« アフガニスタン撤退と西側の自己敗北主義 | トップページ | ロシアによるウクライナでの戦争と西側民主主義への破壊工作 »

2021年12月13日

国防費をGDP比率で決定してよいのか?

3591

 

冷戦以来、国防費はアメリカと同盟国のバードン・シェアリングにおいて重要な問題であった。同盟国はGDP比率に基づいた国防費の増額を求められることが多かった。今秋の日本の総選挙を前に、自民党の総裁候補者達は防衛費を現行のGDP1%から2%への増額について討議した。

 

しかしRAND研究所のジェフリー・ホーナン氏は産経新聞とのインタビューで、首相候補達にGDP比や敵地攻撃能力よりも、日米同盟の強化にとってもっと重要で現実的な問題を中心に議論すべきだと提言した(「岸田政権、台湾有事で何をするのか 米ランド研究所上級政治研究員 ジェフリー・ホーナン氏」;産経新聞;2021年10月21日)October 21, 2021)。ホーナン氏によるとアメリカは東アジア、特に台湾海峡の危機で日本には何ができるのか示して欲しいということだ。そうした事態が起きれば、台湾を中国から守るのは在日米軍となる。よって日本はどのような貢献、例えば東シナ海への潜水艦派遣、南西諸島に配備された自衛隊の地対艦ミサイルの使用などといったことができるのか否かを明確にする必要がある。

 

別の機会にはホーナン氏は日本は政治的安定を維持する必要があり、それは短命政権だと内政課題を優先し、政策の形成と実施で官僚機構に依存せざるを得なくなるからだと主張している。さらに首相が頻繁に変わるようでは日本が両国の合意を着実に遵守する保証が弱まり、それがひいてはアメリカの外交に厳しい制約となってくるということである (“What Instability at the Top Means for Japan's Alliance with the United States”; Nikkei Asia; September 22, 2021)。

 

ともかく同盟とは相互的なもので、一方的なものではない。現在は「自由で開かれたインド太平洋」構想へのヨーロッパ諸国の参加、そしてインドとオーストラリアも加えたクォッドの発展にも見られるように日米同盟は多国間化している。こうした観点からすれば、日本にとっては内政上のやり取りから出て来た自国満足的な手段を追求するよりも、全世界のパートナーとの役割分担を話し合う方がますます重要になっている。我々はドナルド・トランプ氏の唐突な言動で、どれほど困惑させられたかを忘れてはならない。彼のような行動をとる理由などない。

 

国防費に関する議論は、実際の強さと関係がなければ意味がない。しかし政治における意思決定の全てが合理的なわけではない。時には1971年のスミソニアン協定で日米双方が為替相場を1ドル360円から308円に切り上げた事例に見られるように、それは確固たる根拠よりも象徴的なものに終始することもある。国防費に関して言えば、それがGDPに占める比率は容易に理解しやすい指標ではあるが、その定義は国ごとに違ってくる。よって自裁の能力を査定せずに一律の目標を押し付けても必ずしも効果的ではない。

 

目を大西洋地域に向けると、国防費とバードン・シェアリングはアメリカとNATO同盟諸国との間でも重要な問題になっていたことがわかる。アメリカの歴代政権はソ連との冷戦以来、同盟の能力と連帯の強化のためにもヨーロッパに国防費の増額を求めてきた。他方でトランプ氏は支出額に拘泥するあまり、ヨーロッパ諸国に対しては国防費の要求水準を満たさず、自らのアメリカ・ファーストの外交政策を批判し続けるなら駐留米軍を撤退させると言って圧直をかけた。実際にトランプ氏は任期終了間際に在独米軍の削減を手がけたが、それはジョー・バイデン現大統領によって覆された。

 

国防支出をめぐるトランプ氏の報復的な強請りたかりによって、アメリカとヨーロッパの長年にわたる相互信頼は損なわれただけである。それよりも地域の安全保障枠組での役割分担を模索し、この目的に必要な兵器装備について話し合うべきだった。皮肉にも彼の共和党は国内において賢明で効果的な歳出を掲げる政党だということになっているが、実際のところ同盟国とは増額されるはずの国防予算がどのように使われるかを話し合うことはなかった。むしろトランプ氏の「経営感覚」に基づく外交政策は、大西洋同盟内でのえげつない感情的な衝突に陥ってしまった。時代を違え国を違えても、指導者達は同じ間違いを繰り返している。

 

 

 

 

 

 

 

 

にほんブログ村 政治ブログ 国際政治・外交へ
にほんブログ村

 


国際政治・外交 ブログランキングへ

 

« アフガニスタン撤退と西側の自己敗北主義 | トップページ | ロシアによるウクライナでの戦争と西側民主主義への破壊工作 »

アメリカのリーダーシップ/世界秩序」カテゴリの記事

日米同盟と国際的リーダーシップ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« アフガニスタン撤退と西側の自己敗北主義 | トップページ | ロシアによるウクライナでの戦争と西側民主主義への破壊工作 »

フォト