そのような無知と人格的未熟性は中東でも問題をもたらしている。サウジアラビアによるアメリカへのインフラ投資を受け入れる一方で、トランプ氏は彼らにカタールへの非難と域内での孤立化を行なうことを許した。実際にトランプ氏の中東訪問での第一の関心は商取引であって、地域安全保障の複雑な事情については自らの政策顧問に耳を傾けなかった (“Trump and the Damage Done”; Carnegie Endowment for International Peace; June 16, 2017)。カタールは相対的にイランに妥協的ではあるが、中東では最大の米海軍基地を提供している国でもある。実際に専制国家のサウジアラビアとそれに同調するエジプト、アラブ首長国連邦、バーレーンと言った国々はカタールでの報道の自由を恐れ、それがアラブの春をもたらしたと警戒している。以下ビデオを参照されたい。
トランプ氏の無知かつ無配慮な失言は、マクマスター氏、ティラーソン氏、マティス氏にジョン・ケリー国土安全保障長官を加えた政権内での「大人の枢軸」にとって由々しきものである。その中ではマティス氏だけが独立した立場を維持している。また政権閣内で作成されたいかなる政策も職業外交官によって実施されてアメリカの国益が守られている。彼らはトランプ氏によってもたらされたダメージの軽減にあらゆる努力を惜しまず、諸外国との友好関係の維持に努めている。特に大統領がロンドンのサディク・カーン市長をテロリスト呼ばわりした際には、アメリカの外交官僚が一丸となってイギリス政界の重鎮の間での嫌悪感を緩和し、両国の特別関係維持に努めた。そうした外交官達による国家への献身にもかかわらず、それに対するトランプ氏の褒章は国務省予算の大幅削減であり、ティラーソン長官もこれに同調した(“Trump Is Cutting Into the Bone of American Leadership”; News Week; June 18, 2017)。現大統領は明らかにアメリカの外交政策に関わる高官達にとってお荷物になっている。
トランプ氏は国家安全保障に重大なリスクであるが、ロンドン・スクール・オブエコノミックスのアン・アップルボーム客員教授は外交に関する全ての権限をトランプ氏から取り上げることはきわめて危険だと主張する。行政手続き上はアップルボーム氏の議論は完全に正論である。そこで同氏が取り上げているアフガニスタンで、マティス氏が駐留米軍の最高指揮権を全面的に一任されている例を見てみよう。アメリカ国内および海外の政策形成者達はトランプ氏の国際安全保障に関する理解には大いに疑問を抱いているので、マティス氏の主導下で戦争が取り仕切られるなら歓迎との声もある。しかしアップルボーム氏はこれには制度上の問題があると指摘する。軍事テクノクラートによる外交政策では政治的な正当性を欠き、民主主義では議会や他の省庁の支援を得て戦略が実行に移される。また軍事戦略には他の省庁との政策調整も必要で、ペンタゴンが全てを取り仕切ることはできないとも述べている(“Why ‘Mattis in charge’ is a formula for disaster”; Washington Post; June 23, 2017)。
しかしトランプ氏は省庁の枠を超えて問題を俯瞰して正しい決断を下すにはあまりに無能である。これが典型的に表れているのが、アメリカ外交における対外援助の価値に関する彼の無知である。実際にマティス長官、デービッド・ペトレイアス退役陸軍大将、ジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長といった軍事のプロの方が、戦場での経験を通じて対外援助のような非軍事的側面の重要性をトランプ氏よりはるかによく理解している。閣僚の誰かが国家安全保障を主導するとなると省庁間の調整が問題となるだろう。その場合はマイク・ペンス副大統領が現政権の外交政策を総括すればよい。ヨーロッパ、日本、韓国への彼の歴訪は、これら諸国がアメリカとの同盟関係に抱いた懸念の払拭に一役買った。外交実務に当たる官僚達は自分達の職務に対するトランプ氏の無理解と統治能力の低さに辟易している(“US diplomats are increasingly frustrated and confused by the Trump administration”; Business Insider; July 2, 2017)。 トランプ氏のG20出席は世界の中でのアメリカの孤立を印象づけただけだった。その折にプーチン大統領と会談した後で、トランプ氏はロシアとのサイバーセキュリティ協力の強化を口にしてワシントンの安全保障関係者を驚愕させた。日本国民として、私はドナルド・トランプ氏には訪日して欲しくないと思っている。彼の不用意な発言で国際安全保障のリスクが高まることは、ヨーロッパと中東の例でも明らかだからである。
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