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2017年8月30日

マクロン大統領は西側同盟内でフランスの地位を高められるか?

エマニュエル・マクロン大統領はヨーロッパと国際舞台でフランスの地位を高めるうえで、外交能力の高さを示した。何かと物議を醸すドナルド・トランプ米大統領を革命記念式典に招待しての首脳会談を成功裡に終わらせながら、アメリカがNATO諸国に出しているGDP2%の国防支出の要求は拒否して経済を優先することにした。こうした追従も敵対もしないという態度は、マクロン氏がNATO首脳会議の機会にトランプ氏と会談した際に見られた(“The reason behind Macron’s firm handshake with Trump, revealed: He was warned!”; Washington Post; May 25, 2007)。両首脳は互いに相手に強い眼差しを向け、まるで腕力を競い合うかのように相手の手を強く握り締めて握手をした。それはマクロン・トランプ両首脳の関係を語るうえで印象深く象徴的であった。マクロン氏はこれら国際的および内政的な要求のバランスをどのようにとっているのだろうか?

まず、トランプ大統領に西側主要同盟国がどのようにアプローチしているか述べてみたい。ドイツは動向の読めないトランプ政権に依存するよりも、自主独立でヨーロッパ志向の外交政策を追求している。それが典型的に表れているのが、ワシントンでのメルケル・トランプ両首脳会談後の冷え切った記者会見である。他方、イギリスと日本はトランプ氏のアメリカ第一主義がどれほどいかがわしくても、安全保障どころか貿易でさえ対米関係の強化が迫られる立場である。国内での反トランプ世論があろうとも、テリーザ・メイ首相と安倍晋三首相は自国の国際的地位を強化するためにアメリカとの特別関係を維持しようとしている。他方でカナダはドイツと日英の中間のアプローチを採っている。ジャスティン・トルドー首相は移民、難民、政治的自由、ポリティカル・コレクトネス、貿易といった諸問題でトランプ氏とは大きく立場を異にする(“How Trump Made Justin Trudeau a Global Superstar”; Politico; July 1, 2017)。よってトルドー氏はロード・アイランド州プロビデンスで開催された全米知事協会において、マイク・ペンス副大統領と州知事達にNAFTAに懐疑的なトランプ氏を説得して貿易協定を更新するように訴えかけた(“Trudeau, Pence, Elon Musk, and 32 governors all in one room? In Providence?”; Boston Globe; July 14, 2017および“Trudeau urges governors to stand with Canada on trade while agreeing to 'modernize' NAFTA”; CBC News; July 16, 2017)。

マクロン氏のアプローチは他の西側諸国に指導者のものよりトランプ氏に対して積極的で、しかも相手に屈しないものとなっている。ギデオン・ラックマン氏はマクロン氏がアメリカの新政権に対処するうえで強い立場にあると述べている。トランプ氏と初めての握手では穏やかな笑顔をたたえながら、マクロン氏はフランスが自己顕示欲の強い相手に屈しないという姿勢を見せた。マクロン大統領はメルケル政権との連携によって国際主義を推し進めてゆくことを明らかにした。他方でラックマン氏はメイ首相がクローバル・ブリテンを推し進めようにもブレグジットが孤立主義と受け止められているので、世界の指導者達には印象が薄い。しかもナショナリストのトランプ大統領との関係強化を望んでいることで、メイ氏のグローバル志向は疑問視されている(“Emmanuel Macron demonstrates fine art of handling Donald Trump”; Financial Times; July 14, 2017)。メイ氏の立場は安倍氏とも共通するところがある。マクロン氏は自らの強みを活かして米仏友好を印象づけた。さらに重要なことに、トランプ氏は少なくとも外交政策と二国間関係に関しては何も失言をしなかった。

マクロン氏はトランプ氏を革命記念式典で歓待しながら、国防費増額の圧力には従わなかった。しかし問題はトランプ政権だけではない。フランスは独自核戦力を持つばかりか、国家安全保障の課題はNATOへの貢献だけではない。ピエール・ドヴィリエ統合参謀総長は8億5千万ユーロにもおよぶマクロン大統領の国防費削減計画に激しく抵抗し、中東やサヘル地域でのフランスの軍事的関与に鑑みれば昨年のGDP1.8%から2000年の2.6%水準までの引き上げが必要だとの持論を展開した。しかしマクロン氏は財政赤字をEUが定める3%以内に収め、2007年から翌年の世界金融危機以降の財政的制約に対処しようとしている。大統領との確執によってドヴィリエ陸軍大将は辞任に追い込まれた(“Macron takes on the military’s chief, and the military loses”; American Enterprise Institute; July 20, 2017)。

マクロン氏が官僚、実業界、そしてオランド政権の経済相という経歴を積み重ねたことを考えれば経済重視は予期されたことであり、彼の内政および外交政策の全体像を理解する必要がある。パリ政治学院(シアンスポ)のザキ・ライディ教授はマクロン氏の外交政策にはまだ明確な目標はないが、外交での成功の鍵は国内経済になると論評している。前任者のフランソワ・オランド氏は国内経済が良くなかったために、国際舞台でのフランスの地位を高められなかった(“The Macron Doctrine?”; Project Syndicate; July 4, 2017)。マクロン氏は経済相として行なった経済改革をさらに進めるために大統領選挙に出馬した。まずマクロン氏の計画では、労働基準の撤廃による価格引き下げ、生産性向上への刺激、経済的柔軟性の強化が取り上げられている。そうした規制緩和とともに、企業減税による国際市場でのフランスの産業の競争力強化も視野に入れられている(“Will Macron's Overhaul of the French Economy Succeed?” National Interest; July 13, 2017)。

