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2017年12月21日

アメリカ外交政策を深刻に歪めるトランプ政権

ドナルド・トランプ氏が昨年11月の大統領選挙で悪夢のような勝利を収めてから、アメリカ国内外の外交政策関係者達は彼のアメリカ第一主義という公約が現実に擦り合わせられるか注視している。中東からヨーロッパに至る大統領としての公式訪問と国連総会での演説は大いに注目され、そして最後の東アジア歴訪によってトランプ氏には物議を醸す公約の維持によって国内での自分の支持基盤を喜ばせることの方が、人権、環境、自由貿易といった国際公益の追求よりも重要なのだということが明白になった。またトランプ氏はロシアとの共謀がFBIの捜査の対象であるにもかかわらず、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を称賛し続けている。他方でトランプ氏はイランと北朝鮮の脅威を重大なものと受け止めているが、そうした脅威への対応が適切とは言い難い。またサウジアラビアへの大々的な贔屓によってカタールがイランへの傾斜を強めることになった(“Iran, Turkey sign deal with Qatar to ease Gulf blockade”; Middle East Eye; 26 November 2017)。キム・ジョンウンとのツイッターでの喧嘩にいたっては何の成果もなく緊張を高めるだけである。

まずトランプ氏の外交政策の概要を述べ、それが世界の中でのアメリカの地位にどれだけ酷く悪影響を与えたかを議論してゆきたい。リアリストから国際介入主義者、そしてリベラルから保守にいたるまで、トランプ氏のように狭い視野で自己本位な外交政策で集団防衛も多国間合意も軽視する態度では国際社会でのアメリカの名声を貶めるとの認識が共有され、識者の間では懸念が挙がっている。外交問題協議会のマックス・ブート氏はトランプ氏批判の急先鋒であるネオコンの立場から、この大統領のアジア歴訪ではアメリカの責務が見過ごされたと論評している。中国ではトランプ氏はシェール・ガス、民間用ジェット機、マイクロチップなどの販売で2・5億ドルにのぼる商談に気を奪われ、貿易交渉の方は進展を見なかった(“These are the companies behind Trump's $250 billion of China deals”; CNN Money; November 9, 2017)。そうした中でベトナムではアメリカ第一主義を強調し、「自由で開かれたインド太平洋地域」を口にはしたものの、それが安倍晋三首相の提唱する日本の新しい外交の基本理念からの借り物であることは明白だった。しかしそうした表層的な言葉と裏腹にトランプ氏はTPPの批判に、アメリカ国民は多国間貿易合意のカモにされてきたとの認識を口にしたが、それは安倍氏の世界観とは全く相容れないものである。

さらにブート氏はトランプ氏の外交での振る舞いについてより根本的な問題を挙げている。この大統領は金星章戦死兵の両親やジャーナリストといった自分より弱い立場にある者と対立する時には非常に攻撃的だが、習近平国家主席やプーチン大統領のように本当に強い立場にある者と一対一で向き合う時には信じられないほど臆病になる。トランプ氏は人権にも言及せず劉暁波氏への哀悼の意も示さなかったかばかりか、習氏には知的所有権と不公正な貿易慣行で問い詰めることできなかった。同盟諸国がトランプ氏の独断的で取引志向の外交を信頼しないのも当然である(“Trump’s Worst Trip Ever. Until His Next One.”; Foreign Policy --- Voice; November 14, 2017)。トランプ氏はプーチン氏に対してもこのような振る舞いで、G20の折の両首脳直接会談直後にはロシアによる選挙介入がなかったと「信じる」とまで言った。

トランプ氏は自らの国際政治観をヘンリー・キッシンジャー氏に負っているとしているが、リアリストからも重大な懸念が寄せられている。ハーバード大学ジョン・F・ケネディ・スクールのスティーブン・ウォルト教授は、トランプ氏は民主主義と自由といったアメリカの価値観の普及など馬鹿にしきっているので、彼の世界観はアメリカが数十年にわたって築き上げた外交政策の財産を潰している。普遍的価値観がもたらす利点を軽視する一方で、取引本位の外交を追求するトランプ氏には国益と個人の利益の区別がつかない。これが典型的に表れたのは、中国とサウジアラビアへの訪問の時だった。トランプ氏の交渉技術は相手方に機嫌を取られるだけで、アメリカの重要な国益とも言うべき自由貿易、地域安定などを犠牲にしている。さらに危険なことに、トランプ氏はロシアのウラジーミル・プーチン大統領、トルコのレジェップ・エルドアン大統領、ポーランドのヤロスワフ・カチンスキ首相、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領といった独裁者がどのような政治を行なっているか理解せず、しかもそれが世界の中でのアメリカの立場をどれほど悪くするかも理解せずに称賛している(“Trump Isn’t Sure If Democracy Is Better Than Autocracy”; Foreign Policy --- Voice; November 13, 2017)。トランプ氏の我流リアリズムは不動産事業経営の経験に根差すものと思われ、そこから熾烈な競争の中で相手を出し抜く術を学んだのだろう。しかし国家と国家の関係はこのようには動かず、彼に言うように騙すか騙されるかの二分法に基づく世界観は、国際政治における多国間の枠組みを理解するうえで無知無教養ところか裏社会の人々のような思考様式である。

