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2020年3月21日

アメリカ大統領選挙と中東問題

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シェール・オイルおよびガスの急激な生産増大によって、アメリカの孤立主義と中東への非関与が加速することに懸念の声が高まっている。歴史が語ることは、エネルギーの自給ができたからと言って孤立主義に走ることは愚である。アメリカが連合国側に参戦する直前には鉱工業の生産力は圧倒的で、世界の60%もの石油を生産していた(“Timeline: Oil Dependence and US Foreign Policy”; Council on Foreign Relations)。アメリカ国民はパール・ハーバー攻撃によって、やっと認識を改めた。当時の彼らは国際政治で熾烈な力のやり取りを軽視していた。アメリカが中東から完全に手を引いたところで、敵対的な体制諸国やテロリスト達の考え方は変わらない。これらの勢力では、若者達に対して彼らのイスラム同胞の苦境がアメリカ、イギリス、シオニストの「枢軸」によるものだという憎しみを抱くように教育している。このように偏向したものの見方は数世代にわたって受け継がれている。この地域から手を引いてしまえば、第二、第三のパール・ハーバーか911同時多発テロを誘発しかねない。

 

大統領選挙運動の最中に、外交問題評議会は各候補者に外交政策に関する調査アンケートを送った。12の質問の内で4件は中東問題で、イランとの核合意、アフガニスタンからの撤退、サウジアラビアによるカショギ氏殺害、イスラエルとパレスチナの和平交渉が挙げられた。有権者は中東での長い戦争に厭戦気分を抱いているかも知れないが、外交政策の専門家から見れば当地域は依然として戦略的に重要なのである。中東が何世紀にもわたって文明と大国間の競合の十字路であったことを忘れてはならない。4つの質問の内で最も緊急性があるのはアフガニスタンである。

 

去る2月末にドナルド・トランプ氏はタリバンと和平の合意に至り、彼の地から軍を撤退させると表明した。何とトランプ氏が選挙公約を馬鹿正直に遵守したために、この度は「メイク・タリバン・グレート・アゲイン」となってしまったのである。アメリカは14ヶ月以内に軍を撤退させて力の真空を生じさせるばかりか、タリバンのテロリストを釈放してしまう。究極的には、それでは彼らが再び勢いを増しかねない(“President Trump's Disgraceful Peace Deal with the Taliban”; Time; March 3, 2020)。さらにトランプ氏はイラクとシリアから性急に軍を撤退させるといった、バラク・オバマ前大統領の中東政策での過ちを繰り返しているばかりか、アフガニスタンではビル・クリントン元大統領の過ちを繰り返している。1997年にクリントン政権はタリバンの支配地での石油パイプライン建設計画の見返りにテロ支援の停止を期待したが、その合意で911事件は防げなかった。トランプ政権がタリバンと成した合意も同様に危険である(“Trump’s bad Taliban deal”; Washington Examiner; February 27, 2020)。一体、彼にぬけぬけと民主党を非難する資格があるのだろうか?

 

次なる911事件を防ぐために、アメリカは開発援助を通じてアフガニスタン政府への関与を続ける必要がある(“The Riskiness of the U.S. Deal to Leave Afghanistan”; Council on Foreign Relations; March 2, 2020)。外交問題評議会のリチャード・ハース会長はさらに、アメリカはアフガニスタン政府と別個により細かく定められた安全保障条約を結び、兵員撤退の条件、そして経済開発から安全保障までの長期的な支援を取り決めておく必要があると主張する。それによってアフガニスタンでのアメリカの継続的なプレゼンスが保証される(“How Not to Leave Afghanistan”; Project Syndicate; March 3, 2020)。アフガニスタンはタリバンを政権の座から引きづり降ろしてから、アメリカの仲介によって大統領選挙の決着を着けている理由には、この国の憲法が大統領による統一的な統治を前提としながらも、実際には部族や軍閥が国土を割拠している。彼らは結果を素直に受け止めない (“Afghanistan’s Election Disputes Reflect Its Constitution’s Flaws”; Carnegie Endowment for International Peace; March 12, 2020)。

 

トランプ氏の対抗馬に出た候補者達は、イラン核合意、サウジアラビアの人権、イスラエル・パレスチナ和平交渉ではほぼ一致して多国間主義とアメリカ的モラリズムの尊重を訴えてはいるが、彼の無責任なアフガニスタン撤退に対して説得力のある反論を提示していない。アメリカの指導者も国民もまだ、ポスト911の中東について明確なビジョンを有していないように思われる。候補者の内で、バーニー・サンダース氏は、中東でのアメリカの長い戦争は軍産複合体と石油業界のせいだとする反戦左翼の見方に囚われている。それでは別種のアメリカ・ファーストである。有権者はアフガニスタンには関心がないかも知れないが、民主党はトランプ氏のやり方に対して強固な代替案を示す必要がある。

 

外交問題評議会の調査アンケートにある4件の質問の他に、共和党でトランプ氏の対抗候補となっているビル・ウェルド氏は、アフリカに関する質問を中東のテロと関連付けて答えているが、他の候補者達は開発援助とエンパワーメントへの言及にとどまった。実際に中東は他の外交問題と深く関わり合っている。アメリカはアジアにもっと比重を置き、中国の脅威の増大を食い止めるべきだという声もある。しかし私はアメリカの国際主義回帰の方が、どの地域を戦略的に重視するかよりもはるかに重要だと言いたい。中東から手を引くことは、依然として向こう見ずで時期尚早である。

 

 

 

 

 

 

 

 

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