外交関係断絶と制裁を認めさせた(“Saudi Arabia stroked Trump's ego. Now he is doing their bidding with Qatar”; Guardian; 7 June, 2017)。

しかしトランプ氏がサウジアラビアによるカタールへの圧力行使を認めてしまったことで湾岸地域での対イラン同盟の強化どころか、地域大国の競合が複雑化した。トルコはカタール支援に介入してきたが、それはエルドアン政権がアラブの春においてエジプトで政権をとったムスリム同胞団を支持しているからである(“Saudi Arabia is playing a dangerous game with Qatar”; Financial Times; June 15, 2017)。その結果、イラン、サウジアラビア、トルコの間で緊張が高まった。トランプ氏の無謀なアプローチはアメリカの中東政策をも混乱させている。議会においては共和党のボブ・コーカー上院議員はトランプ氏がツイッターでサウジアラビアとカタールの敵意を煽ることについて、外交委員長の立場から非難した(“Foreign Relations chairman stunned by Trump's Qatar tweets”; Hill; June 6, 2017). より深刻な問題は大統領と国防総省との亀裂である。ペンタゴンと国務省はトランプ氏のサウジアラビア寄りな暴言からカタールを擁護している(“Trump takes sides in Arab rift, suggests support for isolation of Qatar”; Reuters News; June 6, 2017)。 ヨーロッパと同様に、中東でも現政権の閣僚と政府官僚はダメージ・コントロールに多大な労力を投じざるを得ない。

これら外交上の失敗に鑑みて、ペンス氏とマティス氏がアメリカの軍事的プレゼンスの継続性を改めて保証した東アジアでトランプ氏が同じ間違いを繰り返さないことを望む。特に日本と韓国は北朝鮮危機への対処のためにも、そうした最保証を必要としている。ヨーロッパでもそうであったように、トランプ政権の閣僚達は良い仕事をした。しかしトランプ氏が極東を訪問するとなれば、彼の不用意な発言によって太平洋の安全保障パートナーシップはに被害が及びかねない懸念がある。現在、東アジアは19世紀的な大国の競合が最も激しい地域である。トランプ氏の思慮分別を欠いた失言によって予期せぬ緊張が引き起こされかねない。特に歴史認識での不用意な発言は日中韓の関係を複雑にしかねない。トランプ氏がマール・ア・ラーゴでの会談で習近平主席の歓心をかおうとして中国の歴史認識を受け入れた際に、韓国が激しく反論したことは記憶に新しい。またアジアでカタールのような仲間外れの同盟国を出すなど以ての外である。

トランプ氏の無知かつ無配慮な失言は、マクマスター氏、ティラーソン氏、マティス氏にジョン・ケリー国土安全保障長官を加えた政権内での「大人の枢軸」にとって由々しきものである。その中ではマティス氏だけが独立した立場を維持している。また政権閣内で作成されたいかなる政策も職業外交官によって実施されてアメリカの国益が守られている。彼らはトランプ氏によってもたらされたダメージの軽減にあらゆる努力を惜しまず、諸外国との友好関係の維持に努めている。特に大統領がロンドンのサディク・カーン市長をテロリスト呼ばわりした際には、アメリカの外交官僚が一丸となってイギリス政界の重鎮の間での嫌悪感を緩和し、両国の特別関係維持に努めた。そうした外交官達による国家への献身にもかかわらず、それに対するトランプ氏の褒章は国務省予算の大幅削減であり、ティラーソン長官もこれに同調した(“Trump Is Cutting Into the Bone of American Leadership”; News Week; June 18, 2017)。現大統領は明らかにアメリカの外交政策に関わる高官達にとってお荷物になっている。

トランプ氏は国家安全保障に重大なリスクであるが、ロンドン・スクール・オブエコノミックスのアン・アップルボーム客員教授は外交に関する全ての権限をトランプ氏から取り上げることはきわめて危険だと主張する。行政手続き上はアップルボーム氏の議論は完全に正論である。そこで同氏が取り上げているアフガニスタンで、マティス氏が駐留米軍の最高指揮権を全面的に一任されている例を見てみよう。アメリカ国内および海外の政策形成者達はトランプ氏の国際安全保障に関する理解には大いに疑問を抱いているので、マティス氏の主導下で戦争が取り仕切られるなら歓迎との声もある。しかしアップルボーム氏はこれには制度上の問題があると指摘する。軍事テクノクラートによる外交政策では政治的な正当性を欠き、民主主義では議会や他の省庁の支援を得て戦略が実行に移される。また軍事戦略には他の省庁との政策調整も必要で、ペンタゴンが全てを取り仕切ることはできないとも述べている(“Why ‘Mattis in charge’ is a formula for disaster”; Washington Post; June 23, 2017)。

しかしトランプ氏は省庁の枠を超えて問題を俯瞰して正しい決断を下すにはあまりに無能である。これが典型的に表れているのが、アメリカ外交における対外援助の価値に関する彼の無知である。実際にマティス長官、デービッド・ペトレイアス退役陸軍大将、ジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長といった軍事のプロの方が、戦場での経験を通じて対外援助のような非軍事的側面の重要性をトランプ氏よりはるかによく理解している。閣僚の誰かが国家安全保障を主導するとなると省庁間の調整が問題となるだろう。その場合はマイク・ペンス副大統領が現政権の外交政策を総括すればよい。ヨーロッパ、日本、韓国への彼の歴訪は、これら諸国がアメリカとの同盟関係に抱いた懸念の払拭に一役買った。外交実務に当たる官僚達は自分達の職務に対するトランプ氏の無理解と統治能力の低さに辟易している(“US diplomats are increasingly frustrated and confused by the Trump administration”; Business Insider; July 2, 2017)。 トランプ氏のG20出席は世界の中でのアメリカの孤立を印象づけただけだった。その折にプーチン大統領と会談した後で、トランプ氏はロシアとのサイバーセキュリティ協力の強化を口にしてワシントンの安全保障関係者を驚愕させた。日本国民として、私はドナルド・トランプ氏には訪日して欲しくないと思っている。彼の不用意な発言で国際安全保障のリスクが高まることは、ヨーロッパと中東の例でも明らかだからである。

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