トランプ氏は自らを交渉術の達人だと吹聴するが、アメリカの情報機関よりもプーチン氏を「信用」すると口にするほど不用意である。そのように危険な不用意さはこの人物の自慢と矛盾している。ジョン・マクローリン元CIA副長官はそのようになる理由をいくつか挙げている。まずトランプ氏はアメリカの情報機関がもたらすロシアによる選挙介入の情報を信じていない。よってプーチン氏への称賛によって情報機関関係者を攻撃したいとの目論見がある。またロシアによる選挙介入をめぐる論争に国民の注目が集まれば、ロシアはアメリカで次の選挙の機会に介入しても警戒の目を逸らせるので、トランプ氏には究極的に有利に働く。さらにトランプ氏は特にシリアではロシアがアメリカにとって不可欠な戦略的パートナーだと信じている。彼の見解は誤りだが、プーチン氏のパーソナリティーとリーダーシップの在り方に惚れ込んでしまっているとあってはどうしようもない(“Why Putin Keeps Outsmarting Trump”; Politico; November 17, 2017)。トランプ氏の危険なほど不用意な態度はサウジアラビアに対しても見られる。それはモハマド・ビン・サルマン皇太子による「改革」がどのようなものもわからぬ段階で支持を表明し、この国との安全保障協力を進めようとしていることである。しかしイランへの対抗でサウジアラビアへの依存を強めることはリスクが大きく、ワッハーブ派を奉ずる王国の政治的安定性には疑問の余地がある(“Game of Thobes: Saudi Arabia”; AEIdeas; November 7, 2017)。いずれの場合もトランプ氏はタフ・ネゴーシエーターというよりは簡単なカモになっている。

トランプ氏がアメリカの外交政策での実績と伝統を軽視する根本的な理由は、主流派の政治家や知識人に対する根拠のない優越感であると指摘するのはブルッキングス研究所のロバート・ケーガン氏である。トランプ氏はスティーブ・バノン氏の助力で共和党を征服してしまった。両人には党の理念にもエスタブリッシュメントにも敬意を払う必要がないのは、主流派がバラク・オバマ氏への敗者であり続けたのに対して自分達は民主党を破ったと見なしているからである。党の組織と選挙基盤を征服してしまったトランプ氏は今や共和党そのものを自分の個人的な選挙マシーンとして利用している(“Faster, Steve Bannon. Kill! Kill!”; Washington Post; October 11, 2017)。『ナショナル・アフェアーズ』誌のユバル・レビン編集員はさらに、トランプ氏は経営の天才である自分は主流派の政治家や知識人より優秀だと信じ込んでいるからだと評している(“Donald Trump”; Entertainer in Chief”; National Review; November 27, 2017)。よってトランプ氏がウッドロー・ウィルソン以来のアメリカ外交政策の実績と伝統を何の未練もなく捨て去ろうとするのは、成るべくしてなったとしか言いようがない。トランプ氏が政権内で自分より知識も見識もある閣僚からの助言さえ一笑に付してしまうことが典型的に表れているのが、ジェームズ・マティス国防長官とレックス・ティラーソン国務長官が中東でアメリカの外交官と駐留部隊の安全と言う観点からエルサレムへの大使館移転に深刻な懸念を表したにもかかわらず、彼自身がその決行に踏み切った一件である(“Mattis, Tillerson warned Trump of security concerns in Israel embassy move”; Hill; December 6, 2017)。トランプ氏を政権内の大人達によってコントロールすることは実際には非常に困難である。

