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2020年9月18日

ポンペオ長官が唱える自由と民主主義は信用できない

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ヨーロッパ人とは異なり、日本人でも特に右派の間ではマイク・ポンペオ国務長官が唱えるウイグルと香港の自由が称賛されている。考えてみればそれは奇妙なことで、というのも日本人の中でも右派は必ずしもパックス・アメリカーナには満足していないからである。むしろ彼らは戦後の世界秩序に対して、リビジョニストの観点から異議を唱えている。しかしナショナリストから穏健な一般国民まで、日本人が中国の脅威と国際的なルールと規範に対する北京政府の反抗的な姿勢には懸念を強めていることは否定できない。地政学的に言えば、アジアにはアジア太平洋地域には信頼できる多国間の安全保障枠組がない。だからと言って、単なる反中感情からポンペオ氏を自由の救世主と崇めることは馬鹿げている。

 

去る7月23日にポンペオ氏がニクソン図書館で行なった演説には世界中からの注目が集まっているが、これに対しては専門家の評価はきわめて低い。リチャード・ハース氏はポンペオ氏による冷戦以来のアメリカの中国政策への批判からは、彼にはニクソン・キッシンジャー流の地政学への理解が根本的に欠如していることがうかがえると評している (“What Mike Pompeo doesn’t understand about China, Richard Nixon and U.S. foreign policy”; Washington Post; July 26, 2020)。ブルッキングス研究所のトマス・ライト氏はさらに、トランプのアメリカが行なう中国とのイデオロギー戦争は間違いだらけだと批判している。ポンペオ氏は世界が開かれて自由な民主主義体制にあるアメリカと、マルクス・レーニン主義の専制体制にある中国との衝突状態にあると述べた。しかしトランプ政権はリベラルでルールに則った世界秩序を破壊しながら、中国と同様に強圧的な大国による小国の搾取が可能となる支配従属的な国際システムを追求している。さらに問題となることは、トランプ氏とポンペオ氏は他の国での人権問題はそれほど非難せず、そのうえフリーダム・ハウスによると、彼らが政権の座にある間にアメリカの民主主義は年々劣化しているということだ。それではポンペオ氏の有志連合の正当性は低下するばかりである(“Pompeo’s surreal speech on China”; Brookings Institution; July 27, 2020)。よってセンター・フォー・ザ・ナショナルインタレストのポール・ソーンダース氏は、ニクソン図書館での演説はトランプ氏のための選挙運動に過ぎないとまで揶揄している (“Responding to Chinese and Russian Disinformation”; Tokyo Foundation; July 29, 2020).

 

ともかく、上記の専門家は一致してポンペオ氏による同盟国への激しい口調を批判し、それでは中国に対する自由諸国連合という彼の考えとは全く相容れないとしている。冷戦たけなわの時期から、歴代のアメリカ大統領は同盟国に防衛での負担分担を求め続けてきた。よってアメリカの国務長官が同盟国に対し、中国のような敵国に断固とした態度をとるように促すことは特に変わったことでもない。しかしポンペオ氏が演説の中でNATO同盟国を大々的に批判したことは前例のないことであり、有志連合の構築には役立たないと思われる。むしろ米欧間の亀裂をさらに深めるであろう。

 

ポンペオ氏はイランにも矛先を向けている。昨年12月、彼はこの国の宗教的少数派への抑圧を非難した(“Human Rights and the Iranian Regime”; Department of State; December 18, 2019)。しかし彼がイランの自由と民主主義にどれほど関与するかは疑わしい。アメリカン・エンタープライズ研究所のケネス・ポラック氏は、イスラエルとアラブ首長国連邦の国交正常化は外交上の画期的な成果ではないと評している。彼の視点では、これはイラクとアフガニスタンでも見られた通り、トランプ政権による中東からの戦略的撤退と軌を一にしている。そうなってしまえば、イスラエルとアラブ首長国連邦のみならず他のアラブ諸国もイランに対する力の真空を自分達で埋めねばならなくなるであろう (“Israeli-Emirati normalization: Be careful what you wish for”; AEIdeas; August 13, 2020)。トランプ氏は一期目の選挙運動で、サウジアラビアとその他の湾岸諸国に対してイランに対しては核武装して自国を促したほどであることを忘れてはならない。

 