しかし真に問題となるのは、そうした国防費の急激な削減がフランスの国益に合致しているのかということである。マクロン氏は激しい抗争に勝ちはしたものの、人望厚かったドヴィリエ氏を下野させた代価は大きいと、ドイツ・マーシャル基金のマルティン・クエンセス氏は評している。政策形成の過程で大統領から無下にあしらわれた軍部では自分達の職務に対する士気が下がり、それによって安全保障の死活的情報を大統領に伝えることを躊躇するようになるかも知れない(“French Chief of Defense's Resignation a Difficult Start for Macron”; Trans Atlantic Take; July 19, 2017)。フランス国防省所属戦略問題研究所のジャンバプティス・ビルメール所長は、フランスにはヨーロッパ大西洋圏外にもシリア内戦、サヘル地域のテロ、リビアの安定、中国の海洋進出、北朝鮮の核の脅威といった安全保障上の重要課題を挙げている。さらにフランスはロシアの脅威と国内テロへの対処とともに、核兵器の更新近代化もしてゆかねばならない(“The Ten Main Defense Challenges Facing Macron’s France”; War on the Rocks; May 10, 2017)。フランスは国家安全保障でこれだけ多くの課題に対処できるだろうか?もはや問題となるのはトランプ氏ではない。ともかく、マクロン氏は財政赤字が解決すれば国防費を増額するとは言っている(“France in the World and Macron’s foreign policy paradigm”; Aleph Analisi Strategische; 19 July 2017)。

現在の国防費削減案は装備が主な対象となっているが、それによってフランス軍は特に戦力投射能力の面で長期にわたる悪影響を受けかねない。中東とアフリカにおける対テロ作戦での要求水準に鑑みれば、フランスにはより多くの戦車、装甲車、大型輸送機が必要となる(“French President Emmanuel Macron is wrong to cut defense spending”; Washington Post; July 19, 2017)。こうした問題はあるが、マクロン氏は中東とアフリカでの対テロ作戦に積極的な姿勢を示している。ドヴィリエ大将の辞任を受けてマクロン氏が統合参謀総長に任命したのは、マリでEU訓練部隊を指揮したフランソワ・ルコワントル陸軍大将である。国防費の削減はあってもフランスはアフリカでのテロとの戦いに4千人を派兵し、他のヨーロッパ諸国もこれに加わるように要求している(“French Military Spending Squeeze Prompts Top General's Resignation”; VOA NEWS; July 20, 2017)。しかしマクロン政権が約束通りに翌年からの国防費の再増額を果たせないようなら、そうした訴えも偽善的に思われてしまう。いずれにせよ国防支出を再び増額できるほど経済が好転するのがいつになるのかは不透明である。よってフランスは西側同盟の中で微妙な立場にある。

マクロン氏がそうした苦境を解決するための選択肢の一つはイギリスとの国防連携の強化であり、これにはブレグジットも関係ない。最近のウィキリークスが傍受したマクロン氏のメールのやり取りからによると、フランスはEUによるCSDP(共通安全保障防衛政策)を推進すべきか、それともヨーロッパ諸国では国防に最も積極的なイギリスとの軍事提携を維持すべきかを検討しているという。非常に重要なことに、マクロン氏はドイツ主導の欧州統合軍については同国が合同軍事計画に充分な資金を捻出しないことから懐疑的である(“Macron email leak: British military ties to France 'more important' than flawed Germany-EU plan”; Daily Telegraph; 31 July, 2017)。いわば、ドイツはフランスにとって財政的な制約に関して必ずしも頼りにならないのである。ヨーロッパ大西洋圏外ではフランスはイギリスとの方がより多くの利害を共有している。中東では両国ともそれぞれがUAEとバーレーンに海軍基地を保有し、アメリカがアジアに兵力を差し向けた場合には英仏で力の真空を埋めようとしている。またアジアではフランスはイギリスとともに南シナ海での航行の自由作戦に参加している。

そうした諸事情はともあれ、外交政策への取り組みの成否に大きな影響を及ぼすには内政である。現在、フランス国内でのマクロン大統領の支持率は急激に落ちている。不人気の要因の一つには財政規律重視が挙げられる。予算削減は単なる赤字削減ではない。これは政府による公共支出と規制で成長がクラウディングアウトされた民間部門の活性化を意図した政策でもある。しかし以下の『フィナンシャル・タイムズ』紙7月26日付けビデオが語るように、財政規律重視は本質的に不人気な政策である。特に軍、教職員、地方自治体が歳出削減を激しく非難した。ドヴィリエ氏の辞任は国防問題を超えて大きな影響を及ぼしている。さらに、マクロン氏の減税と経済自由化は格差を拡大させる政策だと見なされている。



それ以上に問題視すべきは、共和国前進のマクロニスタが若く経験に乏しいということである。第5共和制においてフランスの政治家のほとんどはENA出身者であるが、マクロニスタは起業家で占められている。彼らの政府での経験不足がフランスの政治を混乱させている(“Macron’s Revolution Is Over Before It Started”; Foreign Policy --- Argument; August 14, 2017)。皮肉にもマクロン大統領はイデオロギー上で正反対の立場にあるトランプ大統領と同じ困難に直面している。マクロン氏は鮮烈なデビューを飾ったが、現在の共和国前進には彼のリーダーシップを再建できるネストルが必要である。マクロン大統領の政策顧問であるジャン・ピサニフェリー氏はこの役割を果たせるだろうか?

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