さらにこの政権が本質的にアメリカの誇るべき外交官集団に対して侮蔑的だということを理解する必要がある。それはレーニン主義に基づいて「行政国家の破壊」を目指すバノン氏の一味だけのことではない。国際社会は北朝鮮危機で見られるように、ティラーソン長官をマティス長官やH・R・マクマスター国家安全保障担当補佐官と並んで大統領を主流派の政策に導こうとする政権内の大人と見なしている。確かにティラーソン氏はオルタナ右翼ではないが、実際には国務省のプロフェッショナルな組織を損益重視の観点から破壊している。新規卒業者の職員募集を停止したことで、数百万ドル以上のプロジェクトの実施が大幅な人員不足に陥るであろう。職業外交官達はティラーソン氏による企業経営者さながらの組織運営に当惑している(“Present at the Destruction: How Rex Tillerson Is Wrecking the State Department”; Politico; June 29, 2017)。人員削減計画は省内全職員の9%にも達するほど急激なものである。さらに国務省の外交官の間ではティラーソン氏が連れてきた少数の側近だけで政策形成を行ない、自分達が排除されることへの批判が高まっている(“Tillerson Seeking 9% Cut to U.S. State Department Workforce, Sources Say”; Bloomberg News; April 28, 2017)。

問題は「外交の効率性」の名のもとに行なわれる国務省の人員削減と30%に及ぶ予算削減を超えたものである。ティラーソン氏は重要な問題を担当する部局や特使を削減しているが、その顧問となっているマリーズ・ビームズ氏は金融コンサルタントのキャリアを積んできたが外交政策には全く経験がない。廃止となる特使にはシリア、スーダン、南スーダン、北極圏の担当が含まれている。しかし議会の反対派はティラーソン氏に対し、特使は政治家の間で安全保障上の重要な課題に注意を引きつけるために必要で、こうした問題が忘れ去られることなきようにするためのものであるとの理解を求めている。廃止された特使は省内の他の部局に統合される(“First on CNN: Tillerson moves to ditch special envoys”; CNN Politics; August 29, 2017)。また民主化、人権、労働を担当する局が廃止される(“Tillerson 'offended' by claims of State Department's hollowing out”; Politico; November 28, 2017)。国務省各局から国連代表部に派遣される人員も削減される。例えばアフリカ局からは30人の人員が3人に削減される(“With Cost-Cutting Zeal, Tillerson Whittles U.N. Delegation, Too”; New York Times; September 15, 2017)。より問題視すべきは、ティラーソン氏が「上院での承認にかかる時間と費用の節約のため」と称して省内の重要ポストの人員を指名してい、ないことである。中でもアフリカ、東アジア、南および中央アジア、近東、そして西半球担当の国務次官補が空席のままである。ニコラス・バーンズ元国務次官とライアン・クロッカー元駐イラクおよび駐アフガニスタン大使は「トランプ大統領の急激な国務省予算削減と我が国の外交官および外交そのものを軽視する態度は素晴らしい外交官集団の喪失につながりかねない脅威である」と非難している(“Tillerson 'offended' by claims of State Department's hollowing out”; Reuters News; November 29, 2017)。

ティラーソン氏は国務省と国際開発庁の統合さえ打ち出しているが、外交機関と開発援助機関の役割は根本的に異なるものであり、だからこそ主要先進国では両者は分離されている。国務省は政策形成と外交を通じてアメリカの対外関係に対処するのに対し、国際開発庁は効果的で説明責任のあるプログラムの管理運営を通じて現地社会のエンパワーメントを支援する。こうした目的に合わせて国務省は中央集権的でヒエラルヒー化した組織運営がなされるのに対し、国際開発庁はボトム・アップの運営がなされるのは、災害救済活動に典型的に表れている。よって国務省の職員はゼネラリストで占められるが、国際開発庁ではスペシャリストで占められる(“Tillerson wants to merge the State Dept. and USAID. That’s a bad idea.”; Washington Post; June 28, 2017)。しかし真の問題はティラーソン氏でなくトランプ氏である。11月末にメディアでティラーソン氏に代わってマイク・ポンぺオCIA長官の国務長官登用が伝えられた時期、ブート氏はポンぺオ氏がCIAはロシアの介入は選挙に影響を与えなかったという結論に達したという誤った主張をしたことで情報官僚機構と衝突したことを指摘した(“Tillerson State Department ouster is overdue, but won't solve the Trump problem”; USA Today; November 30, 2017)。マティス氏やマクマスター氏のような純然たるプロフェッショナルな軍人と違い、ポンぺオ氏は陸軍を退役してから政党政治家となっているので、そのようにしてトランプ氏にすり寄るのも不思議ではない。政権内の大人がトランプ氏をコントロールするなどという期待は、この政権が本質的に政府の専門的官僚組織に侮蔑的なことを考慮すればあまりに楽観的である。彼らに「アメリカが作り上げた世界」がそれほどアメリカの国益と国際社会に寄与してきたかを理解できない。現在の政権内ではマティス氏ぐらいしか大人はいないのではないか。先のアラバマ上院補欠選挙でロイ・ムーア氏が落選した今、超党派の良識と良心が勢いを取り戻してトランプ衆愚政治に立ち向かえるかが死活的に重要になっている。


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