イデオロギー戦争でのそうした一貫性の欠如は、ポンペオ氏の民主主義と人権に関する見解に由来する。ロバート・ケーガン氏が主張する("The Strongmen Strike Back"; Brookings institution), ように、彼はこれらの単語を自然法と普遍的リベラリズムというロック流の観点ではなく、ナショナリズムというハゾニー流の観点から理解している。この考え方は西側同盟国のリベラル民主主義よりも、むしろプーチンのロシアで権威主義的な伝統主義による統治の強化の邁進を謀っているウラジスラフ・スルコフ氏が主張する主権民主主義と軌を一にしている。日本の右翼はポンペオ氏とはナショナリストそしてリビジョニストという共通の絆を本能的に感じているものと思われる。そのことは彼の有志連合には信頼性がなく、ジョン・マケイン氏が普遍的な価値観に基づいて作り上げようとしたものとは比べ物にならない。

 

非常に問題視すべきは、民主体制と専制体制についてのポンペオ氏の定義はフェアではなく、彼自身の独特な地政学に基づいている。本年3月に国務省が“2019 Country Reports on Human Rights and Practices”を刊行した際に、ポンぺオ氏は自身の演説で市民の自由への最悪の侵害国として中国、キューバ、イラン、ベネズエラを名指ししながら、他にも報告書に記載されていたロシア、トルコ、北朝鮮などには言及しなかった。彼のアンフェアな言動によって、アメリカの外交官集団と彼自身の間に深い亀裂があることが露呈した(“Critics Hear Political Tone as Pompeo Calls Out Diplomatic Rivals Over Human Rights”; New York Times; March 11, 2020)。さらに、トランプ政権はアレクセイ・ナワルヌイ氏への毒殺未遂にも沈黙を貫き、ドイツのように迅速に対応してクレムリンを非難するにはいたらない(Nicholas Burns; Twitter; August 25, 2020)。マイケル・マクフォール氏はさらにロナルド・レーガン氏以来の歴代大統領はロシア訪問時にはクレムリンと反体制派双方の指導者に敬意を示してきたと指摘する。しかしトランプ氏とポンペオ氏はノビチョク毒攻撃には何も言わぬままである(“A Russian dissident is fighting for his life. Where is the U.S.?”; Washington Post; August 21, 2020)。同様に、ポンペオ氏は2018年にサウジアラビアが行なったジャマル・カショギ氏の殺害も非難しなかった。

 

一連のアンフェアな言動の他にも、ポンペオ氏の行動にまつわる倫理的な問題をさらに見てゆく必要がある。マックス・ブート氏が述べるように、ジェームズ・マティス国防長官をはじめとする「政権内の大人」達が退任してからというもの、ポンペオ氏はトランプ政権のイエスマンのリーダーとなった(“Trump relies on grifters and misfits. Biden is bringing the A Team”; Washington Post; August 23, 2020)。それが典型的に表れた一件がエルサレムからの共和党全国大会へのテレビ中継参加で、リチャード・ハース氏からデービッド・ロスコフ氏にいたるまでのオピニオン・リーダー達は、トランプ氏の選挙運動のために福音派の歓心を買おうと、外交を政局化したと厳しく批判した。このような観点から、『ワシントン・ポスト』紙のジャクソン・ディール副編集長は、ポンペオ氏を最悪の国務長官だと論じている。すなわち、ポンペオ氏が職務規範への侵害を繰り返すために外交官集団の士気は史上最低にまで落ち込んでいる。中でもサウジアラビアに勝手に武器輸出を行ない、その後に監察官を解任した一件が目をひく(“Mike Pompeo is the worst secretary of state in history”; Washington Post; August 31, 2020)。こうしたやり方で、彼はアメリカ国内での民主主義を劣化させているのだ!

 

結論として言えばジョン・ボルトン氏が回顧録に記したように、トランプ大統領が中国と貿易合意にいたれば、ポンペオ氏は自由と民主主義と言った自らの主張をあっさりと引っ込めかねない。よって、彼が掲げる大義など無批判的に信頼しない方が良い。他方で我々は「ディープ・ステート」とは緊密に連絡を取り、「アメリカの真の意志」が何かを理解すべきである。そうなれば、同盟国は自国とアメリカの政策調整をどのように進めるべきかを模索できる。アメリカ人でさえマイク・ポンペオという人物の扱いには難渋していることもあり、トランプ政権が続く限りは外交上のやり取りは難儀を極める状態にとどまるであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

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