« 2020年3月 | トップページ | 2020年7月 »

2020年4月25日

ロシアの憲法修正と外交政策

Ap_putin_amendments

 

 

ロシアの下院と憲法裁判所は3月にウラジーミル・プーチン大統領による憲法修正を承認した(“Russian Lawmakers Adopt Putin’s Sweeping Constitutional Amendments”; Moscow Times; March 11, 2020および“Russia's constitutional court clears proposal to let Putin stay in power beyond term limits”; ABC News; 17 March, 2020)。多くの注意が向けられているのは、修正によってプーチン大統領の人気と地位がどうなるのかである。しかし私はそこから進んで、この修正がロシアの外交政策にどのような影響をもらすのかに言及したい。プーチン氏のナショナリスト外交は、国内政治でのロシア正教会との双頭支配という伝統主義と相互に関わり合っている。私はプーチン氏が今回の修正を通じて、世界の中でのロシアのプレゼンスをどのように高めようとしているのかを述べてみたい。

 

まず欧米の極右とのイデオロギー的な共鳴について記したい。ポスト・ソビエト時代の混乱の経験から、プーチン氏は欧米リベラリズムがロシアに突き付ける社会文化および地政学上の挑戦を強く警戒するようになった。プーチン氏がロシア正教伝統主義への回帰によってそうした政治的アノミーを克服しようとしていることは、同じようにリベラルなグローバル化を快く思わないヨーロッパと北アメリカの白人キリスト教ナショナリスト達からも喝采されている。彼らはソ連後のロシアとはキリスト教の伝統を共有していると信じている。きわめて重要なことにプーチン氏の憲法修正案ではロシア正教の価値観に基づき、神への信仰と異性間の結婚が明記されている(“Russia's Putin wants traditional marriage and God in constitution”; BBC News; 3 March,2020)。しかしそれは近代国民国家の原則、すなわち政教分離に対する完全な侵害である。基本的にそれは学校教育において進化論よりも聖書の天地創造論を教えるようにという、アメリカのキリスト教右派の主張と表裏一体である。

 

プーチン氏が掲げる帝政時代以来のキリスト教的価値観は、コロナ禍発生からほどなくして実行に移された。ロシアはイタリアに大々的なコロナ援助を行なっている。クレムリンはこの機をとらえて、この国への影響力拡大を謀っている。地政学的に、イタリアは冷戦期からNATOの「柔らかい下腹部」であった。当時のイタリア共産党は西ヨーロッパ最大で、イタリアという国も石油の輸入や現地自動車工場建設を通じてソ連とは緊密な経済関係にあった。ソ連崩壊後も、そうした強固な関係は続いている。極右であれ極左であれ、イタリアのポピュリスト達はヨーロッパでのガバナンスの透明性に対する厳しい基準に不満を抱き続けてきたため、EUの友好国や諸機関よりもロシアや中国の方を嬉々として受け容れている(“With Friends Like These: The Kremlin’s Far-Right and Populist Connections in Italy and Austria”; Carnegie Endowment for International Peace; February 27, 2020)。

 

特に北部ではロンバルディア・ロシア文化協会に対し、ロシアのキリスト教極右でWCF(世界家族会議)やNRAといったアメリカの右翼団体と深い関係にあるアレクセイ・コモフ氏が支援を行ない、ロシアの影響力が浸透している(“A major Russian financing scandal connects to America’s Christian fundamentalists”; Think Progress; July 12, 2019)。クレムリンと歩調を合わせるかのように、ハンガリーのビクトル・オルバン首相はコロナ危機を好機にとらえて議会を停止し、自らの独裁的権限をさらに強化している(“Orbán Exploits Coronavirus Pandemic to Destroy Hungary’s Democracy”; Carnegie Endowment --- Strategic Europe; March 31, 2020)。プーチン政権のロシアとヨーロッパの極右によるそうした一連の行動からすると、コロナ禍の発生によって国際政治の枠組の完全な変化よりもむしろ、事件以前のパワー・ゲームが加速している。

 

さらに目下の修正案は国際的な規範に異を唱えるものである。それには国際法に対する国内法の優位が記されている。実際にはロシアは2008年のジョージア侵攻、2014年のクリミア併合、自国内での頻繁な人権侵害など、国際法を侵害してきた。クレムリンは2012年にWTO加盟を果たしたものの、貿易の自由化には積極的でなかった。しかしこ今回の修正案はプーチン大統領の国内での支持者に対し、ロシアは欧米に対して断固と立ちはだかるという明確なメッセージとなっている(“Russian law will trump international law. So what?”; AEIdeas; January 16, 2020)。プーチン案には領土不割譲も記され、それによってロシアの近隣諸国、中でも日本とウクライナとの関係は複雑なものになるであろう(“Putin wants constitutional ban on Russia handing land to foreign powers”; Reuters; March 3, 2020)。

 

これら一連の修正項目は、プーチン氏の最も緊密な側近であるウラジスラフ・スルコフ氏が提唱する主権民主主義に基づく可能性が非常に高い。このイデオロギーの基本的な考え方は、ロシアの民主主義はこの国の主権と文化的伝統に深く根付いたものなので、西側から人権や権力分立といった国内問題での介入を受ける謂れはないというものである (“Putin's "Sovereign Democracy"; Carnegie Moscow Center; July 16, 2006)。オープン・デモクラシーは、それは知的な触発がないイデオロギーでプロパガンダに過ぎないと評している(“'Sovereign democracy', Russian-style”; OpenDemocracy; 16 November, 2006). 興味深いことにスルコフ氏の主権民主主義は、欧米の極右の間で信奉されるヨラム・ハゾニー氏のナショナリスト民主主義とも共鳴し、アメリカのトランプ政権内ではマイク・ポンペオ国務長官や駐独大使から転身のリチャード・グレネル暫定国家情報長官の思想にも相通じている。よってプーチン氏の憲法修正は、一般に理解されている以上にグローバルな意味合いが大きいのである。そうした中で4月22日に予定されていた今回の憲法修正の国民投票は、コロナ禍のために延期された (“Kremlin Mulls Date for Post-Virus Vote on Putin's Constitution Reform”; Moscow Times; April 22, 2020). それによってプーチン大統領の外交政策にどれほどの遅れが生ずるかは明らかではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

にほんブログ村 政治ブログ 国際政治・外交へ
にほんブログ村

 


国際政治・外交 ブログランキングへ

 

« 2020年3月 | トップページ | 2020年7月 »

フォト

リンク先

にほんブログ村RANKING